医療系専門科目へ つながる生物学〜消化から学ぶ人体のしくみ

医療系専門科目へ つながる生物学

消化から学ぶ人体のしくみ

  • 冲永寛子/監,安西偕二郎/著
  • 2025年07月30日発行
  • B5判
  • 168ページ
  • ISBN 978-4-7581-2181-1
  • 3,300(本体3,000円+税)
  • 在庫:あり
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BASIC Chapter1

§1消化器系の構造と機能

学修目標
  • 消化器系の図を描いて名称を述べ,消化管(口腔,食道,胃,十二指腸,小腸,大腸),および胆のう,膵臓の構造と機能について説明できるようになる.
腸は絶えず食物やウイルス,細菌などにさらされる.それらの病原体や異物から体を守り,食物を消化・吸収しつづけるため,腸管には体全体の70%もの免疫細胞を備える免疫系が発達している.この腸管免疫系については,「ADVANCED」で説明する(➡Web pW1〜pW13).

消化器系は,主に消化管,胆のう,膵臓すいぞうから構成されている(図1-2).消化管は,口からはじまり肛門で終わる1本の管で,体を貫くことから「体の中」にあるように見える.しかし,図1-2からもわかるように,口と肛門を通して大気に通じ,消化管の内壁をたどれば体表面の皮膚に至る.すなわち,消化管の中は「内なる外界」である.

したがって,「体の外」から摂取した食物は「体の外」で消化され,取り出された栄養成分が消化管の内壁を通過し,「体の中」へ吸収されていく.

消化管の基本的な構造(Lv.1)

消化管の構造は多くの場合,内側から粘膜,粘膜下層,筋層,漿膜しょうまくという4層構造になっている(➡p157 図3-12).粘膜には,消化液,消化酵素をつくり分泌する細胞や,消化産物を吸収する細胞があるが,栄養素の消化・吸収がさかんな小腸では,効率よく消化・吸収を行えるよう,粘膜表面は絨毛じゅうもうが密集した絨毯じゅうたんのような構造になっている(➡p23 図1-5).

消化管の筋層には「輪状筋」と「縦走筋」という2種類の平滑筋(消化管や血管などの壁をつくっている筋肉)があり,それらが交互に収縮することで,蠕動ぜんどう運動(食物が逆戻りすることのないよう,先へ先へと移動させる収縮運動)とよばれる消化管運動が行われる.筋肉の名称からわかるように,消化管は輪状筋によってくびれ,あるいは縦走筋によって長軸方向に収縮して,食物を消化液と混ぜ消化・吸収しながら移動させている.

また,消化管の神経組織としては,消化管に独特な「腸管神経系」が備えられ,自律神経系(交感神経系・副交感神経系)とも協調しつつ腸管の蠕動運動や分泌・吸収を調節している(➡p156〜p157).

口腔(Lv.1)

2.1構造

口腔には歯,舌,口蓋こうがいなどがあり,3種類の唾液腺だえきせん舌下腺ぜっかせん顎下腺がっかせん耳下腺じかせんが備えられている(➡前ページ 図1-2).

2.2機能

食物をかみ砕き,唾液と混ぜ合わせて食物を消化し,嚥下えんげ運動によって食物を食道へ送り出す.その際,食物が気管に入ってムセたり,あるいは鼻腔のほうへ逆流することのないよう,嚥下に必要な運動は,意識しなくとも嚥下反射によって自動的に行われる.

唾液は,耳下腺から分泌されるαアルファアミラーゼという消化酵素と,舌下線から分泌されるムチンという粘性の高い糖タンパク質(タンパク質を構成するアミノ酸の一部に糖鎖が結合している)を含んでいる.αアミラーゼは食物中のデンプンやグリコーゲンを消化し,ムチンは食物の塊の表面を滑らかにして飲み込みやすくすると同時に,消化器粘膜を覆って感染を防いだり傷がつくことがないようにしたりしている.

食道(Lv.1)

3.1構造

食道は約25 cmの長さの管で,のどと胃の入り口の噴門ふんもん部をつないでいる.

3.2機能

食物を喉から胃へ送る働きをしている.消化管の蠕動運動は,必ず飲み込んだ食物の口側の筋肉が締まり胃の側がゆるむように行われるので(ベイリス-スターリングの腸の法則という),食物は確実に胃へ送られていく.したがって,仮に逆立ちして食事をしても食物が逆流することはない.

胃(Lv.1)

4.1構造

入り口の噴門部から,順に胃底部,胃体部,幽門前庭部,幽門に分けられる(図1-3).胃底部から胃体部は胃底腺領域とよばれ,それらの内部を覆う粘膜には,消化酵素や胃酸〔塩酸=塩化水素(HCl)の水溶液〕,粘液からなる胃液を分泌する細胞がある(➡p150 図3-4).胃液の分泌を促すホルモンの分泌細胞(G細胞)は,幽門前庭部に備えられている.

4.2機能

胃は1つの袋ではあるが,異なる機能を備えた2つの器官とみなすことができる.噴門部に近い胃底部と胃体部では受け入れた食物の貯蔵と胃液の分泌が行われ,幽門前庭部では蠕動運動による消化が行われる.また,十二指腸への食物の通過は幽門が調節する.

このように,胃の働きは胃底・胃体部と幽門前庭部の間で大きく異なっている.

①食物の貯蔵
食物を食べると,空腹時には50 mLほどであった胃底・胃体部の体積が,平滑筋が弛緩しかんして(ゆるんで)1〜2 Lにもなり(受け入れ弛緩という),満腹感を感じるまで食物を一時貯蔵する役割を担う.

②食物の消化
食物の刺激を受けたり,食物の影響で胃内のpHが高まったりすると(約pH4以上になると),幽門前庭部から消化管ホルモンが分泌され,その作用によって胃底・胃体部からは胃液が分泌される(➡p156 図3-11).そのようにして胃液と混ぜられた食物が幽門前庭部に送られてくると,蠕動運動によって攪拌かくはんされ,すりつぶされ,酵素ペプシンによってタンパク質が消化される.消化には2〜3時間かかるが,その間,噴門部を閉じて食道への逆流を防いでいる.食物が消化されて「かゆ状(糜粥びじゅくという)」になると,幽門を開閉し一定の速度で十二指腸へ少しずつ送り出すことで,小腸における消化が効率よく行われ,消化不良や下痢げりが起きないようにしている.

胃液に含まれる胃酸(塩酸,pH1〜1.5)は,食物を変性させて(つまり,タンパク質の立体構造を壊して)ペプシンによる食物の消化を助け,また食物を殺菌して腐敗や体内に持ち込まれた細菌やウイルス由来の感染を防いでいる.

このように,胃の内部を強い酸性環境にして食物の消化や感染防御が行われるが,一方,胃酸は胃壁の攻撃因子であるため,胃潰瘍かいようの原因にもなっている.

③吸収
胃では水や消化で生じたアミノ酸はほとんど吸収されないが,エタノールは摂取量の約20%が吸収され,残りは小腸で吸収される.また,ビタミンB12は胃壁の細胞(壁細胞;胃酸を分泌する➡p150 図3-4)がつくる「内因子」というタンパク質と結合し小腸で吸収される.

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