上部消化管内視鏡診断の基本とコツ〜内視鏡検査の「実際どうする?」をエキスパートがすべて解決

上部消化管内視鏡診断の基本とコツ

内視鏡検査の「実際どうする?」をエキスパートがすべて解決

  • 滝沢耕平,濱本英剛,市原 真/編
  • 2023年03月29日発行
  • B5判
  • 317ページ
  • ISBN 978-4-7581-1077-8
  • 定価:7,920円(本体7,200円+税)
  • 在庫:あり
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第2章 胃

2 所見の読み方

濱本英剛
(仙台厚生病院 消化器内科)

はじめに

順序だてて診断・読影できるようになるために,読影すべきポイントを押さえておきましょう.検査施行医・読影医にとって未知な病変に遭遇することもありますが,稀な病変だったとしてもその病変の主座がどこかの,ヒントの1つでも読み解ければ,正確な診断に至るための次の一手を考えられるようになります.

病変の背景粘膜から読みとること

遠景写真で胃角や噴門唇,幽門輪,体部ひだの形状,血管透見の性状,黄色腫や毛細血管拡張といった動かない病変,組織を目印に部位・周在性を把握していきます.木村-竹本分類の判定や,H. pyloriの感染状態を見分けるコツについては第2章-4を参照ください.

1)萎縮の程度をみる

背景胃粘膜の状態(F線/f線や,中間帯との位置関係)は,その場の固有腺の種類(胃底腺領域・幽門腺領域)や萎縮の進行程度を判断し考えていきます(図1).遠景では血管透見や斑状の褪色粘膜の出現程度から萎縮の進行を把握できます.胃病変は周囲の粘膜の萎縮の状態により,出現しやすい病変が異なります.例えば癌であれば背景粘膜に萎縮があるときには分化型癌を疑い(図2),萎縮性変化が乏しい場合には未分化型癌や胃底腺型腺癌,胃底腺粘膜型腺癌や,ラズベリー様腫瘍などを考えていきます(図3).

図1
図2
図3

2)A-B分類

固有腺の萎縮の程度を詳しく読み解く際はA-B分類1)で判定します(第2章-4参照).正常なH. pylori非感染例の前庭部・幽門腺粘膜はA-0型,非感染例の胃底腺粘膜はB-0型の所見を呈します.炎症の活動性や萎縮性変化が高度になるにつれ胃底腺領域はB-1型からB-3型まで変化し,その後はA-1型,A-2型まで変化します.幽門腺領域は萎縮性変化が進行するとA-0型からA-1,A-2型まで変化します.腺管の存在する領域で腺開口部が白色調でなく,茶色のspot状にみえる所見を「pinhole pit」といいますが,これはH. pylori感染が観察時点で陰性であることを示唆しますので,合わせて覚えておきましょう.

白色光観察所見のとり方~胃病変の鑑別診断

さて,背景粘膜の状態を読みとった後に,病変の特徴を読影していきます.

読影は各種のアルゴリズム2~5)を参考にするとよいでしょう.しかし,何よりはじめに大切なのは上皮性悪性腫瘍(癌)か否かです.その鑑別には境界の明瞭さと,内部の不整さが重要ですが(図4),いずれも主観的な要素が入ってくるためにどれくらいの不整さを不整ありと捉えるか,は実臨床上で反復して学ぶ必要があるでしょう(図5).境界があるようにみえてそこに不整さが簡単には読みとれないときに,拡大内視鏡での精査や,生検が必要になってきます.

図4
図5

形態からみた鑑別方法図6

1)隆起性病変

隆起性病変はその成因を考えます.組織学的な変化が①腺窩上皮の高さ・粘膜表層にきわめて近い部位に起きているのか,②粘膜固有層の深層の固有胃腺のある付近から,粘膜筋板直上付近に起きているのか,③粘膜筋板の下の何かが増生し,筋板を深部から押し上げているのか,の3つのいずれか,あるいはいくつかが併存します.これらを見極めるために,❶隆起の立ち上がりに着目して上皮性か,上皮の深層か,非上皮性か,を鑑別し,次いで❷その表面性状の不整さに着目し腫瘍性かどうか鑑別していきます.

