根拠にもとづく がん化学療法レジメン作成とマネジメントのてびき〜原文献の読み解き方,支持療法・投与法の標準化,安全な運用・評価の実践

根拠にもとづく がん化学療法レジメン作成とマネジメントのてびき

原文献の読み解き方,支持療法・投与法の標準化,安全な運用・評価の実践

  • 神野正敏,池末裕明/監,渡邊裕之/著
  • 2020年05月19日発行
  • B5判
  • 199ページ
  • ISBN 978-4-7581-1878-1
  • 5,280(本体4,800円+税)
  • 在庫:あり
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※本ウエブサイト上では一部コラムを割愛しています

III レジメンの登録

1 支持療法の作成

施設内での審査を経てレジメンが承認されたら,使用する抗がん薬に適した支持療法,投与時の注意点,投与・減量基準も合わせて設定し,院内で使用可能なレジメンとして登録する必要があります.

支持療法としては,予防的制吐療法,過敏症・アナフィラキシー・インフュージョンリアクション予防対策などが含まれます.

予防的制吐療法の設定

抗がん薬による嘔気・嘔吐(chemotherapy induced nausea and vomiting:CINV)は,その発現頻度によって4つに分類されます.この分類は,制吐薬の予防的投与なしで各種抗がん薬投与後24時間以内(急性期)に発現する嘔気・嘔吐の割合に従って定義されています.

  • 高度催吐性リスク(high emetic risk):90 %を超える患者に発現する
  • 中等度催吐性リスク(moderate emetic risk):30~90 %の患者に発現する
  • 軽度催吐性リスク(low emetic risk):10~30 %の患者に発現する
  • 最小度催吐性リスク(minimal emetic risk):発現しても10 %未満である

各抗がん薬の催吐性リスクに関しては,「制吐薬適正使用ガイドライン(日本癌治療学会編)」に掲載されているリストを参考にします.新規抗がん薬などで,このガイドラインに記載がない場合は海外のガイドライン(NCCN,ASCO,ESMO/MASCCのガイドライン)を参考にします〔NCCNのガイドラインの閲覧には登録(無料)が必要ではありますが,更新の間隔もとても早く,新規抗がん薬の催吐性リスクを確認するのに有用です〕.

  • NCCN:National Comprehensive Cancer Network(全米総合がんセンターネットワーク)
  • ASCO:American Society of Clinical Oncology(米国臨床腫瘍学会)
  • ESMO:Europian Society for Medical Oncology(欧州臨床腫瘍学会)
  • MASCC:Multinational Association of Supportive Care in Cancer(国際癌サポーティブケア学会)

予防的制吐薬は適正使用ガイドラインに基づいて催吐性リスク別に設定します(表1).設定は最新のガイドラインに準ずることが望ましいです.ただし,海外と日本では用いられている制吐薬や添付文書での投与量が異なる場合もあり留意する必要があります.

表1 催吐性リスク別の予防的制吐療法(奈良県立医科大学附属病院における例)

【日米の制吐薬の違いの例】

  • パロノセトロン:日本は0.75 mg,欧米は0.25 mg
  • NK-1受容体拮抗薬:日本はアプレピタントとホスアプレピタントのみ使用可能.欧米ではほかにnetupitant,rolapitantが使用可能

レジメンを設定する際には,ガイドラインに準じた予防的制吐薬を設定することが望ましいですが,個々の患者の嘔気・嘔吐に関するリスク因子(コラム⑤参照)や放射線照射の併用などにより制吐療法をガイドラインの記載内容よりもさらに強化する,などの個別化が必要になるケースも念頭に置く必要があります.

Column ⑤

嘔気・嘔吐に関連する患者のリスク因子について

嘔気・嘔吐に関連した患者側のリスク因子としては,いくつか報告があります.Sekineらがパロノセトロンを用いた2つの第Ⅱ相試験と1つの第Ⅲ相試験のデータをもとに検討したところ,急性期(抗がん薬投与後24時間以内)では,女性,55歳未満,喫煙歴なし,飲酒習慣なし,が,また遅発期(抗がん薬投与後24時間以降)では,女性がリスク因子として抽出されました3).別の報告では,60歳未満,睡眠時間が7時間未満,悪阻の経験がある,前のサイクルでCINVの既往がある,などの因子が報告されています4).リスク因子により加点して,ある点数以上を有する患者には制吐療法を1段階強化することが勧められており5),実臨床でも,個々の患者背景を考慮して,制吐薬を適切に選択できる知識とスキルが求められています.

