薬局で役立つ経口抗がん薬はじめの一歩

薬局で役立つ経口抗がん薬はじめの一歩

  • 日本臨床腫瘍薬学会/監,加藤裕芳,野村久祥/編
  • 2020年03月25日発行
  • B5判
  • 396ページ
  • ISBN 978-4-7581-1873-6
  • 定価:3,960円(本体3,600円+税)
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第2章 経口抗がん薬の特徴と使い方 分子標的薬 ④チロシンキナーゼ阻害薬(BCR-ABL阻害薬)

ポナチニブ〔アイクルシグ®〕

内田まやこ
(大阪薬科大学臨床薬学教育研究センター)

慢性骨髄性白血病 フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病

ポナチニブはBCR-ABLに薬剤耐性の原因となるT315Iなどの点突然変異を認めても活性部位に結合できるように,コンピューター構造解析から設計・開発された合成の第3世代TKI(チロシンキナーゼ阻害薬)です1)

これまでCML(慢性骨髄性白血病)の治療薬として第1・2世代のTKIを用いることで画期的に治療成績は向上しましたが,一部の患者では既存のTKIでは効果を認めず,第2世代TKIに抵抗性または不耐容となった場合の治療選択肢は限られていました.ダサチニブ(p.166参照)またはニロチニブ(p.156参照)に抵抗性または不耐容,もしくはT315I変異を有するCML患者およびPhALL(フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病)患者を対象に行われたPACE試験の結果2)では,これらの患者に対する有用性が確認されました.前治療薬に抵抗性または不耐容のCMLおよび,再発または難治性のPhALLの3次治療として位置付けられ,既存のTKIがすべて無効であるT315I変異にも有効性を示す唯一の薬剤です.

特徴的な副作用としては,心血管系閉塞性病変,膵炎,腹痛,リパーゼ上昇などがあげられます.特に,ポナチニブの動脈閉塞性事象が問題となっており,使用の際には慎重な経過観察が求められます.

参考文献
  • O’Hare T, et al:Bcr-Abl kinase domain mutations, drug resistance, and the road to a cure for chronic myeloid leukemia. Blood, 110:2242-2249, 2007
  • Cortes JE, et al:A phase 2 trial of ponatinib in Philadelphia chromosome-positive leukemias. N Engl J Med, 369:1783-1796, 2013

Q1どのような患者にどのように使用する?

A前治療薬に抵抗性または不耐容のCML(慢性骨髄性白血病),再発または難治性のPhALL(フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病)患者に,1日1回45 mg使用する.

ポナチニブは前治療薬に抵抗性または不耐容のCML(慢性骨髄性白血病),再発または難治性のPhALL(フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病)患者に使用されます.

ダサチニブまたはニロチニブに抵抗性または不耐容,もしくはT315I変異を有するCML-CP期患者267例,CML-AP期患者85例,CML-BP期患者62例およびPhALL患者32例を対象として行われたPACE試験1)の結果では,CML-CP期の主要評価項目である12カ月までの細胞遺伝学的大奏効(MCyR:major cytogenetic response)※1率は56%,

CML-AP期,CML-BP期,PhALL患者の主要評価項目である6カ月までの血液学的大奏効(MaHR:major hemotological response)※2率はそれぞれ55%,31%,41%と有効性が認められました.

また,ポナチニブは,食事の影響を受けにくく,食前・食後どちらでも服用可能な1日1回の経口投与の薬剤です.

豆ちしき

※1:MCyR

CMLに対する治療効果の判定規準で,細胞遺伝学奏効(cytogenetic response:CyR)の1つを示します.

細胞遺伝学的大(major)奏効をさし,MCyR(major cytogenetic response)の状態で,細胞レベルにおいて骨髄有核細胞中のPh染色体(BCR-ABL1)陽性率0~35%の状態(p.157参照)をさします.

※2:MaHR

CMLに対する治療効果の判定規準で,血液学的完全奏効(complete hematologic response:CHR)と白血病の所見なし(no evidence of leukemia:NEL)の両方を満たした状態をさします.


参考文献
  • Cortes JE, et al:A phase 2 trial of ponatinib in Philadelphia chromosome-positive leukemias. N Engl J Med, 369:1783-1796, 2013

Q2注意しなければならない副作用は?

A特徴的な副作用としては,心血管系閉塞性病変(Q3~Q5参照),膵炎,腹痛,リパーゼ上昇などがあげられます.特に,ポナチニブの動脈閉塞性事象が問題となっており,使用の際には慎重な経過観察が求められます.

ダサチニブ,ニロチニブに抵抗性または不耐容,もしくはT315I変異を有するCML患者およびPhALL患者を対象に行われた海外第Ⅱ相試験(PACE試験)におけるポナチニブの副作用として下表のものがあげられます1)

ポナチニブ45 mgを1日1回服用群において30%以上発現した有害事象は,他覚症状として血小板減少(44%)があり,自覚症状として腹痛(43%),発疹(42%),頭痛(38%),皮膚乾燥(37%),高血圧(32%),倦怠感(31%),嘔気(30%),発熱(30%),関節痛(30%)などが出現していました.特徴的な副作用としては,心血管系閉塞性病変(Q3~Q5参照),膵炎,腹痛,リパーゼ上昇などがあげられます.特に,ポナチニブの動脈閉塞性事象が問題となっており,使用の際には慎重な経過観察が求められます.


