第3章 よく出合う小児の症候
1 発熱
手塚宜行
ある日の午後7時,救急外来にウォークインで小児の患者さんが保護者に連れられてやってきた.
● 4歳,男児,体重16kg
● 本日の昼過ぎから少し元気がなかった
● 午後5時に熱を測ったところ,38.6 ℃であったため救急外来を受診した
<Q1> 発熱とは何か?
<A1> 発熱=からだを守るための生理的なメカニズムの1つ
発熱の前に,体温について考えなければならない.体温は,視床下部の体温調整中枢によって制御されている.体温調整中枢は主に筋肉と肝臓の代謝活動から得られる熱産生と,皮膚や肺からの熱放散でバランスをとっている.体温調整中枢は,通常の温度環境では,体温をほぼ一定に保つことができる.
発熱は,内因性および外因性の発熱物質により視床下部のセットポイントが上昇することにより,一定に保たれていた体温が上昇する現象である.発熱は異常な状態ではなくて,細菌やウイルスの増殖を遅らせ,好中球の産生とTリンパ球の増殖を促進し,体に生じた急性期反応を補助し,感染症や炎症と戦ううえで有益な効果をもたらす生理学的なメカニズムである1).しかし,生理的な反応であると言っても生体への影響が十分あるという理解が必要である.
発熱の生体への影響を常に意識する
● 代謝の増加
● 酸素消費量の増加
● 心拍数の増加
● 呼吸数の増加

<Q2> 体温の測定方法は?
<A2> 腋窩が日本では一般的.測定部位によって温度差があることに注意.
体温には,末梢温と中枢温(図1)がある.中枢温が本来知りたい体温であるが,その測定には侵襲を伴う.そのため日本では腋窩温の測定が一般的であるが,よく用いられる体温の測定部位は国によって異なる.
直腸温は中枢温であり,米国では乳幼児の体温測定によく用いられる.粘膜障害から菌血症をきたす場合もあり,侵襲的ではあるため,好中球減少を伴う患者では直腸温の測定は禁忌とされる.
口腔温は直腸温より約0.6℃低いと言われる(呼吸の影響).特に頻呼吸がある場合はより低くなる.また直前に摂取した物の温度にも影響を受ける.日本で一般的に測定される腋窩温は直腸音よりも低い.
その他にも接触型または非接触型赤外線温度測定法や外部センサーを用いたアプリ表在温測定など,いろいろな方法が開発されてきている.鼓膜温や非接触型赤外線温度は外気温の影響を強く受けるため,中枢温の代替指標とするには精度が低く,いわゆる発熱のスクリーニングとしての有用性は低い.
年長児以降の平均正常体温は37.0℃であると考えられているが,乳幼児はこれよりも高い.3カ月未満の新生児・乳幼児の正常体温(直腸温)は37.5℃,正常上限(+2SD)は新生児で37.9℃,1カ月で38.0℃,2カ月で38.1℃であると報告されている2).
上記よりおおむね直腸温で38.0℃以上あれば,発熱とみなすのが妥当である.
<Q3> 発熱と高体温の違いは?
<A3> 生理的な状態か否かである.発熱は生理的,高体温は病的.
高体温は視床下部のセットポイントの上昇を伴わない,体温調整の恒常性が破綻した状態である.体温の恒常性が維持されず,からだの熱放散能力を超えた熱産生が起こっている病的な状態である(いわゆる熱中症の体温上昇はこれに該当する)1).高体温を疑う病歴(高熱環境への曝露歴やアセトアミノフェンで体温が低下しない)や身体所見(皮膚全体に熱感はあるが乾燥している)を見逃さないようにする.
トリアージの結果,高体温を疑うような病歴ではなさそうであった.バイタルサインが測定されているところである.
<Q4> 発熱の患児に,どこまでワークアップする?
<A4> 年齢(月齢)とバイタルサインに応じて考える!
