Dr.竜馬のやさしくわかる集中治療 循環・呼吸編 改訂版〜内科疾患の重症化対応に自信がつく!

Dr.竜馬のやさしくわかる集中治療 循環・呼吸編 改訂版

内科疾患の重症化対応に自信がつく!

  • 田中竜馬/著
  • 2020年09月15日発行
  • A5判
  • 408ページ
  • ISBN 978-4-7581-1883-5
  • 定価:4,400円(本体4,000円+税)
  • 在庫:あり
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Ⅰ循環 第1章 敗血症性ショック

2 敗血症とは 臓器障害で考える

  • 敗血症性ショックというと,中心静脈カテーテルをズバッと入れて,昇圧薬をガツンと始めて,ステロイドかまして,免疫グロブリンもぶち込んどいて,血液浄化をするわけですね!! 気合い入れてがんばります.
  • がんばってもらうのはたいへん結構なんやけど,何だかがんばりがエライ方向に向かっとるね.若干人格も変わっていたみたいやし.
  • すみません.重症患者と聞いてちょっと興奮してしまいました.治療についてはこの「一撃必殺!集中治療マニュアル」で予習してきたつもりだったのですが.あっ,DICの治療が抜けてましたか?
  • いやいや,そういうことではなくて,ICUだからといってそんなにいきなり特殊な治療をするわけやなくて,基本はあくまでも普段どおりやで.治療の話の前にそもそも「敗血症性ショック」って何か整理しとこか.
  • 感染症が重症なせいで菌が血液中に回ってショックになっているんですよね?
  • まあ大まかにはそんな感じやけど,ちょっと違うところもあるかな.敗血症・敗血症性ショックには定義があるから,まずはそこからまとめておこか.

敗血症とは

2016年に発表された“Sepsis-3”で,国際的な敗血症と敗血症性ショックの定義が新しくなりました1).“Sepsis-3”は名前の通り,最初の敗血症の定義2),改訂された2回目3)に続いて3つ目の定義です.

大きな流れでいうと,まず,最初の定義で提唱されて2回目の定義でも継続して使用されたSIRS(systemic inflammatory response syndrome)という概念は使われなくなりました.SIRSというのは,体温,心拍数,呼吸数,白血球数の4項目からなるのですが(表1),この4項目を見ればわかる通り,これらは非特異的で感染症以外の原因でも起こります.逆に,敗血症があっても必ずしもSIRSの項目を満たすとは限りません.というわけで,Sepsis-3からは採用されなくなり,その代わりに臓器障害の概念が強調されています.臓器障害があるかどうかを調べるのには,SOFAスコアが使われます.

ちなみに,敗血症は英語ではsepsisといいます.「ゼプシス」と濁らずに,「セプシス」と発音します.

Sepsis-3での定義

敗血症

敗血症(Sepsis)の定義は,原文では“life-threatening organ dysfunction caused by a dysregulated host response to infection”とされています1).日本語に訳すと,「感染症に対する宿主の無調節な反応のために起こる致死的な臓器障害」です.ザックリ簡単に言ってしまうと,身体が感染症に反応することで,自身の組織や臓器を傷つけてしまって,命にかかわるほど重症になっている状態です.感染症があることが前提になります(図1).

ここでいう「臓器障害」が何を指すかですが,Sepsis-3ではSOFAスコア(Sequential [Sepsis-Related] Organ Failure Assessment Score)を使います(表2).SOFAスコアは,呼吸,凝固,肝臓,心血管,中枢神経,腎臓の6つの臓器への障害をスコア化するものです.敗血症で障害されそうな臓器が並んでいますね.ちなみに,伝統中国医学でいう「五臓六腑」の「五臓」は肝臓,心臓,脾臓,肺,腎臓なので,似ているような気もします.

話を戻すと,SOFAスコアでは6臓器それぞれに0~4点の点数を付けて,点数が高いほど臓器障害が強いことになります(表2).例えば,ビリルビンが3.0なら,肝臓については2点になります.6臓器の合計点数が元の状態よりも2点以上上昇していれば,「臓器障害アリ」と判断します.元の状態(例えば,普段のクレアチニンが1.5)がわからなければ,元は0点だったと仮定して計算します.2点というと大したことがないようにも思うかもしれませんが,これを満たす感染症患者の院内死亡率は約10%です1).いきなり全部を覚えるのは難しいかもしれませんので,スマホにでも覚えさせておくか,計算アプリを使うとよいでしょう.

