レジデントノート増刊:骨折を救急で見逃さない!〜難易度別の症例画像で上がる診断力
レジデントノート増刊 Vol.21 No.17

骨折を救急で見逃さない!

難易度別の症例画像で上がる診断力

  • 小淵岳恒/著
  • 2020年02月07日発行
  • B5判
  • 271ページ
  • ISBN 978-4-7581-1639-8
  • 定価:4,700円+税
  • 在庫:あり
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第1章 総論

1.整形外科非専門医が“骨折”を診るために

Point

  • 外来や病棟で整形外科非専門医が「骨折」を診る場面は実は多い!
  • 骨折を見逃さないためにはどのようなコツがあるのか?
  • 「骨折疑い」の患者を自宅に帰すときの上手な説明の方法は?

 はじめに

整形外科関連疾患は,日常診療のなかでしばしば遭遇する疾患である.遭遇の仕方は,外傷患者が救急外来に救急搬送されてくるケースが一般的である.交通外傷による重症骨盤骨折や,転落外傷による頸椎の骨折だけでなく,高齢化の影響もあり,高齢者の転倒による大腿骨頸部骨折なども救急外来では多くみられる.

しかし,なにも整形外科関連疾患は救急外来だけの問題ではなく,平日日中の一般外来でも遭遇しうる.数日前に転倒し,右手が痛いとのことで歩いて受診するケースがあるかと思えば,内科病棟で担当患者さんがベッドから転落し右足関節を捻挫したというケースもある.

つまり,医師である以上,それが救急医であっても,内科医でもあっても整形外科関連疾患の初期対応が必要とされるケースはどこにでも存在するということである.

明らかに骨折しているケース

診察を行ってみて,明らかに骨折している,または脱臼しているケースの対応は容易である.なぜならX線を読影する力はさほど必要とせず,適切な対応をしたうえで整形外科医に適切なタイミングで(緊急または後日)バトンタッチをすればよいからである.さらに,開放性の骨折など緊急を要する場合はなおさら外来にてX線をじっくり読影する必要はなく,初期対応(意識レベルの確認,その他の外傷の評価,点滴,血液検査,抗菌薬投与,破傷風トキソイド投与など)に力を注ぎつつ,整形外科医にコンサルテーションを行う.

骨折しているのかよくわからないケース

一方で,外来・病棟の外傷患者への対応・判断に迷うケースの1つに,「骨折しているのか? していないのか? よくわからない」というケースがある.

 1  骨折の見逃し

救急外来で問題となるケースの19%は「骨折の見逃し」である.明らかな骨折の場合は対応に困らないが,骨折しているのかどうかが微妙な状況で十分な固定や説明,フォローアップも行わなかったときが問題である.外来にて「打撲・捻挫」という暫定的な病名を告げられ帰宅したが,痛みが引かないために後日別の医療機関に受診し,X線を再度撮影したところ明らかな骨折を認めたときの患者・家族の気持ちは想像に難くない.

 2  医療者の気持ち,患者の気持ち

医療者からすれば,受傷直後は骨折線がはっきりしないために,時間の経過とともに明確になったのであろうと考える.しかし,患者・家族の心理はそうではない.診療費(X線撮影費用)を支払ったにもかかわらず,十分な説明・対応がなされないまま帰宅させられたという気持ちが残り,見逃された怒りは当然見逃した医療機関に向くのである.それが将来的に大きな後遺症を残さないという骨折であったとしても,「見逃された」という感情は抑えることができない.特に,「上肢(利き腕),下肢,小児」の骨折の見逃しはより一層不満が強くなる.

上肢の骨折の場合,患者が歩くことができるので,骨折を十分に評価・診断できなくても外来から帰宅させてしまい,患者の生活への支障や影響をつい軽く考えていないだろうか.特に骨折が利き腕であれば,生活への支障も大きなものとなり見逃しされたときの気持ちは膨らむ.

下肢の骨折を見逃した場合は,患者・家族はあれほど救急外来で「痛い」,「痛くて歩けない」と訴えたのにそのまま自宅に帰され,後日骨折が判明したとなると,怒りは爆発するのである.子どもの骨折を見逃した場合は述べるまでもなく,当然家族は怒って病院に怒鳴り込むことも稀ではない.

自分や自分の家族が怪我をして外来を受診したときのことを想像するとわかりやすいのかもしれない.同じ立場に立ったときに,十分な診察もなく,X線の説明も医学用語を羅列され,患者・家族の訴えに耳を傾けない医療者に良い印象はもつことができない.さらに骨折を見逃されたとなれば,医療者に対する怒りは大きくなる.

