
大西 研修医のころは,ちょっとしたことで揺れ動く時期で,私もさまざまな思い出があります.今回,初期研修中の先生方から研修で経験したこと,学んだこと,悩んでいることを話し合ってもらって,よりよく研修期間を過ごすためのヒントになればと,この座談会を企画しました.それでは,先生方が今どういう研修をされているか,特徴を教えてください.では,平池先生どうでしょうか?

平池 私は現在,東京大学医学部附属病院(東京都文京区)で研修しています.大学と一般病院をたすきがけるプログラムでしたので,1年目は静岡県の焼津市立総合病院で研修しました.規模は約500床ほどで,原則としてできる限り自分たちのところで患者さんを完結して診ていこうという施設でした.診療の最初から最後までに関わり,上級医に相談しながらも,自ら意思決定をせざるを得ない場面もあって,非常に勉強になりました.
2年目になって母校に戻ると,自分に求められている役割も,病院の医療圏における位置づけも全然違うと感じます.ある程度診断がついていて,治療方針も決まっている患者さんの担当になるので,極端にいうと,自分がいなくても仕事は回っていきます.ただ,自分ができる意思決定の割合はすごく小さくなりますが,各分野の専門家がそろっている分,興味をもったところについてディスカッションをしたり,調べてみたりと,自分で突っ込んで勉強すれば得るものは大きいと思います.
井上 私が研修中の洛和会音羽病院(京都府京都市山科区)は,「断らない救急」を理念としてさまざまな患者さんを受け入れ,研修医が初期対応をするため非常に力がつきます.
また,毎朝のレクチャー,昼には総合診療科のケースカンファレンスと教育環境も充実しています.カンファレンスでは,病歴と身体所見からいかに診断に迫るかという熱いディスカッションがなされ,もちろん研修医も参加します.アメリカからの大リーガー医招聘や,「京都GIMカンファレンス」「音羽レジデントフェスティバル」の開催など外部との交流も盛んで,楽しみながら研修しています.
児玉 私は水戸協同病院(筑波大学附属水戸地域医療教育センター;茨城県水戸市)で研修をしています.2次救急を中心に,原則,救急車は断らないという姿勢の病院です.内科入院はすべて総合診療科が受け持ち,各科の専門医はすべてコンサルトという形で診療を行っています.
大学の附属病院ですから,長期に滞在する学生が多いのも特徴です.学生が臨床実習に来た際には,内科の各チームのメンバーとして実際に担当患者の診療を行ってもらっています.また,当院総合診療科の徳田安春先生が月に1度開かれている「闘魂外来」というイベントでも,私たちレジデントは実際の救急外来の現場を通して学生を指導する立場で参加していますので,研修医1年目でありながら,教えることを通して自分たちも学んでいく機会に恵まれています.
大旗 私は少し変わっているのですが,MD-PhDコースで千葉大学に入学し,今は休学して,佐久総合病院(長野県佐久市東信地区)で研修をしています.佐久総合病院は昔から地域医療の活動に非常に熱心で,研修のなかでも農村医学の学会に出たり,病院近くの八千穂村の方々と,年に1度の「たらの芽会」という交流会に参加したり,研修を通してさまざまな場面で地域の方々との交流があります.
どの科にいても,必ず週に1度は総合外来に1日出させてもらっています.午前中は,総合外来で患者さんを診て,午後は午前中自分が診た患者さんについて,それぞれが学んだことを共有し,互いに切磋琢磨する場があり貴重な時間となっています.自分が受け持った患者さんを在宅で訪問する機会もあって,今の日本の医療の現状を肌で感じています.研修医として医学的知識や技術を磨きながら,それらを通して地域,社会とどのように関わっていくのかを学え,悩むきっかけが多いのが個人的には佐久での研修で最もすばらしいところだと考えています.

大西 研修医のとき,やるべきタスクを朝15分かけてざっと書き出して,それから動くという同期がいたんですよ.それも1つの方法だなと思ったのですが,私は,カンファレンス室から病棟に行く3分の間に歩きながら頭のなかでイメージして,病棟に着いたらパッと動くというやり方でした.マネジメントの方法はいろいろあると思うんですが,“こうして効率化を図っている”という,自分なりの工夫はありますか?
井上 私は,事務手続きをついついためて後で苦しむ方なんです.できるだけその場その場で解決して,できるものはすぐその場でしてと心がけていますけれど.
仕事の効率化という意味では,臨床で生じた疑問は,すぐに解決することが重要かと思います.すぐ上級医に聞いたり,すぐ文献,書籍で解決して対応していかないとどんどん山積みになっていくので.
大西 調べ物はためないということですね.臨床で判断するとき,わからないことがあったらどうしていますか?
井上 私は,まず耳学問です.やはり上級医に聞くのが一番早いし,直接教えてもらって身につきます.ただ上級医がすぐそばにいないときや,上級医によっても意見が違うときは,レジデントノートのような雑誌類,やUpToDateなど,今どうすればいいかがわかるようなものを見ることが多いです.研修医がフットワークを保ちながら仕事をするためには,臨床で疑問に思ったことの答えが書いてある情報源を利用し,すぐに対応することが大切だと思います.
平池 大学だと各科ごとにマニュアルを作っている場合が多々あって,疾患や入院目的のパターンごとに方針がまとめられています.まずはそれに従っておけば困らないだろうということです.焼津にいたときには,荒削りでもいいので自分なりの型を作っていました.科が移ってからすぐに受け持つ患者さん3人くらいについては,すぐ上の先生にぴったりくっついて「どうしたらいいですか?」とすぐ聞いて対応して,こういうときにはこう対応しておけばいいだろうというパターンをまず作るんです.そのうえで,典型的なところからそんなに逸脱していないと思えば自分の判断で診療を進めて,まずいなと思ったらその時点で相談する形をとっていました.
このほかに2012年4月号本誌では,【ローテーションで気づくこと】【レクチャー・勉強会へのとり組み方】【後輩への指導のしかたで悩むこと・先輩から学ぶこと】【看護師さんから学ぶこと】を収録!初期研修で実際に何に悩み・どう解決を試みているかに迫っていきます!つづきは本誌をご覧下さい!