実験医学別冊:決定版 オルガノイド実験スタンダード〜開発者直伝! 珠玉のプロトコール集
実験医学別冊

決定版 オルガノイド実験スタンダード

開発者直伝! 珠玉のプロトコール集

  • 佐藤俊朗,武部貴則,永樂元次/編
  • 2019年03月26日発行
  • B5判
  • 372ページ
  • ISBN 978-4-7581-2239-9
  • 定価:9,000円+税
  • 在庫:あり
書籍を購入する
本書を一部お読みいただけます

Ⅰ オルガノイド事始め

2〈座談会〉開発者が語るオルガノイド分化と培養のツボ

佐藤俊朗,武部貴則,永樂元次
(慶應義塾大学医学部坂口光洋記念講座(オルガノイド医学),東京医科歯科大学統合研究機構先端医歯工学創成研究部門創生医学コンソーシアム/シンシナティ小児病院幹細胞・ オルガノイド医学センター/シンシナティ小児病院消化器部門発生生物学部門,京都大学ウイルス・再生医科学研究所発生システム制御分野)

三次元培養とオルガノイド分化の実験成功のためには,培地成分,実験条件,手技,コストなどの点から,論文には書かれていない多くのコツや経験が必要となる.本稿では開発者自らの経験から,培養におけるコツ,分化の考え方,論文化のための研究戦略について議論いただいた.(進行・文:蜂須賀修司)

できれば1,できなければ0 オルガノイド開発の難しさ

―オルガノイド開発ではどんなことに苦労しましたか.

佐藤腸の上皮細胞を培養することしか考えてなかったので,結果としていわゆるオルガノイドができたということになります.ですので,最初からオルガノイドを作ろうとして工夫した訳ではありませんでした.

最初に作ることの難しさは,0か1であることです.できないと0,できたら1.成功か失敗しかないわけです.成功するまでずっと失敗が続いたわけですし,自分が成功に近づいているかどうかすら分からない状況で,精神的な辛さはありました.培養をしようと思ったのが2003年,結局できたのが2008年なので,足かけ5年です.技術的には,例えば,ニューロスフェアアッセイやES細胞の培養のような,歴史的に確立された技術があったので,組織ごとにアレンジしながら苦労してできたという感じです.

うまく行くまではまったく論文にならないのも辛いところです.大体の研究は実験をすれば何かが分かるものです.例えば,ノックアウトマウスを作ってノーフェノタイプだったとしても,ノーフェノタイプだったことが分かります.ところが培養の失敗は,ネガティブデータの質がちょっと違います.膨大なその失敗の結果,うまくいかなかったものは切り捨てていくわけです.うまくいった後にその培養方法を改良する際に,一度切り捨てた方法を敗者復活戦的に使ってみてうまくいくこともあります.そのあたりは順番が違うと駄目なので,非常に難しいところです.

永樂神経の場合は,ES 細胞から神経細胞を誘導する系は結構古くからできていたんですが,神経組織を作ることはあまりやられていませんでした.一番苦労したのは,発生過程のオーガナイズされた組織をどう作るかということです.例えば,培地や培養ディッシュをどうするか,ES細胞の状態がばらつくのをどうするか.僕はもともと神経系の研究はしていたんですが,笹井芳樹研に入って初めてES細胞や幹細胞の難しさを知ったので,幹細胞の特性を理解しつつ神経の方向に持っていくところに苦労しました.その最初の段階をクリアしたあとは,発生生物学の知見に基づいてやれば大体こうなる,ということが分かってきたので,技術的に苦労したことはあまりありませんでした.それから,オルガノイドにしたときに神経はとても死にやすい,というところに苦労しました.これは神経特有の問題で,やりながら途中で気がついたのですが,神経細胞は酸素要求性がすごく高くて,O2濃度が低いと死んでしまうのです.

あと,結局はトライアル&エラーの繰り返しなので,エラーしたときの情報をいかに残しておいて,それを別のところにうまく使える体制になっているかが重要だと思います.笹井研に入って一番役に立ったのが過去のプログレスリポートのファイルです.それは誰でも自由に見ることができたので,過去に捨てられた情報を最初から全部読んでいったことがとても有用でした.そういう経験があるので,情報をきちんと残しておくのは,ラボとして非常に重要なことだと考えています.

