レジデントノート増刊:心不全診療パーフェクト〜シチュエーション別の考え方・動き方を身につけて心不全パンデミックに立ち向かう
レジデントノート増刊 Vol.23 No.11

心不全診療パーフェクト

シチュエーション別の考え方・動き方を身につけて心不全パンデミックに立ち向かう

  • 木田圭亮/編
  • 2021年09月17日発行
  • B5判
  • 231ページ
  • ISBN 978-4-7581-1669-5
  • 定価:5,170円(本体4,700円+税)
  • 在庫:あり
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第3章 一般病棟での心不全

4.心不全の緩和ケアについて考えること,やるべきこと

大森崇史
(飯塚病院 連携医療・緩和ケア科/心不全ケア科)

Point

  • 心不全にも緩和ケアが必要である
  • 心不全の治療と症状緩和アプローチは並行して行う
  • 緩和ケアニーズ評価のきっかけに気づけるようになる
  • ACPはDNARを確認するためのものではない

はじめに

本稿にはこれから一生使える緩和ケアのエッセンスを凝縮した.難しいことは書いていないので,寝転びながらさっと読んでみてほしい.

1. 心不全の緩和ケアについてざっくり知ろう

1誤解しがちな緩和ケアについて

世界保健機関(WHO)のウェブサイトには緩和ケアについて次のように書かれている1)

緩和ケアは,患者を中心とした総合的な医療サービスの重要な一部である.身体的,精神的,社会的,スピリチュアルな苦痛を和らげることは倫理上必ずはたすべき責任である.したがって,苦しみの原因が,がんや重篤な臓器不全,薬剤耐性のある結核や重度の熱傷,末期の慢性疾患や急性の外傷,極度の未熟児出産や高齢者の極度の虚弱体質などどのような病態であっても,緩和ケアが必要となる可能性があり,また,あらゆるレベルでケアを受けることが可能であるべきである.

「患者を中心としたケア(patient-centred care)」はこれからの医療のキーワードなので必ず覚えていてほしい.病気に対するアプローチではなく,患者本人に焦点を当てた苦痛緩和のアプローチが重要だということである.

対象とする疾患に着目してみよう.どこにも「がんに限定して行う」とは書いていない.そして「あらゆるレベルでケアを受けることが可能であるべき」とある.これは「超急性期」でも「プライマリ・ケア」でも「介護施設」でもどこでも緩和ケアが提供されるべきだと言っているのである.

ここがポイント 緩和ケアは,「がんの末期に行う痛みのケア」ではなく,疾病・病期・場所を問わず提供されるべき苦痛緩和のアプローチのこと
2心不全における緩和ケア

表1の通り心不全患者もがん患者同様に苦痛を感じていることが報告されている2).日本循環器学会・日本心不全学会の急性・慢性心不全診療ガイドライン3)でも,心不全における緩和ケアは推奨クラスⅠとなっている.つまり急性心筋梗塞患者に対しPCIを行うのと同じくらい,心不全患者に緩和ケアを提供することを推奨するという意味である.

3心不全治療と緩和ケアの同時進行が必要

心不全患者で苦痛を感じる時期はいつなのか考えてみよう.1つは発症時である.肺水腫を発症すると非常に息苦しくなる.そこでNIV(noninvasive ventilation:非侵襲的換気療法)を開始し,血管拡張薬を投与すると患者さんは楽になる.はい,症状緩和成功だ.「心不全治療(=血行動態の最適化)が最大の症状緩和」となる.

では何でも心不全治療を強化すればよいかというと,そうではない.自宅に帰れず家族や友人とのつながりを断たれた辛さ,治療費が高く支払えるか不安になる辛さ(患者さんやその家族が退院時にどれだけ窓口で治療費を払っているか皆さんご存知だろうか?),気持ちの落ち込みや不眠といった辛さ.これらの症状は心不全治療の強化では解決しない.そういった場合に,「心不全治療以外の方法での症状緩和的アプローチ」が必要となる.

このように,心不全における苦痛緩和には心不全治療と緩和的アプローチのその両方が必要である.「この人は心不全治療だ!」「いやいや緩和ケアだ!」とどちらかを選ぶのではない.図1のように診断時から亡くなるまで治療と緩和ケアの両方を提供できることが重要である.つまり,ドブタミンを投与しながらモルヒネを使うようなシチュエーションも全然アリなわけである.