図6
図7
図8
① 上皮性病変

粘膜上皮由来である病変は原則その境界が明瞭で,周囲の背景粘膜から「急峻に」立ち上がります.くびれや茎部を有することもあり,山田分類のⅢ型~Ⅳ型になります.

次に辺縁や内部構造の不整を評価します.具体的には表面性状は平滑なのか,粗造なのか,色調は均一なのかをみます.表面が周囲と異なり軽度の不整を伴う粘膜であっても,平滑で色調・構造が全体にほぼ均一であれば,過形成性ポリープ胃底腺ポリープなどの良性上皮性病変が鑑別にあがります.一方で,表面の不整さが強い場合,すなわち粗造でゴツゴツしていたり,色調が不均一な場合や,びらんの付着が不均一である場合などに上皮性の腫瘍,すなわち癌や腺腫を鑑別にあげます.腺腫は癌に比較し色調が均一で,表面には陥凹やびらんなどは認めにくい一方で癌は表面構造は不整であり,色調も不均一でその形状にもいびつさが目立ち,陥凹などが伴っていることが多いとされます(図9).

図9
② 上皮深層に由来をもつ,粘膜下腫瘍の病変

急峻となだらかの間に属する,やや急峻な隆起を呈するもの,すなわち周囲との境界が概ね引ける,山田分類のⅠ型~Ⅱ型のものがこのカテゴリに入ります.粘膜固有層の深層,筋板の直上付近に主座をもつ病変は,「急峻」とも「なだらか」とも言い難い見た目を呈し,筋板の下に何かがある「粘膜下腫瘍」の立ち上がりを呈します(図10).

図10

ここでも境界や表層粘膜の不整さに着目します.不整に乏しい隆起を形成するものでは,いぼ状胃炎の治癒後の隆起や,びらん再生をくり返すことで粘膜固有層に拡張腺管を形成しているものなどがあります.その一方で表面粘膜の構造や血管に不整を呈するものはNET(旧カルチノイド)や胃底腺型胃癌といった,粘膜固有層深層に端を発する腫瘍性病変が鑑別にあげられます.ともに起源が粘膜固有層の深部であり,「急峻とは言い難いもののなだらかではない立ち上がり」「くっきりとした境界が追えず,正常粘膜に覆われているが急峻にみえる立ち上がり」を呈します.拡大内視鏡や色素撒布を用いて病変表層を観察するとその血管や構造でわずかな不整さがみてとれることも多いです.これらは病変が表層の近くまで近接していることを示唆しますので,そのような不整さがみてとれる箇所から狙撃生検を行うことが診断に有用です.

③ 非上皮性病変

非上皮性の病変は病変全体あるいは一部で粘膜筋板が保たれており,病変の表層は背景と同様の粘膜を被っているため,その立ち上がりはなだらかで,病変表層の粘膜は不整に乏しいことがほとんどです.粘膜筋板を保ったその深部に主座がある病変が属します.粘膜下層の何らかの組織が由来であり,粘膜下腫瘍(SMT)や,粘膜下腫瘍類似の形態を呈する癌や,胃壁外からの圧排がある(周囲から何らかの構造で押されている)ものがここに該当します.

なお,大腸や肝臓の左葉,胆嚢などが一般に胃壁外から外圧排をきたしますが,胃の空気量を変えたり,体位を変換することでこれらの外圧排は消えることが多いです.CTやEUSを用いた壁外臓器と胃の位置関係の把握が鑑別に有用であり,肝臓は体中部~上部の後壁,胆嚢は前庭部~胃角部前壁に出現しやすいとされています.まずは外圧排を除外したうえで,次に粘膜下腫瘍の鑑別を進めていきます

SMTの診断では部位,形態,色調と,触診の所見(硬さと可動性),悪性所見の有無〔表層の潰瘍(delle)形成の有無など〕を読影していきます.可動性が不良なものは筋層由来,あるいは筋層と連続していると考えます.そして,一番重要な所見は「悪性所見の有無」になります.これは①形状不整,②増大傾向,③潰瘍形成の3つであり,これらの所見を伴うSMTは悪性を疑います.

