がん化学療法副作用対策ハンドブック 第4版〜副作用の予防・治療から、抗がん薬の減量・休薬の基準、外来での注意点まで

がん化学療法副作用対策ハンドブック 第4版

副作用の予防・治療から、抗がん薬の減量・休薬の基準、外来での注意点まで

  • 岡元るみ子/編
  • 2025年01月30日発行
  • B6変型判
  • 620ページ
  • ISBN 978-4-7581-2423-2
  • 5,170(本体4,700円+税)
  • 在庫:あり
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第1章 抗がん薬の副作用と治療

12 味覚障害

真子千華,辻󠄀村秀樹
(千葉県がんセンター 外来化学療法科)

  • 薬物療法中における味覚変化はおよそ70%の患者に起きていると報告されている1, 2)
  • 味覚障害は,食欲低下から栄養状態の低下,体重減少へとつながるだけでなく,患者のQOLや精神面にも大きな影響を及ぼす
  • 確立した治療はないが,患者の大きなストレスになりうること,口腔ケアや食事の工夫などで症状が緩和されることがあることを理解する必要がある

定義・発現機序

  • 唾液中に分泌される抗がん薬による味覚受容体細胞への刺激,味覚受容体細胞の再生障害,味覚のシグナル伝達経路の変化・障害,味蕾の直接障害によって起こると考えられている
  • 口腔粘膜炎:抗がん薬による粘膜障害,口腔カンジダ症などの感染症,放射線照射などにより味蕾が障害された場合に発症する
  • 口腔の乾燥:味蕾で味を感じるには水分が必要である.そのため,放射線照射による唾液の分泌低下や,口腔粘膜炎に伴う粘膜の乾燥により発症する
  • 末梢神経障害:味覚の伝達には,舌咽神経,顔面神経,迷走神経が関与する.これらの障害により,症状が生じる
  • 亜鉛の欠乏:亜鉛は味蕾のターンオーバーに重要な役割を果たすため,欠乏により症状が生じる

発現時期・症状

  • 原因により,治療直後に現れるものから,遅れて発現し長期間持続するものまでさまざまである
  • 味覚の感度が低下する味覚減退,本来の味とは異なる感じ方をする異味症,何を食べても嫌な味がする悪味症など症状も多彩である

原因となる薬剤

  • 味覚障害の発生頻度の高い抗がん薬を表1に示す.ただし投与量による違いや個人差はある

予防・治療

  • 標準的な予防法や治療法は確立されていない.看護師や管理栄養士による生活指導・栄養指導など多方面からのサポートを行う
  • 症状に応じて食事を工夫(表2)し,無理せず食べやすいものだけを食べてよいのだということを伝える
  • 口腔粘膜炎や口腔乾燥は症状を増悪させうるため,口腔内の清潔や乾燥の程度を評価し,口腔セルフケアの指導を行う.人工唾液や口腔ケアスプレー,唾液の分泌を促すための唾液腺マッサージやレモン水を飲むことなどが検討される.口腔カンジダ症の出現にも注意する必要がある
  • 薬剤(フルオロウラシルなど)とのキレート形成,食思不振などにより亜鉛欠乏が生じていると,味細胞のターンオーバーが障害され味覚障害が発症すると考えられている.食品(表3)やサプリメントからの亜鉛補充を試みる.
  • 血清亜鉛濃度が低下している場合は酢酸亜鉛水和物錠の処方を検討する.ただし,がん薬物療法による味覚障害に対する亜鉛補充の効果は明確にはなっていない

★処方例

ノベルジン®錠 1回25〜50 mg,1日2回,経口投与
  • 味覚障害は悪心・嘔吐などに比べて軽視される傾向があるが,重要な副作用であることを知るべきである
  • 食事内容や食事環境の指導に関しては,看護師や管理栄養士の協力が不可欠である.また,家族への指導も重要である
  • 心理的な支援は重要であるが,食事について励ますことがかえって心理的負担を増やしてしまうことがあるため注意が必要である
  • 口腔内のケア(歯磨き,うがい,舌ブラシなどを用いた舌苔の除去)
  • 口腔内の保湿(唾液分泌を促すためのレモン水や唾液腺マッサージ,こまめに飲みものをとる)
  • 亜鉛が不足しないように心がける
  • 食事の工夫(表2は実際の当院での指導内容である.また,レシピや症状別の対策をまとめたWEBサイトもある3)

文献

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  • 5,170(本体4,700円+税)
  • 在庫:あり