書 評
髙橋 英彦
(東京科学大学大学院 医歯学総合研究科 精神行動医科学/東京科学大学 総合研究院 脳統合機能研究センター)
内田直博士による「睡眠医学講義」を手に取った時に,第一印象は「睡眠医学の基礎知識」の前半は睡眠の基礎的な研究成果について,「睡眠障害を診る」の後半では臨床睡眠医学について体系的に書かれてあり,450頁を超える大著でボリュームが多いかなというものであった.しかし,図やコラムもあるので,通しで読むのもまさに,小説のように負担感なく,読みきれるし,気になるトピックスを調べるにも,重宝する.内田直博士の目の前の患者の診療に全力を尽くす臨床精神科医としての姿勢と,真理や一般性を追究する睡眠の研究者としての姿勢の両面がよくつまっている説得力のある力作である.特に基礎研究や臨床研究におけるサイエンスやエビデンスの重要性を説く姿勢は堅持する一方で,Opinion,Tips,Monologueというコラムを設け,そこでは,エビデンスとして弱いかもしれないが,実臨床で創意工夫していること,肌感覚で感じていることなど,内田直博士の研究や臨床の現場からの臨場感あふれるインフォメーションも実に有用である.睡眠の基礎的なことが理解できると,不眠症などの睡眠障害の診療のうえで,睡眠薬の処方だけでは不十分で,それ以外のいろんな引き出しを用意する必要があることも腑に落ちるであろう.また,一般の教科書に書いてある表面的な無難な情報だけでは,実際の研究や臨床現場での困難さや課題も伝わってこない.これから,睡眠の研究や診療を深めていこうとする若手の読者にとっては,どこまでがコンセンサスが得られ,一般的な手法や考え方で,どこからが未発展な領域かというのも理解できるようになっている.
睡眠というテーマは,特に精神医療の現場だけでなく,広く臨床医学の現場では,コモンなテーマである.しかし,私自身,医学部の学生時代に系統的に睡眠のことを習った記憶はないし,今は学生を教える立場になったが,多くのことを教えないといけないカリキュラムの制約の中で工夫して教えてはいるものの,系統的に教えられているかと言われると十分とは言えないと認めざるを得ない.そんななかでの内田直博士の「睡眠医学講義」は,日本国内で医学教育現場でも,必ず有用な一冊になるに違いないと確信する.睡眠に関心のある学生にも難しすぎず,医師やコメディカルにも実用的な内容になっているため,多くの読者の手元に置いてもらいたい.