シリーズGノート:逃げない内科診療 「専門外なので…」から「全身を診る!」へ
シリーズGノート

逃げない内科診療 「専門外なので…」から「全身を診る!」へ

  • 赤井靖宏,東 光久,八田 告,鈴木 聡,西山大地,原 将之,(やっちゃえ!Genespelist)/編
  • 2021年10月29日発行
  • B5判
  • 342ページ
  • ISBN 978-4-7581-2355-6
  • 定価:5,280円(本体4,800円+税)
  • 在庫:あり
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領域⑦ 代謝・内分泌

糖尿病 ~血糖コントロールを超えた治療とは?

赤井靖宏
(奈良県立医科大学 地域医療学講座)

はじめに

「糖尿病治療の目標は何ですか?」という質問にあなたはどのように答えるだろうか?「血糖コントロールです」と答えたあなた,正解だが,間違いでもある.糖尿病治療の目標は,「糖尿病患者さんが糖尿病でない方と同じように健康長寿やQOLを達成すること」1)である.これを聞いて,「何だ,当たり前」と思ったあなた,でもこの目標達成のための糖尿病治療ができているだろうか?

糖尿病発症初期の場合

糖尿病発症初期の患者は細小血管合併症や大血管合併症を有しないことが多く,血糖コントロールが最重要の治療目標である.この時期の糖尿病患者に対する治療のゴールは,この先10〜20年後の健康長寿であり,これを達成するためには,早期に血糖コントロールを改善することが重要である.新規発症糖尿病患者を対象にした最近の大規模観察研究2)では,糖尿病発症後1年以内に血糖コントロールを良好にすること(HbA1c<6.5%)がその後の生命予後などに関連することが報告されている.また,よく知られているUKPDS研究では,糖尿病発症早期の血糖コントロールは,その後長きにわたって患者の死亡率を含めた予後に関連することが示された3).この効果は「legacy effect(遺産効果)」と称され,糖尿病発症初期の血糖コントロールの重要性を示している.一方,合併症がすでに存在する2型糖尿病患者では,厳格に血糖コントロールをしても遺産効果が認められないことが報告4)された.

血糖コントロールを最適化する最良の時期は糖尿病発症初期であり,この時期には,使い慣れた薬を使用して一刻も早く目標となる血糖コントロールを達成することが重要である.

糖尿病歴が長く,合併症があるorハイリスクの場合

糖尿病歴が長い場合は,すでに合併症があるかそのハイリスクである場合が多い.そのような症例では,合併症発症や進展を予防することが糖尿病治療目標として優先される.つまり,血糖コントロールのみを目標としてはならない.

米国食品医薬品局(FDA)が新規糖尿病薬の心血管病リスク評価を必須にして以来,SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬の心血管保護作用が明らかとなった.今や欧米の多くのガイドラインは,心血管病や慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)を有するかあるいはそれらのハイリスク患者ではSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬を優先的に使うように提唱している5,6).合併症を有するかそのハイリスクの糖尿病患者の治療目標は,何十年も先の健康長寿をめざすというよりは,数年先の心血管病などの発症・進展を抑制して命を護ることであり,この目標を達成するためには,SGLT-2阻害薬などを適正に使用して心血管病の発症・進展を抑えることが重要である.なお,これらの薬剤の心血管病リスクを評価するRCTではメトホルミンが基本薬剤として使用されていることに留意すべきである.

糖尿病の発症早期かどうかをどのように評価するか

2型糖尿病例は,しばしば病歴がはっきりしない場合があり,発症時期がよくわからない例も多い.つまり,糖尿病患者は初診時に必ず合併症を評価して糖尿病歴を推定し,患者の治療方針を決定しなければならない(血糖コントロール優先 vs. 心血管病やCKDなどの合併症対策優先).糖尿病患者の病歴や合併症を評価するには,眼底検査と尿検査(微量アルブミン尿検査)で糖尿病網膜症や糖尿病性腎症の発症を評価することが重要である.これらの合併症があれば,少なくとも10年以上の糖尿病歴があると思われる.また,心筋梗塞,心不全,心房細動や脳卒中などの大血管症についても問診する必要がある.

