医師1年目になる君たちへ:誰も教えてくれない些細で、とても大切なこと

医師1年目になる君たちへ:誰も教えてくれない些細で、とても大切なこと

  • 山本健人/著
  • 2025年02月26日発行
  • A5判
  • 286ページ
  • ISBN 978-4-7581-2432-4
  • 3,520(本体3,200円+税)
  • 在庫:あり
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1章 必須の臨床知識 手技

01 国試では問われない 「針」と「糸」と「管」のお話

多くの研修医が最初に困るのが、針と糸の名前や用途を知らないことです。
「先生、針は何ゲージ使います?」
「先生、糸はサンゼロでいいですか?」
「先生、カテーテルは何フレ準備しますか?」

このような質問を、まだ慣れない時期に矢継ぎ早にされ、慌てふためいてしまう。そういう場面はきっと多いはずです。

看護師の場合、針や糸に限らず、物品や器具の使い方をまとめた資料などが先輩から引き継がれることが多いようですが、医師にはこういう習慣はないことが多いですよね。

ここでは、一般的によく使われる針や糸についてまとめておきましょう!

針の太さ

まず、穿刺針については、用途に応じた太さを覚えておく必要があります。太さの単位はG(ゲージ)で、現場で用いる可能性があるのは16〜27 Gでしょう。日常生活でGを使うことはないため、mm(ミリメートル)との対応表を見て太さをイメージしておきましょう(表1)。

Gの数字が大きくなるにつれて細くなり、mmとは逆相関しますので注意しましょう。

表1 針の太さ

穿刺針の呼び名はメーカーによって異なりますが、カラーコードは共通です。つまり、メーカーが違っても「同じ色なら同じ太さ」ですので、現場ではGではなく色で指示する場面もよくあります(「ブルー針」や「ピンク針」など)。

針の太さはどのように選ぶ?

針の太さはどのように選んでいるのでしょうか?

もちろん患者にとっては細いほうが痛くないので嬉しいですよね。一方、医療者にとっては太いほうが便利です。なぜなら、薬液の注入や輸血、血液の採取などを行うのに、太い針のほうが効率がいいからです。

つまり、必要に応じてそれぞれのメリットとデメリットの妥協点を探ることになります。具体的に見ていきましょう。

通常の採血で用いるのは21〜22 G程度、造影剤を用いた検査時に必要な針は18〜20 G程度(副作用出現時に薬剤投与などを迅速に行うため)です。

大量輸液、輸血などが必要なときは、16〜18 Gでルート確保を行うことも多いでしょう(麻酔科や救急部ローテート中に経験するはずです)。短時間に多量の液体を注入するなら、太いほうが有利ですよね!

一方で、局所麻酔薬の皮下注射や、ワクチン等の皮下(または筋肉)注射は、投与する量が少なく、それほど速さも求められません。ですから、患者の痛みを考慮して、細めの針を使用するのが一般的です。

一般的な局所麻酔薬の注射は22〜23 Gを用いることが多いですが、顔面や手指などの皮膚に局所麻酔をする場合など、痛みを考慮して細い針を使いたい場合には、26〜27 Gを用います。ワクチンなどの皮下注射も同様に26〜27 Gです。

ちなみに、インスリンの注射は30〜34 Gとかなり細く、髪の毛より少し太いくらいです。インスリンは1単位=0.01 mLですから、投与量の少なさと注射頻度の高さを考えれば、痛みを極限まで軽くするのが理想的なのです。

縫合糸の太さ

研修医は、救急外来で創部の縫合を経験することが多いでしょう。その際、糸の太さを知っておく必要があります。糸の太さも数字で表し、以下のようなルールに則っています(表2)。

ポイントとしては、
・0号、1号、2号と数字が大きくなるにつれて太くなる
・0号より細い場合は、2-0、3-0、4-0と数字が大きくなるにつれて細くなる
の2つです。一見ややこしいのですが、2-0は「00(0が2つ)」、3-0は「000(0が3つ)」という意味ですから、1未満は「0が増えるほど細い」と考えるとよいでしょう。

