やさしい基礎生物学 第3版

やさしい基礎生物学 第3版

  • 南雲 保/編著,今井一志,大島海一,鈴木秀和,田中次郎/著
  • 2025年12月25日発行
  • B5判
  • 239ページ
  • ISBN 978-4-7581-2184-2
  • 3,300(本体3,000円+税)
  • 在庫:あり
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3章 遺伝子の構造と機能

3.2 細胞分裂に備えてDNAを複製する

3.2.1 半保存的複製

多細胞生物は1個の受精卵から始まり,細胞が増殖を繰り返すことでつくられる。その過程で,1つの親細胞(分裂前の細胞)がもつDNAと同じものが2つの娘細胞(分裂後の細胞)に伝えられる必要がある。そのためには,細胞の分裂が起きる前に,親細胞はあらかじめ自分がもつDNA(親鎖)を倍にする,すなわち複製しなければならない。DNAを複製するためには,親鎖の2本鎖DNAを1本ずつにほぐして,それぞれの塩基配列をもと(鋳型)に相補な塩基配列をもつDNA鎖(娘鎖)を新たに合成する。こうして完成されたDNA2本鎖のうちの1本は,鋳型になった親鎖がもともともっていたものとなる。この複製様式を半保存的複製といい,生物に共通した特徴である。

3.2.2 複製フォーク

DNAの複製は,細胞周期のS期という限られた時間内に効率よく行われなければならない(6.1.2参照)。クロマチンで複製が開始される場所は複製起点(複製開始点)とよばれ,ゲノムのサイズが小さい場合(細菌やウイルスなど)は1カ所から開始されればよい(図4A)が,多くの真核細胞のようにサイズが大きい場合には,複数の複製起点から同時に開始される(図4B)。

複製起点にDNAヘリカーゼが結合し,親鎖塩基間の結合が解かれ始める。親鎖の解離が左右に広がっていくのとほぼ同時に,親鎖に相補な娘鎖が合成される。この部位を複製フォークとよぶ(図5)。

まずはじめに,複製起点でプライマーゼという酵素が親鎖のDNA塩基配列に相補な配列をもつRNAプライマーを合成する。RNAプライマーにDNAポリメラーゼが結合し,娘鎖を合成していく(DNAポリメラーゼはむき出しの親鎖DNAから娘鎖を合成できないため,RNAでできた土台=RNAプライマーを必要とする)。親鎖の2本鎖はもともと逆に向いているため,一方は親鎖(3′→5′)を鋳型にしてDNAポリメラーゼが娘鎖を5′→3′方向へ連続的に合成していく。それに対し,他方(親鎖が5′→3′)では3′→5′方向に合成すると思うかもしれないが,DNAポリメラーゼは娘鎖を5′→ 3′方向にしか合成できず,その逆方向はできない。そこで親鎖が5′→3′の場合には,娘鎖を5′→ 3′方向に合成するため,解かれた範囲がある程度長くなるたびに新たにプライマーゼ → RNAプライマー → DNAポリメラーゼ → 娘鎖の反応を繰り返さなくてはならない。したがって,複製によって合成された娘鎖には連続的に合成されるものと不連続的に合成されるものの2種類ができる。前者をリーディング鎖,後者をラギング鎖とよぶ。ラギング鎖を合成する段階でできる短いDNA鎖が岡崎フラグメント(発見者の岡崎令治先生に敬意を表して世界的にこうよばれる)である。その後,RNAプライマーは分解され,生じたすきまに対する娘鎖をDNAポリメラーゼが新たに合成し,最後にDNAリガーゼが前後の岡崎フラグメントを連結してラギング鎖を完成させる。

(コラム) DNAの損傷と修復

DNAは日常的に損傷を受けている。紫外線や放射線・ある種の化学物質などは塩基の種類を変えてしまうし,塩基同士の結合を切ってしまったりする。生命は誕生のときからDNA損傷の危険にさらされているので,すべての生物は損傷を修復する機構を備えている(6.3図16参照)。そのため,修復機構に関係する遺伝子に異常をもつと遺伝病を発症する。例えば,日光に当たると皮膚がただれる色素性乾皮症,人よりも早く老化する早老症が知られている。

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やさしい基礎生物学 第3版

やさしい基礎生物学 第3版

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