すべての臨床医が知っておきたい漢方薬の使い方〜診療の手札を増やす!症状ごとにわかるエキス製剤の使い方とTips

すべての臨床医が知っておきたい漢方薬の使い方

診療の手札を増やす!症状ごとにわかるエキス製剤の使い方とTips

  • 安斎圭一/著
  • 2023年04月12日発行
  • A5判
  • 344ページ
  • ISBN 978-4-7581-2403-4
  • 定価:4,950円(本体4,500円+税)
  • 在庫:あり
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第1章 一般内科でよく出合う症状

5 倦怠感,食欲不振

疲労倦怠は非常に多い訴えである.諸検査で異常がない場合,現代医学では対応が難しく,ときにうつ病などの精神疾患と診断されることも少なくない.漢方では気虚,気鬱,腎虚などの症状として診断し,対処できることも少なくない.食欲不振も原因がさまざまで現代医学では対応が難しい訴えであるが,倦怠感と同様の考え方で対応が可能である.
よく処方する漢方薬の一覧 よく処方する漢方薬の詳細
他に使用が検討される漢方薬
  • 人参養栄湯にんじんようえいとう十全大補湯とほぼ同じ適応であるが,呼吸器症状(咳・肺がん術後など)がある場合に使用するとよい.高齢者は人参養栄湯がよい場合が多い
  • 加味帰脾湯かみきひとう胃腸が弱く,ストレスで不安や不眠を訴える場合に選択する.いろいろと考えすぎて不安になることが多い
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補中益気湯ほちゅうえっきとう
出典:弁惑論

構成生薬

黄耆おうぎじゅつ↑(ツ蒼朮そうじゅつ,クコ白朮びゃくじゅつ人参にんじん当帰とうき柴胡さいこ大棗たいそう陳皮ちんぴ甘草かんぞう升麻しょうま生姜しょうきょう

特徴

  • 慢性疲労の代表的補剤で気虚を治療する
  • 黄耆が重要で,四君子湯(人参・朮・茯苓・甘草)がベースの構成
  • 升麻はアトニー症状(筋トーヌスの低下)を改善する
  • 手足のだるさの訴えが重要

身体所見(四診)

  • ①手足が重い感じ②言葉に力がない③目に勢いがない④口の中に白い唾液がたまる⑤食欲不振で食べ物の味がしない⑥熱いものを好む⑦臍に手を当てると動悸を触れる⑦脈は散大で力がない.上記のうち2〜3症状あれば使用でき効果がある(津田玄仙「療治経験筆記」)

各社の漢方薬と適応症

  • ツムラ:夏やせ,病後の体力増強,結核症,食欲不振,胃下垂,感冒,痔,脱肛,子宮下垂,陰萎,半身不随,多汗症
  • クラシエ:虚弱体質,疲労倦怠,病後の衰弱,食欲不振,ねあせ
  • コタロー:結核性疾患および病後の体力増強,胃弱,貧血症,夏やせ,虚弱体質,低血圧,腺病質,痔疾,脱肛
  • 普段元気な人の場合でも,何らかの原因で体力が低下し,食欲が低下したときに頓用するとよい
    数回の服用で効果が出ることが多い
  • 加齢による体力低下がみられるときは,八味地黄丸や六味丸を併用するとよい
    補中益気湯2~3包+八味地黄丸2~3包/日
  • 体力低下がより強い場合や貧血症状や皮膚症状がある場合は十全大補湯を使用する

十全大補湯じゅうぜんたいほとう
出典:和剤局方

構成生薬

黄耆↑桂皮けいひ地黄じおう芍薬しゃくやく川芎せんきゅう朮↑(ツ蒼朮,クコ白朮)当帰↑人参↑茯苓ぶくりょう甘草

特徴

  • 補気薬(四君子湯:人参・朮・茯苓・甘草)と補血薬(四物湯:地黄・川芎・当帰・芍薬)を合わせて桂皮と黄耆を足した組み合わせである
  • 気虚と血虚の両者を認める(気血両虚)場合に使用する
  • 補中益気湯の適応となる患者よりさらに体力の低下がみられる場合に有効
  • 裏寒虚証に使用する

身体所見(四診)

  • 腹壁は軟弱なことが多い(悪性腫瘍治療の場合は腹診にこだわらなくてもよい)

各社の漢方薬と適応症

  • ツムラ,クラシエ:病後の体力低下,疲労倦怠,食欲不振,ねあせ,手足の冷え,貧血
  • コタロー:低血圧症,貧血症,神経衰弱,疲労倦怠,胃腸虚弱,胃下垂
  • 悪性腫瘍の治療などで体力が低下し,倦怠感・食欲不振を訴えるときに有効(特に抗がん剤や放射線治療時によい)
  • 胃腸が弱っていると,地黄により却って食欲低下を招くことがあるので注意
  • 補中益気湯や六君子湯を先に使用したほうがよい
  • 効果増強のために紅参末や附子を追加すると効果的
    十全大補湯3包+紅参末3g/日
    十全大補湯3包+附子末 1.5g/日
  • がん治療の場合,補中益気湯と併用するとよい場合がある
    十全大補湯3包+補中益気湯3包/日

※ほかにアコニンサン錠があり,3錠で修治附子0.5gに相当する.錠剤で使いやすい

六君子湯りっくんしとう
出典:万病回春

構成生薬

朮↑(ツ蒼朮,クコ白朮)人参↑半夏はんげ茯苓大棗↑陳皮↑甘草生姜↑

特徴

  • 補気薬(四君子湯)に半夏と陳皮を加えたもの
  • 四君子湯+二陳湯(茯苓・生姜・甘草・陳皮・半夏:悪心・嘔吐を改善)とも考えられる
  • 胃の症状への効能がメインだが,その改善とともに疲労倦怠感も改善する(疲労倦怠は胃腸症状よりも改善に時間がかかる)

