レジデントノート増刊:日常診療の質が上がる新常識〜疾患、治療法、薬剤など明日からの診療が変わる21項目
レジデントノート増刊 Vol.22 No.8

日常診療の質が上がる新常識

疾患、治療法、薬剤など明日からの診療が変わる21項目

  • 仲里信彦/編
  • 2020年07月20日発行
  • B5判
  • 227ページ
  • ISBN 978-4-7581-1648-0
  • 定価:4,700円+税
  • 在庫:あり
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第3章 治療法・手技の新常識

5.酸素療法の新デバイス

中川丞子,多和田哲郎,梅村武寛
(沖縄県立南部医療センター・こども医療センター救急集中治療科)

Point

  • 呼吸生理をもとに酸素療法の仕組みを考えよう
  • 今まで使っていたデバイスの仕組みを振り返ろう
  • 新しく登場したデバイスを理解し使いこなそう

はじめに

皆さんは,SpO2モニターのアラームが鳴りSpO2低値を確認し,患者さんが低酸素状態にあると判断したら酸素(O2)を投与するだろう.そのとき,ただ漫然とO2を投与するのではなく,患者さんの状態に本当に合った酸素療法を,仕組みを理解したうえで選択しているだろうか.

本稿では,以前より使われている酸素療法に加え,比較的最近に登場した方法の仕組みも知り,それを使いこなすことを目標とする.

1. 呼吸とは

酸素療法の説明をするにあたり,必要な知識として換気量の説明から始める.

1 換気量とは

換気量とは呼吸する際に肺に出入りする空気の量のことであり,健常成人の1回換気量は平均500 mLとされている.呼吸数を12回/分とすると,1分間に500 mL×12回=6 Lの空気が肺を出入りしており,これを分時換気量という.

2 正常な呼吸

通常の呼吸では空気を吸入し,肺胞でガス交換〔O2を取り入れて二酸化炭素(CO2)を排出〕し,呼気として排出する.空気中には窒素とO2が含まれており,その酸素濃度は21%である.酸素療法では空気とO2の混合ガスが使用され,各流量によって吸入酸素濃度(fraction of inspiratory oxygen:FiO2)が設定される.

呼吸は「吸気」→「呼気」→「停止時間」のサイクルでくり返され,おのおのの長さや量により呼吸状態は変化していく.

次は,大まかに低流量酸素療法と高流量酸素療法の2つに分けて説明する.

2. 低流量酸素療法

低流量酸素療法とは,上記で説明した1回換気量を酸素供給量が下回る酸素療法である.ということは,吸気時に供給されるO2だけでは足りずに装置周囲の空気(大気)も吸入しており,低流量酸素療法では,吸気時に「投与されているO2+大気」を吸入していることになる(図1).

患者さんの1回換気量が多くなると,投与されるO2の流量は一定のため,「一定量のO2増加する大気」が吸入されることになり,理想通りのFiO2が得られないことになる.

酸素流量を上げても高濃度の酸素が投与できない一方で,高濃度酸素による酸素毒性※への心配が少なく使用しやすい.

3. 高流量酸素療法

高流量酸素療法とは酸素供給量が1回換気量以上(吸気速度=30 L/分.1回換気量=500 mLとして,500 mL/秒×60秒=30 L/分と定義される)の酸素療法である.これは単純に大量のO2を投与するという意味だけではなく,大気を吸入しないことから,設定した酸素・空気混合ガスのみを吸入するということでもある(図2).つまり,1回換気量が増加しても理想通りのFiO2を得られる.

しかし,高濃度酸素を吸入することにより酸素毒性が引き起こされるため,高流量酸素療法を行う際は注意が必要である.

●酸素毒性とは

 体内にとり入れた酸素は活性酸素へ変換されるが,通常であれば抗酸化作用によりバランスが保たれる.しかし外傷や感染などで侵襲を受けている状況では抗酸化作用が低下しており,高濃度酸素を吸入することで活性酸素が蓄積する.この活性酸素により酸素毒性が引き起こされ,酸素毒性により気道や肺に障害が起きたり,血管収縮作用により心臓・脳などへの灌流低下が起きたりするといわれている.

4. 既存のデバイスを用いた酸素療法

既存のデバイスを用いて行われる酸素療法を4つ紹介する.

1 ネーザルカニューレ(図3

両鼻孔に短い管を留置しO2を供給する酸素療法である.ヒトの体では鼻腔・咽頭・口腔に空間があり,それぞれの容量は日本人で40,20,80 mLといわれている.ネーザルカニューレではこれらの空間をリザーバーとして,FiO2を上昇させている.しかし,この効果はO2流量5,6 L/分でほぼ頭打ちになり,さらに乾燥したガスが鼻粘膜に直接投与されることで粘膜を損傷することや,粘膜が乾燥し分泌物の排出が困難になるという問題も起こる.そのため最大でも6 L/分までの使用とする.O2は1 L/分から投与でき,FiO2表1のようになる.

