がん疼痛治療薬のうまい使い方〜使い分けやスイッチングの考え方、実際の処方例から外来でのコツまで

がん疼痛治療薬のうまい使い方

使い分けやスイッチングの考え方、実際の処方例から外来でのコツまで

  • 木澤義之,岸野 恵,飯田真之/編
  • 2020年07月27日発行
  • A5判
  • 230ページ
  • ISBN 978-4-7581-1882-8
  • 定価:4,200円+税
  • 在庫:あり
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第11章 | こんなときどうする?

2 痛みが強くなったときどうするか

西島 薫,飯田真之
(神戸大学医学部附属病院緩和支持治療科,神戸大学医学部附属病院薬剤部)

  • 新たな痛みの出現時には痛みの原因検索を改めて行う
  • 急な痛みの増強を見逃さない(脊髄圧迫,消化管閉塞,頭蓋内圧亢進)
  • 痛みが強くなったときの鎮痛薬の調整法を知っておく

まずは原因検索

患者が痛みの増強を訴えたとき,それが既存の痛みの増強か新たな痛みの出現かによって対応は異なる.新たな部位や性状の痛みの場合,その原因は既存の痛みの原因とは異なることが多く改めて検索が必要である.その結果として使用中の鎮痛薬の増量が適当なこともあるが,放射線治療が効果的であったり,種類の異なる鎮痛薬の追加や変更が適切であったりと,既存の痛みとは別の対処法で解決することも多い.

また,既存の痛みであっても痛みの増悪が重大な病態のサインとなることがあるため注意を要する(表1).

もともと骨転移による腰背部痛があったが
ここ最近増強してきた症例

【患者】70代,男性
【現病】腎がん,腰椎(L2,3)転移,肺転移
【主訴】腰背部痛による日常生活動作困難
【経過】切除不能腎がん,分子標的薬二次治療で外来通院中.以前から骨転移による腰背部痛があり,放射線治療施行後セレコックス®の内服で疼痛コントロールできていた.定期外来受診時,10 日くらい前より徐々に腰背部痛がきつくなっており,特に動くときに苦労していると訴えあり.

どのように考えたか?

脊椎転移があり亜急性に痛みの増強を認めているため,まず緊急対応が必要である脊髄圧迫の有無を確認しようと考えた.叩打痛は著明.麻痺と膀胱直腸障害の有無を訊ねたところ右下腿にやや力が入りづらいが歩けなくはない,排尿排便はいつもどおりと言われ,MMTは右腓腹筋が4と低下していたほかは保たれていた.感覚は右下腿外側でやや低下,反射は特に問題なかった.

どのように対応したか?
  • 緊急脊椎MRIを施行したところ,脊髄圧迫所見が確認されたため,入院のうえベット上安静を指示した.また再照射について放射線科に相談し,治療計画が立てられた.
  • 入院初日よりデキサート®16 mg/日を投与,3日ごとに半量ずつ減量を計画した.
  • 入院翌日「右足が全く動かない,左足も動かしにくい」と訴えあり,下腿麻痺と感覚障害を確認したため,すぐに脊椎整形外科医に連絡,全身状態や予後予測およびご本人の希望を加味して緊急除圧固定術が施行された.術後に放射線再照射も行われ,麻痺は歩行に支障ない程度に改善した.
脊椎腫瘍のある患者に痛みの増強があっても,脊髄圧迫を示唆する身体所見(運動障害,感覚障害,膀胱直腸障害,反射異常,叩打痛)に乏しく,緊急の画像検査が必要か判断に迷うこともある.経過観察とした場合は,患者に病状とリスクを説明し「痛みが急激に強くなったとき,急に(手)足が動かなくなったり,力が入らなくなったとき」は必ず連絡するように念を押しておくとよい.

痛みが増強したときの鎮痛薬の調整

まず服薬アドヒアランスを確認

食欲不振や嘔気による食事摂取困難のための内服手控えや,せん妄や認知機能障害による内服忘れなど,内服中断による痛みの増強をしばしば経験するが,その場合は原因治療や内服管理サポートの強化などを鎮痛薬調整に優先して考える.

痛みの性質に合った鎮痛薬が使用されているか

使用中の鎮痛薬でコントロール困難な場合,別の鎮痛機序の薬剤が有効なことがある.

特にオピオイドを増量しても鎮痛が得られず眠気のみが増強する場合は,痛みの原因・性質を再評価し,他の薬剤への変更や追加を考慮する(表2).

突出痛? 持続痛の増悪?

