各科に本音を聞いた 他科コンサルト実践マニュアル〜適切なタイミング、事前に行う/行うべきでない検査・処置など、重要なポイントを解説

各科に本音を聞いた 他科コンサルト実践マニュアル

適切なタイミング、事前に行う/行うべきでない検査・処置など、重要なポイントを解説

  • 佐藤弘明,齋藤俊太郎/編
  • 2021年06月30日発行
  • B5判
  • 323ページ
  • ISBN 978-4-7581-2375-4
  • 定価:4,840円(本体4,400円+税)
  • 在庫:あり
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第2章 各科へのコンサルト

01 消化器内科
コンサルトのタイミングと初期対応

腸閉塞

腹痛・嘔吐などの病歴から腸閉塞を疑う場合,血液ガス分析(静脈血による評価も可能),血液検査(血算,Na,K,Cl,BUN,Cr,CK,LDH,CRPなど),腹部~骨盤部造影CTを施行してください.腸閉塞の診断には手術歴や過去の腸閉塞の既往が一助となりますが,内ヘルニアやクローン病など手術歴のない場合もあります.血液ガス分析で乳酸上昇や代謝性アシドーシス,血液検査で白血球,CRP,CK,LDHの上昇がある場合は血流障害による腸管壊死をきたしている可能性が高くなります(正常値であっても血流障害による腸管壊死を除外することはできません).

腸閉塞の可能性が高い場合,すみやかに消化器内科もしくは外科へコンサルトしてください(どちらにコンサルトをするかは施設により異なります).コンサルト医が到着する前に,可能であれば経鼻胃管を挿入し,胃内容物のドレナージを行ってください.症状改善や,イレウス管挿入時の嘔吐による誤嚥のリスク低減につながります(イレウス管の挿入は専門科で行います).

下痢

下痢とは,水分量の多い液状の糞便を頻回に排出する状態で,1日200 g以上の便がある場合と定義されます1).持続期間により,2週間以内の急性下痢と,2週間を超える慢性下痢に分類されます.

急性下痢の多くは対症療法のみで軽快し,コンサルト不要なケースも多いですが,脱水が高度で腎機能障害があったり,全身状態が不良であったりした場合は入院を考慮しますのでコンサルトしてください.帰宅させる場合は対症療法として整腸剤(ミヤBM® 1回1g,1日3回など)を処方する場合があります.飲水が可能であれば脱水とならないよう塩分を含む積極的な経口補水を行うよう説明します.腹痛がある場合にブチルスコポラミン(ブスコパン®)などの抗コリン薬を使用することがありますが,出血性大腸炎や細菌性下痢では禁忌ですので注意が必要です.安易な止痢薬の使用も控えてください.

慢性下痢をきたす病態には,炎症性腸疾患や腸結核をはじめとする特殊な腸管感染症,過敏性腸症候群,二次性下痢(内分泌代謝疾患,アミロイドーシス)などがあります.すぐにコンサルトする必要はありませんが,遷延する場合には甲状腺機能や糖尿病などのスクリーニングや便培養検査,CDトキシン(先行する抗菌薬の使用歴がある場合や免疫抑制状態にある患者)を行い,当該科外来受診を指示してください.

引用文献

  • 「消化器疾患最新の治療2019-2020」(小池和彦,他/編),南江堂,2019

便秘

腹部X線(立位+臥位)で便の貯留や腸管ガスの異常な拡張・ニボーの有無を評価します.腹痛が高度な場合や嘔吐を伴う場合は単なる便秘ではなく腸閉塞の可能性があるので,腹部~骨盤部CTも考慮します.

便秘症と考えられる場合は,消化器内科外来の受診をすすめてください.便秘の原因に悪性腫瘍の場合もあり,特に排便習慣が変化している場合,体重減少・血便といった症候がみられる場合などは大腸内視鏡検査を検討します.また刺激性下剤を頻回に使用している場合は他剤でのコントロールを行います.すぐに消化器内科を受診できない場合は,酸化マグネシウム(1回330 mg,1日3回など,腎機能に注意),新レシカルボン®坐剤(便秘時頓用),グリセリン浣腸(60 mL)などの処方を検討してください.ただし,器質的な閉塞が存在している可能性もあるので,センノシドやピコスルファートなどの刺激性下剤の処方は避けておくのが無難です.寝たきりの高齢者など自力排泄が難しい患者ではグリセリン浣腸や摘便が検討されます.