2 リザーバー付きネーザルカニューレ(図4

ネーザルカニューレの流出口に容量20 mLのリザーバーバッグが装着されており,オキシマイザー®と呼ばれることが多い.ネーザルカニューレと比較して高濃度酸素が投与でき,O2の節約効果があるためマスクの装着を拒否する患者さんや,在宅酸素療法などで使用される.FiO2表2のようになる.

3 シンプルマスク(図5

口と鼻を覆うように装着して使用する機器である.酸素流量に対するFiO2表3となる.マスク内の空間がリザーバーとなり,呼気中のCO2が貯留するため,呼気を洗い流せるくらいの酸素流量が必要である.前述したように分時換気量は平均で6 L/分であるため,少なくとも酸素流量は5 L/分以上で使用する必要がある.頻呼吸の患者さんの場合,吸気と呼気の間隔が短いためマスク内をO2で洗い流す時間が足りず,CO2を再呼吸してしまう.COPDなど,CO2貯留の危険がある患者さんでは注意が必要である.

4 リザーバーマスク(図6

シンプルマスクにリザーバーバッグが装着されたものであり,シンプルマスクと比較しFiO2を上昇させることができる.その仕組みは,供給されるO2がまずリザーバーバッグ内に貯留され,吸気時にリザーバーからマスク内に向かって貯留されたO2が供給される.その途中には一方弁があり,呼気はリザーバーに逆流することはない.また,マスクには排気のための一方弁がついており,吸気時に大気の流入がないようになっている(図7).つまり,吸気から呼気の流れは一方通行であり,理論上はリザーバーに貯留している高濃度のO2のみが吸入されるはずである.

ただし実際は,顔面とマスクの隙間から大気の流入があり,FiO2は低下する.CO2の貯留を防ぐためと,バッグ内に十分なO2を供給するために酸素流量は健常成人の平均分時換気量である6 L/分以上をキープする.FiO2表4のようになる.

これまで紹介した既存のデバイスを用いた酸素療法の酸素流量とFiO2についてまとめた(図8).

5. 最新のデバイスを用いた酸素療法

1 オキシマスクTM図9

シンプルマスクが改良され,ここ最近になって登場したデバイスで,大きな排気口があるのが特徴である.この排気口からCO2が排出されるため,CO2の再呼吸が少なくなる.シンプルマスクではマスク内のCO2を含んだ呼気を洗い流す必要があるため低流量での使用ができないが,オキシマスクTMはCO2の貯留が少ないため,幅広い流量で使用できる(表5).

吸気時については,ディフューザーにより鼻や口に向かってO2が噴出され効率よくO2が吸入できるよう工夫されている.流量によってマスクを変更する必要がないため,救急搬送時によく使用されるマスクである.

2 HFNC

ネーザルカニューレと人工呼吸器用加温加湿器を組合わせたものであり,一般的にネーザルハイフローと呼ばれることも多い.

HFNC(high flow nasal cannula:高流量経鼻酸素療法)はFiO2を21~100%まで幅広く設定でき,O2を確実に供給することができるものである.さらに,吸気ガスを加温・加湿できるので高流量のO2が流入されるにもかかわらず患者さんの不快感は低くなる.

使用法が簡便であり救急外来やICUのみならず,一般病棟などでも使用頻度が増加しているが,その適応疾患やエビデンスについてはまだ確立されていない点も多い.

以下に成人におけるHFNCの利点について述べる.

1)FiO2が正確である

HFNCは前述した高流量酸素療法であるため,1回換気量以上の酸素が供給される.そのため大気を吸入せず,設定した通りのFiO2が吸入できる.

2)解剖学的死腔を洗い流す

1回換気量500 mLのうち,肺胞に到達していない約150 mLは換気することができない.この肺胞に達していない空間のことを解剖学的死腔という(図10).

大量のO2を解剖学的死腔の一部である鼻腔・咽頭に流入させ,貯留したCO2を含む呼気を洗い流し,CO2の再吸入を防ぐとともに,吸入するO2を増加させる.

3)呼吸努力を軽減する

最大60 L/分の流量でガスを流入することが可能で,吸気を後押ししてくれる.そのため,吸気努力によって鼻咽頭が虚脱するのを防ぎ,1回換気量を増加させ呼吸数を減少させる.

4)持続的な気道陽圧効果をもたらす

PEEPとはpositive end expiratory pressure(呼気終末陽圧)のことであり,呼気に肺胞が虚脱しないようにかける圧のことである.PEEPをかけることにより酸素化の効率があがるといわれているがHFNCでは呼気流に対する高流量ガスによって気道内圧を上昇させることができる.しかし,人工呼吸器使用時のPEEPと違い呼気相初期に最も気道内圧が上昇するため,「PEEP様」呼気圧といわれる.

