それ、小児POCUSでできます!〜臨床に活きる子どものエコーの上手なあて方・見かた、教えます!

それ、小児POCUSでできます!

臨床に活きる子どものエコーの上手なあて方・見かた、教えます!

  • 竹井寛和/編
  • 2025年01月24日発行
  • B5判
  • 279ページ
  • ISBN 978-4-7581-2425-6
  • 5,500(本体5,000円+税)
  • 在庫:あり
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第2章 救急外来

6 頸部腫脹
頸部リンパ節と耳下腺をマスターしよう

木下正和
(東京都立小児総合医療センター救命救急科)

若手Dr:先生,右頸部の腫脹を主訴に受診した6歳の男児を診察しています.右頸部に圧痛を伴う腫脹がありました.他に川崎病を疑う所見はありません.化膿性リンパ節炎として内服抗菌薬を処方して帰宅にしようと思っています.

木 下:川崎病の所見も確認できていてよいね.確認のため,一緒に診察してみようか.

若手Dr:お願いします!

木 下:…これは,腫れているのは本当にリンパ節かな?

若手Dr:えっ?

木 下:ちょっとエコーで確認してみよう.

救急外来において,頸部腫脹を主訴に来院する小児は少なくありません.腫脹の原因となっている構造物はリンパ節や唾液腺(耳下腺や顎下腺など)であることが多く,その他にも甲状腺や先天性の遺残構造物,脈管奇形などの場合もあり鑑別が多岐にわたります.診察だけでは病態を判別しづらい場合も多く,すぐにCTも撮影しづらい小児ではエコーが役立ちます.

本稿では,頻度が高くかつPOCUSが役立つリンパ節と耳下腺のエコーについて解説していきます.

頸部腫脹の際のエコーの適応は?

頸部の腫脹の原因となっている構造物が何か,またその構造物がどのような状態であるかを知りたいときに行うとよいでしょう.外観や触診だけでは,原因がリンパ節なのか,耳下腺なのか,あるいは他の構造物なのか,判別が難しい場合があります.また有痛性の腫脹をきたしている場合など,触診は疼痛を伴うため特に乳幼児では入念に行いづらい場合もあります.エコーでは2で述べるようにゼリーをたっぷりと用いて優しく検査をすることができ,情報量も多く治療方針に活用することができます.

後述しますが,頸部腫脹の患者さんの診療で最も大事な点は気道の開通性の評価です.この評価を行い気道の緊急性が低いことを確認してからエコーを行いましょう.

頸部腫脹の際のエコーの方法は?

患者さんは仰臥位とし,肩枕を入れるなどして頭部をやや後屈させ,観察部位の反対側へ頸部を回旋させるとより観察しやすいです(図1A).仰臥位を嫌がる乳幼児では,保護者の抱っこや坐位でもあてることは可能です.プローブはリニア型プローブを用います.腫れて痛がる部位にあてる際には,ゼリーをたっぷり使用し,圧迫を最小限にすることを心がけましょう(図1).

頸部リンパ節のエコー所見は?

リンパ節は頸部の広範囲にわたって分布するため,網羅的に観察することは時間もかかり難しいです.POCUSとしては腫脹や疼痛のある部位を中心にプローブをあて,そこに見えるリンパ節を観察していきましょう.

正常なリンパ節は境界明瞭で辺縁も平滑な楕円形の低エコーを呈します.よく見ると,内部にリンパ節門と髄質に相当する高エコー域(図2A)があり,大きいリンパ節ほど観察しやすいです.カラードプラではこのリンパ節門から樹枝状に広がる動静脈の血流を観察できます(図2B).

小児ではリンパ節のサイズについての明確な基準は確立されていませんが,目安としてはリンパ節が最も長く描出される径を長径,それと直交する径を短径とした際に,長径が10 mmを超える場合は病的な腫大の可能性があります.また,長径/短径比が2未満(楕円形から円形に近づく)の場合は病的な腫大の可能性が高いです1)

小児のリンパ節腫大の代表的な原因としては細菌感染やウイルス感染,川崎病などがあります.全身や近傍組織の炎症に伴い反応性に腫大することも多いです.また,稀ですが悪性リンパ腫などの腫瘍性病変のこともあります.主な病態とエコー所見の特徴を下記に記します.