吐血

出血の原因検索や緊急内視鏡などを行う前に,バイタルサインの安定化が重要です1).血圧低下や頻脈,四肢末梢冷感などがある場合は,細胞外液による輸液を行い,すみやかにコンサルトしてください.同時に血液検査(血算,BUN,Cr,PT,APTT,T-bil,D-bil,AST,ALT,γ-GTP,Alb),血液型判定,クロスマッチを行います.出血性ショックの場合には,可能な限り18 Gの留置針で2ルートの静脈ラインを確保し,輸血の準備も行ってください.赤血球液がすぐに使用できない場合には5%アルブミンを,大量出血と凝固異常を伴う場合には新鮮凍結血漿を検討します.血圧が低下していなくとも,頻脈や四肢末梢冷汗といったショック徴候がないか,くり返し確認してください.β遮断薬(ビソプロロールやカルベジロールなど)を常用している患者は,循環血漿量が低下しても頻脈になりにくいため服薬歴の確認が重要です.既往歴・直近の内視鏡検査歴・抗血栓薬内服の有無などを確認しておいてください.

胃管挿入や胃洗浄は,嘔吐による誤嚥や,(食道静脈瘤破裂の場合)出血を助長させるリスクがあるため推奨されません.出血源の同定にダイナミックCTが検討されますが,必要性が低い場合もありますので,消化器内科医と相談し判断してください.

引用文献

  • 藤城光弘,他:Gastroenterological Endoscopy,57:1648-1666,2015

血便・黒色便

バイタルサインを確認し,問診(発症日,頻度,出血の量,現在も持続しているか),血液検査を行います.1回鮮血便がありその後普通便がでている場合や,ペーパーに付着する程度であればまずは痔核出血を疑います.出血が続いている場合はすみやかにコンサルトしてください.出血が止まっている場合,夜間であれば翌日の外来受診を指示してください(痔核からの出血が明らかな場合には外科).

何度も鮮血便をくり返しており診察時にも認める場合は,活動性の下部消化管出血を疑います.すみやかにコンサルトしてください.上部消化管出血でも出血量が多い場合には黒色便ではなく鮮血便を認める場合があります.血清BUN高値は上部消化管出血と下部消化管出血の鑑別に有用とされ,特にBUN/Cr>36では上部消化管出血の可能性が高くなります(脱水でも上昇するので評価する際は注意が必要です1,2)).

週単位で少量の血便が続いている場合は,悪性疾患や炎症性腸疾患などを念頭に置きます.鑑別は専門的な判断を要します.血液検査(血算,Alb,CRP,Fe,フェリチン,TIBC/UIBC,CEA,CA19-9など)と,(出血が頻回であれば)ダイナミックCTを行い,すみやかに消化器内科へコンサルトしてください.

引用文献

  • Richards RJ, et al:J Clin Gastroenterol, 12:500-504, 1990
  • Ernst AA, et al:Am J Emerg Med, 17:70-72, 1999

虚血性腸炎

突然発症の強い腹痛後,頻回の水様下痢および血便を認めることが典型的な臨床経過です.しかし,非典型例も多く否定は難しいです.リスクファクターは60歳以上,糖尿病,高血圧症,冠動脈疾患,便秘,下剤服用,アスピリン服用,ジゴキシン服用などです1).疑われる場合は腹部X線(臥位・立位),腹部~骨盤部造影CTを行います.CTでは自発痛や圧痛の部位と一致した腸管壁の肥厚や周囲脂肪織濃度の上昇の有無を確認してください.S状結腸から下行結腸が好発部位です.

虚血性腸炎は一過性型,狭窄型,壊疽型に分類されます.多くは一過性型で保存的治療で改善します.ただし,入院し絶食・補液が必要ですのでコンサルトしてください.夜間の場合は,バイタルサインに問題がなければ入院とし,翌日コンサルトでも大丈夫です.痛みに対してアセトアミノフェンなどの鎮痛薬を使用することがあります.まれではありますが,強い腹痛が持続する場合は壊疽型へ進展することがあります.このときは緊急手術が検討されますので,夜間でもコンサルトしてください.

