レジデントノート増刊:あらゆる場面のClinical Prediction Ruleを使いこなす〜診断・治療方針が決まる、予後を予測できる!
レジデントノート増刊 Vol.23 No.17

あらゆる場面のClinical Prediction Ruleを使いこなす

診断・治療方針が決まる、予後を予測できる!

  • 森川大樹,藤谷茂樹,平岡栄治/編
  • 2022年01月20日発行
  • B5判
  • 280ページ
  • ISBN 978-4-7581-1675-6
  • 定価:5,170円(本体4,700円+税)
  • 在庫:あり
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第2章 臓器・診療科ごとのCPR

① 神経・脳外科疾患
3.脳梗塞

伊佐早健司
(聖マリアンナ医科大学内科学脳神経内科)

1. 病院前脳卒中スケール

1CPRの紹介

脳梗塞は脳細胞の虚血による障害であり,虚血による壊死が完成する前に再灌流を得る必要がある.急性期脳梗塞の再灌流療法として①血栓溶解療法〔遺伝子組換え組織プラスミノーゲンアクチベータ静注療法(tissue plasminogen activator:iv tPA)〕,②血栓回収療法(endovascular therapy:EVT)がある.いずれの治療も発症から再灌流までの時間が機能予後に影響する.近年EVTは飛躍的に発展し,内頸動脈系では6時間以内1),画像での詳細な評価があれば24時間まで治療適応が拡大される可能性が指摘されている.そのため,EVTの適応となる主幹動脈閉塞(large vessel occlusion:LVO)を発症早期からスクリーニングし対応することが重要となり,病院前脳卒中スケールの作成につながった.ここではELVO スクリーン(emergency large vessel occlusion screen:緊急大血管閉塞スクリーン)とiSCOREを紹介する.

2背景となる論文
1)ELVO スクリーン2)

日本の複数の脳卒中センターにて行われた前向き試験で急性期脳卒中を疑われる患者の搬送時に,救急隊がスクリーニングツールを用いて評価した.このCPRはLVOで認める皮質症状に焦点を合わせて作成された(表1).

救急隊員が表1の評価を行い,3項目のうち1つでも陽性であった場合をELVOスクリーン陽性として,入院後に行った頭部MR アンギオグラフィの結果と比較した.対象症例413例中114例がLVOを有し,ELVOスクリーンの特異度85%,ELVOスクリーンが陰性の233例のうち,LVOがあったのは17例(7%)であった.

2)iSCORE3)

カナダのオンタリオ州で多施設研究が行われた.急性期脳梗塞を発症した12,262例を用いて30日以内,1年以内の死亡を予測するスコアで30日後,1年後の死亡リスクが予測できる.Webにて算出することが可能である.

3CPRが適応となるシチュエーション

ELVOスクリーンは,急性発症の神経障害である脳卒中疑いの患者に病院前搬送の時点でトリアージを行うことを想定している.臨床医にとっては搬送前であれば来院後の迅速対応の準備に有用であり,自院でEVTが困難であれば治療のための転送も検討する.また,院内で発症した脳卒中対応時にも有用な可能性がある.

iSCOREでは来院から数時間以内の因子で30日後,1年後の脳卒中死亡リスクを算出し,治療方針や病状説明に参照することができる(表2).

4実際の使用例
症例

研修医A先生は救急外来当直中.

救急隊より連絡あり.「68歳の男性,右手と右足の麻痺があります.言葉がしゃべれないようです.脳卒中が疑われます」

研修医A先生が追加して聞くことは次のうち何か?

①最終未発症時間

②共同偏視がないか

③物を見せて呼称させる

④指を4本見せて何本あるか答えさせる

⑤上記のいずれも行う

救急隊の病院前脳卒中スクリーニングにはCPSS4),KPSS5),MPSS6)などがあり,これを基準に救急隊は搬送先の選定を行っている(第2章①-1参照).

脳卒中では最終未発症時間からの時間経過でiv tPAやEVTの適応判断を行うため,「最終未発症時間」は非常に重要である.

上記症例の②~④はELVOスクリーンの項目であり,これによりEVTの適応可能性を知ることができる.自院でEVTができない場合はdrip & ship(iv tPAを行ってから転送)やmother ship(診断後にEVT可能施設へ転送する)を考慮する.

本症例では来院時に右片麻痺,失語を認め,心電図上心房細動を認めた.維持透析中であることが家族からの聴取でわかった.来院時血糖は150 mg/dLであった.頭部MRIにて左中大脳動脈閉塞を認め心原性脳塞栓症(非ラクナ)の診断でEVTを行った.右片麻痺は改善するも失語症状が残存した.脳卒中重症度として,NIHSSは来院時20点から5点となった.

