もう迷わない!運動器理学療法における評価〜マスト&ベターで整理する検査・測定「何を選び、どう解釈する?」

もう迷わない!運動器理学療法における評価

マスト&ベターで整理する検査・測定「何を選び、どう解釈する?」

  • 相澤純也,古谷英孝/編
  • 2025年11月28日発行
  • B5判
  • 324ページ
  • ISBN 978-4-7581-1011-2
  • 5,500(本体5,000円+税)
  • 在庫:あり
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第3章 脊椎

4 腰椎椎間板ヘルニア(保存療法)

古谷英孝

A 疾患の概要

・椎間板から髄核が脱出することにより,神経根や馬尾神経が圧迫され症状を引き起こす疾患である.

・20〜40 歳代に発症しやすい.男性に多く,男女比は約2〜3:1である.重労働者や喫煙者に発症しやすいと言われている1).有病率はおおむね1%である.

・加齢変化による髄核の水分減少(変性)が起こった椎間板に,腰椎の運動(特に屈曲と回旋によるストレスが加わる運動)によって線維輪の部分損傷が引き起こされる.損傷が起こり脆弱になった部分から,髄核が後方に押し出されることによって神経症状を誘発する.

B 主な臨床症状

・下肢に放散する疼痛,感覚障害,痺れ,筋力低下,深部腱反射の消失である(表1).

・馬尾神経が圧迫されると膀胱直腸障害,下肢・会陰部の異常感覚がみられることもある.

・症状は運動や労働で増悪し,安静で軽快する傾向がある.

C 検査・測定の目的・意義

①神経学的検査:理学療法検査により症状を把握して治療の効果判定に用いる.

②疼痛:疼痛の部位と程度を把握して理学療法の治療計画および効果判定に役立てる.

③可動域・柔軟性:可動域・柔軟性の問題を把握して可動域エクササイズやストレッチングの計画に役立てる.

④筋機能・運動制御機能:筋機能不全と運動制御機能不全を把握してエクササイズの計画に役立てる.

⑤姿勢・アライメント:不良姿勢を把握して姿勢指導に役立てる.

⑥日常生活動作:日常生活動作と腰部や神経へのメカニカルストレスの関連を把握して動作指導に役立てる.

検査・測定の実際
❶ 神経学的検査(理学検査)
神経伸張テスト
◆ 目的

・神経の圧迫や伸張などの機械的ストレスにより,疼痛,痺れ,放散痛などの障害が誘発される.

・神経系の機械的ストレスや障害の有無を検出し,治療の効果判定に役立てる.

◆ 検査・測定の方法

・坐骨神経の伸張テストには,下肢伸展挙上テスト(Straight Leg Raising Test:SLRT)を用いる[第3章-3(p.267)参照].

・大腿神経の伸張テストには,大腿神経伸張テスト(Femoralnerve Stretch Test:FNST)を用いる(図1).

◆ 判定基準

・SLRT:第3章-3(p.267)参照.

・FNST:陽性の場合,大腿前面の疼痛や尻上がり現象が誘発される.FNST の感度は70 %,特異度は88 %である2)

・神経モビライゼーションのスライダー法を用いて,神経の滑走を改善させる.スライダー法を行った後,下肢症状(疼痛・筋力低下)が軽減するかを評価する.改善すれば,滑走性に問題があると判断する.

・セラピストは,近位と遠位の神経スライダーを1 回につき10 ~ 20 回程度,リズムよく反復して行う.遠位の神経スライダーは脛骨神経,総腓骨神経ともに行う.足関節を背屈させることで脛骨神経,底屈させることで総腓骨神経の滑走性を改善できる(図2).

感覚検査・キーマッスルに対する筋力検査・深部腱反射
◆ 目的

・感覚障害や疼痛・痺れが生じている領域から,どのレベルに障害が起きているかを判断する.

・キーマッスル(表1)に対して筋力検査を行い,神経脱落症状を呈していないかを確認する.

◆ 検査・測定の方法

感覚検査:筆などを用いて知覚検査を行う.デルマトームを横断するようにゆっくりと動かしていき,感覚の変化を聴取する.

キーマッスルに対する筋力検査:徒手抵抗に対して十分に筋力が発揮できるかを徒手筋力テスト(Manual Muscle Test:MMT)の方法に準拠して検査する.

深部腱反射:膝蓋腱とアキレス腱の腱反射テストを行う.

◆ 判定基準

感覚検査:左右差を確認して,知覚障害が生じている場合に陽性とし,箇所を特定する.

キーマッスルに対する筋力検査:左右差やMMTの尺度に準じて検査する.

膝蓋腱反射が消失・減弱してればL3/4の,アキレス腱反射が消失・減弱していれば,L5/S1の神経症状を疑う

・著明な筋力低下は,手術の適応となるため,必ず医師に報告する.

・神経モビライゼーションや椎間孔拡大モビライゼーションなどを行う.

梨状筋テスト

➡ 坐骨神経の絞扼の原因が梨状筋の硬結がでないかを検査して鑑別する.

◆ 目的

・下肢に放散する疼痛や痺れの原因には,腰椎椎間板ヘルニアの他に梨状筋症候群の可能性がある.梨状筋テストを用いて鑑別する.

・梨状筋症候群は,硬結した梨状筋と坐骨神経のインピンジメントによって,坐骨神経痛(殿部や下肢に放散する疼痛)が生じる症候群である.

◆ 検査・測定の方法

・患者を側臥位とし,股関節を60 °屈曲,内旋させて保持し,他動的に下肢を内転させる(図3).

◆ 判定基準

・下肢の放散痛が誘発されたら陽性とする.

・梨状筋のストレッチングや軟部組織モビライゼーションを行う(図4)

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文献

  • 「 腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン」(日本整形外科学会診療ガイドライン委員会腰椎椎間板ヘルニアガイドライン策定委員会 ,厚生労働 省医療技術評価総合研究事業「腰椎椎間板ヘルニアのガイドライン作成」班/ 編),南江堂,2005
  • Verhagen AP, et al:Red flags presented in current low back pain guidelines: a review. Eur Spine J, 25:2788-2802, 2016
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  • 5,500(本体5,000円+税)
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