1)細菌性(化膿性)リンパ節炎

腫脹や圧痛が最も強い部位にプローブをあてると,周囲のリンパ節と比べてもひと際大きく腫大したリンパ節を同定できることが多いです(図3A).内部は低エコーで,血流は亢進しています.周囲の軟部組織の浮腫や腫脹を伴うことも多く,蜂窩織炎を合併している場合もあります.膿瘍形成を生じると,膿瘍部分がさらに低エコーとなり,血流は減弱・消失します(図3B).

2)ウイルス性リンパ節炎

ウイルス感染では両側あるいは複数の所属にまたがって腫大することが多く,周囲の軟部組織の変化は軽度です(*movie01は動画サンプルとして公開中).リンパ節の所見に特異的なものはありません.頻度の高いEBウイルスによる伝染性単核球症では,両側かつ円形で不規則な輝度の腫大となり,リンパ門の高輝度は消失しますが門からの血流は保たれる傾向があるともいわれます2)

3)川崎病

ウイルス感染に関連するリンパ節腫大と類似した所見を呈しますが,腫大したリンパ節が複数集簇し「ぶどうの房」のように見えるといわれます3)〔また,診断基準4)に「非化膿性頸部リンパ節腫脹」とあるように,膿瘍化しないことが特徴です(図4)〕.

4)悪性リンパ腫

腫大は単発性のこともあれば多発性のこともあります.リンパ節の形態は球状あるいはいびつで,辺縁はときに不明瞭です.新生血管を反映し,血流はリンパ門からではなく辺縁から流入する傾向があります(図5).

耳下腺のエコー所見は?

耳下腺は最も大きな唾液腺であり,耳介付着部の前下方に位置しています.耳介の下縁に横向きにプローブをあてると短軸像が得られます.耳下腺は脂肪を含むため,隣接する筋肉やリンパ節と比してやや高エコーで,均質な構造物として描出されます(図6A).内部には耳下腺内リンパ節が目立つこともあります.パワードプラまたはカラードプラでは内部の血流を確認できます(図6B).耳下腺の定量的な大きさや形態の評価は難しいため,左右で比較しましょう.全体が丸みを帯びているか,辺縁が凸か,実質のエコー輝度,腺管拡張の有無などに着目するとよいです.

小児で耳下腺腫大を呈する代表的な疾患には,流行性耳下腺炎や反復性耳下腺炎,化膿性耳下腺炎などがあります.

1)流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)

ムンプスウイルスによる耳下腺炎で3〜6歳頃に多く,耳下腺は両側性ときに片側性に腫大します(図7A).エコーでは内部エコーは不均一でやや低エコーを呈します.腺管の拡張はみられません.カラードプラでは健側と比べて血流が亢進します(図7B).

2)反復性耳下腺炎

2〜6歳頃に発症し,年に数回両側または片側の耳下腺の有痛性腫脹をきたす疾患です.多くの症例では10歳頃までに自然治癒します.耳下腺自体の腫大は目立たず,耳下腺内部の腺管拡張が生じるため2〜4 mm程度の円形の低エコー領域が多数認められます(図8).

3)細菌性(化膿性)耳下腺炎

口腔内から耳下腺に細菌が侵入し起こります.エコーでは片側の耳下腺全体が腫大し,内部エコーは不均質に低下し,カラードプラでは血流が亢進します.この時点では流行性耳下腺炎と類似し,エコー所見のみで鑑別することは難しい場合も多いです.膿瘍を形成すると血流を欠く低または無エコー域を認めます(図9).

頸部腫脹に対するエコーのエビデンスは?