30,40,50 L/分の流量でHFNCを使用し,その際の平均鼻咽頭内圧を測定した実験では,閉口時に1.9,2.6,3.3 cmH2O,開口時に1.0,1.3.1.7 cmH2Oの圧を認めた.

このように持続的な気道陽圧効果はあるが,人工呼吸器を用いた陽圧換気と比較するとその効果は小さく,口の開閉状態により不安定な効果であることがわかる.

5)気道の粘液線毛クリアランスを維持する

体温に相当する温度で相対湿度100%までの加温加湿が可能であり,気道の乾燥を防ぎ線毛機能を維持できる.これによって分泌物の移動性を維持し,分泌物の除去,無気肺形成予防,呼吸器感染リスク軽減などの効果が期待できる.

6)患者さんのQOLを上げる

マスクで覆われないため会話や食事が可能である.眼鏡をかけることもでき,より日常生活に近い環境で過ごせるため不穏になりにくい.

おわりに

従来のデバイスを用いた酸素療法とHFNCに代表される新しいデバイスを用いた酸素療法について概説した.酸素療法を行う際には,CO2の排泄障害の有無,安定したFiO2の必要度を吟味し,従来のデバイスを用いた酸素療法か,新しいデバイスを用いた酸素療法を選択する.

HFNCは,その生理学的効果,簡便性と快適性の高さから幅広く臨床的に使用されているが,詳細な適応や開始・中止基準に明確な指標は確立されていない.

急性Ⅰ型呼吸不全や術後呼吸不全ではHFNCがその他の酸素療法に対して優れているというエビデンスがあるが,急性Ⅱ型呼吸不全や術後呼吸不全に関してはHFNCが優れているという十分なエビデンスは得られていない.また,HFNCを装着することで患者さんの呼吸困難感を緩和することができる一方で,自覚症状の改善により病態の悪化に気づけないため気管挿管へ踏み切るタイミングが遅れることがある.HFNCの適応や使用基準に関してはいまだ明確な規定はなく,HFNCを使用する際はより慎重に患者さんの呼吸状態をモニタリングする必要がある.

HFNCの特徴,利点・欠点を理解し,その限界も視野に入れて診察にあたることで,個々の患者さんへの最適な治療を提供することが可能となる.

文献・参考文献

  • 「酸素療法マニュアル」(日本呼吸ケア・リハビリテーション学会,日本呼吸器学会/編),メディカルレビュー社,2017
  • 星 拓男:オキシマスク™及び単純顔マスクによる酸素投与時の吸入酸素分画及び二酸化炭素分圧.日本集中治療医学会雑誌,20:643-644, 2013
  • 「こういうことだったのか‼酸素療法」(小尾口邦彦 /著),中外医学社,2017
  • 江木盛時,他/編:酸素療法.INTENSIVIST, 2, 2018
  • 安宅一晃,八重樫牧人/編:総合内科のための集中治療.Hospitalist, 2, 2019
  • Franklin D, et al:A randomized trial of high-flow oxygen therapy in infants with bronchiolitis. N Engl J Med, 378:1121-1131, 2018
  • Parke RL, et al:The effects of flow on airway pressure during nasal high-flow oxygen therapy. Respir Care, 56:1151-1155, 2011
  • Frat JP, et al:High-flow oxygen through nasal cannula in acute hypoxemic respiratory failure. N Engl J Med, 372:2185-2196, 2015
  • Roca O, et al:Predicting success of high-flow nasal cannula in pneumonia patients with hypoxemic respiratory failure:The utility of the ROX index. J Crit Care, 35:200-205, 2016
  • Sztrymf B, et al:Beneficial effects of humidified high flow nasal oxygen in critical care patients:a prospective pilot study. Intensive Care Med, 37:1780-1786, 2011

著者プロフィール

中川丞子(Shoko Nakagawa)
沖縄県立南部医療センター・こども医療センター救急集中治療科
コロナ禍の癒しにうさぎを飼いはじめました.茶色くて丸いので名前は「いなり」です.

多和田哲郎(Tetsuro Tawata)
沖縄県立南部医療センター・こども医療センター救急集中治療科
コロナ禍に自転車を購入しました.がんばって漕ぎます.

梅村武寛(Takehiro Umemura)
沖縄県立南部医療センター・こども医療センター救急集中治療科 部長
当院は年間救急車5,000台,ウォークイン患者40,000人を受け入れる救急病院です.生後数カ月の子どもから100歳越えの高齢者まで幅広く診療できます.当院に興味があるけどコロナのために見学に行けない…という方がいましたら,HPにて情報公開中です.今後,紹介ムービー作成やWebカンファも行う予定です!
http://www.hosp.pref.okinawa.jp/nanbu/

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