A)良性のSMT

悪性所見を認めないSMTが該当します.頻度の高いものは平滑筋腫や脂肪腫異所性膵などです.平滑筋腫は体上部に位置し,周囲と同色調で,弾性硬,EUSでは均一な低エコー域として描出されます.脂肪腫は黄色調であり,触診上はcushion signといわれるきわめて柔らかい所見であり,生検ではnaked fat sign(生検により脂肪が露出するもの)を呈し,EUSでは高エコー域として描出されます.異所性膵は体下部から前庭部に多く,弾性軟であり,EUSでは内部に導管,腺腔構造を認めることが多いです.

B)悪性のSMT

悪性所見を伴っているSMTは,平滑筋肉腫,隆起型(佐野分類)6)や腫瘤型(中村分類)7)の悪性リンパ腫,GISTなどが該当します.EUSでの精査や,EUS-FNA・切開生検などでの組織採取を試みるべきです.しかし,EUS所見単独で鑑別は難しいことも多く,胃壁の第3~4層に主座をもつ腫瘍のEUS単独での診断精度は43%と報告されています8)

EUSでは内部の構造が不均一であることを反映した「エコーレベル不均一」や,出血を反映した「高エコースポット」,腫瘍の壊死による「無エコー域」といったものが,悪性のSMTを疑う所見です.

平滑筋肉腫も平滑筋腫同様,体上部から噴門部が多いです.悪性リンパ腫は癌ほどの硬さはありませんが,脂肪腫などの柔らかさというほどではなく,ちょうど中間ほどの硬さになります.GISTは胃体中部~体上部から噴門部領域に好発し,弾性硬となります.

表

さらに,「SMT類似の形態を呈する上皮性病変」も忘れてはいけません.境界明瞭な不整発赤,不整なびらん,陥凹,辺縁の白苔のはみ出し,血管透見像の不整などをSMTの中央部から偏在して認める,といった所見のあるSMTでは「SMT類似の胃癌9)を鑑別にあげます.一般的にSMT類似の形態を呈する癌をにまとめました.

間葉系腫瘍は,癌と比べ結合性が強いことから,膨張性に増殖する傾向も強いために球状に近い高い隆起を作ります.悪性の間葉系腫瘍の場合には腫瘍の壊死により小さく,深い陥凹を作るとされますが,SMT類似の癌はそれに比較し,前庭部に多く,隆起の高さが低く,隆起の基部が不整で,陥凹面が大きく不整で浅く,辺縁に蚕蝕像があるとされます.

2)平坦病変

平坦病変は ①病変の境界の明瞭さと②境界や内部の不整さに着目し鑑別します

① 境界が不明瞭

はっきりした境界が引きにくかったり,びまん性に変化していたり,病変内部に不整がみてとれないものはびらんや限局性萎縮,陥凹型腸上皮化生,潰瘍瘢痕,肥厚性胃炎などの炎症性疾患が鑑別にあげられます.いずれも周囲と同様の色調を呈し,内部には癌を疑うような不整さを欠きます.また,境界が明瞭であっても,その内部に不整さがないものは限局性の萎縮,腸上皮化生や急性胃炎,毛細血管拡張,日の丸紅斑などを考えます.

② 境界が明瞭

境界が明瞭で領域があり,境界や内部構造に不整さがある病変は早期胃癌(胃炎型胃癌や除菌後胃癌)や,悪性リンパ腫,進行胃癌(4型)の原発巣が確認できるものが鑑別にあがります.辺縁に蚕食像(図11)や棘状の辺縁を認めたり,内部が粗造にみえたり,びらんを伴う場合に疑います.発赤調の場合は分化型癌を考え,褪色調の場合は未分化型癌や,リンパ腫を鑑別にあげます.

図11

NBI拡大内視鏡はこの鑑別に有用であり分化型癌の血管構造ではfine mesh pattern,未分化型癌ではwavy micro vesselsや,corkscrew vesselsを認めますが,MALTリンパ腫ではtree like appearanceを呈します.

また,一見平坦でも,病変の周囲に皺襞の腫大を伴う領域が広がり,伸展性が低下し,ひだとひだの間が十分に広がらず,ベルギーワッフル様所見を呈する場合に,進行胃癌(4型)の可能性を考えます.