なお,CTや腹部超音波検査で虚血性腸炎と似た所見を呈するものに腫瘍性疾患があります.確定診断のために腹痛・血便が改善した後に下部消化管内視鏡を施行します.

引用文献

  • FitzGerald JF & Hernandez Iii LO:Clin Colon Rectal Surg, 28:93-98, 2015

異物誤飲

誤飲したもの,誤飲した時間をよく確認し,その後,胸部・腹部X線撮影を施行してください.CT検査をするかどうかは病歴によって異なります.例えば,PTP誤飲やおもちゃの誤飲などでは不要な場合があります.コンサルトを行い,必要性について確認してください.

ボタン電池有鈎義歯(部分入れ歯)針・釘・魚骨などの針状異物,PTP包装など鋭的異物は消化管穿孔の危険性が高く,緊急で内視鏡が必要です(表1)1)

異物が食道内に停留している場合も穿孔の危険性が高いので,緊急で内視鏡が必要です2)

化学物質の誤飲に対して胃洗浄を施行するかは,種類,誤飲からの経過時間などを総合的に判断する必要があります.無理に胃洗浄を開始する必要はありません.コンサルト後に判断します.

異物によっては緊急での処置が不要な場合もありますが,非専門科が判断するのは難しいので,可能な限り夜間であってもコンサルトするのが無難です.

引用文献

  • 赤松泰次,他:異物摘出術ガイドライン.「消化器内視鏡ガイドライン 第3版」(日本消化器内視鏡学会 / 監,日本消化器内視鏡学会卒後教育委員会 / 編),pp206-214,医学書院,2006
  • 阿久津誠,他:頭頸部外科,29:41-46,2019
中略

高CEA血症の精査

質問 (自科で行った検査もしくは検診などで)CEA 高値の患者がいます.貴科コンサルトでよろしいでしょうか? コンサルトする前にすべきことはありますか?

コンサルトをお願いします.当科では主に内視鏡による癌の確認を行います.ただし,CEAは癌以外のさまざまな病態や要因で高値を呈することがあります.

なお,癌のスクリーニング検査としてCEAの意義は乏しいです.通常,癌治療後の再発・転移などの発見のために使用します.

コンサルト前にすべき必須のこと

呼吸器系,婦人科系など消化器系以外の検診歴や病歴を確認していただけると助かります.

コンサルト前にしてもらうと助かること

CEAは悪性疾患以外に,良性疾患,非特異反応でも高値となることがあります.過去の数値と比較が有用です.検診や病院で過去に測定していないか確認してください.またCA19-9もあわせて確認していただけるとありがたいです.過去1年以内の上部・下部内視鏡検査やCT検査の確認もお願いします.

非専門医の科ではしない方がよいこと

特にありません.

コンサルトを受けた後に行う専門的な検査,治療

癌の検査として上部消化管内視鏡,下部消化管内視鏡を施行します.胆膵系の検査として腹部超音波検査やCT/MRIを検討します.CEAは胃癌,大腸癌,胆膵系癌で上昇することが多いのですが特異性は高くありません.消化器系癌以外では肺癌,乳癌などでも上昇します1).悪性疾患以外に,喫煙,加齢,糖尿病,甲状腺機能低下,慢性肝炎,間質性肺炎などでも上昇します2).その他CEA測定試薬で使用されている抗体との非特異反応による偽高値もあります3).さまざまな検査をして悪性疾患が見つからなければ,良性の原因である可能性が高く,定期的に血液検査をし経過をみていきます.

引用文献

  • 腫瘍マーカー検査・コンパニオン診断検査.「臨床検査のガイドライン JSLM2015」(日本臨床検査医学会ガイドライン作成委員会/編),pp74-76,宇宙堂八木書店,2015
  • 大倉久直:日消外会誌,27:743-752,1994
  • 大倉久直,菅野康吉:臨床化学,24:188-195,1995

原因がはっきりしない腹痛

質問 救急外来における腹痛の対応についてです.血液検査と造影CTを行いましたが原因がはっきりしません.経過観察でよいでしょうか? 貴科にコンサルトした方がよいでしょうか?

特に腹痛が強い場合や,バイタルサインの異常を伴うような場合には積極的にコンサルトしてください.

