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レジデントノート2019年7月号 Vol.21 No.6

腹部CTの読み方がわかる!

研修医が今すぐ知りたい、よく遭遇する疾患の“基本的な読影方法”をわかりやすく教えます!

藪田 実/編

定価:2,200円(本体2,000円+税)

腹部CT

各論

急性虫垂炎のCTの読み方がわかる

福田俊憲

① 虫垂をCTで同定するためには起始部の同定が基本となる
② 急性虫垂炎は増悪の程度によってCT所見が変わる
③ 膿瘍形成や麻痺性イレウスといった合併症にも注意する

はじめに

急性虫垂炎は緊急処置を要する腹部の急性疾患です.特に小児では,手術が必要な急性腹症のなかで最も頻度が高いとされています.

発症の原因は虫垂根部がリンパ組織や糞石,または腫瘍により閉塞するためとされていて,虫垂内圧の上昇や血流障害をきたすことで急性虫垂炎に至ります

診断は腹部所見や超音波,CTといった画像所見をもとに総合的に行われます.なかでもCTは客観性に優れており,ほかの急性腹症を除外できることから広く利用されています.

CTの役割

急性虫垂炎の診断においてCTは感度90〜100%,特異度91〜99%1)といわれており,非常に重要な役割を担っています.放射線被曝や造影剤の副作用がないことからエコーも選択肢としてあがりますが,虫垂全体の描出が困難な場合や,ほかの疾患を否定しえない場合においてはCTでの評価が必要となることがあります.実施にあたっては,放射線被曝や造影剤の副作用などに留意したうえで必要性を理解することが重要といえます.

造影剤の必要性

単純CTのみで感度88〜96%,特異度91〜98%2)という報告もあることから,腹腔内脂肪が十分あれば虫垂炎自体の診断は単純CTのみでも困難ではありません.しかし腎機能障害やアレルギーのリスクが少なく,コストも安いといった利点はあるものの,多くの症例では診断できる範囲が限定され,情報としては不十分となることがあります.

特に,腹腔内脂肪が少ない小児や膿瘍形成の場合,ほかの疾患との鑑別が必要な場合においては造影剤を用いたほうがより正確な診断ができます.

ただし,造影CTの方が単純CTよりも優れているというわけではありません.特に糞石を同定するときは,造影CTのみでは同定しにくい場合があり,単純CTでの評価が重要となってきます(図1).

図1 単純CTと造影CTの比較
A)単純CTで虫垂は17 mmと腫大し,虫垂内腔に25×12 mmの石灰化が確認できるため,糞石()を伴う虫垂炎と考えられる.
B)造影CTだと血管や腸管壁が造影され白く見えるため,糞石()が相対的に曖昧になってしまう.

よって画像から多くの情報を得るためには,特に禁忌がなければ単純+造影CTが推奨されます.

虫垂の同定法

虫垂の同定はまず,上行結腸を右腎後方に同定することからはじまります(図2).

図2 虫垂の同定順

上行結腸と回腸末端の合流部が回盲弁(バウヒン弁)です.バウヒン弁は内部に脂肪を含有しているのをCTで確認できることが多く,同定の一助となります.

虫垂の起始部は一般的に変異が少なく,通常はバウヒン弁より約3 cm尾側の盲腸の後内側から起始します.ちなみに,この起始部が体表ではMcBurney点と一致すると言われています.虫垂の長さは個人差(6〜10 cm程度)があり,正常の場合は壁が薄く,先端は盲端となっています(図3).内腔にはガスや粘液が入っているか,もしくは虚脱している場合もあります.虫垂の走行は図4に示すようにバリエーションに富んでいます.

図3 正常の虫垂
A)横断面,B)冠状断面.
虫垂は後内側から起始し,骨盤内に下降する.内腔にはairがあり,周囲の脂肪織濃度上昇はない.
図4 虫垂走行のバリエーション
文献3より引用.%は筆者が追記.

このようにして虫垂の同定を定型的に進めていきますが,実際の臨床現場では同定困難な場合が少なくありません.これは回盲部の位置に個人差が大きいことや,腹腔内脂肪が少ないことが関係しています.そのため同定が難しい場合は冠状断や矢状断といった再構成画像やより薄いスライスでの評価が必要となってきます.