3)陥凹病変

限局性の陥凹として認識されている病変であり,境界は明瞭な前提で考えていきます.ここでは,①陥凹面の辺縁や形状の不整さの有無と②皺襞集中がある場合は皺襞の先端の所見を参考にしていきます

① 陥凹が整

陥凹の形状が外方に向かって弧状,すなわち丸や類円形の場合に,整であると捉え,良性のびらん,潰瘍を第一に考えます.いぼ状胃炎の陥凹は円形ないしは類円形であり,かつ,陥凹は隆起のほぼ中央に位置し,周囲の隆起は表面粘膜が平滑なものが多いとされ,一般的には周囲にも多発しています.良性の潰瘍,消化性潰瘍では潰瘍からなる陥凹の周囲に再生上皮が出現し,放射状の柵状発赤があり,その幅は全周でほぼ均等で,周囲のひだの集中点も原則一点なのが特徴です(図12)(なお,再発をくり返している潰瘍では多点集中,面状の陥凹をもつことがあります).潰瘍形成を認める場合には再生上皮である放射状の柵状発赤の分布が不均一であったり,陥凹面に悪性を疑う上皮性変化が残存したり,潰瘍辺縁に周堤を疑う隆起があったりしないかに着目し,これらがある場合は悪性を考えます.

図12

良性潰瘍のhealing stageで発生する周囲の浮腫状・再生性の隆起はあくまで炎症に伴うものであるために原則潰瘍に接する部位で隆起しない部位はなく,逆に辺縁隆起を欠く潰瘍性変化をみたときに悪性を疑います.

② 陥凹が不整

陥凹の中心に向かって凸で星芒状・棘状の境界を呈する陥凹は不整さがあると捉え,悪性の病変の可能性が高まります

その境界にさらに着目し,境界線が蚕蝕像を呈する場合は悪性を考えます.また,陥凹の周囲に隆起を伴う場合,たこいぼびらん様の病変のときは,隆起のなかでびらん・陥凹面が偏在することが癌を疑う所見となり,精査・生検を加えるのが望ましいと考えます10).ただし,AGMLはときに陥凹の辺縁で浮腫状の変化をきたしたり,地図状の病変範囲を呈するために,悪性を疑うこともありえますが,治療の反応性がよいことから慎重な経過観察が診断に有用なことが多いです.

③ 皺襞集中

なお皺襞の先端の所見は癌・非癌の鑑別,そして,癌の深達度によって異なります.良性潰瘍での皺襞は原則,再発潰瘍以外では一点へ集中し,ひだの先端はなだらかな細まりを認めます.一方,粘膜内癌の場合は皺襞の中断像や,段差・変色の所見,急峻な先細りの所見を呈します.また,粘膜下層以深の浸潤の場合は棍棒状腫大,接合/ブリッジ形成や融合,さらに進行癌が示唆される所見は皺襞の融合,周堤形成になります.加えて,陥凹面が無構造の場合は粘膜下層以深の浸潤を疑いますが,無構造にみえる領域のなかで粘膜上皮を疑う所見があるときは,正常粘膜のとり残し(インゼル)や再生上皮と考え,深部浸潤を疑う所見とは区別し,筋板が保たれている状態を想定するべきです.

④ 癌と悪性リンパ腫の陥凹の違い

また,癌と佐野分類における潰瘍型,決壊型の悪性リンパ腫の鑑別点6)は,病変境界が明瞭で境界部に蚕食像があり,胃壁の伸展性が不良の場合に癌と診断する一方で,これらの所見が欠如し,陥凹底に光沢があったり,多発傾向があったり,厚いクリーム状の白苔が付着し,伸展性が比較的良好の場合には,リンパ腫をより疑う所見とします.

色調からみた鑑別方法

病変の基本となる色調は3種類であり,同色調,赤色調,白色調です.

1)同色調

周囲との色調差が認められない病変であり,胃底腺ポリープに代表される非腫瘍病変や,粘膜下腫瘍,粘膜下腫瘍様の発育を呈する胃癌,スキルス癌など,粘膜筋板より内腔側の粘膜の固有層の環境が周囲の背景粘膜とほぼ同様の状態で,後述する急性・慢性炎症などは乏しいことを想定します.