常に患者・家族の気持ちを考えつつ,たとえ十分に読影ができなかったときでもその後のフォローのことも含めて丁寧に説明する「接遇力」は必要である.

見逃さないために受傷機転と身体所見を考える

 1  診断法と初期対応法を学ぶ時間がない!

では,見逃さないためにどのようにすればよいのか? 本来ならば,医学生時代に「骨折の診断法・初期対応法」に関して十分学ぶことができればよい.「このような骨折を認めた際には,このように対応しなさい」,「このタイプの骨折は緊急を要するから急いで整形外科を呼びなさい」,「逆にこのタイプの場合は急ぐ必要はないので,翌日整形外科の外来に出しなさい」,「そのときにはこのように固定をするとよい」という詳細な授業,実習を行うことができれば,卒業後すぐに臨床の現場に入ったとしても大きなトラブルは起こさないと考える.

しかし,現実はそれほど簡単ではない.整形外科領域は多岐にわたるために,教える側にも時間的な制約があり限度がある.また医学生側も整形外科領域だけを学ぶわけにもいかず,その他にも多くのことを学ばないといけないため学ぶ側としても限度がある.

そのため,医師国家試験をクリアして,実際の臨床の現場に入った後に目の前にいる患者さんを大事にしながらよく考えて,じっくり読影して,先輩医師に手取り足取り指導をしてもらいつつ経験を重ねていく必要がある.

だが,実際の臨床の現場では,救急外来が大混雑状態に陥ると,じっくり考える暇などなく,読影・固定処置などに時間をかけることが許されない状況がある.このようなときは,どうしても対応が不十分になって,トラブルになるのである.後で振り返ってみると「なぜあのときにあのような対応をとってしまったのか?」,「もう少し丁寧に対応すればよかった」などと考えることもしばしばあるが,すべては「時間がない」からである.

 2  見逃しをなくすための「受傷機転と身体所見」

見逃しは100%なくすことができない.残念ながら,当然筆者もこれまでに多くの骨折を見逃してきた.その見逃した骨折をどのように工夫すれば,短時間で評価できたのかといつも自問してきた.

そのためには,まず「受傷機転と身体所見」から考えるとよい.受傷機転と身体所見からある程度骨折を引き起こす部位(好発部位)が絞り込めるために,身体所見から考慮してX線撮影を行うことが重要である.身体所見があるところに必ずX線上も答えがあることが多く,代表的なものとしては「オタワ足関節ルール」(第7章2,p.191)や「オタワ膝関節ルール」(第6章1,p.148)などがある.どのような症状・所見が出たときにX線を撮るべきか? というルールである.このようなルールを上手に使うのも診療スピードを上げる1つのコツである.

X線読影のコツ

 1  臨床症状のあるところに骨折あり!

次に「読影のコツ」である.血液検査や心電図検査と同じように,X線にも読み方のコツがある.X線を読影する際にその他の検査と異なる点としてあげられるのは,「臨床症状のあるところに骨折あり」である.この考え方はエコーに通じる.

骨折の好発部位を十分理解して,臨床症状のあるところをじっくりと読影するだけで骨折の有無を判断できることが多い.


 2  2の法則

ここで骨折のX線読影の「2の法則」をご紹介したい().10個からなる法則であり,すべての法則に「2」がつくものである.なかでも特に,「① 2方向で撮影」と「② 左右を比較する」ことが特に重要である.

1) 2方向で撮影

多くのX線撮影には「正面像」と「側面像」がある.X線撮影にて用いるX線は直進性が高く,その経路上にある組織によりX線が吸収され,その程度は組織によって異なる.この吸収の差を画像化したものがX線撮影である.つまり,人間の体は3次元でいわゆる「立体」であるが,実際に読影するものは2次元で「平面」の写真である.そのために,「正面像」と「側面像」を行うことで,できるだけ3次元に近い判断をすることが可能となる.骨折の診断を行う際にも,必ず「正面像」と「側面像」の2方向から(時には斜位も撮る)評価を行うことで見逃しをぐっと減らすことができる.

2) 左右を比較する

また「左右を比較する」ことも重要である.成人では骨折した際に左右を比較しなくても,臨床症状やX線の画像がはっきりしているために診断は容易である.しかし,成長の過程にある「小児」や骨の密度が少なくなっている「高齢者」は臨床症状があいまいであり,さらにX線の画像も複雑(骨端線や骨密度低下)であるために,患側と健側との比較(左右の比較)が必要となる.

