ダメ例から学ぶ 実験レポートをうまくはやく書けるガイドブック〜手つかず、山積み、徹夜続き そんなあなたを助けます!

ダメ例から学ぶ 実験レポートをうまくはやく書けるガイドブック

手つかず、山積み、徹夜続き そんなあなたを助けます!

  • 堀 一成,北沢美帆,山下英里華/著
  • 2022年03月18日発行
  • A5判
  • 159ページ
  • ISBN 978-4-7581-0853-9
  • 定価:1,980円(本体1,800円+税)
  • 在庫:あり
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第2章 実験レポート作成 ワークブック

1 方法

形式

何を使って、どのような操作をしたのかを詳細に書きましょう。1つの実験レポートが複数の実験の組合わせである場合は、小見出しを活用しながら実験ごとに書きます。箇条書きにせず、文章の形で作成します。また、実際に行ったことなので、原則として過去形で書きます。一人称は使用しません。

書くべき内容

材料や操作について、以下の詳細な情報を含めて文章を記述します。

  • 材料や試料(生物も含む)の正式名称(できればメーカー名も)
  • 特殊なしくみで働く材料や試料の説明
  • 装置や器具の正式名称とメーカー名(自作した場合は、自作した方法を1つの実験とみなして書く)
  • 実験操作
  • 実験条件(温度、濃度、容量、時間、回数など)
  • フィールドでの調査や採取を行った場合、場所と状況(天候、潮位、気圧など)
  • 解析に使用したソフトや手法
  • 顕微鏡写真などの撮影条件
生物試料の名称表記法

生物試料の名称の表記にはルールがあります。原則、普段使用する名称(通称名)は使用せず、学名や和名(種が特定できる標準和名)を使用します。動物と植物は和名を使用することが多く、原則としてカタカナで表記します。

和名の例
× ねずみ、鼠、ネズミ → ○ マウス、ラット
× かえる → ○ アフリカツメガエル
× しろいぬなずな → ○ シロイヌナズナ
  • 英語の “mouse” は小型のネズミの仲間を広く表す言葉ですが、生物学分野での「マウス」は、ハツカネズミ Mus musculus 一種を表す名称として使用されます。複数の種を比較する実験など、誤解が生じる可能性がある場合は、学名を併記しましょう。

微生物などは基本的に学名(属名+種小名)で表記します。学名の表記には原則イタリック体(斜体)を使用し、イタリック体が使用できないときには下線を引きます。さらに、属名の最初の文字を大文字、種小名の最初の文字は小文字にします。サルモネラ属菌など種名が同定できない場合は、属名の後にローマン体(直立体)で「sp.」(複数種の場合は「spp.」)をつけます。動植物でも学名を使用する場合は、同じルールが適用されます。

学名の例
大腸菌 Escherichia coli
サルモネラ属菌 Salmonella spp.

また、性別を表記するときは、カタカナか漢字で表記します。

性別表記の例
× めす、おす、♀、♂  ○ メス、オス、雌、雄

気をつける点・省く内容

不要な情報や事実以外の記述を省きましょう。学生が書いてしまいがちな例を3つ紹介します。

①その方法を用いた目的

ダメ例
細胞周期解析を行うために分裂指数を測定した。
分裂指数を算出する目的・理由として、細胞周期の測定があげられています。「細胞周期解析」の方法を述べるときには小見出しが「細胞周期解析」となるので、具体的な手順だけを述べましょう。

②比喩表現や抽象的な表現

ダメ例
非常にゆっくりと薬剤を入れた。
「非常にゆっくりと」とはどのくらいのスピードでしょうか? 定量的に示すか、「気泡が生じない」など現象で示しましょう。

③実験を再現するのに必要のない情報

ダメ例
実験室の右側の棚から試薬をとった。
試薬棚の場所は実験結果に影響するでしょうか? 影響しないなら書きません。もし「右側の棚」に他の棚にない何か重要な特性があるなら、「暗所に保管されていた試薬」など具体的に書きます。

ヒントとコツ

実験中に記録した実験ノートのメモの内容も盛り込んで、誰が見ても再現できるように心がけて書きます。説明書をつくっているつもりで丁寧に書きましょう。論文などですでに発表された方法を用いた場合は、引用したうえで概略を記載します(⇒p.121、ライティングテクニック8参照)。

以下はレポートのダメ例です。どこがダメか考えてみましょう。

ダメ例*データは架空のものです。

・準備

タンパク質の核移行とDNA複製との相関関係を検証するために受精卵を準備します。

  1. めすのかえるの卵抽出液に精子核染色体を加えた。
  2. 核膜形成前と核形成後にWGA (核膜形成阻害剤) または、aphidicolin (DNA複製阻害剤)を0.4 µLずつ加えて、さまざまな温度にしばらく置いた。