とはいえ、医療現場でみなさんが出合う「太い糸」の上限は1号くらいで、ほとんどは0号以下です。つまり、「◯-0」の形式をとるものを覚えておけば十分、とも言えるでしょう。

表2 縫合糸の太さ

太さの使い分けとしては、顔面の創部は5-0から7-0、四肢や体幹は3-0から5-0を使うのが一般的です。太い糸を使うと、傷から遠くをかけて大きく縫うことになり、糸の瘢痕が残りやすくなります。なるべく細い糸を使い、マットレス縫合ではなく単結節縫合で縫うのがオススメです。

カテーテルの太さ

カテーテルやドレーンなど「管」の太さは「フレンチ」という独特の単位を使います(フランス人医学者によって開発された単位のため)。初期研修で出合う「管」としては、尿道カテーテルや中心静脈カテーテル、胸腔ドレーンなどがあります。カルテ上の記録では「Fr」と略すことが多く、口頭では「フレ」と略します。
「何フレ使いますか?」
「10フレでお願いします」
といった具合ですね。

1フレンチは1 mmの3分の1で、直径の長さを指します(表3)。つまりフレンチは、これまで挙げた針や糸と違い、数が大きくなるほど太くなる“素直な”単位なんですね。

尿道カテーテルは14〜16フレンチ、中心静脈カテーテルが4〜8フレンチの幅が多いでしょう。一方、ドレーンは、使用する領域や目的、排出するものの性状によって最適なサイズは大きく異なります。また、これらのカテーテルのサイズは「外径」を表しますが、挿管チューブ(気管チューブ)のサイズは「内径」を表記します。

ちなみに、タピオカドリンクのストローは約30〜34フレンチです(!)。

02 末梢ルート確保は簡単ではない!

私が医師になってはじめて患者を診療したのは、救急外来でした。救急車がひっきりなしに来る全国有数のER型救命救急センターに、素人同然の若造が突然放り込まれたのです。改めて振り返ると、よくぞ乗り越えた! と自分を褒めたいくらいです。

さて、私が最初にいきなりつまずいたのが末梢ルート確保です。末梢ルート確保は、医師以外の職種でも容易に行える処置として軽んじられがちですが、ビギナーにとっては大きな関門です。

それには、こんな理由があるからだと私は思っています。


・患者は完全にアウェイクなので、リアルタイムに上級医からの指導を受けづらい
・位置的に、患者が容易に「じっと見つめる」ことができる処置である(実際針先をじっと見つめられることは多い)
・「不成功」が患者にわかりやすい(「失敗しないでね」と言われて当惑することもある)
・血管の走行や太さは個人差が非常に大きく、練習を活かしづらい
・初期研修医から見れば看護師のほうが遥かに上手い(看護師の前で行うときは肩身が狭い)

外科医である私にとって、これらはある意味、手術より難しいとすら思われるポイントなのです。考えてみてください。

全身麻酔手術では、患者の意識はありませんし、直接手取り足取り指導を受けることができます。それに、医師のパフォーマンスの良し悪しは患者には評価しづらいですし、看護師のほうが上手い、ということもさすがにありません。手術は他職種にはできませんからね。ですから、
「末梢ルート確保が苦手だ」
「末梢ルート確保がどうにも上手くなれない」
と思うあなた、全く心配ご無用です! そういう難しい処置を最初から(しかも大して指導もされないうちから)やらされているのですから。

一方で、末梢ルート確保の処置自体はシンプルですから、慣れれば誰でも簡単にできるようになります。その点でも心配ご無用でしょう。「同期の〇〇先生は自分よりはるかに上手い」などと些細なことに気を揉むのも、長い医者人生の最初の1年だけですよ。

末梢ルート確保の手順

では、ここで末梢ルート確保の手順を確認しておきましょう!

① 血管の選択

穿刺前の準備として、「血管の選択」が最も大切です。太くて蛇行のない血管を選びましょう。何度か失敗して心理状態が乱れると、冷静に選びづらくなります。慣れない頃ほど、穿刺前の準備にしっかり時間をかけましょう!