2)赤色調

発赤の領域には大型化した粘膜や柵状に配列した上皮がみられることがあり,このような場合は粘膜上皮の再生・過形成を伴う充血が想定されます.しばしば潰瘍辺縁でみられるものを想起するとよいでしょう.

H. pylori現感染の際にみられる斑状発赤なども発赤病変の代表です.組織学的な拡張毛細血管や高度の炎症細胞浸潤や浮腫を反映しています11)

ほかに,小さな血管が毛玉のように集まる日の丸紅斑や,血管異形成も赤色調にみえます. 腫瘍の場合は分化型癌を想定しますが,癌においては内部の色調も多彩で濃淡も不均一だったりします.

3)白色調

白苔・びらんや白濁粘液,滲出物のほか,腸上皮化生,萎縮粘膜があげられます.粘膜固有層の間質における慢性の炎症(リンパ球主体)や,粘膜筋板の破壊によるびらん・潰瘍,潰瘍瘢痕や,粘膜下層の線維化などが考えられ,周囲より相対的に血管が疎になったり,血流が低下している状態が白色になります.

ほかには細胞成分が増加しているときも白くなり,リンパ増殖性疾患や,細胞の増生と比較し血管の増生が乏しい未分化型癌,腺腫なども白色調になります.透き通るようなみずみずしい白色調のときは特に非腫瘍,腺腫を考え,濁って透見性の低い白色調のものは悪性の病変を考えます.

4)その他

ほかに特徴的な色調は,黄色調や,青色調,黒色調があります.黄色調のものには黄色腫や,脂肪腫,皮脂腺や粘液・びらん,潰瘍性変化などが該当し,脂肪成分の有無や細胞密度の上昇などを反映します.青色調のものは血管性病変(静脈瘤)や嚢胞性病変,リンパ管拡張などが該当し,血管や液体の色を反映します.黒色調のものはAGMLなどに代表される古い出血や,壊死性病変,色素沈着(メラノーシス),悪性黒色腫などが鑑別にあげられます.

最終診断をあげ,当て馬となる鑑別疾患もあげ,考えていく

読影した内容を今一度まとめ,最終診断を考えていきます.癌であれば肉眼型,組織型,深達度を読影します.非癌であればその分布や,炎症の主座から考えられる疾患をあげます.

そのうえで鑑別診断を1~3つ程度あげ,あがった疾患と本例の異なる点・合致する点を根拠・順序だてて読影するとよいでしょう

ULの有無が難しいのですが,どうやって診断すればよいでしょうか?
A1潰瘍の合併や粘膜のひきつれ,粘膜・ひだ集中や線状・面状の白色局面で診断します

日本では消化性潰瘍の合併や粘膜のひきつれ,粘膜集中像やひだの集中,線状・面状の白色局面の存在をもって潰瘍合併と診断します12,13).ひだ集中,そして線状・面状の白色局面を認めたものを内視鏡的なULの所見として,病理学的判断と照らし合わせた検討によると,潰瘍瘢痕があることが術前に正診されたのは57.6%と低率14)ですが,その正診率の低さの理由として「ひだ集中は粘膜下層の線維化を反映した所見である」が,「生検などによる粘膜筋板の断裂といった,消化性潰瘍以外でも粘膜下層の線維化が生じるため」と考察されています.病理診断上は粘膜筋板が途切れつつ,粘膜下層に線維化があるもののみをUL(+)と扱い,筋板が途切れず,粘膜下層に線維化がある病変,すなわち内視鏡医がESD中にULっぽいなと思っても,それが病理ではULに判定されないことはあり得ます15)

ULがあると転移リスクが上がるのはなぜですか?
A2血管・リンパ管が豊富に存在する粘膜下層に癌細胞が入り込んだ可能性があるからです

潰瘍性病変そのものがリンパ節転移へ直接かかわっている可能性は以前より推察されています.経過中に癌内部にUL-ⅢやⅣの潰瘍が形成されたのならば,組織の修復が起こる前には癌が粘膜下層あるいはさらに深部に浸潤していた可能性があり,癌細胞が粘膜筋板のバリアを突破して,血管・リンパ管が豊富に存在する粘膜下層以深に入った可能性があるわけです.