虫垂炎の典型的なCT所見(

虫垂炎のCT所見は炎症の程度により変わってくるので,病理学的な分類と対応して次の3つに分けて考える必要があります.

表 虫垂炎の典型的なCT所見

カタル性虫垂炎

炎症が粘膜あるいは粘膜下に限局している状態です(図5).CTでは,虫垂の腫大や虫垂壁の造影効果といった比較的軽微な所見があり,虫垂周囲の脂肪織濃度上昇は目立ちません.

図5 カタル性虫垂炎
A)横断面,B)冠状断面.
右下腹部から骨盤内へ向かう虫垂がある().直径は7〜8 mmと腫大し,虫垂壁に造影効果がある.周囲の脂肪織濃度上昇ははっきりしない.

蜂窩織炎性虫垂炎

炎症が粘膜下層から筋層,漿膜や虫垂間膜までびまん性に広がった状態です(図6).粘膜のびらんや潰瘍はみられますが虫垂の壁構造は保たれます.CTでは,周囲の脂肪織濃度上昇の所見が加わり,虫垂が同定しやすくなります.

図6 蜂窩織炎性虫垂炎 スライスを見る
A)横断面,B)冠状断面.
盲腸の尾側に走行する虫垂がある().虫垂壁の造影効果に周囲の脂肪織濃度上昇の所見が加わっている.

壊疽性虫垂炎

さらに高度に炎症が進行すると虫垂壁は壊死し,穿孔に至ります(図7).CTでは壁の造影効果がむしろ減少し,虫垂自体は同定しづらくなることもあります.壁構造の連続性が途絶えて膿瘍やfree airが出現します.

図7 壊疽性虫垂炎
A)横断面,B)冠状断面.
盲腸の尾側に走行する腫大した虫垂がある().また,内部には糞石と思われる石灰化がある.一部壁の造影効果が断裂していて,後に病理検査で壊疽性虫垂炎の穿孔と判明した.

穿孔,膿瘍形成や麻痺性イレウスなどになりうる壊死性虫垂炎

炎症性変化が増悪し,壊死性の虫垂炎が穿孔を起こすと腹膜炎を生じます(図8).患者の症状はそれまでの右下腹部痛から腹部全体の強烈な痛みへと変化します.虫垂は穿孔前よりむしろ虚脱し,ダグラス窩,傍結腸溝,肝周囲などに腹水がみられます(図9).また,合併症として膿瘍形成や麻痺性イレウスなどを引き起こす場合があります.

図8 虫垂炎の経過
図9 膿瘍形成を伴う虫垂炎
A)横断面,B)冠状断面.
骨盤底部右側に被膜構造を伴う液体貯留腔()があり,膿瘍形成を考える.虫垂の先端に膿瘍形成があり,虫垂自体は虚脱していた.

★注目! CHECK POINT!:急性虫垂炎と鑑別が必要な疾患

急性虫垂炎と鑑別が必要な疾患は多岐にわたり,虫垂炎以外の消化器疾患〔回盲部腸炎,炎症性腸疾患(Crohn病など),結腸憩室炎〕,泌尿器疾患(右尿管結石,尿路感染症,精巣捻転),婦人科疾患(卵巣捻転,卵巣出血,異所性妊娠)などがあげられます.

消化器疾患や泌尿器疾患についてはある程度CTで除外できる部分がありますが,婦人科疾患についてはCTでは評価困難なことがしばしばあります.すべてをCTで評価しようとせずそのほかの検査モダリティを駆使して診断に結びつけることが大事です.

文献

1) Doria AS, et al:US or CT for Diagnosis of Appendicitis in Children and Adults? A Meta-Analysis. Radiology, 241:83-94, 2006

2) Lane MJ, et al:Suspected acute appendicitis:nonenhanced helical CT in 300 consecutive patients. Radiology, 213:341-346, 1999

3)「グレイ解剖学 原著第3版」(塩田浩平, 他/監訳), Elsevier, 2016

4)「臨床のための解剖学 第2版」(佐藤達夫, 他/監訳), メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2016

福田俊憲(Toshinori Fukuda)
聖路加国際病院 放射線科 専攻医
たかが虫垂炎,されど虫垂炎.

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