コンサルト前にすべき必須のこと

女性の場合,問診や妊娠反応検査で妊娠の有無を確認してください.腹痛の原因として急性胃腸炎・便秘など緊急性が低い疾患が多い一方,画像で判定しづらい急性虫垂炎,消化管穿孔,上腸間膜動脈塞栓症など緊急性の高い疾患である可能性もあります.再度造影CTを確認してください.帰宅させる場合は外来受診を指示するなどフォローアップを必ず伝えてください.

コンサルト前にしてもらうと助かること

心筋梗塞(特に下壁梗塞)の可能性もあるので,12誘導心電図を記録してください.また,痛みに関する詳細な問診(性状,部位,増悪・寛解因子,放散痛,時間経過など)をお願いします.

非専門医の科ではしない方がよいこと

CT読影に自信がない場合には,無理をせず放射線科や消化器科医師へ読影を依頼してください.

コンサルトを受けた後に行う専門的な検査,治療

腹部触診を含む全身状態の評価,CTの再読影を行い,消化器疾患の原因(急性虫垂炎,消化管穿孔,腸閉塞,急性膵炎,急性化膿性胆管炎など)を特定しつつ,他科の重篤な疾患(腹部大動脈瘤破裂,上腸間膜動脈塞栓症,ケトアシドーシスなど)の有無を確認します.必要に応じて血液検査の追加,腹部超音波検査,血液ガス測定などを行います.各種検査を行っても初診時には所見がそろわず診断に至らないことがしばしばあります.帰宅指示の際には新たな症状が現れたり,痛みが増悪したりしたときには再診するように必ずお伝えします.

腸閉塞患者にはメトクロプラミドを使用しないでください

嘔吐を呈する患者にメトクロプラミド(プリンペラン®)が使用されることがあります.しかし,物理的な閉塞起点がある腸閉塞患者では,腸蠕動が亢進し,腸管内圧の上昇や消化管穿孔のリスクとなるので使用しないでください.

腸閉塞について

従来は腸蠕動機能低下によるものを麻痺性イレウス,物理的な閉塞起点を有するものを機械性イレウスと表現していました.近年は前者を「イレウス」,後者を「腸閉塞」と表現し,区別して用いるよう提唱されています1)

腸蠕動機能低下による「イレウス」に対しては腸管蠕動を亢進させるメトクロプラミドが有効な場合があります.しかし,物理的な閉塞起点を有する「腸閉塞」に対しては,メトクロプラミドを使用せず,経鼻胃管による用手的吸引などで対応します.

引用文献

  • 「急性腹症診療ガイドライン2015」(急性腹症診療ガイドライン出版委員会/編),医学書院,2015

嘔吐を安易に急性胃腸炎と診断しないでください

コンサルト元へのお願い

嘔吐を安易に急性胃腸炎と診断しないようにしてください.発熱と腹痛はあるが下痢がない場合,急性胆嚢炎,胆管炎,急性膵炎,腸閉塞,急性虫垂炎など消化器疾患だけでも多くの原因が考えられます1).嘔吐のみで発熱がなければ,急性心筋梗塞や大動脈解離などの心血管系疾患や副腎不全・糖尿病性ケトアシドーシスなどの内分泌代謝疾患も鑑別に挙がります.心血管系疾患や内分泌代謝疾患は積極的に疑い検査を行わなければ見落とす可能性が高く,予後不良となる可能性が高いので注意が必要です.また,便培養も積極的に提出をするようにしてください.

詳細な問診と診察の重要性

嘔吐に加え下痢があったとしても安易に急性胃腸炎と診断することはできません.患者が訴える「下痢」とわれわれが考える「下痢」は異なる場合があります.例えば,患者側は1回だけの軟便を「下痢」と表現していることがあります.回数・便性状をしっかり確認しましょう.食事,常用薬,周囲に同様の症状の方がいないかなどの問診や丁寧な腹部診察も重要です.

便培養について

嘔吐・発熱・下痢が日単位の経過で出現した場合など感染性腸炎が疑わしい場合は,便培養を積極的に提出してください.便培養の結果が陰性でもウイルス性の感染性腸炎を否定することはできませんが,陽性であった場合に原因微生物の特定,確定診断を行うことができます.夜間で提出が困難な場合はこの限りではありません.救急外来で非専門医が提出した場合は,患者に消化器内科受診を指示し,外来担当医にその旨を申し送ってください.