参考文献
  • Cortes JE, et al:Ponatinib efficacy and safety in Philadelphia chromosome-positive leukemia: final 5-year results of the phase 2 PACE trial. Blood, 132:393-404, 2018
  • Cortes JE, et al:A phase 2 trial of ponatinib in Philadelphia chromosome-positive leukemias. N Engl J Med, 369:1783-1796, 2013

Q3ポナチニブによる血管閉塞性事象とは?

A血管閉塞性事象には,心筋梗塞,脳梗塞,網膜動脈閉塞症,末梢動脈閉塞性疾患,静脈血栓閉栓症があり,死亡に至った例も報告されている.

エコノミークラス症候群とも言われる静脈血栓塞栓症の危険因子の評価法として,Khoranaスコア(表11)があり,静脈血栓塞栓症の発現に関するリスク評価を行ううえで有用な情報となります.高いリスク群の患者には,後述のQ4を参考に,投与の可否を判断のうえ,服用後の胸痛,腹痛,四肢痛,片麻痺,視力低下,息切れ,痺れなどの有無をより慎重に観察します.


参考文献
  • Khorana AA, et al:Development and validation of a predictive model for chemotherapy-associated thrombosis. Blood, 111:4902–4907, 2008

Q4ポナチニブによる血管閉塞性事象のリスク因子と予防法は?

A虚血性疾患(心筋梗塞,末梢動脈閉塞性疾患など),静脈血栓塞栓症等の既往歴や,心血管系疾患の危険因子(高血圧,糖尿病,脂質異常症など)を有する患者は血管閉塞性事象の発現リスクが高くなる.また,血管閉塞性事象の予防薬に関するエビデンスは確立されていない.

ポナチニブ投与開始前は,虚血性疾患(心筋梗塞,末梢動脈閉塞性疾患など),静脈血栓塞栓症などの既往歴の有無や,心血管系疾患の危険因子(高血圧,糖尿病,脂質異常症など)の有無を確認することが重要です.これらの患者は,血管閉塞性事象の発現リスクが高くなる可能性があり,慎重に投与する必要があります1).さらに,心血管病の危険因子の評価法として,動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版:冠動脈疾患発症予測ツール2)を参考に心血管病の危険因子を評価します.

血管閉塞性事象の予防法として,抗血小板薬などの効果に関するエビデンスは確立されていません.しかし保険適用外ですが,心血管病の高リスク症例や治療前に明らかな動脈硬化が認められる症例では,血管閉塞性事象の予防目的にアスピリン併用を考慮します3)

参考文献

Q5ポナチニブによる血管閉塞性事象が発現した場合の対応は?

A血管閉塞性事象が発現した場合は,直ちに投与を中止する.

ポナチニブ投与後に,血管閉塞性事象が発現した場合は,直ちに投与を中止する必要があります(表2).また,ポナチニブの投与再開については,副作用が消失し,治療継続が患者にとって望ましい場合に限り,ポナチニブを減量したうえで再投与を行うことができます.


参考文献
  • アイクルシグ®錠 適正使用ガイド

Q6肝機能,腎機能が低下している患者に使用することはできる?

A腎機能障害患者に対しては減量の必要はない.肝機能障害を有する患者については減量を考慮する.

ポナチニブの86.6%が糞中に排泄され,ポナチニブの未変化体の尿中排泄率は1%未満とほとんど尿中には排泄されないと考えられています1).本邦や米国の添付文書にも腎機能障害時における減量基準が明記されていません.腎臓が悪い患者に対して減量の必要はないと思われます.

ポナチニブおよびその代謝物は肝臓で代謝されます.また,肝機能障害のある患者では肝機能障害が悪化するおそれがあるため,投与開始時にChild-Pugh分類A,B,Cの肝機能障害(p.181参照)を有する場合,いずれも1日1回30 mgに減量することを考慮する必要があります2)

参考文献
  • アイクルシグ®錠 添付文書
  • ICLUSIG®(ponatinib米国添付文書)

薬剤情報【ポナチニブ〔アイクルシグ®〕】

  • 薬効分類
    抗悪性腫瘍薬/チロシンキナーゼ阻害薬
  • 剤形の種類
    15mg錠
  • 適応
    • 前治療薬に抵抗性または不耐容の慢性骨髄性白血病
    • 再発または難治性のフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病
  • 用法用量
    成人にはポナチニブとして45mgを1日1回経口投与する.
  • 減量・休薬基準

  • 相互作用
    【併用注意】
    • CYP3A4阻害薬:イトラコナゾール,クラリスロマイシン,ジルチアゼム,ベラパミル,グレープフルーツジュースなど
    • CYP3A4誘導薬:リファンピシン,フェニトイン,カルバマゼピン,セントジョーンズワート含有食品など
  • 飲み忘れ時の対応
    飲み忘れたことに気がついたときには,飲み忘れた分は服用せず,次の服用時に1回分を服用する.2回分を一度に服用することは避ける.
  • 支持療法
    特になし
  • レジメン1)

参考文献
  • Cortes JE, et al:A phase 2 trial of ponatinib in Philadelphia chromosome-positive leukemias. N Engl J Med, 369:1783-1796, 2013

〈内田まやこ〉

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