・染色方法

準備した受精卵にTAの羊土さんが調節した2 µg/mLのCy3-dCTPとGFPタンパク質を3.5 µLずつしっかり混ぜて10分間静置した。今回の実験では染色した受精卵のサンプルを100 % メタノールで固定した後、顕微鏡を使って観察した。顕微鏡観察から得られた画像データを用いて、核の大きさと蛍光の強さを解析し、異なる条件間で有意差検定を行った。

ダメ例(解説)*データは架空のものです。
添削後の例*データは架空のものです。

卵抽出液の調整

小見出しは太字にし、可能であれば行間を1.5行など広めにすると、見やすくなります(⇒第2章9参照)。

アフリカツメガエル (○○大学医学部内分泌研究所) の未受精卵をEGTA(ethylene glycol tetraacetic acid)を含む緩衝液とともに遠心管に詰め、150 000 Gで3時間遠心分離し、可溶性分画をM期抽出液として回収した。

・核形成とタンパク質移行の阻害処理

アメリカツメガエルの卵抽出液 60 µLに脱膜した 2×105 個/µLのアメリカツメガエル精子核染色体を 1.2 µL添加後、10 µLずつ 1.5 µLエッペンチューブ6本に分注した。うち3本は、核膜形成前にあたる精子核添加後すぐに、 無処理のまま[サンプル①] 、核膜形成・核移行阻害剤WGA (Wheat Germ Agglutinin; Hitsuji-sha) を添加 [サンプル②]、DNA複製阻害剤

名称とメーカー名を併記する場合は;や,で区切ります。

aphidicolin (Yodo Chemicals)を添加 [サンプル③] し、23 ℃で50分間培養した。また1本は、精子核添加後すぐに氷上 (4 ℃) に移し、50分培養した [サンプル④] 。残りの2本は、精子核添加後23 ℃で40分間培養して核膜を形成させた後、氷上 (4 ℃) [サンプル⑤] 、またはWGAを添加して23 ℃ [サンプル⑥] で10分間培養した。WGAは終濃度が400 µg/mL、aphidicolinは終濃度が20 µg/mLとなるように添加した。

同じ条件を複数回書くときは、最後にまとめて記載しても問題ありません。

・蛍光染色

阻害処理後のサンプルに2 mg/mL GFP蛍光タンパク質 (Exper Bio, Inc.)とcCTPが蛍光で標識された1 mM Cy3-dCTP (Exper Bio, Inc.) を1 µLずつ加え、氷上(4 ℃)にて30分間静置した。GFP蛍光タンパク質とCy3-dCTPを取り込んだサンプル2 µLをスライドガラスにのせた。その後、サンプルに核を染色する1 µg/mL Hoechst 33342 (Exper Bio, Inc.)を含む細胞固定液(4 %パラホルムアルデヒド)を2 µL添加した。

・蛍光顕微鏡を用いた観察

固定したサンプルは、共焦点顕微鏡 (Y-SP8; Hitsuji Microsystems) を用いて観察、撮影した。Hoechstの観察には、405 nm、GFPでは488 nm、Cy3では561 nmの励起光を照射した。蛍光シグナルは可変フィルターにて検出した。検出フィルターは、Hoechstの検出には430- 475 nm、GFPに

範囲を示すときには [数値 ハイフン 半角スペース 数値 半角スペース 単位] という形式で表記します

  • 数値範囲はenダッシュで表すのが正式な表記とされます(例:430–475 nm)。ただし、通常の文書作成ソフトではenダッシュの入力が難しいので、ここでは代替手段として多用される表記を紹介しています。

は500- 540 nm、Cy3には565- 600 nmを設定した。画像はすべて256×256 ピクセルで撮像した。

・核の蛍光輝度の測定および統計処理

得られた画像データをImage analysis X(AIX)を用いて解析した。はじめに、核を撮像した画像からHoechst で標識された核領域をThresholdで閾値を決定した後、抽出した。次に、GFPまたはCy3を撮影した画像から抽出済みの核領域を重ね合わせ、核領域内に存在するGFPまたはCy3のシグナル強度を核ごとに算出した。得られたデータはOptical 14(Graph line)を用いて平均±SEMとして示し、Mann-Whitney U検定を用いて有意差検定を行った。

数字やカッコの形式 (全角や半角など) は統一されていますか?
単位と数値の間に半角スペースは空いていますか?
*自然科学分野では多くの場合、パーセント(%)や摂氏温度(℃)の前にもスペースを入れます(⇒p.90、ライティングテクニック5参照)。
誰が読んでも再現できるように詳細に記述してありますか?
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ダメ例から学ぶ 実験レポートをうまくはやく書けるガイドブック

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