D サイトカイン阻害薬等(生物学的製剤) ❷抗IL阻害薬以外のサイトカイン阻害薬
1.TNF阻害薬(TNF/TNFR)
Q2TNF阻害薬にはどのような種類があり,どのような疾患に使われますか?
・TNF阻害薬は,米国で関節リウマチに対して承認されて以来,その後,適応疾患や製剤が増えています
・現在使用できるTNF阻害薬には,インフリキシマブ,エタネルセプト,アダリムマブ,ゴリムマブ,セルトリズマブ ペゴル,オゾラリズマブがあり,インフリキシマブ,エタネルセプト,アダリムマブにはバイオシミラー製剤もあります
・TNF阻害薬は,製剤ごとに適応疾患や投与方法が異なります
▶︎1 TNF阻害薬の開発の歴史
TNF阻害薬は1998年に関節リウマチの治療薬として米国で承認されて以来,適応疾患や製剤が増えており,長期の使用経験に基づいた有効性や安全性が確認されています1).現在本邦で使用できるTNF阻害薬には,インフリキシマブ,エタネルセプト,アダリムマブ,ゴリムマブ,セルトリズマブ ペゴル,オゾラリズマブがあります.
TNF阻害薬の開発当初,完全マウス抗体では強いアレルギーが生じるため製剤化には至りませんでしたが,その一方で,ヒトTNFに対する抗体を製造することは技術的に困難でした.そのため,最初に開発されたインフリキシマブは定常領域がヒト由来で,可変領域がマウス由来であるキメラ型抗体となっています(Q1参照).次に開発されたエタネルセプトは,ヒトのTNF受容体を利用した受容体製剤です.その後,技術の向上により,ヒト型抗体であるアダリムマブ,ゴリムマブが開発されました.さらに,より炎症部位に届きやすくするためにFc部分を欠損して小型化した製剤がセルトリズマブ ペゴルとオゾラリズマブです.Fc部分が欠損していると薬剤の安定性が失われるため,セルトリズマブ ペゴルはポリエチレングリコールに,オゾラリズマブは体内のアルブミンに結合させることによって安定性を確保しています.投与方法としては,点滴から利便性の高い皮下注射へ移行しています(表1).TNF阻害薬は,製剤ごとに保険適用や投与方法が異なります(表2).
また,インフリキシマブ,エタネルセプト,アダリムマブにはバイオシミラー製剤(BS:BioSimilar)が製造されています.BSはすでに国内で先行販売されている生物学的製剤(先行バイオ製剤)の特許満了後に,先行バイオ医薬品とは異なる製造業者が開発した医薬品です.バイオ製剤は高分子化合物であり,先行バイオ医薬品と同一の分子構造を有する後続品を開発することは困難です.そのため,構造が完全に同一である低分子後発医薬品(ジェネリック)とは異なります.また,有効成分の同一性を実証することも困難なため,同等性/同質性という概念が導入されています.品質,安全性および有効性について,先行バイオ医薬品との比較から得られた同等性/同質性を示すデータ等に基づきバイオシミラー製剤が開発できます.臨床試験を含む多くのデータによって先行バイオ医薬品とバイオシミラー製剤の有効性・安全性に差異はないとされていますが2),バイオシミラー製剤によっては保険適用が先行バイオ製剤と異なるものもあります(表2).
以下に各TNF阻害薬の構造や保険適用について詳述します.


▶︎2 インフリキシマブ
インフリキシマブはIgG型のヒトTNF-αに対するモノクローナル抗体で,定常領域がヒト由来で,可変領域がマウス由来であるキメラ型抗体です.マウス由来の成分を含むため免疫原性を有し,製剤に対する抗体が産生されると,投与時反応などの副作用や効果の減弱が生じます.適応疾患には,関節リウマチ,尋常性乾癬,乾癬性関節炎,膿疱性乾癬,乾癬性紅皮症,強直性脊椎炎,ベーチェット病(難治性網膜ぶどう膜炎,腸管型ベーチェット病,神経型ベーチェット病,血管型ベーチェット病),クローン病,潰瘍性大腸炎,川崎病の急性期があります.BSでは難治性網膜ぶどう膜炎以外のベーチェット病や川崎病の保険適用はありません.
▶︎3 エタネルセプト
エタネルセプトは,TNFに対する受容体とIgGのFc部分を融合させた融合タンパク製剤です.ヒト型製剤であり,また抗体製剤ではなく可溶性受容体製剤であるため,免疫原性が低いのが特徴です.適応疾患は,関節リウマチ,若年性特発性関節炎で,BSも同様です.ただし,シリンジ,ペン,クイックワイズは若年性特発性関節炎の保険適用がありません.
ご覧ください
文献
- Takeuchi T & Kameda H:Nat Rev Rheumatol, 6:644-652, 2010
- 「炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン2020 改訂第2 版」(日本消化器病学会/ 編),南江堂,2020