医療統計解析使いこなし実践ガイド〜臨床研究で迷わないQ&A

医療統計解析使いこなし実践ガイド

臨床研究で迷わないQ&A

  • 対馬栄輝/編
  • 2020年04月30日発行
  • A5判
  • 254ページ
  • ISBN 978-4-7581-0248-3
  • 定価:3,080円(本体2,800円+税)
  • 在庫:あり
書籍を購入する
本書を一部お読みいただけます

基礎編

5講 統計解析のための準備③ー抄録や論文に書く手順

対馬栄輝
(弘前大学大学院保健学研究科)

 Point

  • 統計解析の記述は,まずデータを,どこからどうやってとったか押さえることが必要である
  • 次に,どういった統計手法を使って,どういった手順で導き出したかを順序立てて記述する
  • 最後に,統計解析によって出力された必要な情報を書く.統計手法ごとに異なるので,留意しておかなければならない
この講でできるようになること

Step1 対象者を明確にする

統計解析のもととなる資料は,対象者からとられたデータである.まずは,対象者をどこから,どうやって集めたかを把握し,述べる.

Step2 統計手法について記載する

統計解析は複数の手法を行うことが多い.どういった順番で,それぞれの結果をどのように判断して進めていったか,具体的に書く.

Step3 統計解析の結果を述べる

統計解析によって出力された必要な情報を記述する.

Goal 統計解析の手順について,正確な情報を述べることができる

質問1統計解析はどうやって記述したらよいですか?

①データの入手法,②統計手法,③解析結果,という3点を押さえて記述しましょう

統計解析はなぜ行う?

データをとって統計解析を行う目的は何でしょうか.それは,データを使って「平均に差があるか知りたい」とか「関連があるか知りたい」と考えたからです.図1を見てみましょう.対照群と疾患a群の平均血圧(収縮期血圧)と標準偏差をエラーバーで表したグラフです.これを見て「対照群の平均血圧と疾患a群の平均血圧には差がありますか?」と問われたら,どう答えるでしょうか.

「対照群の平均血圧が123.7 mmHgで,疾患a群の平均血圧が141.8 mmHgだったら,誰がみたって18.1 mmHgの差があるでしょう」と答えるかと思います.それが本当に18.1 mmHgの差でよいのであれば,統計解析なんて必要なく,エラーバーグラフを描いて終わりです.

統計解析を行う真の目的は推測にあります.つまり,他の対照群と疾患a群の平均血圧にも差があるか? 同じような属性をもった別の・・対照群と疾患a群であっても差があるといえるだろうか?という疑問を確かめるのです.もし,図1のグラフだけで判断できるなら,面倒な統計解析なんて使うこと自体がバカげています.パソコンの統計ソフトを使い,わざわざ面倒な操作をして「pがいくらで……」と考えるのは,こうした理由があるためです.統計解析を行う目的がわかれば,その目的を達成するために必要な情報を提示すればよいわけです.


解析に必要な情報=解析の記述に必要な情報?

それでは,統計解析に必要な情報を記述すれば問題ないかといわれると,それだけでは不足しています.統計解析の記述は統計解析の点さえきちんと書けていればそれでよいと考えがちですが,意外にそうでもないのです.

統計解析を料理にたとえると,解析を行って提示された必要な情報は“できあがった料理”に相当します.もし,自分も料理人であれば「いったいどうやって作ったのだろう?」という疑問が湧きます.さらには「この食材はどこから仕入れてきたのだろうか?」という疑問も湧くでしょう.「いったいどうやって作ったのだろう?」という疑問は統計解析では「いったいどういった手法を使って,どういった手順で導き出したのだろう」という疑問に置き換えられますし,「この食材はどこから仕入れてきたのだろうか?」という疑問は「このデータはどこからどうやってとったのだろう?」という疑問に置き換えられます.

料理の作り方を書いたレシピは,統計解析の手順に相当します.重要なことは,料理のレシピ(統計解析)は,理想的な食材(データ)を使ったときに本領を発揮できる(理論的な解釈ができる)ようにできているのです.もし理想的ではない食材を使用したときは,少し硬いかもしれない,味が薄いかもしれない,水っぽいかもしれない,という問題が発生します.理想的ではないデータを使用したときは,pの値が理論どおりに出力されていないかもしれない,差が大きく出るかもしれない,関係が低く出るかもしれない,といった問題が起こります.

そうしたことから,データの性質,統計解析の手順を詳細に記載したうえで,解析で得られた出力結果がどうなのかということを述べなければなりません.

ここまでをまとめると,

①データは,どこからどうやってとった

②どういった統計手法を使って,どういった手順で導き出した

③解析によって出力された必要な情報はこれである

という3点の記述が必要です.

統計解析を論文に記述するときには「○○手法を使って検定した結果,p=△△だった」と書けばそれで十分なはず,というわけではないことがわかりましたね

書籍概略はこちら
医療統計解析使いこなし実践ガイド〜臨床研究で迷わないQ&A

医療統計解析使いこなし実践ガイド

臨床研究で迷わないQ&A

  • 対馬栄輝/編
  • 定価:3,080円(本体2,800円+税)
  • 在庫:あり
書籍を購入する