数でとらえる細胞生物学

数でとらえる細胞生物学

  • 舟橋 啓/翻訳,Ron Milo,Rob Phillips/著
  • 2020年03月13日発行
  • B5判
  • 320ページ
  • ISBN 978-4-7581-2106-4
  • 定価:5,400円+税
  • 在庫:あり
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第1章 サイズと幾何学

mRNAとそれがコードするタンパク質のどちらが大きいのか?

図1–33

セントラルドグマで見られるメッセンジャーRNA(mRNA)分子は,細胞の生命活動を駆動する主要なタンパク質をつくり出すために必要な,はかないメッセージの1つである.このような表現は,mRNAがそれよりもはるかに大きなタンパク質装置をつくり出すための小さな設計図であるかのようなイメージを彷彿とさせる.しかし実際には,ほとんどの人が推測するものとはまったく逆の大小関係となっている.ヌクレオチド(RNA分子を構成するモノマー)は約330Daの質量を有する(BNID 103828).これは平均的なアミノ酸の質量(≈ 110Da;BNID 104877)の約3倍の重さである.さらに,単一のアミノ酸をコードするのに3つのヌクレオチドを要するため,mRNAの方が3倍余分な要素をもつことになる.このとき,コドンとそれらがコードするアミノ酸残基を比較すると,コドンは約1桁分重い.酸素結合タンパク質であるミオグロビン(myoglobin)について,コードするタンパク質に対する成熟mRNAの実際のサイズが図1–33に描かれている.微視的な世界では,設計図(mRNA)はそれがコードする対象(タンパク質)よりも小さいに違いない,という普段のわれわれの直感は成り立たない.真核生物においては,新たに転写されたRNA前駆体はしばしば多くのイントロンを含み,質量の不均衡をさらに歪ませる.

図1–34

空間的な広がりについてmRNAとそれがコードするタンパク質を比較した場合はどうだろう.mRNAの方が質量が大きいということは,空間的広がりもより大きいことを示唆するが,RNAがとりうる形状の種類は対応するタンパク質とはかなり異なる.多くのタンパク質は球状の構造であることが知られている〔次項「タンパク質の大きさの“平均”はどのくらいか?」参照〕.対照的に,mRNAはヘアピン様ステムループやシュードノットといった立体的構造中に存在する2次構造によって区切られた線形構造をとることが多く,一般にはるかに大きな広がりをもつ.“糸のような”mRNA骨格の直径は2nm未満であり,典型的な球状タンパク質の直径約5nm(BNID 100481)よりもはるかに小さい.一方,1,000ヌクレオチドの長さを有するmRNA(BNID 100022)は約≈300nmの糸尺をもつ(BNID 100023).mRNAのサイズを最も単純に推算するには,塩基対によって完全な2本鎖RNAの構造をとっていると仮定する.すると1,000塩基のmRNAについては,2本鎖の構造をとる場合500bpの長さとなり,物理的寸法は150nmを超えることになる(塩基対の長さは約0.3nmであるという経験則を使った).しかし,これはmRNAの寸法を過大に見積もっている.なぜなら,mRNAの構造は枝分かれや内部ループを多く含み,全体の長さは短くなるからである.近年の進歩により,X線小角散乱および低温電子顕微鏡を用いて,溶液中の大きなRNA分子を可視化することが可能となった(図1–34).mRNA構造の空間的な広がりを測るのに有用な統計的尺度の1つは,断面回転半径(radius of gyration)と呼ばれるものである.断面回転半径は,測定対象と有効サイズが等しい球の半径と考えることができる.RNAの場合,断面回転半径はだいたい≈20nm(BNID 107712)であることがわかり,RNAの典型的な直径が≈40nmであることを示している.したがって,何も教えられていない状態のわれわれの予想とは対照的に,質量の比と同様に,mRNAの空間的な広がりは球状タンパク質よりも約10倍大きい.

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