医師1年目からの 酸素療法と呼吸管理 この1冊でしっかりわかる!〜機器の使い分けやインシデント対応など、臨床でやるべきこと・知っておくべき知識を網羅

医師1年目からの 酸素療法と呼吸管理 この1冊でしっかりわかる!

機器の使い分けやインシデント対応など、臨床でやるべきこと・知っておくべき知識を網羅

  • 大村和也/著
  • 2024年03月08日発行
  • A5判
  • 272ページ
  • ISBN 978-4-7581-2415-7
  • 定価:4,620円(本体4,200円+税)
  • 在庫:あり
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第1章 呼吸のアセスメント

1 努力呼吸は肺を傷害する

呼吸療法って幅広くて,まず何から手を付けたらいいのか….呼吸苦を訴えていてSpO2が低ければ,とりあえず酸素投与するって思っていますが,合っていますか?
「とりあえず酸素を投与すればいい!」というのだけだと50点ですかね.呼吸が悪い患者さんに対して酸素投与がなぜ必要なのかをまず考えてみましょう.

呼吸状態が悪い患者さんへの初期対応は?

患者さんの呼吸を診る場合,「呼吸が浅くて速い」「肺雑音がする」「SpO2が低い」など,私たちは自分の五感やさまざまなモニタリングデバイスを用いて呼吸状態に異常がありそうかを評価しています.呼吸状態が悪そうだと判断したら,次の行動として,① 原因検索,② 重症度の評価,③ 原因に合った治療を行っていかなければなりません(図1).

ただ原因が何であれ,初期対応として症状を緩和させるための介入は同時並行で行っていく必要があります.特にSpO2が低下しているのであれば,とりあえず酸素投与をすることで呼吸困難などの自覚症状は緩和するでしょうから,その指示はとても重要です.もう少し呼吸への理解を深めていくため,まずは酸素投与がなぜ必要なのかを詳しく考えていきましょう.

身体に酸素を取り込むことは単純ではない

当たり前のことですが,私たちが生きていくために【呼吸】は欠かせません.呼吸することで,身体に酸素を取り込み,生命活動を行うためのエネルギーを作り出しているのです.脳の呼吸中枢から指令が出て,末梢組織で実際に酸素が利用されるまでには多くの要素が関与しており,この流れのどこに異常が生じても,身体は低酸素に曝されてしまいます(図2).

低酸素状態がもたらす身体への影響

十分な量の酸素が末梢組織で利用できない状態を低酸素症(hypoxia)と呼びます.これは,循環血液量の減少,もしくは血液中の酸素含有量の低下(=低酸素血症:hypoxemia)により引き起こされます.急性の低酸素症では,頻脈や頻呼吸・呼吸困難などから努力呼吸が現れます(第1章-3参照).さらに,脳への酸素供給が低下すると,落ち着かなくなったり,頭痛を生じたりします.重度の場合には,チアノーゼや意識障害を呈し,各臓器障害を引き起こし最終的には生命の危機に至ってしまうのです.

努力呼吸は見逃してはいけないサイン

a努力呼吸が生じるメカニズム

低酸素症で出現する努力呼吸は,呼吸療法の業界で近年注目されている症状の1つです.P-SILI(patient self-inflicted lung injury) 1)という言葉を聞いたことがありますか?日本語訳は「自発呼吸誘発性肺傷害」で,読んで字のごとく自発呼吸が肺を傷害するというものです.自発呼吸と言っても,普段私たちがしている安楽な呼吸でなく,ここでは努力呼吸を意味しています.2020年に全世界で猛威を奮ったCOVID-19において,このP-SILIが注目されました.

まずは努力呼吸が起こるメカニズムを見てみましょう(図3上段).細菌やウイルスの感染などによって肺胞が傷害されると,肺胞壁の炎症から血管透過性が亢進し,肺胞内に水がシフトします.するとその肺胞では十分なガス交換ができなくなってしまい,身体への酸素の取り込みを補おうとして努力呼吸を呈していくのです.

bP-SILIの病態

努力呼吸は,呼吸筋・呼吸補助筋をフルに使ってなんとか酸素を取り込もうとしている状態です.しかし,傷害された肺胞は肺水腫(=肺胞内が水浸し状態)になっているため,肺胞壁の炎症も相まって膨らみづらい状態にあります.一方,損傷されていない健常な肺胞はもともと膨らみやすい状態にあるので,患者さんの強い努力呼吸は健常な肺胞を優先的に膨らませることになってしまいます.そして,過度に引き伸ばされた健常な肺胞は,圧損傷(barotrauma)・容量損傷(volutrauma)を起こし,傷害されてしまうのです(図3下段).これが,P-SILIという病態です.

患者さんが呼吸困難感を訴えている場合,その努力呼吸を放っておくと健常な肺胞も傷害され,呼吸状態をさらに悪化させかねません.努力呼吸は,見逃してはいけない患者さんからのSOSです.この目に見えない悪循環を断ち切るための方法として,酸素療法が重要になってきます.

低酸素血症の4つの病態を理解する

低酸素症の原因の1つである低酸素血症は,図2のStep1〜4までの間の異常で引き起こされます.低酸素血症に至るプロセスを理解するためには,肺胞への酸素の取り込み(換気)と肺毛細血管への血流(灌流),間質を介したガス交換(拡散)の3つの要素が重要であり,4つの病態が挙げられます(図4).

  1. 肺胞低換気:十分なガス交換が行えるだけの換気が得られていない状態
  2. 換気血流不均衡:換気と灌流のバランスが崩れている状態
  3. シャント:灌流はあるものの肺胞と接触せず,ガス交換されないまま左心系に流入する状態
  4. 拡散障害:肺胞内の酸素が赤血球に取り込まれるまでの過程に障害が生じる状態

A〜D)のすべての病態において酸素投与は有効な治療法となり得ますが,肺胞低換気では必ずしも酸素投与の必要はなく換気補助のみで改善する場合もあります.ただ,臨床現場で遭遇する低酸素血症の多くは,単一の病態だけで説明することができず,これらの4つの病態が混在して起こっています.そのため,目の前の患者さんの低酸素血症がどんな病態なのかをよく考え,酸素化への介入のみが必要なのか,それとも換気への介入も必要なのかを,判断しましょう.

酸素療法の目的を考える

酸素療法は,「低酸素だから,酸素を投与する」という単純な解釈だけでなく,刻一刻と悪化していく流れをくい止める先手の治療法であることを忘れてはいけません(図5).治療法である以上,不適切に行えば逆に状態を悪化させてしまうリスクも孕んでいるので注意が必要です.

さて,本書では,シンプルな酸素療法から人工呼吸まで臨床で用いられる呼吸療法について幅広く解説していきます.最後まで読み終わると,患者さんの病態に合った呼吸療法を適切に遂行できるようになっているはずです.

文献

  • Brochard L, et al:Mechanical Ventilation to Minimize Progression of Lung Injury in Acute Respiratory Failure. Am J Respir Crit Care Med, 195:438-442, 2017
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