引用文献

  • 「消化器疾患最新の治療2019-2020」(小池和彦,他/編),南江堂,2019

内視鏡検査の依頼時に記載をお願いしたいこと

コンサルト元へのお願い

内視鏡検査を依頼するときは,検査目的とバイタルサインを必ず記載してください.血液検査,CT・MRIなど他検査をすでに施行していればその旨もご記載ください.患者および家族へ行った病状説明(インフォームド・コンセント)についても記載があると助かります.

緊急内視鏡依頼の際には紹介状とともに電話連絡で意識レベル,バイタルサインを伝えてください.その際に抗血小板薬・抗凝固薬,禁忌薬,アレルギーの情報も共有できるとありがたいです.

依頼目的の具体例

内視鏡検査の依頼状に非常に詳細な病歴が記載されているものの,依頼目的の記載がない場合があります.より適切な診療を行えるよう,下記のように依頼目的を明確に記載してください.

「上下部消化管内視鏡検査依頼,貧血精査」
「上部消化管内視鏡検査依頼,SCC値高値のため食道精査希望」
「下部消化管内視鏡検査依頼,便潜血検査陽性」

その他の記載事項

上記以外に,紹介状に記載していただきたい内容を列記します.

  • 主訴,現病歴:症状や病変部位を時系列で記載してください.発症様式の記載があると鑑別診断に有用です
  • 既往歴:手術歴,悪性疾患など
  • アセスメント:疑った疾患や除外した疾患
  • 薬歴:特に休薬の判断が必要となる抗血小板薬・抗凝固薬

内視鏡検査を依頼する際は抗血小板薬・抗凝固 薬の休薬可否についてコメントをお願いします

コンサルト元へのお願い

投薬中の抗血小板薬・抗凝固薬の種類および休薬の可否,また休薬可能期間についてコメントをいただけるとスムーズに内視鏡検査や治療を行うことができます.緊急時には消化器内科が休薬の判断をすることはありますが,処方医による判断が重要と考えています.

内視鏡検査・治療の際の抗血小板薬・抗凝固薬の休薬の判断

2012年に日本消化器内視鏡学会,日本循環器学会,日本血栓止血学会,日本糖尿病学会,日本神経学会,日本脳卒中学会から合同で抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン1)が発表されました.従来は生検や術後の出血性偶発症を避けるために抗血小板薬・抗凝固薬を一律で休薬することが多かったのですが,ガイドラインが発表されてからは休薬による血栓塞栓症のリスク軽減を重視し,処置の侵襲度に応じて休薬を判断する傾向となりました(p115参照).

ガイドラインでは出血危険度により内視鏡を4区分に分類し,リスクに応じて抗血小板薬・抗凝固薬の継続もしくは休薬の判断を行うよう推奨されています.

  1. ① 通常消化器内視鏡
  2. ② 内視鏡的粘膜生検
  3. ③ 出血低危険度の消化器内視鏡(バルーン内視鏡,マーキング,クリップ,点墨など)
  4. ④ 出血高危険度の消化器内視鏡(ポリープ切除術,内視鏡的粘膜切除術,経皮内視鏡的胃瘻造設術など)

①~③は休薬の必要はありません.ただしワルファリンを内服している場合はPT-INRが通常の治療域であることの確認が必要です.④に相当する治療でも,一部は抗血小板薬・抗凝固薬継続のまま処置を行うことも許容されることになっています.

近年直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulants:DOAC)が普及し,2017年にDOACを含めた追補版ガイドライン2)が発表されています.DOACは処置当日の朝から内服を中止し翌日朝から再開するなど,より短期間の休薬が提案されています.

引用文献

  • 藤本一眞,他:Gastroenterological Endoscopy,54:2075-2102,2012
  • 加藤元嗣,他:Gastroenterological Endoscopy,59:1547-1558,2017
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各科に本音を聞いた 他科コンサルト実践マニュアル

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  • 佐藤弘明,齋藤俊太郎/編
  • 定価:4,840円(本体4,400円+税)
  • 在庫:あり
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