感染症では,肺炎だったら肺炎による呼吸器の,尿路感染症であれば尿路系の局所症状がありますが,それ以外に臓器障害があるというのが敗血症の定義です.このように,Sepsis-3は臓器障害という考え方を非常に重視しています.逆に,明らかな感染症が見つかっていなくても,原因がわからない臓器障害があれば,「敗血症じゃないかな?」と考えるのも重要です.ちなみに,敗血症というと「血液培養が陽性でなければならない」と考えるかもしれませんが,定義に血液培養の結果は含まれておらず,血液培養が陽性になるのは敗血症のなかで50%程度です4)

これまでの敗血症の定義では,「敗血症」よりももう一段階重症度の高い「重症敗血症」というのがあり,「敗血症による臓器障害や組織低灌流が起こった状態」とされていました.低灌流というのはまた後ほどお話ししますが(Ⅰ循環 第1章参照),臓器障害という部分は先ほど見た「敗血症」の定義とかぶってしまいますよね.なので,今回の定義からはなくなりました.というわけで,もう重症敗血症はありません.あえて「重症」といわなくても,敗血症というだけで十分重症なのです.

敗血症性ショック

次に敗血症性ショックに行きましょう.重症敗血症はなくなりましたが,敗血症性ショックはSepsis-3にもあります.敗血症性ショックは,「敗血症のうち循環異常および細胞(代謝)の異常が顕著で,そのために死亡率が著しく高くなっているサブグループ」と定義されています.このような患者をどう見つけるかというと,「十分に輸液をしても,平均血圧≧65 mmHgを保つのに昇圧薬が必要で,かつ乳酸>2 mmol/L」の状態です.循環異常というのは低血圧のことで,細胞(代謝)異常というのは乳酸が高くなっていることだったのですね(図2).このような基準を満たす患者の院内死亡率は,40%を超えるとされています1)

これまでは,敗血症性ショックは「適切に輸液をしても敗血症による低血圧が遷延する状態」と定義されていて,血圧しか診ていなかったのに対して,細胞機能まで見ているのがSepsis-3の新しいところといえます.「ショック=低血圧」ではないので,血圧だけで決まるわけではないのをこのように示してくれているのは役立ちます.

とはいえ,乳酸値が高いからといって必ずしも細胞機能の障害を意味するとは限らず(p39 Side Note参照),今後も変更される可能性はあります.また,医療環境によっては乳酸をすぐに測れないこともあるので,その場合には“capillary refill”など,組織低灌流を示すほかの方法を使う必要があります.capillary refillについてはまた後ほどお話しします(Ⅰ循環 第1章参照).

これまでの定義からの変更点

あれこれ書きましたが,結局のところこれまでの定義からはどこが変わったのでしょうか?

まず,大きな違いとして,敗血症,重症敗血症,敗血症性ショックと3段階になっていたのが,敗血症と敗血症性ショックの2つだけになりました.敗血症というだけで十分重症なので,この変更は理に適っているように見えます.敗血症と敗血症性ショックの関係は図3のようになります.

臓器障害を見るのにSOFAスコアという6臓器からなる(比較的)簡便なスコアリングを使うようになったのも今回からです.元の状態と比べて2点以上上昇していればSOFAスコア陽性ということで,これまでに比べるとシンプルになった感があります.

また,以前の定義だと,血圧だけでショックかどうかが決まっていて,集中治療に従事する立場からすると違和感があったのですが,乳酸という補助的項目が増えたことで実状に近づいたように思います.

  • 敗血症 = 感染症(疑い/確定)+ 臓器不全
  • 敗血症性ショック = 敗血症 +輸液に反応しない低血圧 + 乳酸高値
  • 臓器不全はSOFAスコアで評価する

文献

  • Singer M, et al:The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock(Sepsis-3). JAMA, 315:801-810, 2016[PMID 26903338]
  • The ACCP/SCCM Consensus Conference Committee:American College of Chest Physicians/Society of Critical Care Medicine Consensus Conference: definitions for sepsis and organ failure and guidelines for the use of innovative therapies in sepsis. Crit Care Med, 20:864-874, 1992[PMID 1597042]
  • Levy MM, et al:2001 SCCM/ESICM/ACCP/ATS/SIS International Sepsis Definitions Conference. Intensive Care Med, 29:530-538, 2003[PMID 12664219]
  • Bone RC, et al:Sepsis syndrome: a valid clinical entity. Methylprednisolone Severe Sepsis Study Group. Crit Care Med, 17:389-393, 1989[PMID 2651003]
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