大学で学ぶ 身近な生物学 第2版

大学で学ぶ 身近な生物学 第2版

  • 吉村成弘/著
  • 2025年11月04日発行
  • B5判
  • 280ページ
  • ISBN 978-4-7581-2183-5
  • 3,410(本体3,100円+税)
  • 在庫:あり
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第Ⅰ部 生きているとはどういうことか

はじめに

1. 食べることと生きること:代謝とエネルギー

私たちは1日に3度の食事をします。2回しかしないという人もいれば4回以上する人もいるかもしれません。しかし、全く食べない人はいないでしょう。食事を取らないと私たちはいずれ死んでしまいます。しかも、ただ好きなものばかりを食べるのではなく、さまざまな栄養素をバランスよく摂らねばなりません。子どもの頃、食べ物の好き嫌いで親から注意された人も多いのではないでしょうか。肉ばかり食べて野菜を食べない、または肉を全然食べない。このような偏食は「いけない」と指導されますが、それがなぜかを理解している人は少ないかもしれません。

光合成により栄養素を体内で合成できる植物と違って、私たちの体は自分で合成できるものもあれば、できないものもあります。できないものは外部から摂取するしかありません。食事は、動物にとって最も重要な生命活動の1つです。何のために食べるのかと聞かれれば、エネルギーを得るためだというのが答えです。生体内のエネルギーは、私たちが体を動かすためだけでなく、私たちの体をつくるすべての細胞が生き続けていくために必要なのです。

2. 私たちの体に必要な栄養素

スーパーやコンビニで売っている食品を手に取ってみてください。その箱の裏面や側面には図序-1のような栄養成分表示が必ず印刷されています。エネルギー(熱量)、タンパク質、脂質、炭水化物(糖質)、ナトリウムはおそらくすべての食品に表示されています。これに加え、カリウム、ビタミン、食物繊維などの食品固有の栄養成分が、商品1個あたりもしくは100 gや100 mLあたりの量で表示されています。この成分表示のおかげで、私たちはその食品を食べる前からその成分を知ることができるだけでなく、体への影響を知ることができます。「カロリーオフ!」「塩分控えめ」「食物繊維XX mg配合」「カルシウム入り」「ビタミン配合」などのキャッチコピーを大々的に掲げることで付加価値を上げている商品を多く目にしますが、その表示が本当に正しいかどうかは、栄養成分表示をみれば一目瞭然です。

糖質、タンパク質、脂質三大栄養素とよばれます(図序-2)。これらは、体内で消化吸収されてエネルギーに変換されます。糖質(炭水化物)と脂質はよく知られたエネルギー源ですが、実はタンパク質もエネルギー源です。1gあたりのエネルギーは糖質とタンパク質がほぼ同じで、約4kcal程度です。脂質は1 gあたり約9 kcalありますので、三大栄養素のなかでは最大のエネルギーを含んでいます(図序-3)。

三大栄養素にビタミンミネラルを加えて五大栄養素といいます。ビタミンは体の調子を整える物質として知られていますね。ビタミンCやB,Eなどは新鮮な野菜や果物に含まれています。ミネラルとはナトリウム、カリウム、カルシウムなどの鉱物のことです。ビタミンもミネラルもほとんどエネルギーにはなりませんが、エネルギーへの変換や貯蔵に関係する酵素の機能を調節するのに必要です。いくらエネルギー源となる栄養素を摂取しても、ビタミンやミネラルが足りないと、エネルギーへの変換や貯蔵の調節がうまく機能しません。

3. 食べ物の運命とエネルギーの関係

口から摂取した糖質、タンパク質、脂質は、唾液や胃液に含まれる消化酵素によってバラバラにされ、最終的に腸壁から体内に吸収されます。スクロース(ショ糖)、フルクトース(果糖)、マルトース(麦芽糖)、デンプン、などの糖質は、最終的にグルコース(ブドウ糖)へ、タンパク質はアミノ酸に、脂質は脂肪酸とグリセロール(グリセリン)というより小さい物質に分解されてから吸収されます。さらに細胞内部では、これらの物質はさらに小さい物質(ピルビン酸など)へと分解されますが、その過程で物質に蓄えられたエネルギーが取り出されます。

このように、細胞内で大きな有機物を分解することによって、その物質に蓄えられたエネルギーを取り出す作業を異化といいます。逆に、小さい物質からより複雑で大きな化合物を合成する過程を同化とよびます(図序-4)。例えば、細胞はグルコースからグリコーゲンを合成したり、脂肪酸とグリセロールから脂質を合成します。また、アミノ酸からタンパク質を合成するのも同化ですし、植物が二酸化炭素と水から炭水化物をつくり出すのも同化です。

同化にはエネルギーが必要です。細胞は、わざわざエネルギーを使ってより複雑な化合物を合成し、エネルギーを蓄積しているのです。そして、必要なときにその化合物の一部を分解(異化)することで、エネルギーを取り出すことができるのです。異化と同化を併せて、代謝とよびます。動物や植物の細胞内部では、常に異化と同化が進行して、エネルギーを取り出したり貯蔵したりしています。

4. 第Ⅰ部で学ぶこと

第Ⅰ部では、この代謝の概要を、各栄養素に関して学びます。第1章では、エネルギーと代謝の関係を、第2〜3章では、糖質の代謝を学びます。細胞は、酸素を使ってグルコースを水と二酸化炭素に変換することで、大量のエネルギーをつくり出しています(呼吸)。一方で、エネルギーが過剰なときには、グリコーゲンを合成し(同化)、体内の各部(肝臓や筋肉)に貯蔵します。第4〜5章では、脂質の代謝を扱うとともに、糖質、脂質の代謝経路がどのように交差し、影響を及ぼし合い、コントロールされているかを学びます。第6章では、それまで学んできたさまざまな代謝が、ビタミンやミネラルによりいかに調節されているかを学びます。

「甘いものを食べすぎると太る」ことをみなさんは身をもって実感していることと思います。しかし、これが意味することは、各栄養素の代謝経路はお互いに密接にリンクしているということです。脂質は現代の食生活で大きな問題となっています。脂質の摂りすぎは肥満やその他の現代病を引き起こしますが、糖質の過剰摂取も肥満の大きな要因の1つです。また、動物の細胞内(体内)での異化と同化のバランスも大切です。食後、血糖値は急激に上昇しますが、やがてまたもとの値に戻ります。これは、糖質の分解と合成がお互いにコミュニケーションすることによって達成されています。ここでは、そのしくみについて学びたいと思います。

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