武部僕は初め軟骨の研究者でしたが,2010年ぐらいに軟骨の研究が一段落してから肝臓の研究をスタートしました.当初,谷口英樹先生に幹細胞生物学と組織工学の仕事を両方渡されました.幹細胞生物学の方は,ヒト幹細胞をシングルセルからクローナルに増やす,組織工学の方は,コラーゲンゲルの中に血管内皮を埋めて立体的な血管付き肝臓を作る,という仕事です.ですが,神経や腸と比べて肝・胆・膵領域の組織作りは当時から遅れていて,全然まともな組織ができていませんでした.そこで,絶対だれもやらないと考えた実験をすることにしました.

その中で,間質の間葉系の細胞と肝臓の成分の細胞を,12ウェルのローアタッチメントプレートに蒔いてみたことが,うまくいくきっかけになりました.普通は細胞がくっつかない状況だと死んでしまうと考えますが,実際にやってみると,血管のような脈管形成が起きながら立体的な組織ができたんです().そこで,細胞依存的に形作りの力が生まれること気づいたのが,僕にとってすごく大きな出来事でした.それからいろいろと系を最適化していく中で,2011年に永樂さんらの論文1)が出て,「自律的にいろいろな組織ができる余地がある.道は間違ってない」と信じることができました.収縮する力が立体的に組織を作る上ですごく大事だということを感覚的に掴んだわけですが,それをベースに系を複雑にしていく方向性で,血管を入れたり,免疫細胞を入れたり,神経を入れたりしながらより複雑な臓器を作るための突破口になる基礎技術ができてきました.それは辛いというより楽しい仕事でした.

辛かったのは,ある程度肝臓の原型ができて,機能もあることが分かってから周りを説得するプロセスですね.そのために実験の再現性の精度を高めていくのは,あまり面白くない割にかなり手間がかかります.例えばiPS細胞だと,クローンによって1日の分化のずれがあったりしますが,そこに気付くまでに半年かかりました.今でもそこに結構苦戦しています.

佐藤目的のオルガノイドができても,自分でも何かの間違いじゃないかと信じられない時があるくらいなので,論文にするときには再現性が強く求められますよね.そこで論文がブラッシュアップされるので必要なプロセスかもしれませんが.

オルガノイド分化の組み立て方と戦略

―自分が目的とする臓器について新しくオルガノイドを開発したいときは,どのように分化を組み立てて行けばよいのでしょうか.

佐藤iPS細胞を使う場合は発生生物学に精通している必要があるでしょうし,成体幹細胞の場合は,幹細胞の生物学の知識,発がんのプロセスなどの生体における状態を知る必要があります.生体内で起きている現象を要素還元的に分解していって,それを合成的なアプローチで再構成していくので,その要素がきちんとわかっていないと再構成できません.一般論で言えばそういうことになると思いますが,永樂さん,武部さんいかがでしょうか.

武部シンシナティーの僕のラボの周りには発生生物学の教授が30人ぐらいいますが,彼らは本当に発生の鬼みたいな人たちばかりで,超細かいところまで全部知っています.ただ決定的に知識が抜けているのはヒトですよね.種特異的に時間,濃度,細胞の大きさなどが違っていて,ヒトについては推測するしかない部分がかなりあります.隣のJames Wellsは消化器系のオルガノイド作りの名人ですが,彼も結局は突き詰められないから,まずはempirical(経験的)に試してみることを結構やっています.

佐藤確かにヒトでは究極的には生体の部分が分からないから,他の動物で得られた推測をオルガノイドで証明する,というアプローチも出始めていますね.

武部最近でもコロンビア大学のHans-Willem Snoeckが肺オルガノイドから同定したアプローチで,マウスでもわかっていなかったヒト肺の発生メカニズムを発見する,という仕事をしています2).そのような発生生物学の知識からオルガノイド培養を確立するのとは逆のアプローチが増えてきています.マウスでも,シングルセル解像度で消化器の発生を見ていくと,今までの理解がいかに雑駁だったかということが分かりますし,たくさんの新しいメカニズムがあることが見えつつあります.いま僕らが持っている知識は意外と粗いんです.

だから結局はやってみるしかないわけですが,その中で今まで何がやられていないかを考えることが大事だと考えています.これまであまり成功してない臓器で発生過程を再現したいのであれば,まったくやられてないことを律動化して,まだ未開の地を定義したり,古典的な実験がやられているにもかかわらずその後あまり続いていないフィールドを開拓して応用したり,とプロセスエンジニアリングみたいなことを結構やっています.

