患者中心の医療の方法 原著第3版

患者中心の医療の方法 原著第3版

  • 葛西龍樹/監訳,若手医師によるグローバルにプライマリ・ケアを考えるための翻訳研究会/翻訳,Moira Stewart,Judith Belle Brown,W Wayne Weston,Ian R McWhinney,Carol L McWilliam,Thomas R Freeman/原著
  • 2021年03月25日発行
  • B5判
  • 455ページ
  • ISBN 978-4-7581-2371-6
  • 定価:6,930円(本体6,300円+税)
  • 在庫:あり
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第1部 総論

第1章 はじめに

Moira Stewart1),Judith Belle Brown2),W Wayne Weston3),Thomas R Freeman4),Carol L McWilliam5)
(カナダWestern大学家庭医療学研究センター 教授1),カナダWestern大学(Ontario州London)Schulich 医学歯学校 家庭医療学講座 家庭医療学研究センター 教授/King’s University College ソーシャルワーク大学院 教授2),カナダWestern大学Schulich医学歯学校 家庭医療学 名誉教授3),カナダWestern大学家庭医療学講座 元主任教授/London健康科学センター 教授/St. Joseph’s Health Care London 教授4),カナダWestern大学 健康科学部Arthur Labatt Family 看護学大学院 教授5)

1980年代,患者中心の医療の方法が初めて概念化され研究と教育で使われ始めた時には,それは医学の周辺にありました(Brownら, 1986, 1989;Levensteinら, 1986;Stewartら, 1986, 1989;Westonら, 1989).実際,多くの教育者や研究者が患者中心の医療を「ソフト・サイエンス」だとみなしており,優しさや思いやりといった感情は人道的なケアを行う上で重要な側面であると認識されていたものの,科学的であることが重視される現代医学において,患者中心のコミュニケーションが果たす極めて重要な役割に気づいていた人はほとんどいませんでした.本書の初版では,患者中心の医療の方法を実際の臨床診療と医学教育の中核に位置づけるという目標をもって,私たちはそのすべてを記述しました(Stewartら, 1995)

以来,私たちは北米,ヨーロッパ,トルコ,アラブ首長国連邦,アルゼンチン,ブラジル,オーストラリア,ニュージーランド,日本,東南アジアに広がる,多くの医学生,専門研修医,大学院生,地域の医師,医学校の教員のグループを対象に,患者中心の医療の方法を伝えることで,たくさんの学びを得てきました.今では,患者中心の医療の方法は,学部レベルと大学院レベルの両方で,国際的に多くの医学教育カリキュラムの基礎になっています(StewartとRyan, 2012).さらに,患者中心の医療の方法を卒後研修の総括的評価の指針として使用している国もあります(Brownら, 1996;Tateら, 1999).患者中心の医療の方法に焦点を合わせた研究もこの10年間で激増しました.患者が患者中心のケアを強く望みそれに満足することだけでなく,そうしたケアが患者側のアウトカム,保健医療の利用,そしてケアにかかる費用についてもよい影響を与えることが,国際的研究で確認されています(Dwamenaら, 2012;Epstein, 2005b;Stewartら, 2011).このような研究は,患者中心のケアの国際的な定義を作る上でも役に立ちます.

やらなければいけないことは,まだたくさんあります! 現在の保健医療のコンテクストは,時に患者中心の診療を妨げています.例えば,Neumannら(2011)の最近の研究は,医学教育で学年が進むにつれて低下していることを見出しました.そのような知見が過去のものとなることを願ってきた私たちの中の何人かにとっては,モーニングコールで起こされたような驚きでした.さらに,Cassell(2013:xii)は,私たちは「いまだにそれをどのようにすれば良いのかも,どのように教えたら良いのかもわからない」と言っています.私たちが本書の第2版を出版してから10年が経ちました.第3版を送り出すにあたっての私たちの願いは,この本が建設的な情報と激励を提供することで,患者中心の医療の方法を通じてケアの改善に携わる人々の助けになることです.

患者中心の医療の方法

カナダ,オンタリオ州のWestern大学の家庭医療学講座は,1968年にIan R McWhinney博士が初代主任教授に着任した初めから,患者-医師関係についての研究を始めました.患者が医師を受診する際の「真の理由」を明らかにする彼の研究(McWhinney, 1972)によって,患者が抱えるすべての問題について広さ(身体的,社会的あるいは心理的)と深さ(患者の受診の意味)を探求する用意が整いました.当時,彼のもとで博士課程の大学院生だったMoira Stewartは,これらの興味に導かれ,患者-医師関係に焦点を合わせた研究を始めました(Stewartら, 1975, 1979;StewartとBuck, 1977).1982年,南アフリカから来た家庭医療学講座客員教授のJoseph Levenstein博士が診療モデルを発展させるための試みを私たちと共有し,講座にとってよい刺激となりました.患者中心の医療の方法は,Western大学での患者-医師コミュニケーション・グループ(Patient-Doctor Communication Group)の研究によってさらに発展しました.

本書では,患者中心の医療のモデルと方法が記述され,説明されています.概念の発展,教育,そして研究のプログラムは,過去30年間にわたり進められてきており,その教材を提供します.このプログラムは,家庭医療学のコンテクストで行われましたが,そのメッセージは,医学のすべての専門分野にも,看護,ソーシャルワーク,理学療法,作業療法など他の保健医療専門職にとっても意味のあることです.アーチで全体をつなぐ枠組みがモデルです.その枠組みを実行するやり方が医療の方法になります.本書では,枠組みとその実行の両方を患者中心の医療の方法として示します.

