第4章 染色工程:抗体選び,染色法 3)蛍光染色関連
Q77 自家蛍光が気になります…
A 赤血球由来の蛍光をはじめとした自家蛍光に注意しましょう
[解説]
蛍光免疫染色では,特異的なシグナルとは無関係に観察される蛍光(自家蛍光)が問題となることがあります.自家蛍光の原因は,組織中の分子そのものに由来する内因性因子と,固定などの前処理に由来する外因性因子に大別されます1).
なかでも私たちがもっとも頻繁に遭遇するのは,赤血球由来の自家蛍光です(図1).特に緑色の蛍光色素(Alexa Fluor 488など)で観察する際に問題となることがあります.このほか,リポフスチンのような加齢性色素も自家蛍光の原因となります.
外因性の自家蛍光は,主にホルムアルデヒド固定により生じます.固定過程で形成される化学構造(ホルマリンによる架橋で生じるシッフ塩基)が蛍光を発するのです.特にパラフィン切片ではこの影響がみられることが多いです.
このような自家蛍光への対策として,まずは試料調製段階での工夫が重要です.赤血球由来の自家蛍光が問題となる場合には,脱血や灌流を十分に行い,可能な限り血液成分を除去します.そのうえで,顕微鏡の露光時間やゲインを調整し,シグナルとバックグラウンドのバランス(S/N比)を最適化します.
さらに,蛍光色素の選択も有効な対策となります.赤血球由来の自家蛍光は赤色チャネルでは目立ちにくいため,観察波長を緑から赤(Alexa Fluor 647など)に変更することで改善する場合があります.また,抗体濃度をあげることによって,シグナルの増強を行うと露光条件を下げることができ,結果として自家蛍光の影響を抑えられる可能性があります.
一方で,自家蛍光を低減するためのクエンチング試薬なども利用可能ですが,目的のシグナルも含めて全体的に蛍光強度が低下する場合があるため,効果はあくまで限定的であると私たちは考えています.
また,自家蛍光かどうかを簡単に判別する方法としては,発色法と比較するとよいです(図2参照).
肺癌組織にPan-Keratin抗体を反応させ,左はAlexa Fluor 488標識二次抗体(FITCチャネル),右はAlexa Fluor 647標識二次抗体(Cy5チャネル)で検出した.FITCチャネルでは赤血球の自家蛍光が強く観察されるのに対し,Cy5チャネルでは自家蛍光の影響はほとんど認められない.スケールバー=100μm.
左)発色法,右)蛍光法.蛍光法では血管内の赤血球にバックグラウンド(自家蛍光)が観察される.自家蛍光と目的シグナルの区別は,発色法による免疫染色の結果を比較することで理解しやすくなる.スケールバー=50μm.
文献
1) Whittington NC & Wray S:Curr Protoc Neurosci, 81:2.28.1-2.28.12, 2017
