薬剤師のための電解質異常フォローアップ〜イエローサインを捉え、的確に動くコツ

薬剤師のための電解質異常フォローアップ

イエローサインを捉え、的確に動くコツ

  • 志水英明/監,三宅健文,門脇大介/編
  • 2025年06月12日発行
  • A5判
  • 184ページ
  • ISBN 978-4-7581-0951-2
  • 3,850(本体3,500円+税)
  • 在庫:あり
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第4章 マグネシウム異常のなぜ?

症例問題

症例 1

▶ 背景
42歳,男性
身長166cm,体重90kg(BMI32.7kg/m2)

▶ 既往歴
急性骨髄性白血病〔FAB分類:M2,遺伝子異常:t(8;21)〕

▶ 経過サマリー
 検診の採血にて芽球が検出されたのを契機に近医の総合病院を受診し,骨髄生検やPET-CTなどの精査をしたところ,急性骨髄性白血病〔FAB分類:M2,遺伝子異常:t(8;21)〕と診断された.入院後,寛解導入療法としてAra-C+DNRを開始し,寛解に到達した.遺伝学的背景から予後良好群に分類できるため,地固め療法として大量Ara-Cを導入した.1週間後に著明な倦怠感の訴えがあり精査したところ,発熱38.5℃と好中球が4/μLに低下したことから発熱性好中球減少症と診断された.感染源を精査したところ,β-D-グルカン高値ならびに胸部CTにて右肺野のhalo signから侵襲性肺アスペルギルス症を疑い,メロペネムとボリコナゾールの経静脈投与が開始となった.同時に,経口摂取も進まないため,中心静脈栄養が開始となった.ボリコナゾール開始から4日後に皮疹と肝機能障害を認めたため,代替薬としてアムホテリシンBリポソーム製剤の経静脈投与に変更となった.アムホテリシンBリポソーム製剤の開始から5日後,全身状態は改善傾向ではあるものの,血清Mg濃度0.7mg/dLと低下傾向であった.

▶ 処方
注射薬
Rp 1 メロペネム(メロペン) 1g 1バイアル
    生理食塩液100 mL 1本
     1日3回 1時間点滴静注
Rp 2 アムホテリシンB リポソーム製剤(アムビゾーム 点滴静注用)
    50mg 4.5バイアル(2.5mg/kg)
    注射用水 22.5mL
    5%糖液 250mL 1本
     1日1回 2時間点滴静注
Rp 3 アセトアミノフェン(アセリオ静注液)1000 mg 1本
     1日1回 Rp 2)の投与30分前
Rp 4 フルカリック 1号輸液903mL 1本
     1日1回 24 時間点滴静注

▶ 検査所見
WBC:0.1 × 103/μL(↓),RBC:0.1 × 106/μL(↓),Plt:5 × 104/μL(↓), Hb:1.1 g/dL(↓), Ht:8%(↓), TP:4.1 g/dL(↓),Alb:3.2 g/dL(↓),BUN:18.2 mg/dL,Cre:0.6 mg/dL(↓),AST:13 IU/L,ALT:15 IU/L,T-Bil:0.4 mg/dL,Na:138mEq/L,Cl:96 mEq/L,K:3.1 mEq/L(↓),Mg:0.7 mg/dL(↓)

考えてみよう

Q1 本症例の重症度・緊急度はどうか?
Q2 低Mg 血症の原因に何があげられるか?

解答解説
A1)本症例では心電図異常は認めませんでした.しかし,血清Mg濃度0.7mg/dLと重症低Mg血症に該当するため,早急なMg補正が求められます.そのため,経静脈投与による確実なMg補充を検討する必要があります.
A2)低Mg血症の原因を探索しましょう(図6).一般的なMgの1日摂取量240mg(= 20 mEq),消化管吸収率50%程度と仮定すると,約120mg(= 10mEq)が腸管から吸収されると考えられます(= 240mg × 50%).絶食下でフルカリック®1号(Mg総含有量:10mEq)の投与中であるため,Mgの摂取量不足はひとまず除外できます.同様に悪心・嘔吐や下痢などの消化管喪失を示唆するエピソードはありません.
次に,Mg2+の尿中排泄について考察します.低Mg血症の被疑薬候補としてアムホテリシンBリポソーム製剤が考えられますが,低Mg血症の機序は完全に解明されていません6).また,アムホテリシンBリポソーム製剤による低Mg血症は一般的に可逆的ですが,数週間に渡って遷延する可能性がある点は特筆すべき点です24).なお,K保持性利尿薬であるアミロライド(本邦では未承認薬)を併用すると,アムホテリシンBによる低K血症と低Mg 血症が緩和されることが報告されています25)

さらにもう一歩
その他に注目すべき点として,アムホテリシンBリポソーム製剤による低K血症の合併があります.低Mg血症によりROMKの透過能が亢進することでK+の尿細管分泌が亢進し,二次的な低K血症が起こります.本症例でも血清K濃度が3.1 mEq/Lと低下しているため,Kの補正を並行することが妥当です.

