トントン先生の乳幼児健診〜時期別・状況別・臓器別に学べる、限られた時間での診かた・考え方のコツ

トントン先生の乳幼児健診

時期別・状況別・臓器別に学べる、限られた時間での診かた・考え方のコツ

  • 原 朋邦,児玉和彦,中村裕子/編
  • 2021年02月26日発行
  • B5判
  • 203ページ
  • ISBN 978-4-7581-1893-4
  • 定価:3,960円(本体3,600円+税)
  • 在庫:あり
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第4章 保護者・紹介先とのコミュニケーション ~医師アタマになっていませんか?~

3 保護者を不安がらせない伝え方

原 朋邦
(はらこどもクリニック)

Point

  • 健診の結果を聞くときに全く不安がない保護者はいない
  • 保護者が不安をもつことは必ずしも悪いことではない
  • 保護者の成育歴,性格,家族の構造・機能をある程度把握して伝えた方がよい
  • 保護者のヘルスリテラシーに応じた説明をする
  • 最も重要なのは優れたコミュニケーションスキルを身につけておくこと
市の4カ月児集団健診を受診された方が,その足で,パニック状態で受診されました.3児の母であるお母さんは,泣きながら話されたのは,「レックリングハウゼン病と診断された.将来,脳腫瘍,または他のがんを発病すると言われて紹介状を書くといわれた.すぐ診てほしい」でした.カフェオレ斑は数多くあり,頸定が遅れていました.

保護者は健診の結果に不安を覚えるもの

乳幼児健診で健診結果を伝えるのは健診結果のクロージングの部分に相当します.ほとんどの家族は,何と診断されるか多少の不安感は持っているものです.近年は,予防接種を2カ月でデビューというキャンペーンが効果を奏していて,保護者は,新生児期,新生児訪問,1カ月児健診,予防接種時と乳児期早期に,医師をはじめ医療職に複数回は遭遇しています.なかには,気にしていることがあるのに,尋ねることもせず指摘されないから異常ではないと自分に言い聞かせている保護者もいます.提示した症例の母親も「うちの子は痣が多いとは思っていた.今まで何も言われなかったので,普通の範囲だと思っていた」のだそうです.

ところが,診察途中で病名を告げられ,病名と脳腫瘍,がんという言葉が脳の中を走り回り紹介すると言われても待てなくて診察を受けなければという思いで来られたそうです.私にとっては初診でしたが,症候群の特徴を話し,現時点では疑い病名であり,もし,診断名のとおりだと,診断の確定と他の起こり得る疾病の合併を含めた長期のシステマティックな経過観察が必要なので専門医を紹介するし,健診を担当した医師もそのように考えたのだと思うと話をしたら,冷静になられました.健診の場では,診察をするなり,医師による問診はなく病名を告げられたそうです.私の話は冷静に聞いてくださり翌日再度,ご両親で来てくださいましたので,健診の場でも工夫をすれば冷静に聞かれたのではないかと思います.

乳幼児健診の場でどのように保護者とかかわるべきか

乳幼児健診には,個別,集団2つの形式があり,個別健診では,身体計測,問診・診察を行い,医師が健診結果を告げて今後のケアについて説明指導するという医療モデルで行われる場合が多いようです.地方自治体が行う集団健診では,歯科医師,保健師,栄養士,心理師,保育士,事務職など多職種の参加を得て行われています.この場合は問診,計測,診察,心理師や栄養士の面接の後,保健師が記録を見ながら,まとめと面接,説明,指導を行う場合が多いようです.

プライマリケアの場で行われる医療では,疾病の有無の判断,疾病があれば診断・治療のみのバイオメディカルな面だけではなく,社会・心理学的な面でのかかわりが重要視されてきました.アメリカの小児科学会がタスクフォースとして家族小児科学を加えましたし1),「Bright Futures」 2)で具体的に,多職種で共有するべき子どものヘルスケアへのビジョン,実践法,結果の評価法などを明示しています.日本も「健やか親子21」を軸にして子どものヘルスケアのシステムを構築し,乳幼児健診も育児支援を軸に行われています.多職種参加型の健診であれば,医師の対応がバイオメディカルに偏っていても他職種のかかわりで総合性が確保されます.医療モデル型の健診では,医師がバイオメディカルのみであれば健診の意義を小さくするばかりではなく,親が子育てを医療という枠の中で考えるようにしてしまう可能性があります3,4).子どもの成長ぶりを正常か病的かでみることは家族の育児不安を増すことにもなります.そうさせないためには,以下のことを心がけることが重要と考えます.