身体所見(四診)

  • 心下部振水音
  • 胖大舌,歯圧痕,薄い白苔(全体にピンク色)
  • 食欲がない

各社の漢方薬と適応症

  • ツムラ,クラシエ,コタロー:胃炎,胃アトニー,胃下垂,消化不良,胃痛,嘔吐
  • 六君子湯で却って気分不快が悪化したときは,四君子湯に変更するとよい
  • ストレスの関与が強いときは香蘇散を併用する(香砂六君子湯の方意)
    六君子湯3包+香蘇散注13包/日
  • ストレスでイライラや胃痛が強いとき四逆散を併用する
    六君子湯3包+四逆散3包/日

※注1:香蘇散の保険適用に注意:ツムラ(感冒),コタロー(神経衰弱)

八味地黄丸はちみじおうがん
出典:金匱要略

構成生薬

地黄↓山茱萸さんしゅゆ山薬さんやく沢瀉たくしゃ茯苓牡丹皮ぼたんぴ桂皮↑附子ぶし

特徴

  • 加齢とともに弱くなった(腎虚による)諸症状に有効(腰痛・坐骨神経痛・白内障・精力減退・頻尿など)
  • 40歳以上は男女ともに適応がある

身体所見(四診)

  • 臍下部を押すと抵抗が弱い(臍下不仁)
  • 腹直筋下部が攣縮していることがある(小腹拘急)

各社の漢方薬と適応症

  • ツムラ:腎炎,糖尿病,陰萎,坐骨神経痛,腰痛,脚気,膀胱カタル,前立腺肥大,高血圧
  • クラシエ:下肢痛,腰痛,しびれ,老人のかすみ目,かゆみ,排尿困難,頻尿,むくみ
  • コタロー:血糖増加による口渇,糖尿病,動脈硬化,慢性腎炎,ネフローゼ,萎縮腎,膀胱カタル,浮腫,陰萎,坐骨神経痛,産後脚気,更年期障害,老人性の湿疹,低血圧

※ウチダ八味丸M:クラシエと同じ

  • 牛車腎気丸は八味地黄丸に牛膝と車前子を加えたもの.八味地黄丸と症状はほぼ同じでやや効果が強い
  • 八味地黄丸で却って火照りを感じるときは六味丸がよい
  • 地黄により胃もたれや食欲不振を訴えることがあり,食後服用や人参湯の併用で対応できる
    八味地黄丸2包+人参湯2包/日
  • 効果を増強するために附子を増量するとよい
    八味地黄丸3包+附子末0.5~1.5g/日
  • 生薬を蜂蜜で練って丸剤としたものが八味丸である
    ウチダ八味丸M 60丸/日(1包20丸)

※ほかにアコニンサン錠があり,3錠で修治附子0.5gに相当する.錠剤で使いやすい

真武湯しんぶとう
出典:傷寒論

構成生薬

茯苓芍薬↓朮↑(ツ蒼朮,コ白朮)生姜↑附子↑

特徴

  • 朮による利尿効果と附子による新陳代謝賦活が主な効果
  • 「雲の上を歩くような」と表現されるようなふらつきを訴える場合に有効
  • 長期間の服用が必要
  • 全身の冷えや,強い倦怠感を訴える場合に有効である

身体所見(四診)

  • 臍の左外側2横指部に圧痛を認める(寺師圧痛点)
  • 脈は力がない
  • 顔色不良
  • 動作が緩慢

各社の漢方薬と適応症

  • ツムラ:胃腸疾患,胃腸虚弱症,慢性腸炎,消化不良,胃アトニー症,胃下垂症,ネフローゼ,腹膜炎,脳溢血,脊髄疾患による運動ならびに知覚麻痺,神経衰弱,高血圧症,心臓弁膜症,心不全で心悸亢進,半身不随,リウマチ,老人性瘙痒症
  • コタロー:慢性下痢,胃下垂症,低血圧症,高血圧症,慢性腎炎,カゼ
  • 効果不十分のときは附子を追加する
    真武湯3包+附子末0.5~1.5g/日
  • 倦怠感が非常に強い場合は人参湯を併用するとよい(茯苓四逆湯の方意)
    真武湯3包+人参湯3包/日

※ほかにアコニンサン錠があり,3錠で修治附子0.5gに相当する.錠剤で使いやすい

小建中湯しょうけんちゅうとう
出典:傷寒論,金匱要略

構成生薬

芍薬↓桂皮↑大棗↑甘草生姜↑膠飴こうい

特徴

  • 腹痛の薬である桂枝加芍薬湯に膠飴(水あめ)を加えたもので甘いので子どもでも十分服用可
  • 元気のない小児に使用するとよい
  • 成人では高齢者に適応が多い

身体所見(四診)

  • 両側の腹直筋攣縮(左右の腹直筋が棒のように触れる)

各社の漢方薬と適応症

  • ツムラ:小児虚弱体質,疲労倦怠,神経質,慢性胃腸炎,小児夜尿症,夜なき
  • コタロー:胃腸病,小児の下痢あるいは便秘,神経質,腺病質,貧血症,頻尿,小児夜啼症,小児夜尿症
  • 疲れて学校にいけない児童や学校で腹痛を起こして保健室で休むことが多い児童,朝になると腹痛で学校にいけない児童に使用してみるとよい
  • エキス剤は量が多いので,少量の熱湯に溶いて服用するのがよい(湯に溶けやすい)
  • 成人用量は多いが,年齢に合わせて服薬量を調節する
    例:小学生,1回1包(ツムラ),1日2~3回
  • シナモンが苦手で子どもが飲めないときは,少量の湯に溶いて,りんごジュースに混ぜると飲みやすい
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