―本書の「トラブルへの対応」を見ていると,いかに完全に分化させることが難しいかがわかります.そこにはどのように取り組めばよいですか.

佐藤創発的なプロセスは予測が付かないので,結果的にできてしまったというところはありますよね.要素要素を分解して解けるものと解けないものがありますが,どうでしょうか?

武部ES細胞やiPS細胞でいうマチュレーションという点では,僕らは全然まだそういう領域に踏み込めてないので,まだまだビッグクエスチョンがいっぱいありますね.佐藤さんのアプローチと違って,僕らは初期胚の細胞を扱っているようなものなので.

佐藤ES細胞やiPS細胞はより創発性が高いですよね.

武部そうですね.発生の十月十日のプロセスをin vitroで数カ月で再現するのは現実的ではありません.そのギャップを埋めるための研究が,いまものすごく行われているところだと思います.

佐藤基本的には,ES細胞やiPS細胞から作っていく方がより複雑で,いろんなヘテロな細胞集団が時間の変化とともに互いに変わりつつ相互作用をするので,それがオートマチックに進んでいけばある意味簡単ですが,その系の外にあるシステムからの刺激は再構成しないといけないので,大変ですよね.

武部だから,放っておいても小腸はできるけれども,例えば胃の上皮を作った上で,胃酸を分泌する細胞を作ろうと思うと,途中で段階的刺激を入れる必要があります.肝臓もそうですが,放っておくと胆管になってしまうので,どうやって肝臓のアイデンティティーを維持するかは全然分かっていません.

佐藤永樂さん,神経系の分化のデフォルトはどういう感じなのでしょうか.

永樂分化のデフォルトはあると考えています.面白いのは,マウスのデフォルトとヒトのデフォルトが違うように見えることです.なぜかわかりませんが,何の刺激も入らないとマウスは間脳になりやすくて,ヒトは大脳になりやすい.デフォルトは証明するのは無理なので,論文ではデフォルトとはいわないようにしていますけど,感覚的にはデフォルトが間違いなくあります.

僕の感覚では,一番「端」の組織は作りやすいと感じています.例えば,軸の一番前とか一番後ろ.それから,眼も出っ張っているので一番端です.逆に作りにくいのは「間」です.何かと何かの間に挟まれた領域を作ろうと思うと難しい.間にできる物は間にしかできないんです.発生システムを考えると,組織間の相互作用のなだれ・・・,みたいなものがあります.端は完全にデターミナントによりばしっと決まる.そして端さえ決まれば,その間がどんどん相互作用で作られていく,というシステムが神経にあります.教科書を見てもそんなストーリーは思いつきますが,オルガノイド作りをしてみると,実際にそういうメカニズムがあることを実感できます.そこが面白いところです.

武部今まさに,そういう境界条件のオルガノイドバイオロジーが進展しそうな気がしています.最近だと胚工学でも,胚体外幹細胞と胚性幹細胞を組み合わせると胚に類似したアセンブロイドができる,という報告3)もあります.「間」を作っていく文化が,今オルガノイドのホットトピックですかね.

永樂そうですね.昔から,何かと何かをくっつけて共培養するアプローチがあると思うんですけど,これがあまりうまくいきません.まず発生学的にベースを作って,そこからパターニングの現象を一段一段積み上げていくのが大事だと思います.

だから究極的に考えると,何かを作るというより,胚全体の発生をある程度再現して,そこから部分的に取ってくる,というアプローチの方が理にかなっているようにも思います.

培地成分からみるオルガノイド培養のツボ

―オルガノイド培養の培地成分にはどんな特徴がありますか.

佐藤培養には,大きく分けて培地と基質があります.基質に関してはマトリゲルが比較的よく使われていて,他にもいろんなコラーゲンなどがあります.培地については,基本培地に相当するものと,増殖因子,場合によっては低分子化合物みたいなものがあります.

基本培地に関しては,長い歴史の中である程度栄養リッチで,かついろんな栄養素がまんべんなく入っているDMEM/F-12のような培地が基本になっています.ただ,例えば神経にグルタミン毒性があるように,組織ごとにアレンジしなきゃいけないところがあります.