症例は,年齢:68,性別:男性,脳卒中重症度:5~7,梗塞型:非ラクナ,リスクファクター:心房細動,併存症:血液透析,入院前機能障害:非自立,入院時血糖≧135であった.表2のiSCOREを参照しつつWebサイトにて算出すると30日スコアは168点,1年スコアは143点であったため,30日後の死亡率は12.3%,1年後の死亡率は40.4%となる.来院時の神経症候が残存していた場合は30日後の死亡率は60.3%,1年後の死亡率は84.8%となる.実臨床で1年後の死亡率を実感することは少ないが,急性脳卒中診療において迅速な治療により神経徴候を改善させることが,いかに重要であることかがわかる.

2. 一過性脳虚血発作:ABCD2スコア

1CPRの紹介

一過性脳虚血発作(transient ischemic attack:TIA)は緊急疾患である一方,その判断に悩むことが多い.最も難しい点は,眼前の患者は診察時に「症状を有していない」ということで,重要なことは病歴聴取により症状経過を正確に把握することにある.脳卒中治療ガイドライン2015[追補2019対応]7)では「一過性脳虚血発作と診断すれば,可及的すみやかに発症機序を評価し,脳梗塞再発予防のための治療を直ちに開始するよう強く勧められる(グレードA)」とあり,迅速な対応が求められている.眼前にいる一見「何もない」患者の脳梗塞発症リスクを評価するのがABCD2スコア8)表3)である.

2背景となる論文

英国と米国でTIAと診断された症例2,893例を対象として2日目,7日目,90日目の脳卒中リスクを予測した.年齢,来院時血圧,臨床的症状,持続時間,糖尿病の各項目を加点し,TIA後の脳梗塞発症リスクを低リスク,中リスク,高リスクに分類した8)

予測精度を高める目的でABCD2スコアにくり返すTIAを加えたABCD3 スコア,頭部 MRI拡散強調画像での高信号病変の有無を加えたABCD3-Iスコア9,10),頸動脈狭窄,頭蓋内血管狭窄を加えたABCD3(d,c/i)スコア9)などが示された(表3).

3CPRが適応となるシチュエーション

一般外来や救急外来診療においてTIAが疑われる患者の脳梗塞リスク評価に用いる.このスコアの最もよい点は病歴聴取や診察のみでリスクを階層化できる点であり,頸動脈エコーや頭部MRIなどがなくとも用いることができるため,救急診療を担う内科医や研修医のためのスコアといえる.

4実際の使用例
症例

78歳男性.前日18時頃に家族と会話しているときに呂律が回らなくなった.右手足も動かしづらかったが,30分程度で症状は消失した.

来院時,血圧130/80 mmHg,脈拍数86回/分 不整,体温36.2℃,SpO2 98%.神経学的所見に明らかな異常を認めなかった.

既往症:高血圧症のためニフェジピン40 mg徐放錠 1錠

研修医A先生「指導医のB先生,一過性の右片麻痺で来院した患者さんです.TIAを疑っています.ABCD2スコアでは,Aは年齢>60歳で1点,Bは高血圧の治療中で1点,Cは臨床症状が片麻痺で2点,Dは持続時間が30分<60分で1点,Dは糖尿病なし0点で合計5点になります.中リスクになり,入院加療がよいと考えます.どうでしょうか?」

指導医B先生「A先生,ABCD2スコアでしっかり評価できていますね.ちなみにこの方の評価方法で一部間違っていますよ」

研修医A先生「えーどこか間違っていました?」

指導医B先生「Bの項目は現在の血圧で評価します.高血圧症の既往のみでは加点になりません.TIAの経過でも頭部MRIを撮影すると梗塞巣が存在することもあり,血圧は鋭敏に反応します.この患者さんは4点,でいずれにしても中リスクになりますので,入院加療が妥当かもしれませんね.脈も不整があるので心房細動があるかもしれません.心電図の検査も追加しましょう」

3. iPABスコア

1CPRの紹介

脳梗塞診療において,再発予防方法を検討することは非常に重要である.病態に即した再発予防方法は増えてきており,頸動脈狭窄症への内膜剥離術・ステント留置術,卵円孔開存に対する閉鎖術,左心耳閉鎖術などの循環器内科と協力して行う予防方法など多岐にわたる.心原性脳塞栓症はノックアウトストロークといわれるように1回の発症で重篤な状態となりうるため,心原性脳塞栓症をいかに発見するかが再発予防の鍵となる.塞栓源不明の脳梗塞(embolic stroke of undetermined source:ESUS)は脳梗塞全体の16~39%であり,この一部は発作性心房細動(paroxysmal atrial fibrillation:PAF)が原因である.発作性心房細動の存在をいかに予測し,検索するかが重要となる.脳梗塞急性期にPAFを予測するCPRとしてiPABスコア11)がある.