Column ⑥

ステロイドスペアリングについて

予防的制吐療法に用いられるデキサメタゾンは化学療法による嘔気・嘔吐(CINV)を抑制する効果が期待できる反面6),不眠,胃腸障害,骨密度低下,糖尿病などといった有害事象7-9)が懸念されるため,その使用量は必要最低限にすることが望ましいと考えられます.そのため,デキサメタゾンによる有害事象を軽減するためにday2以降のデキサメタゾン投与を行わないステロイドスペアリングの有用性について多くの検討がなされています.中等度催吐性リスクに分類されるレジメンにおいて,5-HT3受容体拮抗薬として第2世代であるパロノセトロンを用いて,デキサメタゾンをday1〜3に投与した場合とday1のみに投与した場合を比較したところ,CR(嘔吐なし,レスキューの制吐薬なし)においてほぼ同等の効果が示された,とする報告がいくつかあります10-12).また,高度催吐性リスクのレジメンにおいても,ステロイドスペアリングが可能であったとの報告があります13).ただし,この報告ではアントラサイクリン系抗がん薬を含むレジメンでは可能であるが,シスプラチンを含むレジメンではステロイドスペアリングは控えた方がいいかも,とも言及しています.これは,シスプラチンはアントラサイクリン系レジメンよりも嘔気の発現が遅いことに起因しているかもしれません14).奈良県立医科大学附属病院では,アントラサイクリン系レジメンと中等度催吐性リスクのレジメンについては,5-HT3受容体拮抗薬にパロノセトロンを用いて,day2以降のデキサメタゾンなし,で標準化しています.そして,嘔気嘔吐のリスクが高い患者さんに対しては,アプレピタントやオランザピン追加を推奨しています.

文献

  • 3) Sekine I,et al:Risk factors of chemotherapy-induced nausea and vomiting: index for personalized antiemetic prophylaxis.Cancer Sci,104:711-717,2013
  • 4) Dranitsaris G,et al:The development of a prediction tool to identify cancer patients at high risk for chemotherapy-induced nausea and vomiting.Ann Oncol,28:1260-1267,2017
  • 5) Scotte F:Identifying predictive factors of chemotherapy-induced nausea and vomiting(CINV):a novel approach.Ann Oncol,28:1165-1167,2017
  • 6) Ioannidis JP,et al.Contribution of Dexamethasone to Control of Chemotherapy-Induced Nausea and Vomiting:A Meta-Analysis of Randomized Evidence.J Clin Oncol,18:3409-3422,2000
  • 7) Vardy J,et al:Side Effects Associated With the Use of Dexamethasone for Prophylaxis of Delayed Emesis After Moderately Emetogenic Chemotherapy.Br J Cancer,94:1011-1015,2006
  • 8) Nakamura M,et al:A Prospective Observational Study on Effect of Short-Term Periodic Steroid Premedication on Bone Metabolism in Gastrointestinal Cancer(ESPRESSO-01).Oncologist,22:592-600,2017
  • 9) Jeong Y,et al:A Pilot Study Evaluating Steroid-Induced Diabetes After Antiemetic Dexamethasone Therapy in Chemotherapy-Treated Cancer Patients.Cancer Res Treat,48:1429-1437,2016
  • 10) Celio L,et al:Palonosetron in Combination With 1-day Versus 3-day Dexamethasone for Prevention of Nausea and Vomiting Following Moderately Emetogenic Chemotherapy:A Randomized,Multicenter,Phase III Trial.Support Care Cancer,19:1217-1225,2011
  • 11) Aapro M,et al:Double-blind,Randomised,Controlled Study of the Efficacy and Tolerability of Palonosetron Plus Dexamethasone for 1 day With or Without Dexamethasone on days 2 and 3 in the Prevention of Nausea and Vomiting Induced by Moderately Emetogenic Chemotherapy.Ann Oncol,21:1083-1088,2010
  • 12) Komatsu Y,et al:Open-label,Randomized,Comparative,Phase III Study on Effects of Reducing Steroid Use in Combination With Palonosetron.Cancer Sci,106:891-895,2015
  • 13) Ito Y,et al:Placebo-Controlled,Double-Blinded Phase III Study Comparing Dexamethasone on day 1 With Dexamethasone on days 1 to 3 With Combined Neurokinin-1 Receptor Antagonist and Palonosetron in High-Emetogenic Chemotherapy.J Clin Oncol,36:1000-1006,2018
  • 14) Tamura K,et al:Testing the Effectiveness of Antiemetic Guidelines:Results of a Prospective Registry by the CINV Study Group of Japan.Int J Clin Oncol,20:855-865,2015
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根拠にもとづく がん化学療法レジメン作成とマネジメントのてびき

原文献の読み解き方,支持療法・投与法の標準化,安全な運用・評価の実践

  • 神野正敏,池末裕明/監,渡邊裕之/著
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