あと,基本的に培地は無血清培地が多いと思いますが,神経系ではB-27のような今までの基本培地をサポートするサプリメントが開発されて,加えられるようになっています.サプリンメントはかなり組織特異性が高いので,組織やその発生のステージに合わせて試行錯誤することになります.その中でも増殖因子については,Wnt,Notch,EGFファミリーやHedgehogなど,ある程度必要とされるシグナルが決まっているので,膨大なものの中から選ぶわけではありません(Ⅲ-1).そういう中でトライアル&エラーをする感じです.

それからEph/ephrinやNotchのような接着性のシグナルは,やや複雑で使いづらいところがあります.培地で強制的に阻害することは不可能ではありませんが,細胞間の相互作用全体にかかってしまいます.増殖因子も,培地全部に入れると全部に反応してしまう.自己組織化の中でローカル(局所的)なシグナルを潰してしまうと,その組織化が悪くなってしまうので,そのような影響がないようにしないといけません.結局はしっかりと観察しながら選んでいくという感じです.

永樂培地の話ではないですが,ローカルにシグナルを作用させることは僕も結構やっています.培地にグローバルに増殖因子を入れたときと,ローカルに増殖因子を作用させたときでは,やはり起こる現象が違います.現状では,技術的にオルガノイドに対してローカルに作用させるのはなかなか難しいところがあります.シグナルの空間的な制御がこれからどんどん進んでいけば,ある組織の部分を作るだけではなくて,もう少し大きなものを作る技術が進んでいくと思います.技術の幅も,作れるものも広がって行くと思います.

佐藤理想的にはスイッチみたいなものがあって,あるスイッチを押したらローカルなものが勝手に動いてくれるのが一番理想ですよね.役者を全部外から加えるとなると,システミックになるから難しいですよね.

永樂そうですね.特にオルガノイドは浮いているので難しいですね.

武部培地にそういう因子を入れること自体,細胞にとってものすごく邪魔なことですよね.ヘテロな集団にとっては統一化の圧力が強くかかるので,できる限り避けたいわけです.だから僕らは,できる限り細胞自律的に,かつ因子をできる限り減らす方向で検討しています.

ただいくつかポイントがあって,TGF阻害剤を入れると増えやすいとか,Wntを少し強めると増えやすいとか,一般的にこれをやったら上皮っぽくなるとか,因子のざっくりとした方向付けみたいなものが頭の中にあります.あとは最終的にめざしたい形に応じて,できる限り減らしていくというような感じですね.

局所的にアプライするのは,僕もホットトピックになると思います.さっきの議論に関係しますが,自律的にせよ人為的にせよ,境界条件をちゃんと再現できるようになってくると,間にだけ起こすローカルな増殖因子のやりとりとか,Eph/ephrinやNotchの相互作用が実現できる日もそう遠くないと思います.

オルガノイド実験を論文化するときに考えること

―オルガノイドを作って説得するのは非常に難しいという話が出ましたが,オルガノイド実験を論文化する際には何がポイントになりますか?

佐藤オルガノイドはある意味テクノロジーなので,できたというだけではなかなか認められないことがあります.ですので,その技術を使って今までできなかったこと,分からなかったことを端的に明らかにした方がいいわけです.開発側としてはテクノロジーに苦労したのに,という気持ちにもなりますが.

あとは論文の勝ち負けですね.先に論文を出されたらそのテクノロジー自体が色褪せてしまうので,どこで論文化するかという駆け引きや葛藤があります.技術を少し改良したという場合は,例えばマウスでわかったことをヒトでも明らかにするとか,今までできなかったことが今回の改良によって初めてできたとか,そういう要素が大事になってくると思います.

武部僕らも同じで,ものすごく技術的なアドバンスがあれば,それ単独で勝負しにいきますし,そうでなければ,かなり洗練されたクエスチョンを持ってこないといけないですよね.佐藤さんの仕事で言えば,オルガノイドができるようになったら,今度はオルガノイド掛けるジェネティクス,それにプラスしてがんを紐解くみたいな,もう1軸を追加して新しい技術開発とクエスチョンが回っているわけですよね.だから,やはりテクノロジーとクエスチョンを両方手に持っておかないといけません.幸い僕の周りの発生生物学の研究者はクエスチョンについてとても厳しい人たちばかりです.僕はどちらかというとテクノロジー屋に近かったんですけど,最近はバランスを見ながらやるのがパブリケーションする意味でもすごく大事だと感じています.