2背景となる論文

iPABスコアは脳梗塞急性期患者を対象とした日本での研究である.不整脈・抗不整脈薬の既往,左房拡大(≧40 mm),BNP値により点数化し,2点以上で感度93%・特異度71%,4点以上で感度60%・特異度95%でPAFを予測することができる(表4).ROC曲線のAUC(area under the curve)は0.93であった.なお,入院時の急性心不全,透析依存性慢性腎不全,機械的人工弁の使用などBNPが上昇する病態を有する患者,永続的な心房細動(atrial fibrillation:AF)を有する,もしくはPAFの既往歴があり,最初の心電図でAFが記録されている患者も除外されている.

3CPRが適応となるシチュエーション

急性脳梗塞患者が対象となる.入院時にスコアの高い症例ではホルター心電図をくり返し行うことが検討される.2017年より潜在性脳梗塞に対し植え込み型心電計であるReveal LINQ®が保険適応となっており,スコアにより適応を考慮できる.

4実際の使用例
症例

68歳女性.前日夕方からの右不全片麻痺,失語にて来院した.頭部MRIでは右の中大脳動脈領域に皮質を含む散在性病変を認めた.頭部MRアンギオグラフィでは頭蓋内血管狭窄は認めなかった.上室性頻拍の既往あり.頸動脈エコーで頸動脈狭窄なし.採血上ではBNP 85 pg /mL,心エコーでは左房径50 mm,心電図上は心房細動なし.

研修医A先生「iPABスコアでは不整脈既往で3点,左房拡大ありで1点,BNP≧50で1点の合計5点です.発作性心房細動の可能性があるのでReveal LINQ®の植え込みを依頼します」

指導医B先生「まず侵襲性のないホルター心電図をしてみよう.侵襲性のない貼り付け型の長時間心電計(duranta)による持続モニタリング12)もあるので検討してみましょう」

引用文献

  • Saver JL, et al:Time to treatment with endovascular thrombectomy and outcomes from ischemic stroke:a meta-analysis. JAMA, 316:1279-1288, 2016(PMID:27673305)
  • Suzuki K, et al:Emergent large vessel occlusion score is an ideal prehospital scale to avoid missing endovascular therapy in acute stroke. Stroke, 49:2096-2101, 2018(PMID:30354974)
  • Saposnik G, et al;Stroke Outcoes Research Canada(SORCan)Working Group:IScore:a risk score to predict death early after hospitalization for an acute ischemic stroke. Circulation, 123:739-749, 2011(PMID:21300951)
  • Kothari RU, et al:Cincinati Prehospital Stroke Scale:reproducibility and validity. Ann Emerg Med, 33:373-378, 1999(PMID:10092713)
  • Kimura K, et al:Kurashiki prehospital stroke scale. Cerebrovasc Dis, 25:189-191, 2008(PMID:18219200)
  • Hasegawa Y, et al:Prediction of thrombolytic therapy after stroke-bypass transportation:the Maria Prehospital Stroke Scale score. J Stroke Cerebrovasc Dis, 22:514-519, 2013(PMID:23489953)
  • 脳卒中治療ガイドライン2015[追補2019対応](日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会/編),協和企画,2019
  • Johnston SC, et al:Validation and refinement of scores to predict very early stroke risk after transient ischemic attack. Lancet, 369:283-292, 2007(PMID:17258668)
  • Kiyohara T, et al:ABCD3 and ABCD3-I scores are superior to ABCD2 score in the prediction of short- and long-term risks of stroke after transient ischemic attack. Stroke, 45:418-425, 2014(PMID:24335223)
  • Merwick A, et al:Addition of brain and carotid imaging to the ABCD2 score to identify patients at early risk of stroke after transient ischaemic attack:a multicentre observational study. Lancet Neurol, 9:1060-1069, 2010(PMID:20934388)
  • Yoshioka K, et al:A Score for predicting paroxysmal atrial fibrillation in acute stroke patients:iPAB Score. J Stroke Cerebrovasc Dis, 24:2263-2269, 2015(PMID:26190307)
  • Akiyama H, et al:Utility of Duranta, a wireless patch-type electrocardiographic monitoring system developed in Japan, in detecting covert atrial fibrillation in patients with cryptogenic stroke:a case report. Medicine(Baltimore), 96:e5995, 2017(PMID:28178140)

著者プロフィール

伊佐早健司(Kenji Isahaya)
聖マリアンナ医科大学内科学脳神経内科
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