すべての臨床医が知っておきたいIBDの診かた〜病態・重症度・患者背景から見極める、適切な治療選択

すべての臨床医が知っておきたいIBDの診かた

病態・重症度・患者背景から見極める、適切な治療選択

  • 仲瀬裕志/著
  • 2023年09月26日発行
  • A5判
  • 220ページ
  • ISBN 978-4-7581-1080-8
  • 定価:5,500円(本体5,000円+税)
  • 在庫:あり
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第5章 IBDの治療

§1 治療の基本治療概念の変遷

IBD患者の治療目標とは?

日本において潰瘍性大腸炎(UC)は1928年1)に,クローン病(CD)は1932年2)にはじめて報告されましたが,当時は自己免疫性疾患との認識はなく,有効な治療法はありませんでした.治療法の研究が進むに連れ,1950年代よりステロイドが,1970年代から5-ASA製剤が治療に使用されるようになり,またCDにおいては成分栄養療法(経管栄養,中心静脈栄養)も行われるようになりましたが,しばしば再燃と寛解をくり返すことが問題となっていました.

2000年代に入り,生物学的製剤である抗TNF-α抗体製剤が使用可能となったことを契機にIBDの治療は大幅に進歩し,すみやかな寛解導入および長期間の寛解維持をめざすことが可能となりました.その後も異なる作用機序をもつ生物学的製剤が開発され,さらに2018年以降,UCに対しては低分子化合物であるJAK阻害薬も使用可能となり,より難治の症例であっても治療が可能な時代を迎えています.

しかし,現在までIBDに対する根治的な内科的治療は確立されておらず,現状では内科治療の目標は寛解への早期導入と再燃防止の長期寛解維持となります.近年,IBDに対して使用可能な薬剤は加速度的に増えてきており,医療者側には患者ごとに適切な治療を選択することが求められています.

treat to targetとは

IBDの治療方針を考えるうえで,treat to target(T2T)という考え方があります3).T2Tとは,もともとはほかの慢性疾患で用いられていた概念であり,長期的予後の改善を得るために短期で達成可能な目標を設定し,その目標達成に向け治療していくという考え方です.IBDにもT2Tの概念が取り入れられてきましたが,治療の発展とともにその目標対象も多様化してきました.過去には臨床的寛解を目標としていましたが,生物学的製剤等の登場でより強度の強い治療が可能となり,内視鏡的寛解(粘膜治癒)が目標として提唱されるようになりました.事実,内視鏡的寛解を達成することにより,UCでは長期の臨床的寛解や大腸切除術の回避,ステロイド使用量の低下,入院回数の減少が,CDでは内視鏡病変の再発の抑制が報告されています4〜6).加えて内視鏡的寛解よりうえの組織学的寛解も目標として提唱されていますが1, 7, 8),病理医間のバイアスや評価に用いる病理学的スコアリングの選択などに課題が残っています.

一方で,定期的な内視鏡検査は患者への身体的/社会的負担を強いることとなり,より簡便な検査方法も必要とされています.近年,前述した便中カルプロテクチンやLRG等のバイオマーカーを臨床利用することが可能となっており(第3章-2参照).内視鏡検査と組合わせて炎症性腸疾患の日常診療を行っていくことが求められています.

文献

  • Inada R:Reports on severe colitis. Journal of Japanese Society of Gastroenterology. 27: 625-38, 1928
  • 塩田広重:非特殊性限局性腸炎.日医大誌,10: 1-12, 1939
  • Smolen JS, et al:Treating rheumatoid arthritis to target: recommendations of an international task force. Ann Rheum Dis, 69:631-637, 2010
  • Leung CM, et al:Endoscopic and Histological Mucosal Healing in Ulcerative Colitis in the First Year of Diagnosis: Results from a Population-based Inception Cohort from Six Countries in Asia. J Crohns Colitis, 11:1440-1448, 2017
  • Shah SC, et al:Mucosal Healing Is Associated With Improved Long-term Outcomes of Patients With Ulcerative Colitis: A Systematic Review and Meta-analysis. Clin Gastroenterol Hepatol, 14:1245-1255.e8, 2016
  • De Cruz P, et al:Efficacy of thiopurines and adalimumab in preventing Crohn’s disease recurrence in high-risk patients - a POCER study analysis. Aliment Pharmacol Ther, 42:867-879, 2015
  • Turner D, et al:STRIDE-II: An Update on the Selecting Therapeutic Targets in Inflammatory Bowel Disease (STRIDE) Initiative of the International Organization for the Study of IBD (IOIBD): Determining Therapeutic Goals for Treat-to-Target strategies in IBD. Gastroenterology, 160:1570-1583, 2021
  • Bessissow T, et al:Impact of Endoscopic and Histologic Activity on Disease Relapse in Ulcerative Colitis. Am J Gastroenterol, 117:1632-1638, 2022
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