糖尿病と心不全

高齢化に伴ってわが国では「心不全パンデミック」が到来すると予測され7),日本循環器病学会などの関連学会では心不全対策に力を入れている.糖尿病患者は非糖尿病例に比し心不全合併率や入院率が高いことが報告されている8).心不全症例は,入院するたびに身体機能が低下することが示されており9),心不全患者の入院を予防することが患者QOLを維持するために重要である.

血糖降下薬として開発されたSGLT-2阻害薬には当初予想もされなかった作用があることがわかって注目されている.その意外な作用の1つが心不全入院予防効果である.この効果はSGLT-2阻害薬のRCTにおいてほぼ普遍的に認められており,本薬のclass effectと考えられている10).糖尿病患者の心不全リスク評価は,TIMI(thrombolysis in myocardial ischemia)リスクスコアがわかりやすい().このスコアで2点以上あれば心不全発症リスクが高いと考えられ11),心不全入院を予防するSGLT-2阻害薬などを考慮すべきである.

HbA1cを見るだけの診療になっていませんか?

糖尿病患者の健康長寿には良好な血糖コントロールが必須である.糖尿病発症から間もない症例では特に,早期に目標血糖コントロールを達成することが重要である.しかし,糖尿病患者の診療において血糖コントロールだけでよいのであろうか? こう聞かれると,「血圧やコレステロールも大事です」とすぐに答えるのであるが,本当にできているだろうか? 糖尿病は患者の総死亡率を増加させる疾患として知られているが,以下の「5つの因子」を適正にコントロールすると,非糖尿病患者と差のない状態まで総死亡率などを改善できることが報告12)されている.

「5つの因子」とは,① 喫煙,② 高血圧,③ 高LDL 血症,④ 低運動,⑤ 高血糖である.これらを適正に(ガイドラインなどで推奨されている範囲に)コントロールすると糖尿病患者の予後が改善されるのである.筆者は,これが報告された論文を読んで以来,この5 つの因子を「高3 禁煙運動」と名付けてこれを唱えながら患者診療にあたっている.高3 =高血圧,高LDL 血症,高血糖であり,加えて,禁煙と運動であり,診察のたびに「高3 禁煙運動」をチェックするのである.これら5 つが達成されている割合はどれくらいであろうか? 2019 年の日本糖尿病学会での発表13)によれば,運動を除いた4 つの因子がわが国の糖尿病例で適正にコントロールされていた割合はわずか6 %であった.これではどんなによい薬が出ても患者の命は救えない.「高3 禁煙運動」のチェックをお忘れなく.

文献

  • 「糖尿病治療ガイド2020-2021」(日本糖尿病学会/編著),p31,文光堂,2020
  • Laiteerapong N, et al:Diabetes Care, 42:416-426, 2019[PMID:30104301]
  • Holman RR, et al:N Engl J Med, 359:1577-1589, 2008[PMID:18784090]
  • Reaven PD, et al:N Engl J Med, 380:2215-2224, 2019[PMID:31167051]
  • American Diabetes Association:Diabetes Care, 43:S98-S110, 2020[PMID:31862752]
  • Cosentino F, et al:Eur Heart J, 41:255-323, 2020[PMID:31497854]
  • Shimokawa H, et al:Eur J Heart Fail, 17:884-892, 2015[PMID:26222508]
    Multiple items are found.
  • Rørth R, et al:Diabetes Care, 41:1285-1291, 2018[PMID:29626073]
  • 日本循環器学会,他:急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版),p12,2018
  • McGuire DK, et al:JAMA Cardiol:doi:10.1001/jamacardio. 2020.4511, 2020[PMID:33031522]
    SGLT-2阻害薬の作用を多くのRCTからメタ解析した論文.SGLT-2阻害薬の多面的な「実力」を評価するうえで重要な論文と思われる.
  • Berg DD, et al:Circulation, 140:1569-1577, 2019[PMID:31474116]
  • Rawshani A, et al:N Engl J Med, 379:633-644, 2018[PMID:30110583]
    糖尿病患者の生活習慣管理を含めた多面的な管理がいかに重要かを示した論文.筆者が日々の臨床で「高3禁煙運動」を唱えながら診療するきっかけとなった論文である.
  • 原田万祐子,他:Ⅲ-9-10糖尿病の有無別にみた血糖・血圧・脂質・喫煙の各管理目標達成状況が冠動脈疾患発症に及ぼす影響.糖尿病,62:S285,2019
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