ここがポイント 心不全患者もがん患者同様に苦痛を感じており,心不全治療と症状緩和アプローチの両方が必要である.
4がんと心不全の緩和ケアの違い

ここまで示したとおり,緩和ケアを苦痛緩和のためのアプローチとするなら,がんであろうと心不全であろうと行うことは変わらない.ではどのような点が違うのだろうか?一番の違いは疾病経過である.がんは一般的に一度悪くなりはじめたらよくなることはない病気だ.そのため,緩和ケアの開始時期も比較的わかりやすい.一方,心不全は寛解と増悪をくり返しながら徐々に悪くなり,突然死も少なくない.そのためいつから緩和ケアをはじめればよいかわかりづらくなる.ほかにも受療状況(がんは大きな病院で,心不全は診療所や中小病院でフォローされることが多い)や,診療報酬(2021年6月現在,心不全は末期に限り緩和ケア診療加算を算定できる.ただし緩和ケア病棟入院料は算定できない)の違いなどがある.

2. 心不全の緩和ケアの実践

心不全緩和といえばモルヒネ! ではない.焦らず一緒に勉強していこう.欧州緩和ケア協会によるポジションステートメント5)のフローチャートがよくまとまっている.図2をみて概要を理解しよう.

1緩和ケアはいつからはじめればよいのか?

まず一番上の「緩和ケアニーズ評価のきっかけ」に気づくことがスタートである.なんだかまどろっこしい書き方だ.「緩和ケアが必要かもしれないとき」と言い換えてかまわない.具体的には表2にまとめたようなシチュエーションである.どうだろうか.実際に自分がかかわる患者さんにも該当するものがないだろうか?

2全人的苦痛の評価と介入

では緩和ケアのきっかけに該当したときどうするかを考えよう.図2のフローチャートの右側を見てほしい.苦痛の評価において,「全人的苦痛」というキーワードを覚えよう.これは近代ホスピスの産みの親,シシリー・ソンダース先生が1960年代に提唱した概念で,人の苦痛を4つに分類したものになる.4つとは身体的・精神的・社会的・スピリチュアルな苦痛を指す.

身体的苦痛は,呼吸困難感や胸痛といった症状をあり・なしだけで評価するのではなく,数値評価スケール(numeric rating scale:NRS)を用いて0〜10の数値で評価しよう.さらに,その数値を電子カルテ上や看護記録などで共有し,介入を行うことによってその変化がどれだけあったか? 別の職種から見た評価はどうか? など多次元で評価を行うことが重要である.

精神的苦痛についてはまず気づくことが重要だ.具体的にはpatient health questionnaire(PHQ-2)6)のようなスクリーニングテストを使うと簡便である.これは過去2週間に「何かやろうとしてもほとんど興味がもてない,楽しくない」「気分が重かったり,憂うつだったり,絶望的に感じる」ということがどれだけあったかを確認するテストである.仮にいずれも毎日あると回答された場合,より細かくうつについて病歴聴取を行ったり,専門家への紹介を考慮したり,希死念慮の有無について確認をする必要がある.

社会的苦痛について評価するには患者さんの生活について知る必要がある.具体的には経済状況,住居,ADL,介護環境,家族の構成などだ.その評価のためには退院支援看護師や医療ソーシャルワーカーなどの専門職との協力があるとよいだろう.

スピリチュアルな苦痛,というのは宗教とは関係なくどの人にも生じうるものである.誌面の関係で説明は省略するが,興味がある方は「村田理論」6)をキーワードに調べてみるとよいだろう.

3特に問題となる呼吸困難について

心不全の緩和ケアといえば呼吸困難が問題になることが多くある.どのように対応すればよいか? というと①評価,②心不全治療の見直し,③緩和的アプローチである.

前述の通り,まずはNRSを用いて呼吸困難感を評価する.歩行時や夜間に起こるなど,寛解・増悪因子についても一緒に尋ねるとよいだろう.

次に心不全治療の最適化をめざす.投薬調整の余地や治療の追加ができないか,それらの治療を行う負担はどれほどかについて多職種で考えよう.そのうえで症状緩和的アプローチを考える.薬剤で最も用いられるのは医療用麻薬である.以下に処方例を示す.腎機能障害がある場合は代謝産物が蓄積するため,投与量を減らす必要があることに注意してほしい.ほかにも顔面に送風することや安楽な体位をとること,睡眠がとれるように投薬や環境の調整を行うことなどもまた効果がある.