頸部の腫脹を主訴に小児救急外来を受診した小児75例中58例で,救急外来でのPOCUSと放射線科エコーにおける診断が同じで,高い一致率(κ=0.71:95%CI 0.6-0.83)であったとする報告があります5)

頸部の腫脹を主訴に小児救急外来を受診した小児925例について,POCUSで方針を決めた群と放射線科エコーで方針を決めた群とを比較して,前者のほうがER滞在時間が短かった(中央値69分 vs 154分)とする報告があります6)

臨床でのリアルなピットフォールは?

1)気道の開通性の評価が優先

気道の評価を怠って頸部エコーに躍起にならないようにしましょう.頸部腫脹の患者さんの診療で最も大事な点は気道の開通性の評価です.頭部を前方に突き出すsniffing positionの姿勢や流涎,吸気時の胸骨上窩の陥没,吸気性喘鳴(ストライダー),といった上気道狭窄の兆候がみられる場合にはゆっくりエコーをしている余裕はありません.エコーのせいで泣かせたりなんてもってのほかです.モニタリングできる場所へ移動させ,麻酔科医など気道確保に長けた上級医と相談しましょう.

2)エコー所見以外の臨床所見も合わせて診断

エコー所見のみで安易に診断しないように注意しましょう.小児のリンパ節腫大では,上記以外にねこひっかき病や,結核性リンパ節炎,菊池病など他の鑑別疾患も数多くあります.川崎病や急性リンパ性白血病のように,リンパ節腫大は全身疾患の症状の1つに過ぎないかもしれません.あるいは付近の炎症の波及による二次性の腫大を見ているだけで,深頸部膿瘍や咽後膿瘍が主病態かもしれません.頸部腫脹の原因となる構造物は,ここで解説したリンパ節と耳下腺以外にも,血管腫・血管奇形,嚢胞や腫瘍などさまざまです.何がどのように腫れているかを確認するのにエコーは有用ですが,診断については他の臨床所見も合わせて考え,治療反応性に乏しい場合には再評価することも重要です.

臨床でのリアルな活用場面は?

頸部の腫脹の原因かリンパ節なのか耳下腺なのか,はたまた他の構造物なのか,触診だけでは迷ったことはありませんか? また,耳下腺だとしたら流行性耳下腺炎なのか反復性耳下腺炎なのか,リンパ節だとしたら単一なのか複数なのか,膿瘍形成があるのか,穿刺排膿できそうなタイミングなのか(内部が十分に液状化しているのか),といったことは触診だけでは自信がもてないことがあります.そんな場面でエコーを活用することで,鑑別に役立つだけでなく,自分の診察へのフィードバックとしても活用できます

例えば川崎病を疑う乳児で,頸部リンパ節腫大の有無を判別しにくいと感じたことはありませんか? 頸部リンパ節腫大は川崎病において診断基準の1項目を担う重要な所見ですが,乳児では頸部の皮下脂肪が厚く,また前述したとおり「ぶどうの房」のように複数が同時に腫大したリンパ節は一つひとつの縁を触知しづらいことから,触診では腫大の有無が判断できないことがあります.そんなときにエコーで見ると,触診ではわからなかった複数のリンパ節の腫大が明らかで川崎病の診断に役立つ,といった場面を筆者はしばしば経験します.

木 下:さて,腫れている部位をエコーで見てみようか.

若手Dr:腫れて痛がっているのは…こ,これはリンパ節ではなく耳下腺のようです!

木 下:そうだね.反復性耳下腺炎を疑うような腺管拡張はみられないし,これは流行性耳下腺炎のようだね.

若手Dr:おたふくかぜ!…ということは?

木 下:うん,抗菌薬は要らないし,代わりに出席停止などの感染隔離,あとは難聴や精巣炎などの合併症の可能性を説明をしないといけないね.

若手Dr:方針が全然違いますね….この腫れ方は耳下腺だったのかぁ.耳下腺炎って思ったより下のほうまで腫れるんですね.エコーのおかげで,診察の見直しにもなりました!

引用文献

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