Dr.ヤンデルの臨床に役立つ消化管病理〜臨床像・病理像の徹底対比で病変の本質を見抜く!

Dr.ヤンデルの臨床に役立つ消化管病理

臨床像・病理像の徹底対比で病変の本質を見抜く!

  • 市原 真/著
  • 2020年03月30日発行
  • B5判
  • 283ページ
  • ISBN 978-4-7581-1069-3
  • 定価:6,820円(本体6,200円+税)
  • 在庫:あり
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※本ページにて修正後の内容をご覧ください(p.131〜132)

第3章 隆起,陥凹,厚さ,硬さの原因 ~弱拡大から強拡大へ

1 ミクロ分類の先へ 〜管状病変の組織評価

32番札所マクロ p.39
ルーペ像 p.99

裾野の比較的フラットな部分(A),隆起がやや顕在化する部分(B),そして隆起の内部(C)と3箇所を拡大してみてみます(fig27).

一番左側の部分(A)では典型的な管状腺腫の像を示します.内腔は比較的ストレートで表層は平板状.

隆起がやや顕在化する真ん中(B)では,管腔の距離が長いです.

これ,よく考えるとすごくないですか? こんなに根元から先までキレイに管腔部分が見えるってことは,よっぽどパイプがまっすぐ立ち上がっていないと,キレイに両断できないでしょう.ちょっとでもナナメから割が入れば割面は楕円形になってしまうはずです.すなわち,この構造は,「粘膜筋板に対して,極めて正確に鉛直に立ち上がっている」ことになりますが….

実はもうひとつ想定できる可能性があります.

そもそもこれは本当に「陰窩」なのでしょうか? 二次元だとわかりませんが,実は隆起の顕在化したBの構造は陰窩(穴)ではなくて,折りたたまれたカーテンのようなうね状構造と推察できます.いつのまにか陰窩からうねうねへと変化していたのです.このうねうねは,切片上では慣習的に(管状)絨毛腺腫と診断されます.ただ,切片では「絨毛」っぽいですが実際には「うね状」です.私も長いこと勘違いしていたのですが,そもそも「絨毛」が並んでいるならば,こんなに根元から先までキレイに両断されることはありえないはずです(小腸粘膜の組織像のように断面ばかりが目につくはず).

陰窩とうね状構造(組織切片では絨毛構造とよばれる)の鑑別は,組織切片だと難しく感じられますが,わりと簡単な見分け方があります.それは,表層部の構造に着目することです.

陰窩は表層が平板です.うね状構造(組織切片では絨毛構造とよばれる)はプレパラート上では表層が指の形になっています(fig28).

この断面の微妙な差を読み解くには,屋根が平板かどうかを見極めるのが一番簡単です.1つ前の27番札所でも書きましたが,絨毛状構造をとる腫瘍の悪性度は高めです.

そして一番右(fig27C)の写真は一部に癌を合併しています.粘膜の深部で,スリット状の管腔が見えなくなり,周囲よりも胞体の赤みがやや強くなった異常な腺管が密度高く増殖しています.本例はcarcinoma in tubular and tubulo-villous adenomaと診断します.…ただ,本例もまた,一般臨床では単にcarcinoma in adenomaとだけ記載されることが多いでしょう.ごく一般的な日常診療で,これらの腺管の構造差を細かく病理診断に書く病理医はかなり奇特です.内視鏡を読めば確実に所見が違うのですが,病理医はとにかく「癌が合併したかどうか,その癌が粘膜下層に浸潤しているかどうか」に細心の注意を払っていますので,細かな構造差は無視してしまいがちです.

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