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第4章 肝臓
肝臓の正常構造
村田哲也
(JA三重厚生連鈴鹿中央総合病院病理診断科)
- 肝臓は右上腹部に存在し,成人でおおよそ1~1.2 kgの重量がある臓器である.正常では未固定の状態で淡褐色調を呈し表面は平滑で,辺縁は鋭である.なお,肝臓は肝炎ウイルスなど感染症に対する注意が必要な臓器であり,未固定の状態のマクロ写真撮影は感染防御の観点からできるだけ避けている.今回呈示する写真はすべてホルマリン固定後のものである.
- 肝門部:門脈本幹と固有肝動脈が流入し,肝管~総肝管が流出する部分.
- Cantlie線:肝部下大静脈と胆嚢窩を結ぶ線.
- 右葉:臨床的にはCantlie線から右側を指し,さらに前区域と後区域に分けられる.解剖学的右葉は前区域と後区域に加えて左葉内側区域まで右葉に含まれる.
- 左葉:臨床的にはCantlie線から左側を指し,さらに内側区域と外側区域に分けられる.解剖学的左葉は左葉外側区域だけとされる.
- 尾状葉:下大静脈と接して肝門部背側にあり,下方へ突出する部分.
- 門脈:上腸間膜静脈と脾静脈が合流して肝に流入する(門脈本幹).肝門部で右枝と左枝に分かれる.
- 肝静脈:肝臓内の血流を集めて下大静脈に合流する静脈.大きく右,中,左の3本がある.
- 肝内胆管:肝細胞で産生された胆汁を排泄する通路.肝細胞の間隙にある毛細胆管からはじまり,小葉間胆管,隔壁胆管,肝管と順次太くなる.肝門部で左右の肝管が合流し総肝管となる.
- 小葉構造(1 2):門脈域と終末肝静脈が規則正しく配列し,その間に主として肝細胞からなる肝実質部分がみられる.
- 肝小葉(1 2):肝細胞と類洞およびその構成細胞からなる肝実質部分.門脈域に近い部分(Rappaportのzone 1)と終末肝静脈に近い部分(Rappaportのzone 3)およびその中間の部分(Rappaportのzone 2)に分けられる.
- 門脈域(3):肝門部から連続して線維性結合組織の中に門脈枝,肝動脈枝および肝内胆管枝を含む部分.正常では肝内胆管枝の太さに比べ門脈枝の太さは数倍ある.門脈域の辺縁(限界板)は平滑である.
- 小葉中心域(1 2):終末肝静脈を取り囲む部分.Rappaportのzone 3に相当し,薬剤性肝障害などで障害を受けやすい(小葉中心性帯状壊死).
- 終末肝静脈もしくは中心静脈(1 2 4):類洞から集まった肝内の静脈.合流して肝静脈となり,下大静脈に流入する.
- 肝細胞と類洞およびDisse腔(4):肝細胞は肝臓の実質で最も多く,タンパク質合成や胆汁産生など多彩な機能を示す上皮細胞.通常,細胞質は好酸性で比較的豊かである.肝細胞相互が並んで一列状に配置し,これを肝細胞索とよぶ.類洞は肝細胞を裏打ちする血管.門脈枝と肝動脈枝が門脈域の辺縁で合流し,類洞に流入する.類洞壁には比較的大きな開窓があり,ここを通じて肝細胞と血液の間の物質交換を行う.最終的に終末肝静脈に流入する.肝細胞索と類洞の間にはDisse腔があり,類洞壁細胞(伊東細胞)が存在するが,正常では確認しにくいことが多い.