患者中心のケアは,臨床家のものの考え方にいくつかの変化を起こすことを前提としています.第1に,専門職が担当し患者が受け身でいるという階層的概念は,ここでは適用されません.患者中心であるためには,医療者は患者の力を引き出し,それを人間関係の中で共有できなければなりません.そしてこれは今まで伝統的に専門職の手にあった支配を放棄することを意味します.これは患者中心の診療にとって必須なモラルです.このように価値観を転換させながら,医療者は,力が共有される時に人間関係がとりうる新しい方向性を経験するでしょう.第2に,患者との人間関係で客観的な態度のみを維持することは,人の苦しみに対する受け入れがたい無神経さを生みます.患者中心であるためには,主観的なものと客観的なものとの調和,心と身体の統合を必要とします.

私たちは,今回の第3版で初めて概念の枠組みならびに図についての重要な変更を行いました.まず,今回の変更で,構成要素は6つではなく4つになりました.以前の構成要素であった「実際に実行可能であること」は,患者中心の医療の方法が実行されるコンテクストの解説としてそれほど適した構成要素ではないと考えられました.「実際に実行可能であること」の一部と考えられていた問題(時間とチームワーク)は,後ほど複数の章で扱うこととしました(訳者注:第10,11,13章).同様に,以前の構成要素であった「予防と健康増進を取り入れること」は,常に他の構成要素の中の過程の一部として起こることだと思われました.そのため,私たちは,予防と健康増進を残る4つの構成要素を扱う各章の一部として組み入れて記載することにしました.

私たちは,構成要素 ① の中に健康増進を組み入れました.患者と臨床家との間の相互作用を通じて行われる健康増進は,健康に関する患者の認識と経験を探ることを含みます.それを構成要素 ① に組み入れたことで,患者の健康と強さに焦点を合わせた,患者と臨床家の間でのその部分の対話を明示的にするという利点が加わりました.患者の機能は,常に患者の病気の経験(患者中心の概念の枠組みでは,病気の経験の4つの側面は感情,解釈,機能,そして期待です)に統合される部分でしたが,それに明示的に焦点を合わせることに加えて,健康(強みとレジリエンス)への新しい注目は,生涯にわたって人々のために設計されるケアを強化します.これは健康増進とレジリエンスについての看護学の文献,機能的欠損だけでなく機能的な強みを強調した作業療法と理学療法の文献,そして最後に,患者の機能・強み・疾患を比較しながら癒やしの1つの未来像へ統合する癒やしの本質についての新しい文献(Cassell, 2013)と軌を一にしています.

これらの検討を反映して,今では構成要素 ① は「健康,疾患,病気の経験を探る」と呼びます.同様に構成要素 ① を示す図も変わり(図1.1参照),今では3つの交差する円があります(それぞれ健康,疾患,患者の病気の経験を示しています).最も重要なことは,この新しい図の下の方にあります.ここでは,健康,疾患,病気の経験の関連ある側面が,それぞれの患者にとって完全に独特な総合体へと統合されているということを強調しています.この統合は,常に私たちの図の一部となってきましたが,本書の複数の章でこれから述べるほど,常に強調してきたわけではありません.私たちがここでそれをより強く強調したのは,保健医療には2つや3つのゴール(疾患を治療し,強みの行使を補助し,または患者をケアするなど)があるのではなく,むしろ1つのアーチで全体をつなぐゴール,患者の全人的な健康であることをはっきり示すためです.

ここで,どのように予防と健康増進を患者中心の医療の方法の4つの構成要素に組み込んだかを少しだけ振り返ってみたいと思います.私たちは,1対1で行う健康増進を構成要素 ① に組み込みました.なぜなら,それが健康の側面を患者とともに探っていくことに焦点を合わせていたからです.そして,健康教育と疾患予防の活動は,探ることではなく実際に行動を起こすことなので,構成要素 ③ の「共通の理解基盤を見出す」に組み込みました.

したがって,本書では,Box 1.1に要約し,図1.2に図示したような患者中心の医療の方法の相互に作用する4つの構成要素について説明します.

初めの3つの相互に作用し合う構成要素には,患者と医師の間の相互作用が包含されています.構成要素④は,その相互作用が起こる基盤を形成する継続した人間関係に焦点を合わせます.構成要素は教育・研究を容易にするために便宜的に使用されますが,患者中心の医療は全体を扱う考えであり,患者と医師が遭遇する個々の場面ごとに,構成要素は独特の方法で相互に作用し合体します.

患者中心の医療の方法の構成要素①のゴールは,疾患を探り,健康と病気についての患者の認識を探ることです.病歴と身体診察から疾患の経過を考察することに加えて,臨床家は積極的に患者の世界に入り込もうと努力します.それは,患者の健康観(患者にとっての意味とその人の願望,あるいは人生の目標)と病気についての独特の経験(病気であることの患者の感情,病気についての解釈,病気が患者の機能にどのように影響するか,そして最後に,臨床家に何を期待しているか)の両方を理解するためです.

構成要素②は,これらの概念(健康,疾患,病気)を全人的に理解することに統合させます.これは患者の人生の多様な側面,例えば,性格,発育歴,ライフサイクルの課題,患者が生きるさまざまなコンテクストなどへの気づきを含みます.

患者と臨床家の間に共通の理解基盤を見出すという共同作業が,この方法の構成要素③で,3つの鍵となる分野に焦点を合わせます.すなわち,問題の定義,治療ゴールの設定,そして患者と臨床家が担う役割の同定です.

構成要素④では,患者との毎回の接触が患者-臨床家関係を強化するために使われるべきであることを強調しており,それは,思いやり,共感,力の共有,癒やし,希望を含めることで達成します.これらの技術を実行するには,マインドフルネスと実践的な知恵の両方が要求され,また,転移と逆転移のように人間関係における無意識の側面を理解することも要求されます.

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患者中心の医療の方法 原著第3版

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