研修医のための内科診療ことはじめ 救急・病棟リファレンス

研修医のための内科診療ことはじめ 救急・病棟リファレンス

  • 塩尻俊明/監,杉田陽一郎/著
  • 2022年03月07日発行
  • A5判
  • 888ページ
  • ISBN 978-4-7581-2385-3
  • 定価:7,920円(本体7,200円+税)
  • 在庫:あり
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第5章 神経パート 
#神経症候 / 解剖 / 疾患

16 脳梗塞の管理(急性期~慢性期)

病型診断

  • 脳梗塞の病型分類はTOAST分類に基づいて行う.イメージとしては図12を参照
分類(病態のイメージ)
  • ラクナ梗塞:穿通枝の梗塞
  • アテローム血栓性脳梗塞:主幹動脈に50%以上の狭窄を認め,その結果血流が低下する血行力学的な機序もしくは同部位の血栓が塞栓子として末梢に梗塞をきたすArtery to Artery機序(A to A)
  • 心原性脳塞栓:心臓内塞栓からの塞栓症(心房細動が原因として最多)
  • BAD(branch atheromatous disease):穿通枝の基部が閉塞することで穿通枝領域が全体的に障害され進行性の病態(TOAST分類には記載がないが進行性の病態として重要).特に外側線条体動脈や橋傍正中動脈で多い
  • 参考:ラクナ梗塞をきたす部位に微小動脈瘤が形成され,同部位が破裂する病態が脳出血(実質内)であり,主幹動脈やより末梢の脳表動脈に動脈瘤が形成され,同部位が破裂する病態がくも膜下出血である

検査

  • 心電図モニター,ホルター心電図:発作性心房細動検出のため,入院後は全例心電図モニターを最低24時間は装着する
  • 頸動脈エコー検査:可能であれば入院初日にベッドサイドで簡易的でも評価する
  • 経胸壁心エコー検査:明らかな塞栓源検索や左房径の拡大(発作性心房細動の存在を示唆)などを検索
  • 特に原因不明の場合は以下の検査を検討
    • 経食道心エコー検査:特に原因不明の場合に実施を検討する.左心耳の評価,ASDやPFOなどの右左シャントの評価(マイクロバブル法),感染性心内膜炎の評価,大動脈のプラーク評価などで重要
    • 植込み型ループレコーダー(implantable loop recorder:ILR):特に心原性が疑われ心房細動が検出できない場合などは検討する

再発予防

ラクナ梗塞・アテローム血栓性脳梗塞の場合

  • 抗血小板薬(第1選択):発症48時間以内にアスピリン162~325 mg
    • アスピリンを高用量から低用量に切り替える時期は明確なエビデンスなし
  • NIHSS<4点の軽症非心原性脳梗塞とTIA(ABCD2 score≧4点以上)の場合:DAPT(アスピリン+クロピドグレル)10~21日間併用
    • 発症24時間以内,クロピドグレルは初回300 mgでloading1,2)
    • DAPTに関して前向き臨床試験で明確なエビデンスがあるのは上記の状況のみであるが,主幹動脈狭窄やBADで神経所見が進行性の場合はやむをえずDAPTとする場合もある

心原性脳塞栓の場合

  • 抗凝固療法(あくまで再発予防であり脳梗塞の急性期治療ではない点に注意):DOAC,ワルファリンの選択に関しては別項(第8章-6~8)を参照
  • 「発症後どのくらい経過してから抗凝固療法を導入するか?」が心原性脳梗塞の難しい点である.心原性梗塞の場合は出血性梗塞のリスクと塞栓症再発のリスクを天秤にかけ判断しないといけない.ワルファリン時代のevidenceとしては発症4~14日後に再開する方法が取られていたが,DOAC時代にいつから抗凝固療法を再開するか決まったプロトコルは存在しない

原因不明の場合

  • 抗血小板薬(アスピリン)を使用:抗凝固療法は再発予防でアスピリンより優れず,むしろ出血合併症が増加すると報告3,4)

その他の全身管理

  • 体液管理:脱水は避ける
  • 血圧管理:急性期はautoregulation(血流の自動調節能)の破綻により「脳血流は全身の血圧を反映」するため,血圧が下がらないように降圧薬は基本使用しない(もともと使用していた場合はいったん中止を検討).2次予防には血圧管理が重要であるが,降圧薬をどのタイミングから導入するべきか,明確な基準はない.筆者は1週間以上経過したところから降圧薬を導入(もしくは再開)するようにしている
  • 脂質管理:非心原性脳梗塞では2次予防としてLDL≦70 mg/dLを目標としてスタチンを使用する5)
  • 血糖管理:急性期は血糖値が140~180 mg/dLになるように管理する
    • これ以上下げることの効果はRCTで実証されていない6)
  • 深部静脈血栓症予防:トイレなどで自力歩行が確立するまではDVT予防として間欠的空気圧迫法を行う7)
    • 弾性ストッキングは推奨されない8)
  • リハビリテーション:安静度・離床・リハビリをどのタイミングから行うかに関してはまだエビデンスに乏しい
    • 特にBAD,内頸動脈狭窄や主幹動脈狭窄がある場合は神経学的所見の変動が起こりやすいため,慎重な離床をした方が現状は安全と考えられる
  • 嚥下機能評価:水飲みテスト(3 mlと30 mL),反復嚥下テストなどで食事開始前に嚥下評価を行う
  • 禁煙指導

文献

  • Wang Y, et al:N Engl J Med, 369:11-19, 2013(PMID:23803136)
  • Johnston SC, et al:N Engl J Med, 379:215-225, 2018(PMID:29766750)
  • Diener HC, et al:N Engl J Med, 380:1906-1917, 2019(PMID:31091372)
  • Kasner SE, et al:Lancet Neurol, 17:1053-1060, 2018(PMID:30274772)
  • Amarenco P, et al:N Engl J Med, 382:9, 2020(PMID:31738483)
  • Johnston KC, et al:JAMA, 322:326-335, 2019(PMID:31334795)
  • Dennis M, et al:Lancet, 382:516-524, 2013(PMID:23727163)
  • Dennis M, et al:Lancet, 373:1958-1965, 2009(PMID:19477503)
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