発熱時の年齢(月齢)に応じたワークアップ
● 原則として,バイタルサインやBCDに異常があればFull sepsis work up(髄液検査・培養,血液検査・培養2セット,尿定性・沈査・培養)を検討する
● 1カ月未満:状態にかかわらずFull sepsis work upが基本
● 1~2カ月:Partial sepsis work up(血液検査・培養1セット,尿定性・沈査・培養)後に検査結果を見て追加検査の必要性を判断
● 3カ月~2歳:1~2カ月より重症感染症の可能性は下がるが,予防接種歴を確認し潜在性菌血症を意識しながら,バイタルサインに異常があればPartial sepsis work up(血液検査・培養1セット,尿定性・沈査・培養)後に検査結果を見て追加検査の必要性を判断
● 3歳以上:3カ月~2歳よりさらに重症感染症の可能性は下がるが,予防接種歴・sick contact等を確認し,バイタルサインに異常があればPartial sepsis work up(血液検査・培養1セット,尿定性・沈査・培養)後に検査結果を見て追加検査の必要性を判断
低月齢ほど重症細菌感染症のリスクが高く,3カ月未満の発熱では細菌性髄膜炎が0.5%,菌血症が2.4%,肺炎が3.3%,腎盂腎炎が5.4%にみられたと報告されている3).そのため,比較的活気があっても積極的に検査を実施される場合が多い.各種培養検査の陰性が確認されるまで入院のうえ,抗菌薬が投与されている場合が多い.
また呼吸器症状が明らかで,例えばRSウイルス迅速抗原検査が陽性であったとしても,尿路感染症が5.4%,菌血症が1.1%に認められたと報告されており4),呼吸器症状が明らかであったとしても,ワークアップを行わない理由にはならない.
また呼吸器症状が明らかで,例えばRSウイルス迅速抗原検査が陽性であったとしても,尿路感染症が5.4%,菌血症が1.1%に認められたと報告されており4),呼吸器症状が明らかであったとしても,ワークアップを行わない理由にはならない.
3カ月以上では潜在性菌血症に注意する.結合型肺炎球菌ワクチンとインフルエンザ菌B型(Hib)ワクチンの導入前の時代では,3カ月から3歳の児において,39℃以上の発熱,白血球数≧15,000/μL,発熱の原因が不明の場合,約5%に肺炎球菌もしくはHibの菌血症が認められ,無治療の場合には細菌性髄膜炎をきたすことが知られていた.現在では予防接種によりその頻度は低下しているため,予防接種歴の確認が重要である.

3歳以上になると,免疫構築が進んでいくことに伴い重症細菌感染症のリスクは低下するが,保育園や幼稚園などの集団生活を行う児が増加することもあり,ウイルス感染症の罹患頻度が高くなる.集団生活の有無(ある場合はどんな疾患が流行しているか)や家族以外のsick contactの有無などの聴取を行う.
<Q5> 血液培養は必ず2セット採取する?
<A5> 抗菌薬を投与するなら2セット採取する!
菌血症は血液培養を採取しないことには証明できない.表1を参考に,採取セット数と採取血液量,使用する血液培養ボトル(好気ボトルなのか小児ボトルなのか,嫌気ボトルも採取するのか)を選択する.特に抗菌薬を投与する場合は,可能な限り投与前に血液培養を含む培養検査が必要かどうか,今一度考えなおすことを忘れない(抗菌薬投与後に採取した培養検査は偽陰性になる).
<Q6> 血液培養は嫌気ボトルも採取する?
<A6> 「〇〇膿瘍」を疑うなら嫌気ボトルも採取する
小児では偏性嫌気性菌が血液培養から陽性になることは稀とされている.また採取可能な血液量も限られていることから,表1を参考に採取血液量を考えつつ,病歴と身体診察から何らかの膿瘍が疑われる場合は嫌気ボトルも採取することを検討する.十分な血液量が採取できない場合は,好気ボトルを優先する.成人と同量の血液が採取できるなら,嫌気ボトルも採取する.表1はボトル1本あたりの採取血液量であるため,嫌気ボトル分を採取する場合には,採取量に注意する(好気ボトルだけの場合と比べると,2倍の血液量が必要になる).
<Q7> 尿の採取方法は?