永樂技術的に開発するというだけでは,年々論文にするのが難しくなっていて,要求されるデータも増えている実感があります.特に最近は,よほど良いクエスチョンなり,論文のストーリーなりを作っていかないと,マウスのオルガノイドの仕事で論文を通すのは難しくなっています.僕らが2008年ぐらいに大脳のオルガノイドの仕事を出したときは4),ヒトのデータさえ載せておけば結構いいジャーナルに通る時代でしたが,最近はそうでもなくて,ヒトiPS細胞を使うのは当たり前になってきています.武部さんも言ったように,論文でどういう工夫をして,どんな洗練されたクエスチョンを持ってきて,面白いストーリーを作り上げるかが大事になっています.それは頭の使い方で工夫すべきところだと思います.

まずはプロトコール通りにやってみよう

―オルガノイド実験の未経験者にアドバイスをお願いします.

佐藤オルガノイドを実験のツールとして使う人が多いと思いますが,基本はやはりプロトコール通りにきちんとやるということだと思います.この本では,開発者自身が執筆しているので,アレンジしないでまずはそのまま実験していただければと思います.

それから,残念ながら全体的にコストがかかります.本当にラボを立ち上げたばかりだと,量的にたくさん培養できないことがあるので苦労するかもしれません.その場合は,よく頭を使って最小限になるように実験を組むのが大事です.とにかくたくさん培養している人もいますが,それではやっている本人も大変,ボスもお財布が厳しい,ということになります.一般論ですが,優先度の高い実験選び,かつきちんとコントロールを置く,ということですね.

それから,実験がうまくいった後は,コストカットのために培地を自分で作るのも良いと思います.それから,最初に何かの試薬を入れて成功したから,その後もあまり大事じゃないけど,ずっと入れっぱなしだったみたいなことがよくあります.例えば,B-27とN-2の両方が培地に入っていたりしますが,それらは同じ成分だからN-2は要らないんじゃないか,ということで途中から抜いたりしています.コストカットという観点だといかがですか?

永樂もちろん心がけています.確かに,最初はリコンビナントタンパク質を入れていたけど,よくデータを見てみるとおまじない程度にしか効いてないから,もう今は抜いてしまったものはあります.後は,そのリコンビナントをなるべく低分子で代用するようにするとかですね.やはり低分子は安定なので.例えば,Wnt系には最初はいいものがなかったんですが,最近はいろいろなWntシグナルのアゴニストやアンタゴニストがあります.なるべく新しい論文に目を通して,この低分子はこれに使えるのでは,と考えながらやっています.

武部僕はコストについては,実験の初期段階ではあまり気にしないように,とあえて言っています.古くなった試薬をケチって使ったことでうまくいかなかったことが後から分かったことがあります.そのときまさにラボでコストが厳しいという話をしていて,変なプレッシャーかけるとそういうことが起きるんだ,と思った経験があります.

佐藤うまく行かなかった時は,自分の中で失敗記録としてインプットされてしまいますので,今の話のように,古くて失活していたからワークしなかったというのでは,よくないですね.

永樂確かに,試薬をどう保存して,一定の効果を担保するかはこういう実験では大事ですよね.溶かして4℃に置きっ放しということもありますから.

佐藤それから,失敗したときにどうするかも非常に大事です.論文のコレスポンディングオーサーになると,いろんな国から気軽に質問が来ます.とりあえず経験者にアドバイスを求めるのは未経験者の場合は大事です.相談を受けていて多いのは,意外に濃度を間違えていた,みたいな初歩的なミスだったりします.

武部これだけキーパーソンがリストされてまとめられた本はなかなかないので,ある程度やったという前提の上で,そういう人たちに聞くのは良いかもしれませんね.

―貴重な議論をありがとうございました.

文献

  • Eiraku M, et al:Nature, 472:51-56, 2011
  • Chen YW, et al:Nat Cell Biol, 19:542-549, 2017
  • Harrison SE, et al:Science, 356:doi:10.1126/science.aal1810, 2017
  • Eiraku M, et al:Cell Stem Cell, 3:519-532, 2008
書籍概略はこちら
実験医学別冊:決定版 オルガノイド実験スタンダード〜開発者直伝! 珠玉のプロトコール集
実験医学別冊

決定版 オルガノイド実験スタンダード

開発者直伝! 珠玉のプロトコール集

  • 佐藤俊朗,武部貴則,永樂元次/編
  • 定価:9,000円+税
  • 在庫:あり
書籍を購入する

TOP