●実際の処方例

コデインリン酸塩錠 20 mg/回 1日3回 食後に内服

モルヒネ塩酸塩注1 A(10 mg/1 mL)+生理食塩水 9 mL 合計 10 mLを0.2 mL/時で持続皮下注射あるいは持続静脈注射.症状が強いときは30分に1回 0.2 mLを追加フラッシュ可能

4アドバンス・ケア・プランニング(ACP)について

最近は人生会議という愛称もつき,耳にすることも多くなった.ACP(advance care planning)とは「将来病気が悪化して,自分が意思表示できなくなったときに備えて,あらかじめ希望する治療やケアの意向を代理意思決定者や医療者と一緒に話し合うこと」である.

ACPを「DNARかどうか聞くこと」だったり「最後に過ごしたい場所を決めること」だと考えている方も少なくないが,そうではない.あくまで「患者が今後どのように過ごしていきたいか」について話し合う過程のことを指すので,治療コードや療養の場所を決定することは二の次なのである.こうした話し合いが行われ,共有することができれば患者本人の望む医療・ケアにつながると考えられている.

よく病状説明のことをIC(インフォームドコンセント)する,というように話す人がいる.ICとは「患者が説明を受け,同意すること」を指すので,カテーテル治療の前などはICという言葉で適切である(細かく言うとICするのは医師ではなく患者だが).一方で,人生の最終段階の話し合いはICではない.必要なのは病状と価値観を共有する話し合い,すなわち(狭義の)ACPとなる.

ピットフォール
  • DNARやACPは「取る」ものではない
  • ACPで重要なのはDNARの決定や療養の場所の決定ではなく,病状や価値観の共有によって,希望する過ごし方を話し合うこと

Advanced Lecture

心不全患者のエンド・オブ・ライフケア

心不全患者の最期は大きく分けて3つ考えられる.1つ目は循環破綻による臓器障害,2つ目は不整脈や心血管イベントによる突然死,3つ目は老衰である.特に臓器障害パターンにおいて緩和ケアが重要となる.主治医として治療にかかわるとさまざまな感情にかられる.自分の治療がよくないから状態が改善しないのではないか?という不安や,この投薬・手術をすれば,この感染さえ乗り切れば,などという医学的治療への期待である.ここで,「患者を中心としたケア」という言葉を思い出そう.病気や数値のことばかり考えて,患者のことをおろそかにしていることはないだろうか?ドブタミン3γと4γで微調整している間に,患者が自宅で過ごせる時期を逸していないだろうか? 毎日大腿静脈から採血してCr値が少しずつ増えていくのを見ているだけになっていないだろうか?主治医になるとどうしても視野狭窄になるものである.恣意的な医療提供を避けるためにはチームでの医療提供が必要不可欠であり,緩和ケア医が第三者として(treatment brokerとよぶ)かかわることで,より「患者を中心としたケア」に近づけるのではないだろうか.

おわりに

心不全の緩和ケアの概要をざっくりまとめてみた.読者の皆さんに新しい気づきがあれば幸いである.興味をもった方は参考文献も確認してみてほしい.

循環器専門医からのメッセージ

緩和ケアを学ぶことは,患者のためだけでなく自分のためにもなります.倫理的問題点の考え方やコミュニケーションスキルを学ぶことでレジリエンスが高まります.短期間でもよいので一度研修してみることをおすすめします.

引用文献

  • World Health Organization:palliative care(2021年4月閲覧)
  • Moens K, et al:Are there differences in the prevalence of palliative care-related problems in people living with advanced cancer and eight non-cancer conditions? A systematic review. J Pain Symptom Manage, 48:660-677, 2014(PMID:24801658)
  • 日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン:急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)(2021年4月閲覧)
  • Gibbs JS, et al:Living with and dying from heart failure:the role of palliative care. Heart, 88 Suppl 2:ii36-ii39, 2002(PMID:12213799)
  • Sobanski PZ, et al:Palliative care for people living with heart failure:European Association for Palliative Care Task Force expert position statement. Cardiovasc Res, 116:12-27, 2020(PMID:31386104)
  • 村田久行,小澤竹俊:終末期がん患者へのスピリチュアル援助プロセスの研究.臨床看護,30:1450-1464, 2004

参考文献・もっと学びたい人のために

著者プロフィール

大森崇史(Takashi Ohmori)
飯塚病院 連携医療・緩和ケア科/心不全ケア科 医長代理
総合内科専門医・循環器専門医
twitter:@medical_910
年間40名以上の医師が当科で緩和ケアを学んでいます.短期研修も大歓迎です.お気軽にメールください.

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