<A7> 中間尿,自排尿確立前なら2 step process
乳幼児など自排尿が確立していない場合,①尿路感染症の可能性が低い(尿路系の症状が強くない)と想定される場合は,バッグ尿で尿定性・沈査を行い,結果が陽性(白血球反応もしくは亜硝酸塩が陽性)であればカテーテル採尿を加えて行う.②尿路感染症の可能性が高いと想定される場合は,カテーテル採尿を行う.このような方法は2 step processと呼ばれている.
<Q8> 髄液検査はいつする?
<A8> ①発熱+新生児,②発熱+意識障害,③敗血症性ショックの場合
教科書的にざっくり言えば,「中枢神経系疾患(感染症含む)が疑われるとき」と,「代謝性疾患が疑われるとき」である.今回は特に中枢神経系感染症をいつ疑うか,という視点で述べる.
髄液検査はどうしても遅れがちになる.その実施に人手が必要で,準備にも実施にも時間を要す.そのため,髄液検査をいつやるか,自分のなかである程度決めておく必要がある.
発熱+中枢神経症状(けいれんなど)があれば,中枢神経系感染症を想起するのは難しくない.それ以外の場合として,前述のように,新生児の発熱では中枢神経感染症の鑑別が重要であるため,髄液検査の閾値は高くしておきたい(発熱+新生児).また発熱+意識障害(中枢神経の異常)や敗血症性ショックの場合も,髄液検査が早期にできるとよいだろう.
ただし,状態が悪く髄液検査ができない場合もある.その場合は無理して髄液検査をしない.髄液検査の前に全身状態の立ち上げが必要であり,髄液検査前の抗菌薬投与は許容される.髄液検査のなかの髄液培養の代替として,抗菌薬投与前に複数セットの血液培養を採取しておくのを忘れない.
<Q9> 鼻汁培養は必要か?
<A9> 小児では通常不要である
培養検査を採取する前に考えておくこと
● 想定される感染症の評価に使える培養検査なのか?
(使える培養検査の例:腎盂腎炎を疑った場合のカテーテル尿培養)
● 通常無菌な部位からの検体なのか,常在菌のいる部位からの検体なのか
(無菌な部位からの検体の例:髄液,血液など)
(常在菌のいる部位からの検体の例:喀痰など)
培養検査を考えるうえで,重要な点が2つある.まず一番大切なのは,児の病歴と身体診察,検査などから想定される感染症の評価に使えるのかどうかである.例えば,肺炎を全く疑わない児であれば喀痰培養を提出する意味はない.検査は診断や治療に役立てるためのものであることを常に念頭に置く.もう1つは通常無菌な部位からの検体なのか,無菌でない部位からの検体なのかを意識する必要がある.通常無菌な部位からの検体であれば,(コンタミネーションでなければ)少数でも菌が発育した場合,それは原因微生物と考えてよい.しかし常在菌のいる部位からの検体は,原因微生物がいてもいなくても,何らかの菌が発育するのが当然である.そのため,事前にどんな菌を原因と想定して検査に提出しているのかが重要となってくる(また便培養に代表されるように,オーダー時に臨床検査技師にその情報が伝わらなければ,培養されないことも多々ある).
このことから鼻汁培養を考えると,感染症の評価に使うとすると,急性副鼻腔炎くらいだろうか? しかし常在菌のいる部位であり,培養から例えば肺炎球菌が多量に発育したとしても,それが原因微生物かの判断は難しい.培養検査を提出しようと考えた際は,このような視点で考えてみてほしい.
● 基礎疾患はなく,4歳までに推奨されている定期接種は完了,おたふくかぜも1回接種すみ,幼稚園に通い出したところであり,最近カゼを引いているお友達が多いということであった
● バイタルサインは安定していたため,対症療法で経過をみられそう
<Q10> 解熱剤はいつ使う?
<A10> 必須ではないが,発熱があれば児の全身状態と背景疾患に応じて判断する
解熱剤は体温調節の設定値を正常に戻すことで発熱の状態から平常時の体温に近づける作用をもつ.
アセトアミノフェンは1回10~15 mg/kgを4~6時間ごとに経口投与するのが一般的に安全で効果的であると考えられている1).通常,解熱効果は約80%の児に30~60分以内に現れ,1~2度の低下がみられる1).