血管が細くて難しそうな場合は、「かなり細いですねぇ」と、難しい処置になる旨を口に出してもよいでしょう。「そうでしょう? いつもみなさんを困らせています」といった言葉が返ってくることもあり、お互いのリラックスにつながります。血管を指で叩いたり押さえたりなどの刺激で膨らまし、穿刺部位をなるべく心臓より低い位置にするといった準備も有効です。

なお、関節付近の血管はもちろん避けましょう。腕の曲げ伸ばしでラインが折れるなどして、点滴の滴下速度が変わってしまうためです。関節付近の静脈が使えるのは、採血を行うときだけです。

② 血管の固定

穿刺前に血管を固定することは、非常に重要です。太くて標的の大きな血管でも、固定が甘いと容易に逃げてしまいます。手前の皮膚を引っ張ることが多いですが、逃げそうな場合は、左手を前腕の裏側に回して左右に皮膚を広げ、広い面で緊張をかけるのも有効ですよ!

③ 穿刺

皮膚に対して約30°の角度で穿刺します。

慣れないうちは視野が狭くなり、穿刺部位そのものに集中しがちですが、意識すべきは「針の行き先」です。血管がどの方向に伸びていくのかをイメージしながら針を進めなければ、血管内に留置できません。

逆血があったら針を寝かせ、「角度ゼロ」のイメージで先端を先進させます。

④ 外筒を進めて内筒を抜去する

抵抗がないことを確認しながら外筒を進めます。この際、血管を固定した左手はそのまま維持して、右手の人差し指だけで外筒を先進するのが望ましいでしょう。左手を外すと、針の先端が血管から抜けてしまう恐れがあるためです。また、外筒と内筒の先端の位置にはズレがあるため、逆血を見てすぐに外筒を進めようとすると上手くいきません。針先の位置をイメージし、外筒の先端がきちんと血管内に入った位置から挿入する意識が大切です。

外筒が入ったら、駆血帯を外して内筒を抜きましょう。最初の頃は、駆血帯を外す前に内筒を抜いてしまい、シーツを血液で汚すという失態を誰しも経験すると思います。

ここでのコツは、外筒さえ入れば右手から意識を外し(力を抜いて内筒を軽く支えるか、右手を離してしまってもよい)、「駆血帯を外す左手に意識を移動させる」ということです。慌てずゆっくり行いましょう。

あとは点滴ラインをつなぐだけですが、ここは看護師に任せるケースが多いでしょう。

Check
同じ施設であっても、救急外来、一般病棟、ICU、内視鏡室など、部署によって異なるメーカーの穿刺針を使用していることがあります。逆流防止弁の有無や、針の持ちやすさ、外筒の先進させやすさなどが異なりますので、注意しましょう。
私はビギナーの頃は、慣れたメーカーのものが用意された部署に自ら取りに行って使っていました。最初は、自分の「メンタルに優しい」やり方を選ぶのがオススメですよ!

03 輸液を理解するための最低限の知識

初期研修医として救急外来ではじめて末梢ルート確保ができ、喜んだのも束の間、
「輸液の種類はどうします?」
「速度はどのくらいで?」
という質問が飛んできますよね。またしても「国試で問われない知識」です。

国試で脱水の患者に「輸液を行う」と答えられた医学生でも、「1時間に何ミリリットルの速度で行うか?」と問われると困ってしまうと思います。
また、
「サンカツはつなぎますか?」
「クレンメを開けてくれますか?」
と看護師から矢継ぎ早に指示が飛び、慌てることもあるでしょう。

ここでは、ビギナーが知っておきたい最低限の知識をまとめておきましょう!

輸液に用いる物品

輸液に用いる物品は、一般的に3種類あります。

①製剤が入った袋(輸液バッグ・ボトル)
②バッグからつながる管(輸液ライン)
③血管に挿入された細くて短い管(末梢静脈カテーテル、静脈留置針)

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