  1. ① 医師が家族学を学び家族支援を具体化する5,6)
  2. ② 社会・心理学的な視点を身につける
  3. ③ それを家族と共有しながらかかわるにはコミュニケーションスキルが重要で身につける7)
  4. ④ 伝えたいことが相手に理解されるためには相手のヘルスリテラシーを評価し8,9),それに合わせてコミュニケーションをとる
  5. ⑤ 医師に限らず説明,アドバイス,指導をする人は家族が推奨された事柄を自発的に実行に移す(アドヒアランス)10)ことを促進できるように働き掛ける

1) 家族学の学習

家族学の学びは,教科書も多数ありますし,自学自習が可能だと考えます.日本の小児科学の教科書には,育児支援とは書かれていますが,家族学的記載が乏しいようです.アメリカの小児科学会の変化は,英文の教科書には導入されていて,ネルソンの小児科学も最新版などは随分様変わりをしています.アメリカの小児科学会は更に具体化をして,「Textbook of Pediatric care」を出版しました.上記にあげた①~⑤は記載されています.小児の診療にあたる医師には読まれることを勧めているのですが購入をされる方は総合診療畑の方に多いように思います.

2) コミュニケーションスキルの習得

他方,コミュニケーションスキルは書籍から学ぶよりも学び方を選択しないと習得が難しいと言われています.松村7)はコミュニケーションスキルをすべての医師の保持すべき基本的技術であると述べています.若い世代はすでに学部教育のなかで重要視されて教育を受けています.これは個人の資質ではなくトレーニングで上達する,向上には臨床経験のみでは不十分であり,体系だった教育が必要である,いったん学習すると永続する臨床能力であると述べています.そのような教育を経験していない,ベテラン域に達している医師がむしろ,コミュニケーションスキルに問題をもっています.読書や講演を聞くことが無駄であり効果がないとは申しませんが,成人の生涯教育としては効果が大きいワークショップ形式で,ロールプレイなどによるトレーニングを体験して教育の機会を求められることを勧めます.関心をもっていただくと意外に学ぶ機会は身近にあります.

3) ヘルスリテラシーの把握

コミュニケーションをとろうとしても相手が理解できない内容では,効果は低いだけではなく,寧ろ相手に混乱を生じさせかねません.プライマリケアの場ではヘルスリテラシーを把握して,それに合わせてコミュニケーションをとることが重要視されています.リテラシーとは,識字,知識,計算,言語を使いこなせる能力を指しますが,ヘルスリテラシーは健康のリスクの軽減,維持,促進や,日常の健康に関しての,発見,判断,評価,利用できる能力を指します.リテラシーが高くてもそれに並行してヘルスリテラシーが高いとは限りません.

評価法にはいろいろ報告があるようなのですが同じ人に方法を替えて評価すると一致しなそうですし,健診という短い限られた時間では詳細な判定よりも,その場で応用可能なものがよく,「NANDA-1看護診断11)の知識が評価として利用しやすいでしょう.よく説明は平易な言葉で,専門用語を用いないで,話すようにと言われています.ヘルスリテラシーの評価と増進に使う方法として,Teach backAsk Me 3があります.既に指示や説明をされている内容を聞いて理解度を確認する,何がその子どもにとって問題なのか,何をする必要があるのか,それを行うことが何故大事なのか,を説明するのと理解度を確認する方法でスタッフの間で共有して用いると効果が上がります.もちろん,詰問調になるとか試すことが露骨になったのではよいコミュニケーションはとれません.

乳幼児健診の目標が単なる異常の有無の判断ではなく,子どもと育児支援に主眼があることを考えれば,ケアとしてかかわったことがどのように活用されるか,その面でも更なる支援が必要か否かの判断も重要です.アドヒアランス(adherence)というと処方された薬剤をどれくらい実際に投与できたかを表す際に用いることが多いようですが,このような場合にも用いられるのです.低下させる要因が知られていますので,その因子を軽減して,家族を支援することで改善できます.医師のかかわり方が改善因子にもリスク因子にもなりますので医師の責任は大きいのです.NANDA-1の領域①ヘルスプロモーションを参考にすると健診や診療の場で活かすことができます.医師はバイオメディカルな面では専門家ですがケアの専門家は看護師であり,看護学をケアに活かしましょう.

健診の場での伝え方とその後のケアへのつなげ方

さて,健診の場でどのような内容を伝える必要があるでしょうか? 診療であれば診断名やその説明をたとえ,その疾病が生命予後の悪いものであっても事実を伝えなくてはその後のケアにつなげることはできません.その場合には適切な場所,雰囲気,家族の支援を確保して時間を十分に執り行うはずです.健診の場では,そのような疾患の診断が確定されることはまずはないでしょう.それでも,腹部腫瘤から肝芽腫,ウイルムス腫瘍,神経芽細胞種と結果的に診断された例を経験したことがありますが,その場ではあくまで腫瘤があるという診断です.