症例 2

▶ 背景
75 歳,女性
身長149 cm,体重61 kg(BMI 27.5 kg/m2)

▶ 既往歴
心房細動,高血圧

▶ 経過サマリー
X-25年に人間ドックで高血圧と指摘されてから食事療法・降圧療法を継続していた.X-4年の定期受診時の心電図にて心房細動が指摘された.CHADS2スコア3点に相当するため,抗凝固療法を導入する方針となった.前回の受診時に下腿浮腫(体重0.5kg増加)と降圧コントロールの増悪を認めたため,利尿薬(ヒドロクロロチアジドとフロセミド)の内服が開始となった.利尿薬の開始から2カ月後の定期受診の採血にて低Mg血症を認めた.本人の内服アドヒアランスは良好で血圧手帳もしっかりと記載している.

▶ 処方
内服薬
Rp 1 エドキサバン(リクシアナ)錠 60mg 1回1錠 1日1回朝食後
Rp 2 カンデサルタン4 mg/ヒドロクロロチアジド6.25mg合剤(エカード配合錠LD) 1回1錠 1日1回朝食後
Rp 3 ビソプロロール(メインテート)錠2.5mg 1回1錠 1日1回朝食後
Rp 4 フロセミド(ラシックス)錠20 mg 1回1錠 1日1回朝食後

検査所見
WBC:3.5 × 103/μL,RBC:3.7 × 106/μL,Plt:20 × 104/μL,Hb:10 g/dL(↓),Ht:28.5%(↓),TP:5.8 g/dL(↓),Alb:3.4g/dL(↓),BUN:25.3 mg/dL(↑),Cre:0.8 mg/dL(↓),AST:16 IU/L,ALT:15 IU/L,T-Bil:0.2 mg/dL,Na:137 mEq/L,Cl:95 mEq/L,K:3.1 mEq/L(↓),Mg:1.0 mg/dL(↓)

▶ 血圧手帳

考えてみよう

Q1 本症例の重症度・緊急度はどうか?
Q2 低Mg 血症の原因に何があげられるか?

解答解説
A1)血清Mg濃度1.0mg/dLと軽度低Mg血症を認めます.
A2)食欲不振や下痢などのエピソードはありませんでした.直近の内服薬の変更は,ヒドロクロロチアジドとフロセミドの導入であり,これらを開始した後から低Mg 血症を発現しました
 フロセミドによりヘンレループ上行脚のNa-K -2Cl共輸送体が遮断され,KのROMK の透過性が低下します.そのため,原尿中にK+が保持されず陽性荷電が形成されません.そして,クローディン16 を介したMg2+再吸収が障害され,低Mg血症に至ります.一方,ヒドロクロロチアジドの利尿作用によって体内の水分量が減少するとアルドステロンが分泌されてMg2+の尿中排泄量が増加し,低Mg血症になると考えられます.さらにサイアザイド系利尿薬は,TRPM6のダウンレギュレーションを起こすことが基礎実験レベルでは証明されています25).特に,サイアザイド系利尿薬による低Mg 血症は,長期間投与中に顕在化することが報告されており26),丁寧なフォローアップが必要です.

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文献

  • 6) Liamis G, et al:An overview of diagnosis and management of drug-induced hypomagnesemia. Pharmacol Res Perspect, 9:e00829, 2021 (PMID:34278747)
  • 24) Barton CH, et al:Renal magnesium wasting associated with amphotericin B therapy. Am J Med, 77:471-474, 1984(PMID:6475987)
  • 25) Nijenhuis T, et al:Enhanced passive Ca2+ reabsorption and reduced Mg2+ channel abundance explains thiazide-induced hypocalciuria and hypomagnesemia. J Clin Invest, 115:1651-1658, 2005 (PMID:15902302)
  • 26) Kieboom BCT, et al:Thiazide but not loop diuretics is associated with hypomagnesaemia in the general population. Pharmacoepidemiol Drug Saf, 27:1166-1173, 2018(PMID:30095199)
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薬剤師のための電解質異常フォローアップ〜イエローサインを捉え、的確に動くコツ

薬剤師のための電解質異常フォローアップ

イエローサインを捉え、的確に動くコツ

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  • 3,850(本体3,500円+税)
  • 在庫:あり