ICUが変わる!PICS診療実践マニュアル〜入院時から退院後まで、予後改善のためのスタンダード

ICUが変わる!PICS診療実践マニュアル

入院時から退院後まで、予後改善のためのスタンダード

  • 西田 修/監,中村謙介/編
  • 2024年02月26日発行
  • B5判
  • 231ページ
  • ISBN 978-4-7581-2412-6
  • 定価:6,600円(本体6,000円+税)
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第2部 PICSマニュアル[基礎編]

第2章 PICS評価マニュアル1 身体機能障害の評価

中西信人
(神戸大学大学院医学研究科外科系講座災害・救急医学分野)

本項では身体機能障害の評価とADLの評価について解説します.前者は直接的な身体機能を,後者は生活の中で求められる身体機能などを評価するものです.

身体機能障害の評価

  • 身体機能はMRC スコア,握力,6分間歩行を評価する.
  • MRCスコアや握力によって筋力の評価が可能である.
  • 6分間歩行はPICSの身体機能評価で最も使用されるが,評価できない患者も多い.

1)基礎知識

PICSの身体機能障害の評価にはさまざまな評価方法が用いられており,それぞれの評価方法にメリット,デメリットがあります.本書の執筆グループで行ったスコーピングレビュー&デルファイ会議1)ではMRCスコア,握力,6分間歩行などが推奨に至りました.MRCスコアはICU-AW(ICU-acquired weakness:ICU獲得筋力低下)の診断(1章-2参照)にも用いられますが,PICS評価にも推奨を得ています.MRCスコアは機器を用いずに評価可能であるものの,MMT(Manual Muscle Test:徒手筋力テスト)の評価自体が主観的になる可能性があり訓練された評価者が施行する必要があります.一方で握力や6分間歩行は患者の身体機能を客観的に数値化可能です.6分間歩行は施行できない患者も多いですが,PICS身体機能評価において最も頻繁に使用されます.QOL評価で使用されるSF-36の中にも身体機能評価項目が含まれますが,QOLの指標のため2章-4で詳細に記載します.

2)評価方法

1MRCスコア
A)特徴

MRC(Medical Research Council)スコア(表1)とは全身の12カ所のMMT(表2)の合計です.このMRCスコアの合計が48点未満または平均が4点未満であることがICU-AWの指標となります2).MRCスコアは機器を用いずに簡易に評価可能であるというメリットがあり,ICU入室中のみでなくICU退室後も継続してMRCスコアで筋力評価が可能であるとの報告もあります3).しかし,MMTの4(Good:抵抗を加えても,運動域全体にわたって動かせる)と5(Normal:強い抵抗を加えても,運動域全体にわたって動かせる)などの厳密な区分けが難しく評価者による差異に注意する必要があります.

B)手順とポイント

MMTは四肢の筋力を0点「筋収縮なし」から5点「強い抵抗に対して動かせる」まで6段階で筋力を評価する指標です.MRCスコアでは上肢は肩外転,肘屈曲,手伸展,下肢は股屈曲,膝伸展,足背屈の6ポイントを左右の12カ所で評価し,点数は0点から最大60点となります.

C)使用方法

本邦でのValidationはなされていません.使用料はかかりません.

D)エビデンス

MRCスコアは本書の執筆グループで行ったスコーピングレビュー&デルファイ会議1)で身体機能評価において3番目に多く使用されている評価方法であり,推奨点が10点中8.2点と最も高いです.

2握力
A)特徴

ICUに入室する重症患者では下肢のみでなく,上肢にも筋萎縮をきたし,握力も低下します4).PICS外来での握力測定では,握力がPICSの精神障害やQOLとも関係することがわかっています5).握力は握力計さえあれば評価可能であるというメリットがあります.

B)手順とポイント

握力は基本的には立位で測定しますが,ICUでは立位で測定できない患者も多くいます.座位やベッド上でも肘を90°屈曲させて測定することで信頼のできる値が得られます6)

握力に関しては男性28 kg未満,女性18 kg未満がサルコペニアの診断基準となりますが,PICSでのカットオフ値はありません7)

C)使用方法

測定には握力計が必要ですが,それ以上の費用は不要です.

D)エビデンス

握力は本書の執筆グループで行ったスコーピングレビュー&デルファイ会議1)で身体機能評価において2番目に多く使用されている評価方法であり,推奨点が10点中7.8点と3番目に高いスコアです.

36分間歩行
A)特徴

6分間歩行は6分間に平地を歩行した距離を主に評価する検査であり,1982年にButlandらによりはじめて報告されました8).PICSに関しては退院3カ月後の6分間歩行距離は平均361m,退院5年後は平均411mと基準値の平均よりも低下することがわかっています9).さらに人工呼吸管理を要した患者の退院3カ月後では48%の患者で6分間歩行距離が予測値の80%未満まで低下していました10)

続きは書籍にてご覧ください

文献

  • Nakanishi N, et al:Instruments to assess post-intensive care syndrome assessment: a scoping review and modified Delphi method study. Crit Care, 27:430, 2023
  • Stevens RD, et al:A framework for diagnosing and classifying intensive care unit-acquired weakness. Crit Care Med, 37:S299-S308, 2009
  • Turan Z, et al:Medical Research Council-sumscore: a tool for evaluating muscle weakness in patients with post-intensive care syndrome. Crit Care, 24:562, 2020
  • Nakanishi N, et al:Upper limb muscle atrophy associated with in-hospital mortality and physical function impairments in mechanically ventilated critically ill adults: a two-center prospective observational study. J Intensive Care, 8:87, 2020
  • Nakamura K, et al:Grip Strength Correlates with Mental Health and Quality of Life after Critical Care: A Retrospective Study in a Post-Intensive Care Syndrome Clinic. J Clin Med, 10:3044, 2021
  • Sousa-Santos AR & Amaral TF:Differences in handgrip strength protocols to identify sarcopenia and frailty - a systematic review. BMC Geriatr, 17:238, 2017
  • Chen LK, et al:Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment. J Am Med Dir Assoc, 21:300-307.e2, 2020
  • Butland RJ, et al:Two-, six-, and 12-minute walking tests in respiratory disease. Br Med J (Clin Res Ed), 284:1607-1608, 1982
  • Parry SM, et al:Six-Minute Walk Distance After Critical Illness: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Intensive Care Med, 36:343-351, 2021
  • van Gassel RJJ, et al:Functional Outcomes and Their Association With Physical Performance in Mechanically Ventilated Coronavirus Disease 2019 Survivors at 3 Months Following Hospital Discharge: A Cohort Study. Crit Care Med, 49:1726-1738, 2021
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