加えて潰瘍はその治癒過程で粘膜の再生をきたしますが,粘膜や間質の細胞からサイトカイン・プロテアーゼが産生されることで間質の線維化や血管新生が促進されることによって,再生部位近傍の腫瘍内も癌細胞の遊走に有利な環境となると考えられています.したがってUL-Ⅲ,Ⅳのみならず,UL-Ⅱの浅い潰瘍であっても癌のリンパ節転移は起こりやすくなる可能性がある,とされます16)

Expert comments

もちろん内視鏡診断の真の目的は病変を腫瘍か非腫瘍か,癌か非癌かを適格に診断し,その後の検査や治療につなげることですが,内視鏡医なら誰もが研究会で濱本先生のようなカッコいい読影を行いたいと思うはずです.個人的にポイントは目の前にある所見を適切な表現で言語化することだと思っています.よく言われるように電話先や目をつぶった相手に言葉だけで病変の特徴を伝えて,同じような病変をイメージしてもらえるかどうかだと思います.そのためには日々の臨床のなかでレポートシステムの簡単な所見をポチポチと選択するだけではなく,病変の特徴を自分の文章で表現するよう心がけましょう. (滝沢耕平)

Expert comments

「所見のとり方」として病変の肉眼形態,特に「隆起か,平坦か,陥凹か」をまず見分け,それぞれにおいて病理組織像を意識しながら鑑別を考えていくスタイルは系統的で非常にわかりやすいです.例えば隆起性病変の場合,「上皮下に病変がある」と,「粘膜(筋板)下に病変がある」では内視鏡像も鑑別も異なりますので,丁寧に読み分けていただければと思います. (市原 真)

文献

  • 八木一芳,他:Helicobacter pylori感染の進展と胃粘膜NBI拡大観察.胃と腸,44:1446-1455,2009
  • 赤松泰次,他:通常光における胃隆起性病変の鑑別診断.胃と腸,47:1200-1208,2012
  • 赤松泰次:隆起の立ち上がり(finding of standing up in polypoid lesions).胃と腸,52:587,2017
  • 赤松泰次:不整形陥凹(irregular shaped depression).胃と腸,52:581,2017
  • 赤松泰次:通常観察による胃病変の診断アルゴリズム.消化器内視鏡,33:247-249,2021
  • 「胃と腸の臨床病理ノート」(佐野量造/著),医学書院,pp159-172,1977
  • 中村昌太郎,飯田三雄:消化管悪性リンパ腫の臨床.日本消化器病学会雑誌,98:624-635,2001
  • Hwang JH, et al:A prospective study comparing endoscopy and EUS in the evaluation of GI subepithelial masses. Gastrointest Endosc, 62:202-208, 2005(PMID:16046979)
  • 赤松泰次,他:粘膜下腫瘍様の形態を示す胃癌.消化器内視鏡,32:65-67,2020
  • 富田英臣,他:疣状胃炎と胃癌の鑑別診断.消化器内視鏡,27:93-99,2015
  • 加藤 洋,藤野 節:胃びらん・発赤の病理像―どのように捉えたらよいか―.消化器内視鏡,23:1685-1697,2011
  • 長井健悟,他:潰瘍合併早期胃癌の画像診断 潰瘍合併早期胃癌の内視鏡診断.胃と腸,48:39-47,2013
  • 入口陽介,細井董三:ひだ集中(Faltenkonvergenz, convergency of folds).胃と腸,52:583,2017
  • 藤崎順子,他:内視鏡的UL(+)早期胃癌と病理学的UL(+)早期胃癌の臨床病理学的差異.胃と腸,48:73-81,2013
  • 「潰瘍瘢痕合併胃癌を極める!UL診断力強化ブック」(野中康一,市原 真/著),医学書院,2021
  • 冨松聡一,他:粘膜下層浸潤胃癌における病巣内潰瘍とリンパ節転移との関連についての検討.日本消化器外科学会雑誌,29:1938-1943,1996
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