キーワードでわかる臨床栄養 令和版〜栄養で治す!基礎から実践まで

キーワードでわかる臨床栄養 令和版

栄養で治す!基礎から実践まで

  • 岡田晋吾/編
  • 2020年04月14日発行
  • B5判
  • 432ページ
  • ISBN 978-4-7581-0910-9
  • 定価:4,180円(本体3,800円+税)
  • 在庫:あり
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第7章 経口栄養療法

3 摂食嚥下障害

藤谷順子
(国立国際医療研究センター病院 リハビリテーション科 診療科長)

キーワード
  1. 1 誤嚥性肺炎
  2. 2 嚥下メカニズム
  3. 3 嚥下評価
  1. 4 嚥下調整食
  2. 5 摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士

 概論


摂食嚥下障害は,十分量を安全に経口摂取できない状態を指し,医学的には,栄養の摂取の障害と気道保護の障害である.摂食嚥下障害は幅広い原因・病態で出現する.摂食嚥下障害の重症度をとらえる指標としては,藤島の分類や,FOIS(表Ⅰ1)がある.

摂食嚥下障害を有する症例では,食物形態・物性によって嚥下の難易度,誤嚥や残留のリスクが変化する.そのため,症例の摂食嚥下機能に合わせた形態・物性の食事を用意することで,摂食嚥下障害があっても経口からより安全に・多量に摂取することができる可能性があり,またそのことが訓練となって摂食嚥下機能の改善にも寄与しうる.このように摂食嚥下機能障害に合わせて形態を調整した食物を嚥下調整食(嚥下食・嚥下障害食ともよばれてきた)という.

嚥下調整食では,かたさ(やわらかさ),付着性,凝集性(ばらけにくさ)が重要であり,また,液体では粘度(とろみがついていること)が誤嚥防止に寄与する.病院・施設では段階的な嚥下調整食を用意し,症例の状態に応じて選択できるようにすることが望ましい.

従来の特別食は,そのほとんどが栄養素の調節であった.嚥下調整食は,栄養素とは異なる軸の形態・物性の効能効果を期待した食事である.しかしながら,嚥下調整食でも単に物性だけでなく,栄養効率にも配慮する必要がある.その理由は,嚥下調整食を必要とする症例は,自由に容易に多数回嚥下できないので,総摂取量が少なくなりがちであり,低栄養に陥りやすいからである.

嚥下調整食は,現在の診療報酬では加算のとれる特別食としてはまだ認められていないが,栄養食事指導では,「医師が嚥下調整食(日本摂食嚥下リハビリテーション学会の分類に基づく)に相当する食事を要すると判断した患者」に対して算定が認められている.

なお,2013年度より開始された管理栄養士専門分野別人材育成事業のがん病態栄養・腎臓病病態栄養・糖尿病病態栄養管理栄養士に続く,第四の専門栄養士制度として,2016年度より,摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士制度が発足している.

キーワード解説

1 誤嚥性肺炎[aspiration pneumonia]

今やわが国の65歳以上の人口は27.3%(女性では30%)となり,後期高齢者である75歳以上の占める割合は総人口の13.4%である2).肺炎は,2011年に脳血管障害を抜いて日本人の死因の第3位となり,肺炎で入院した症例の約6割が誤嚥性肺炎によるものであることが報告3)されている(なお,2017年の統計では脳血管疾患・老衰に次ぐ死因の5位となったが,この減少は,死亡診断書の記載における原死因の選択ルールの明確化によるものと推察されている).また,医療・介護関連肺炎(nursing and healthcare-associated pneumonia:NHCAP)の多くは誤嚥性肺炎である可能性が高い4).誤嚥性肺炎の転機については,DPCデータの解析で,死亡が20%,自宅退院が43%,病院・施設への退院が37%との報告がある5).誤嚥性肺炎の病態については第8章-5 Key Word1p.231も参照のこと.

2 嚥下メカニズム[the mechanism of swallowing]

摂食嚥下機能は,先行期・準備期・口腔期・咽頭期・食道期の5期で理解することができる.先行期・準備期では,飲み込みやすい食塊になるように食物を咀嚼している.咽頭期が嚥下反射の瞬間であり,喉頭が前上方に挙上し,喉頭蓋が翻転し,声門上部が収縮する.かつ,輪状咽頭筋が弛緩することで食道入口部が開き,咽頭での圧形成もあいまって圧勾配が生じ,食物は気道に入ることなく食道のみに入ることができる.気道(声帯下)に入ってしまうのが誤嚥であり,声帯の上までの場合を喉頭侵入という.嚥下後,梨状陥凹や喉頭蓋谷に食物が残るのを残留という.

嚥下機能の低下は,咀嚼や送り込みの拙劣,嚥下反射の遅れや消失,食道入口部開大時間の短縮や開大幅の低下による食道入口部通過不良などの所見と,誤嚥・喉頭侵入の量と咳反射の有無,残留の有無と量の組み合わせで記録される.

口に入る前には固い食品でも,咀嚼して唾液と混ぜ合わされた食塊は通常は柔らかく,のどごしがよく(付着性が低く),そしてある程度まとまり(凝集性)があり,かつ可変性もあって食道入口部を1回の嚥下で通過する.

以上のようなメカニズムから,重度の嚥下障害の際には,咀嚼後の食塊に近い性質をもつゼリー状の食品や,とろみ水などが選択され,その後は機能に合わせ,かたさ・咀嚼や送り込みの誘発・感覚刺激・残留しないこと・貼りつかないことなどに配慮しつつ常食に近づけていくことが必要である.

3 嚥下評価[swallowing assessment]

口腔・咽頭・喉頭の筋群は下部脳神経系の支配であるため,診察としては,下部脳神経系の神経所見を確認する.

嚥下機能に対するスクリーニングテストとしては,水飲みテスト,反復唾液嚥下テスト,フードテストなどがある.スクリーニングテストだけでなく,食事場面の観察や,口腔咽頭機能・発声機能・呼吸機能,栄養状態,口腔内の状態なども,病態の把握や対応策の検討のためには重要である.日本摂食・嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会では,表形式の摂食・嚥下障害の評価(簡易版)を発表6)している.

詳細に嚥下機能を評価するには,嚥下造影7)や嚥下内視鏡8)が行われる.嚥下造影では造影剤を混ぜた検査食,嚥下内視鏡では実際の食材を使用することで,食形態の適切さについても評価することができる.

4 嚥下調整食

嚥下障害のリハビリテーションに段階的嚥下調整食が必要なことは欧米では1970年代から知られている.2002年には米国栄養士協会が,4段階のNational dysphagia dietを発表した.わが国では,1980年代から,「嚥下食」「介護食」の名での報告があり,1994年には厚生省(当時)が,特別用途食品の高齢者用食品の基準に「えん下困難者用食品」を加えている.その後,嚥下ピラミッドが金谷・藤島らにより提唱され,2013年に,日本摂食嚥下リハビリテーション学会が「嚥下調整食学会分類2013」を発表した(本章-4 Key Word1p.184も参照).

5 摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士

摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士とは,公益社団法人日本栄養士会と一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会とが認定する共同認定制度である.これは厚労省と日本栄養士会が平成25年度からはじめた「管理栄養士専門分野別人材育成事業」の4つの専門分野の1つである(他の3つはがん,腎臓病,糖尿病).摂食嚥下リハビリテーションの基本的知識と栄養管理に関する技能を修得し,医療機関や介護(福祉)施設とともに在宅においても,摂食嚥下障害をもつ患者や家族に対し栄養管理と専門的な食・栄養支援を行うことでQOL向上に貢献することができる.

文献

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