発熱があっても児が元気で特に基礎疾患もない場合は解熱剤を使用する必要は通常ない.発熱に伴う酸素需要や代謝亢進が児に悪影響を及ぼす基礎疾患がある場合を除き,解熱剤により熱を下げることで重症度や死亡率が低下するというエビデンスはない.解熱剤を使用する利点としては,発熱に伴う不快感や不感蒸泄の減少を抑えることでの脱水症のリスク低下である1).解熱剤には鎮痛作用もあるため,全体的な不快感を軽減できる可能性がある.解熱剤を使用する欠点としては,原因疾患の特定が遅れる可能性があることや解熱剤による毒性がある.解熱剤を使用することで特定の感染症のリスクや合併症が増加するかどうかははっきりしていない.
小児救急で最も使用されるのはアセトアミノフェンである.アスピリンはライ症候群をきたす可能性があり使用されない1).
発熱に対する解熱剤が検討される状況
● ショック(発熱による頻拍の改善,心筋酸素需要の低下が目的.低血圧になることがあるので注意)
● 代謝亢進による負荷が許容困難な基礎疾患がある
● 体温40℃以上
● 不快感が強い
● 重度の頭部外傷
<Q11> どうやってクーリングする?
<A11> 体表面に近いところに走る太い動脈を冷やす(頸部,腋窩,鼠経)
クーリングは,体温の低下だけでなく,安楽,鎮痛を目的として行う.また寒がる時期(熱産生が亢進している時期)は本当に寒いと感じているため布団をかぶせるなど体を温めるようにし,暑がる時期にクーリングを行うようにする.
クーリングは,体表面近くに走る太い動脈を冷やすのが効率的である(図2).その為,頸部や腋窩,鼠経に氷嚢などを当てるようにする.冷やしすぎには注意する.
熱さまし用ジェル状冷却シートはクーリングとしては有効でないばかりか,窒息事故が報告されている.氷枕や背部のクーリングは広範囲を冷やせるものの,解熱効果は少ないとされている.
<Q12> 成人の発熱との違いは?
<A12> 正常な体温が異なるが,発熱の基準はほぼ同様.しかし低月齢での発熱はマネジメントが大きく異なる
成人では,外来患者と入院患者の両方を対象にした研究によると,口腔温での正常な体温の範囲は35.3~37.7℃,平均は36.7℃であった.また高齢になればなるほど,BMIが低ければ低いほど,体温が低くなることが知られている.また早朝と比較すると夕方遅くになると0.5℃上昇する.一般的な閾値としては腋窩温で37.5℃を超えると発熱と認識されることが多い.
小児では,正常な体温は口腔温で37.0℃と考えられており,乳幼児の方が体温はさらに高い.日内変動は成人同様であるとされる.しかし前述のように低月齢での発熱はマネジメントが大きく異なるため,月齢と発熱への意識は高く保つようにする.

確認問題
❶体温には,身体の中心部分の温度である( )と,末梢部分の温度である( )がある
❷体温が上昇している場合,( )なのか( )なのかを常に意識する
❸発熱の新生児に対しては( )sepsis work upを行う
❹血液培養は( )に応じて採取セット数や採取量を考える
❺尿路感染症の可能性が高い場合は,( )尿を採取する
解答
❶中枢温,末梢温
❷発熱,高体温
❸Full
❹体重
❺カテーテル
参考文献
- Sullivan JE & Farrar HC:Fever and antipyretic use in children. Pediatrics, 127:580-587, 2011(PMID:21357332)
- Herzog LW & Coyne LJ:What is fever? Normal temperature in infants less than 3 months old. Clin Pediatr (Phila), 32:142-146, 1993(PMID:8453829)
- Pantell RH, et al:Management and outcomes of care of fever in early infancy. JAMA, 291:1203-1212, 2004(PMID:15010441)
- Levine DA, et al:Risk of serious bacterial infection in young febrile infants with respiratory syncytial virus infections. Pediatrics, 113:1728-1734, 2004(PMID:15173498)
- Miller JM, et al:A Guide to Utilization of the Microbiology Laboratory for Diagnosis of Infectious Diseases: 2018 Update by the Infectious Diseases Society of America and the American Society for Microbiology. Clin Infect Dis, 67:e1-e94, 2018(PMID:29955859)