第4章 手・手関節・指(症例編)
9 中手骨骨折
佐藤寿充
1中手骨骨幹部骨折
◆典型的な受傷機転 …… スポーツ(ボクシングなど),手を使う労働作業
◆症状と身体所見 …… 腫脹,皮下出血,圧痛,手指変形(回旋異常,cross finger)
◆X線撮影のオーダー …… 手部(正面像・内旋斜位像・外旋斜位像・側面像)
◆ポイント …… 身体所見で疑われる中手骨を中心にオーダーする.「他の中手骨と重ならないように撮影してください」とオーダーするとよい
<症例1> ・サッカープレー中に転倒し,左手をついて受傷
○撮影オーダー ▶︎▶︎▶︎ 手部2方向(正面像・斜位像)(図1)

○画像所見

○画像所見の描写と診断
軟部組織の腫脹は軽度かほとんどない.第2中手骨骨幹部に骨折線があり,第2中手骨骨幹部骨折と診断できる.骨折型は斜骨折である.遠位骨片に骨折線があることも見逃してはならない.
<症例2> ・喧嘩で相手を殴り受傷
○撮影オーダー ▶︎▶︎▶︎ 手部2方向(正面像・内旋斜位像)(図2)

○画像所見

○画像所見の描写と診断
軟部組織の腫脹は軽度かほとんどない.第5中手骨頚部に骨折があり,第5中手骨骨折と診断できる.骨折に伴い,中手骨は屈曲変形している.
2中手骨基部骨折
◆典型的な受傷機転……転倒し手をつく,バイク事故,殴る
◆症状と身体所見 …… CM関節の腫脹,疼痛,変形
◆X線撮影のオーダー …… 中手骨(正面像・側面像)
◆ポイント …… 身体所見で疑われる手指・関節を中心にオーダーする.例えば,母指基部(CM関節)の損傷が疑われる場合は「母指CM関節を中心に,他の中手骨と重ならないように撮影してください」とオーダーする
<症例3> ・バイク走行中に転倒.手に腫脹と疼痛があり受診
○撮影オーダー ▶︎▶︎▶︎ 母指CM関節2方向(正面像・側面像)(図3)

○画像所見

○画像所見の描写と診断
軟部組織の腫脹は軽度かほとんどない.単純X線でわかるほどの母指CM関節の脱臼はない.中手骨基部に骨折があり,母指中手骨基部骨折と診断できる.骨折に伴い,中手骨は短縮している.
<症例4> ・登り棒を登っているときに母指がひっかかり受傷し,母指が変形したため受診
○撮影オーダー ▶︎▶︎▶︎ 母指CM関節1方向(正面像),手部1方向(斜位像)(図4)

○画像所見

○画像所見の描写と診断
軟部組織の腫脹は軽度かほとんどない.第1中手骨近位部で骨折がある.橈側皮質骨から,骨端線に抜けるように骨折線があり,第1中手骨近位骨端線損傷と診断できる.骨折に伴い,橈屈している.
解説
1)受傷機転
◆第1CM関節脱臼骨折
CM関節が軽度屈曲位の状態で,第1中手骨からCM関節に向かって軸圧が加わることで生じるBennett骨折やRoland骨折では,骨片が筋肉に引っ張られ転位し,CM関節が脱臼位となる1).
◆第1中手骨骨端線損傷
直達外力,回旋・軸圧外力により第1中手骨骨折が生じる.スキーやバイクの事故,野球のキャッチャー,サッカーのゴールキーパーの捕球時に起こりやすい.母指に内転の力が加わると,CM関節や第1中手骨基部骨折を生じやすい2).
◆中手骨骨折
スポーツ,労働時の受傷が多い.スポーツ時の受傷では,回旋外力による受傷が多く,斜骨折やらせん骨折となる2).労働時の受傷では,機械に挟まれたなど挟撃外傷による受傷が多く,時に開放骨折となる.
2)症状と身体所見
中手骨の骨折では局所の自発痛と可動時痛,手部の腫脹がある.転位が大きい場合は,変形を主訴とすることもある.四肢長管骨と異なり,第1-5中手骨は近接しているため,どの中手骨のどの位置(遠位・骨幹部・近位)に骨折が疑わしいのか,中手骨1本1本の圧痛を確認する必要がある.手指の回旋変形やcross fingerも見逃してはならない.
3)X線のオーダー
▶︎第1中手骨の骨折が疑わしい場合
母指第1中手骨に対しての正面像と斜位像(あるいは側面像)をオーダーする(図5).
▶︎第2-5中手骨の骨折が疑わしい場合
手部の正面像と斜位像をオーダーする.必要に応じて側面像を追加する.
◆第1-5中手骨の位置関係
母指は他の指と対立位をとり,つまみ動作を可能としている.第1中手骨は第2-5中手骨に対して内旋位になっているため,手部正面像を撮影すると第2-5中手骨は正面であっても,第1中手骨は内旋位での撮影となる(図6).よって上記のように,第1中手骨と第2-5中手骨に対する撮影オーダーは別にしなくてはならない.
◆手部側面と斜位
第2-5中手骨は,おおむね同じ平面に位置している.そのため,手部側面を撮影すると中手骨同士は重なり合う(図7).重なり合わないためには,斜位での撮影が必要である.

◆内旋斜位と外旋斜位
手部を内旋させると,第2-3中手骨は掌側に,第4-5中手骨は背側に移動する.内旋位でX線写真を撮影すると,第2-3中手骨付近では掌側皮質が,第4-5中手骨付近では背側皮質が他の指と重ならずに見ることができる.外旋するとその反対となる.
中手骨のX線検査をオーダーする場合は,どの中手骨を撮影したいかにより撮影条件を使い分ける必要がある.
引用文献
- 「整形外科 SURGICAL TECHNIQUE BOOKS⑥ 手・手指外傷の診断・保存的治療・手術」(面川庄平/編),MCメディカ出版,2021
- 「Rockwood and Green’s Fractures in Adults 9th Edition」(Tornetta P, et al, eds), Wolters Kluwer Health, 2019