既に育児不安を抱えている家族,特別なケアを要する子ども,家庭内暴力,子どもの虐待などの例もあれば,精神運動発達の問題,行動異常など見出される健康問題は多彩です.

限られた時間,限られた情報で,見出した健康問題を告げることだけではなく,その後のケアにつなぐための,あるいは今まで行われてきたケアを更に好転せしめるための糸口を作るための行為であることを自覚しておけば,伝え方は不安を徒に煽るような内容にはならないでしょう.もし,親が不安を訴える,過剰に反応して不安を募らせるようであれば,そのことが支援の必要性を示しています.むしろ,相手の心情に共感を示しながら対応していれば,不安の表現もし易くなるので,不安を訴えないのがよい対応であったとは言えないでしょう.一方的な説明ではなく,双方向性のあるコミュニケーションを保ちながら,診療のときのようなバイオメディカルに偏らない対応をすることが重要です.診断を進める必要があれば,健診を自分の施設で行っていれば,診療に切り替えて行うし,自施設でなければ,日ごろ利用している医療機関を聞き,その医療機関を介して進めるか,直接専門医療機関を紹介するかを決めて紹介状を作成します.経過をみると決めた場合は,再度診てもらう時期と医療機関を決めて依頼状を用意し,その結果などの確認を地域担当の保健師に依頼することも必要です.

漠然と経過をみましょうという態度は往々にして放置したのと同じ結果になります.

まとめ

要約しますと,

  1. ① コミュニケーションスキルを磨きましょう
  2. ② 家族小児科学,社会心理学的スキルを磨きましょう
  3. ③ ヘルスリテラシーの把握,増進を考えて対応しましょう
  4. ④ 必要とするケアが活用されるためにはアドヒアランスの評価,増強を勧めましょう
  5. ⑤ 家族と多職種による支援を可能にする対応をしましょう
  6. ⑥ それでも,家族の不安があればそれも支援の対象として対応しましょう

ウイリアム・オスラーは数多く経験することよりも賢く経験をすることを重要視したそうです.乳幼児健診に長年携わって熟練していると自他ともに考えられている医師でもコミュニケーションスキルを会得していなければ,経験の浅い医師にも行っている内容は劣る可能性があります.質の高い健診を実現するためには,老若男女ともに学びを継続しましょう.

その後再度,父親に同席してもらい,疾病の可能性,専門医による確認診断を勧めましたが夫婦ともに躊躇されました.しかし2カ月後,点頭けいれんを発症し,小児神経科を紹介し入院加療後,けいれんは消失したものの知的発達障害が残っています.

Pitfall

  • コミュニケーションスキルは医師の経験を積んでも,必ずしも会得できません
    実際に学びが必要です
  • ケアには看護診断の知識を活かさない手はありません
  • 実際に使わないでも知識だけでも導入をしませんか

文献

  • 1)「Family-Focused Behavioral Pediatrics」(Coleman WL), Lippincott Williams & Wilkins, 2001
  • 2)「Bright futures:guidelines for health supervision of infants, children, and adolescents, 4th ed」(Hagan JF, et al, eds), American Academy of Pediatrics, 2017
  • 3)「Family-Oriented Primary care, 2 ed」(McDaniel SH, et al), Springer, 2005〔日本語版:「家族志向のプライマリ・ケア」(松下 明/ 監訳),シュプリンガー,2006〕
  • 4)家族システムの概念:プライマリ・ケアにおいて家族を評価するツール.「家族志向のプライマリ・ケア」(松下 明/監訳),丸善出版,2012
  • 5)Supporting parents:Family-Oriented child healthcare. 「Family-Oriented Primary care, 2 ed」(McDaniel SH, et al), pp167-181, Springer, 2005
  • 6)田中久也:親を支援する 家族志向の子供のヘルスケア.「家族志向のプライマリ・ケア」(松下 明/監訳),pp157-169,シュプリンガー,2006
  • 7)「コミュニケーションスキル・トレーニング」(松村真司,箕輪良行/編),医学書院,2007
  • 8)Burns CE, Dunn AM:Introduction to Functional Health Patterns and Health Promotion. 「Pediatric Primary Care, 6th ed」(Burns CE, et al, eds), pp141-157, Elsevier, 2017
  • 9)Laura S:Health literacy. 「Textbook of Pediatric care, 2nd Ed」(Mclnerny TK, et al, eds), pp48-53, American Academy of Pediatric, 2017
  • 10)Robin ES:Adherence to pediatric health care recommendation. 「Textbook of Pediatric care, 2nd Ed」(Mclnerny TK, et al, eds), pp333-337, American Academy of Pediatric, 2017
  • 11)「NANDA-I 看護診断 定義と分類 2018-2020 原書第11版」(Herdman HT/編,上鶴重美/訳),医学書院,2018
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