今までレスキュー(頓服)は不要だったのに最近使わないと痛みがとれない,あるいはレスキューの回数が増えている場合は2つの考え方ができる(図1).

一つはほとんどの時間は痛みがコントロールされているが,時折強い痛みが走る場合である.こちらは突出痛であり,レスキュー薬の種類と量をそれぞれ痛みのパターンと大きさに合わせて調整する必要がある.

もう一つは持続痛が増悪し使用中の徐放性定期薬の鎮痛効果を上回ってしまった場合である.この場合,レスキューの速放性製剤で補おうとすると薬効が切れるたびに痛みが生じることになる(図2).そのため長時間作用である徐放性製剤の増量が適している.

突出痛か持続痛の増悪か
  • 突出痛か持続痛の増悪かの判断目安として以下も参考になる
  • 持続痛の増悪:レスキューが1日5回以上必要である
  • 突出痛:強い痛みだが持続時間は比較的短い,動作や食事など誘因があることが多い

オピオイド耐性? 痛覚過敏?

オピオイドを数カ月以上にわたって継続使用している場合は耐性形成や痛覚過敏による痛みの増悪にも注意する必要がある.痛覚過敏とは痛み刺激に過敏に応答する状態を指す.大量のオピオイドを長期間投与されている患者で発生しやすいと考えられているが,非常に強力なオピオイドを短期間投与された患者でもOIH(opioid induced hyperalgesia)が確認されている.耐性形成により効果が減弱している場合は増量により疼痛が改善するが,OIHの状態では逆にオピオイドを減量することで痛みが改善する.オピオイド減量の際は急激に減量するよりも漸減した方が二次的な痛覚過敏やアロディニアを防ぐことができると考えられている.またオピオイドスイッチにより改善することも経験する.

外来で鎮痛薬の調整を行った症例

【患者】40代,女性
【現病】肺がん,パンコースト腫瘍
【主訴】左肩~上肢の疼痛増強
【経過】切除不能肺がん,分子標的治療中.これまでは定期薬としてオキシコドン徐放錠60 mg/日およびレスキューとしてオキノーム®散10 mg/回のみで疼痛コントロール可能だったが,最近徐々に疼痛が増強し,レスキューは1日6〜8回に増え,電撃痛も出現している.
既存の痛みの増強であり,痛みの性質は体性痛と神経障害性疼痛の混合痛である.最近のCT検査にて腫瘍は増大し腕神経叢領域への腫瘍浸潤影を認めており,がんそのものによる疼痛増強として矛盾しない.服薬アドヒアランスは良好である.

どのように考えたか?

薬物療法としてはオピオイドの増量,オピオイドスイッチ,鎮痛補助薬の併用などが選択肢に挙がる.神経叢浸潤のため難治性疼痛となることも想定し,放射線治療やくも膜下鎮痛の可能性も念頭に置いた.

どのように対応したか?

オキシコドン徐放錠を倍量の120 mg/日に増量したが,1週間後の再診時に疼痛軽減はほとんどなく,眠気が強く気が付くと居眠りをしてしまうと訴えられた.

  • オキシコドン徐放錠を80 mg/日に減量し,鎮痛補助薬のうち眠気の少ないサインバルタ®を追加した.サインバルタ®60 mg/日まで増量するも疼痛軽減はあまり得られず,眠気も残存した.
  • サインバルタ®は中止し,オピオイド作用とNMDA受容体拮抗作用を併せもつメサペイン®錠へのオピオイドスイッチを考慮した.心電図検査にてQT延長や不整脈がないことを確認後,オキシコドン徐放錠からメサペイン®錠15 mg/日へオピオイドスイッチを行ったところ,2週間後外来で疼痛は半減し,レスキューも1日2〜3回に落ち着いた.眠気も許容できるレベルに改善した.

文献

  • 「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2014年版)」(日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン作成委員会/編),金原出版,2014
  • 山口重樹,他:突出痛の理解とフェンタニル口腔内吸収製剤の適正使用.ファルマシア,52:36-38,2016
  • 「骨転移診療ガイドライン」(日本臨床腫瘍学会/編),南江堂,2015
  • Davies AN, et al:The management of cancer-related breakthrough pain: recommendations of a task group of the Science Committee of the Association for Palliative Medicine of Great Britain and Ireland. Eur J Pain, 13:331-338, 2009
  • 「21世紀のオピオイド治療」(Smith HS/著,井関雅子,橋口さおり/監訳),pp84-115,メディカルサイエンスインターナショナル,2014
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