①小児の場合

小児の骨には「骨端線」という小児期のみに認められる解剖学的特徴が存在し,この組織を中心にして骨が成長していく(第4章2 骨端線損傷の見方).しかしこの骨端線が骨折線に見えることもしばしばある.さらにこの骨端線に及ぶ骨折も存在するし,見極めが難しい.そのためにX線撮影を左右で行い,健側と患側を比較することで健側と同じ所見が患側にもあるのか,健側にないものが,患側に認められるかで評価が可能となる.

②高齢者の場合

高齢者の場合は,骨密度が低いために,X線上も骨そのものが黒っぽく見える.基本的に骨折線は骨の連続性の断裂であるためにX線上も黒い線として映し出される.若い世代のように骨全体が白く写っている画像から骨折線である黒い線を探すことは難しくはないが,高齢者は骨が全体的に黒っぽく写るので,黒い線を探すことは困難である.そのため,左右(健側・患側)を比較することで診断の正確性を上げることが可能となる.

上記以外にも,2の法則でいろいろ役に立つ法則があるが,実際に臨床の現場にてぜひ役立ててほしい.

 3  さらなる画像検査と整形外科コンサルト

「受傷機転と身体所見」,「読影のコツ」を用いてもX線上骨折線がはっきりとしないときも多い.そのようなときには,さらなる画像検査を行うか,整形外科コンサルトを行うか考慮することとなる.

1) 画像検査

さらなる画像検査には,CT検査,MRI検査,エコーなどがあるが,どれにも長所と短所があるために,外来や病棟の状況,検査室の混み具合,患者の受傷度・緊急度に合わせて考慮する必要がある.確かに,CT検査やMRI検査はX線撮影よりも優れているときが多いが,CT検査は被曝に関して,MRI検査は時間とコストに関して,患者・家族に十分説明する必要があり,オーダーを行う際には緊急でCT・MRI検査を必要とする理由を,検査を実施する放射線技師・読影する放射線科医に相談する必要がある.

2) 整形外科医にコンサルト

判断に迷うときは,整形外科医にコンサルトを行い,診察を依頼したりアドバイスをもらったりすることが,一番確実である.しかし,救急外来にて勤務している医師全員が感じていることは「本当に必要なときにコンサルトを行いたい」である.これは整形外科だけの話ではなくすべての診療科に共通すると思われる.

もちろんX線読影に自信がなく,トラブルになりそうなケースの際には整形外科医に相談することが望ましいが,日頃から多くの外来患者を診療し,多くの手術を行い,多くの入院患者を受けもつ整形外科医は夜間だけでもできるだけ温存する必要がある.平日や休日,昼夜を問わず専門医コンサルトを行い続けると,整形外科医がつぶれてしまう可能性もあり,整形外科医がつぶれてしまうと地域医療が崩壊する恐れだってありうる.

そのために,整形外科非専門医であるわれわれが,夜間や休日はなんとか踏ん張り,本当に必要なケースのときのみコンサルトを行うことで整形外科医を疲弊させることなく,地域医療を保つことができるのではないかと考えている.それには整形外科非専門医のレベルアップが必要である.

外来での患者の帰し方


最後に,外来での患者との帰し方が重要である.明らかに骨折をきたしているときには,専門医にコンサルトまたは,固定して整形外科外来へ紹介でよいと思われるが,明らかに骨折しているかどうかがわからないときの方が重要である.

微妙なケースほど,忙しさに負けて不十分な診療を行ってしまうかもしれないが必ずトラブルになる.どんなに忙しくても,丁寧に対応することを心がけたい.に「骨折疑いの患者さんを帰宅させるときに」の例を示す.

のように患者・家族に述べて,患者には固定を行い,後日整形外科外来へ確実に受診できるようにアレンジすることが重要である.さらにその内容を診療録に記載することもトラブル防止のためには重要となる.

このようなことを心がけることで,初期診療では骨折を見逃したとしても,患者・家族の気持ちは「一番最初に診てもらった先生の言った通りや」という気持ちとなり,怒りは向かないはずである.

 おわりに

救急外来のみならず,一般外来・病棟でも整形外科疾患に遭遇することは多く,残念ながらこの領域から逃れることはできない.であるならば,医学生時代に十分に学ぶことができなかった整形外科領域をもう一度考え直し,実際の臨床に活かすことが重要である.

整形外科非専門医が頑張ることで,地域で奮闘する整形外科医を温存することができ,ひいては地域医療の再生につながると考えている.

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