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第6章 膝関節
1 しゃがみ込んだときに膝の前方が痛い
澤渡知宏
1はじめに
- しゃがみ込み動作はスポーツ動作に限らず,座る・立ち上がる,物を拾う・持ち上げるなど日常生活において非常に多くの場面で行われる基本的な動作パターンの1つである1).
- そのため,しゃがみ込み時における膝の痛みは臨床上,患者の訴えが多い症状の1つであり,それに関連する機能障害を理解することは重要である2).
- 一般的にしゃがみ込み動作時における膝の痛みや症状は,膝関節を屈曲させる際に膝蓋大腿関節にかかる圧迫力が増加し,生体力学的異常が引き起こされることで発生すると考えられている3,4).しかし,膝関節の生体力学的異常だけでなく,膝や体幹筋の安定性の低下5),さらに股関節や足関節などの隣接関節の機能障害も症状を引き起こす要因として考えられる6).
- したがって,このような症状を理解し,さまざまな要因を考慮に入れたうえで,機能障害を診ることがとても重要である.
- 本項では,しゃがみ込み動作時に生じる痛みや症状に対して,押さえるべき機能障害の診かたと,機能障害に対する個別化した治療介入戦略の進め方について紹介していく.
2機能障害の診かた
機能障害を特定するための基本原則
- しゃがみ込み動作における膝の痛みに対する機能評価の進め方についてフローチャートにまとめている(図1).
- まず患者から情報収集を行い,患者の症状について機能障害の原因を推測する.
- しゃがみ込み時の痛みの主観的評価では,まず痛みが発生する時期や受傷機転の有無,症状の程度を確認し,関節構成体への影響の有無を確認する.その後,しゃがみ込み動作中のどのタイミングで痛みが生じるのか,痛みの部位,誘発因子および軽減因子を詳しく聴取し,痛みを引き起こす要因を推察する.これらの情報を基に,適切な客観的評価へとつなげることが重要である.
- 次に,膝のアライメントについての観察を行う.
- アライメントの評価は,膝蓋大腿関節や脛骨大腿関節などの関節に過度な負荷がかかっていないかを確認する.過度なアライメント不良が認められる場合はそれが症状の原因となっている可能性がある.膝蓋骨の位置や脛骨と大腿骨の関係だけでなく,脛骨と足部のアライメントについても評価する〔足部に関しては第7章(p.376~)を参照〕.
- その後,しゃがみ込み動作におけるスクリーニング評価を行う.スクリーニング評価ではしゃがみ込み動作をよく観察し,動作中の代償動作を確認する(STEP1).
- 明らかな代償動作が認められる場合や痛みなどの症状が生じる場合は意図的に動作を修正したりフィードバックを加えて,再度しゃがみ込み動作を行ってもらい,膝の症状の有無について確認する(STEP2).
- 代償動作が認められない場合であっても膝に痛みなどの症状を訴える場合は徒手的に膝蓋骨の動きを内側や外側に誘導し,症状が軽減/誘発されるかどうかを確認する.
- 次に,重力の影響を排除した肢位(例:四つ這い位)で動作を実施し,膝に痛みなどの症状が生じるかどうかを確認する.この過程では主に荷重時と非荷重時での比較や,症状が認められる場合には動作を修正して症状の強さを確認する(STEP3).
- 最後に,背臥位または腹臥位で膝関節の関節可動域や筋肉の長さについて確認する(STEP4).
- 以上の手順に従い,しゃがみ込み動作時の膝の痛みや症状に関連する機能障害を識別し,その後はさらなる詳細な機能評価によって機能障害を引き起こしている原因を関連づけていく.
STEP1:しゃがみ込み動作スクリーニング
- STEP1ではしゃがみ込み動作のスクリーニングを行い,痛みや症状の有無だけでなく,代償動作も確認する.
しゃがみ込み動作のスクリーニング
STEP2:修正テストを行い動作スクリーニングとの比較や膝の痛みや症状の有無について確認する
- STEP1で明らかな代償を認める場合は代償に応じたしゃがみ込み動作における修正テストを,代償動作が認められない場合であっても膝に痛みなどの症状を訴える場合は徒手的な膝蓋骨の動きの誘導を実施し,通常の動作スクリーニングと比較し膝の痛みや症状の有無を確認する.
- これらのテストで症状が軽減した場合でも,それに影響する因子が機能障害の原因であると安易に決めつけず,機能評価における以降のSTEPの評価を行い,最終的に最も関連していると考えられる機能障害を抽出する.そして,その機能障害に対してさらに詳細な評価を行い,痛みや症状を引き起こす原因を特定する.
修正スクワット
膝蓋骨の徒手的誘導:膝蓋骨を徒手的に誘導した軽減/誘発テスト
STEP3:重力の影響を取り除き非荷重時における膝関節の動きを確認する
- STEP2の結果はふまえつつ,STEP3としてはしゃがみこみ動作から足関節の影響を取り除く目的で四つ這い位スクワットテストを行う.
- このテストで問題が見られた場合は,さらに外旋誘導を加えたうえで実施し,股関節の影響も考慮する.
四つ這い位スクワットテスト
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文献
- Myer GD, et al:The back squat: A proposed assessment of functional deficits and technical factors that limit performance. Strength Cond J,36:4-27, 2014(PMID:25506270)
- Pereira PM, et al:Patellofemoral Pain Syndrome Risk Associated with Squats: A Systematic Review. Int J Environ Res Public Health, 19:9241, 2022(PMID:35954598)
- Mullaney MJ & Fukunaga T:Current concepts and treatment of patellofemoral compressive issues. Int J Sports Phys Ther, 11:891-902,2016(PMID:27904792)
- Bolgla LA & Boling MC:An update for the conservative management of patellofemoral pain syndrome: a systematic review of the literature from 2000 to 2010. Int J Sports Phys Ther, 6:112-125, 2011(PMID:21713229)
- Earl-Boehm JE, et al:Treatment Success of Hip and Core or Knee Strengthening for Patellofemoral Pain: Development of Clinical Prediction Rules. J Athl Train, 53:545-552, 2018(PMID:29893604)
- Schoenfeld BJ:Squatting kinematics and kinetics and their application to exercise performance. J Strength Cond Res, 24:3497-3506, 2010(PMID:20182386)
- 「Orthopedic Physical Assessment 7th ed」(Magee DJ, Manske RC), Elsevier Health Sciences, 2020
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- Hemmerich A, et al:Hip, knee, and ankle kinematics of high range of motion activities of daily living. J Orthop Res, 24:770-781, 2006(PMID:16514664)
- Escamilla RF:Knee biomechanics of the dynamic squat exercise. Med Sci Sports Exerc, 33:127-141, 2001(PMID:11194098)
- ※本web立ち読みに関連する文献のみ掲載
