頭痛診療が劇的に変わる!〜すぐに活かせるエキスパートの問診・診断・処方の考え方

頭痛診療が劇的に変わる!

すぐに活かせるエキスパートの問診・診断・処方の考え方

  • 松森保彦/編,團野大介,石﨑公郁子,土井 光,滝沢 翼/著
  • 2025年01月24日発行
  • A5判
  • 208ページ
  • ISBN 978-4-7581-2424-9
  • 4,620(本体4,200円+税)
  • 在庫:あり
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第1章 ケースファイル

34歳,女性,頭痛と倦怠感が続いています,片頭痛でしょうか?

34歳の女性.高校生頃よりくり返す頭痛あり,市販薬で対応していた.今回,嘔吐を伴う頭痛あり,近医では頭部CTで異常を認めず,トリプタンとNSAIDsが処方されたものの効果なし.いつもの頭痛より長く続くため歩いて受診した.

松森保彦
(仙台頭痛脳神経クリニック)

現病歴とこれまでの経過

病 歴15歳頃に反復性頭痛を発症していたが,市販鎮痛薬の服薬でコントロールできていた.いつもの頭痛は月に2〜3回の頻度で1〜2日持続することが多かったが,生活に支障を感じることはなかった.今回,5日前より頭痛と悪心あり,市販鎮痛薬を服用したものの効果がなく,嘔吐も随伴するようになったため,3日前に近くの脳神経内科クリニックを受診した.頭部CTでは異常を認めず,片頭痛の診断でトリプタンとNSAIDsを処方されたが,効果なし.頭痛と悪心が続くため当院を歩いて受診した.

家族歴母に片頭痛の既往あり

身体所見身長 165 cm,体重 45 kg,血圧 130/95 mmHg,脈拍 88回/分,体温 36.5℃,意識は清明,神経症状を認めず,頭痛と悪心の訴えあり

前医頭部CT異常なし

まず考えること・聞くべきこと

10代より反復性頭痛を自覚しており,片頭痛の既往はありそうです.これまでは市販鎮痛薬で十分コントロールされていましたが,今回は市販鎮痛薬,また近医で処方されたトリプタンやNSAIDsも効果がありません.前医で撮影した頭部CTを取り寄せましたが,明らかな異常はないようです(図1).いつもより強い頭痛で,はじめて嘔吐を随伴しました.また片頭痛の診断基準である,持続時間が4〜72時間を超えた頭痛が遷延しています.

以上より,初診時は前兆のない片頭痛に加え,1.4.1「片頭痛重積発作」を合併していると診断しました.経口急性期治療薬が無効であったため,スマトリプタン皮下注射とメトクロプラミド静注を実施したところ症状は改善し帰宅としました.ところがその後,頭痛と悪心が再燃し倦怠感も出現してきたため,翌日に再診されました.脳MRIを実施したところ,トルコ鞍部に信号異常を認めたため,下垂体卒中と診断しました(図23).

鑑別の流れ

身体所見や頭部CTでは異常を認めず,片頭痛と考えられる既往もあるため,当初は片頭痛重積発作と考えました.トリプタン皮下注射と制吐薬により症状も改善したため,さらに確信を得て帰宅としました.しかし,これまでになく強い頭痛で,はじめて嘔吐を随伴している点でいつもと違う頭痛と考えなければなりません.また持続時間が片頭痛の診断基準を超えており,頭部CTでは診断できない二次性頭痛もあることを念頭に入れ鑑別を行う必要がありました.

いわゆる頭痛もちでも,二次性頭痛を発症する可能性は常にあります.特に初診の症例では,一次性頭痛の既往があっても,いつもと違う頭痛ではないか注意深く確認する必要があります.骨で囲まれたトルコ鞍部病変は,頭部CTでは診断できないこともあり,早期にMRIを撮影する英断も必要です.

6.9 下垂体卒中による片頭痛

治療・経過

入院時血液検査にてACTHを含む下垂体前葉ホルモン低値を認め,倦怠感は下垂体機能低下症による急性副腎不全が原因と考えられました.すみやかにステロイド補充を行い状態は改善しています.その後,保存的加療を継続していましたが,入院2日目に視力視野障害を発症したため,緊急で経鼻的蝶形骨洞手術を行いました.術後経過は良好で独歩退院となりました.

解説

下垂体卒中は稀な疾患ですが,頭痛とともに悪心や嘔吐,視力視野障害,眼球運動障害,また内分泌障害が続発し生命を脅かすこともあるため,急性頭痛の鑑別診断として重要です.

病態としては,下垂体梗塞に出血を伴い発症するとされ,典型的な下垂体卒中は,雷鳴頭痛とともに視力視野障害や複視などの視症状,悪心や嘔吐を生じることが多いです.随伴する症状として,頭痛が89.5%,視野欠損が56.6%,外眼筋麻痺が54.8%に発症すると報告されています.また下垂体前葉ホルモン低下は,LH/FSHが63.2%,ACTHが59.4%,TSHが56.3%にみられ,副腎皮質機能不全に陥ると重度の倦怠感を訴えることがあり,内分泌学的検査の結果を待たずにすみやかなステロイド補充を行う必要があります1, 2)

下垂体卒中の誘発因子として,高血圧,冠動脈バイパスなどの大手術,下垂体ホルモン負荷テスト,抗凝固療法,エストロゲン療法,ドパミンアゴニストの開始または中断,放射線療法,妊娠,頭部外傷があります2, 3).画像診断として,本症例のようにCTでは十分診断できないことも多く,下垂体卒中を疑う場合には早期のMRIを考慮する必要があります

下垂体卒中による頭痛は,遷延することは稀で通常2~7日までに改善することが多く,鎮痛薬などによる対症療法が行われます4).外科的治療を行った約50%で頭痛の改善が得られたものの,15〜24%で悪化したとの報告もあり,少なくとも頭痛を改善させるための手術適応はありません5, 6)

文献

  • Briet C, et al. Pituitary Apoplexy. Endocr Rev, 36:622-645, 2015
  • Glezer A & BronsteinMD:Pituitary apoplexy: pathophysiology, diagnosis and management. Arch Endocrinol Metab, 59:259-264, 2015
  • Singh TD, et al:Management and outcomes of pituitary apoplexy. J Neurosurg, 122:1450-1457, 2015
  • Abbara A, et al:Clinical and biochemical characteristics of patients presenting with pituitary apoplexy. Endocr Connect, 7:1058-1066, 2018
  • Siegel S, et al:Presence of headache and headache types in patients with tumors of the sellar region-can surgery solve the problem? Results of a prospective single center study. Endocrine, 56:325-335, 2017
  • Levy MJ, et al:The clinical characteristics of headache in patients with pituitary tumours. Brain, 128:1921-1930, 2005
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