そうだったのか!絶対わかる心エコー 改訂版〜見てイメージできる判読・計測・評価のコツ

そうだったのか!絶対わかる心エコー 改訂版

見てイメージできる判読・計測・評価のコツ

  • 岩倉克臣/著
  • 2025年08月29日発行
  • A5判
  • 280ページ
  • ISBN 978-4-7581-2439-3
  • 4,620(本体4,200円+税)
  • 在庫:あり
本書を一部お読みいただけます

第2章 心エコーで心室・心房をみる

3 左室拡大をみたら

左室拡大が意味するもの

  • 左室拡大は多くの場合,収縮機能の低下を伴います.
    • 早期の病態では左室駆出率の低下は明らかではないこともあります.
    • スポーツ心臓では心拡大はあっても収縮機能の低下は出現しません.

左室拡大を呈する疾患

  • 左室拡大を呈する疾患は主にのように分類されます.心筋疾患と虚血性心筋症はエコーのみでは鑑別が難しいこともあります.

拡張型心筋症(DCM)

  • 明らかな原疾患がなく左室心筋の収縮低下,左室拡大を呈する病態を(原発性)拡張型心筋症(DCM)といいます.
  • エコーでは全周性の壁運動低下,左室拡張末期・収縮末期径の拡大を特徴とし,左室駆出率は低下します.高度の左室拡大例では左室が球状になることもあります(図1A).
    • 壁運動低下は必ずしも一様とは限らず,しばしば局所的な差を認めます.そのため虚血性心筋症との鑑別が問題となります.
  • 多くの場合,壁厚は正常範囲内です(時に菲薄化することもあります).しかし,左室が拡張するため左室全体の重量は増加し,遠心性心肥大(p.61参照)を呈します.
  • 収縮能のみならず拡張能も低下を示します.ドプラエコーにより拡張能を評価し,左室拡張末期圧を推定することが必要です.
  • しばしば左室拡大によるMRを伴います.多くはtethering効果(p.206参照)による二次性MR(図1B,C)で,僧帽弁弁尖は左室側に引っ張られています.
  • 拡張能低下およびMRにより左房は拡大します(図1B).予後は収縮能と拡張能の低下により決定されます.

拡張型心筋症と鑑別を要する疾患

拡張型心筋症と虚血性心筋症の鑑別

  • 心筋疾患では拡張型心筋症と虚血性心筋症の鑑別が問題となります.
  • 拡張型心筋症と虚血性心筋症の鑑別の基本は,壁運動異常が冠動脈支配に一致して出現しているか否かです.
    • 壁運動異常を認める領域が冠動脈の解剖学的構造からは説明できない広がり・分布を示す場合は,拡張型心筋症の可能性を考えます.
    • 左室各領域の冠動脈支配はp.82参照.
  • 虚血性心筋症では遠位の領域ほど壁運動はより低下する傾向があります.遠位部よりも近位部の方が収縮低下が著明である場合,虚血性心筋症よりも拡張型心筋症の可能性が高いといえます.
    • 前壁梗塞では,心基部の壁運動が残存していても心尖部では壁運動が消失していることがよくみられます.逆に前壁領域で基部に比べて心尖部の壁運動が保たれている場合,拡張型心筋症などを考えます.
    • 側副血行路も関連するため,絶対的な鑑別法ではありません.
  • 拡張型心筋症でも壁運動低下は一様ではなく局所的な差をしばしば認めます.したがって,壁運動異常に局所的な差があるだけで虚血性心筋症と診断できません.虚血性心筋症でも多枝病変では全周性の壁運動低下を認める場合もあります.
  • 左室の一部分に心筋の菲薄化を認める場合,虚血性心筋症である可能性があります.特に冠動脈支配の末梢にあたる領域に一致して認めた場合は,より可能性は高いと思われます.拡張型心筋症では局所的な心筋菲薄化をみることは少ないのですが,心サルコイドーシスや心筋炎後の症例などでは局所的な菲薄化を認めることがあります.

急性心筋炎

  • ウイルス感染によるものが主で,先行する感冒症状や消化器症状を認め,多くの場合,感染症状から数時間~数日で発症します.
  • 左室の壁運動が低下します.左室全体に低下する場合もあれば局所に限定することもあります.しばしば心嚢液貯留も認めます(心嚢心筋炎).
  • 左室機能の低下を伴いますが,初期には左室径の拡大を認めないのも特徴です.その後の経過として局所的あるいは左室全体が拡大することもあります.
  • 心筋浮腫により一過性の心筋肥大を認めることがあり,内腔が狭窄することもあります.心筋肥大は局所的にみられることもあります.
  • 左室とともに右室の収縮能低下もしばしば合併します.右室障害を合併する例は予後不良です.
  • 急激に進行し,血行動態の破綻に至る症例もあります(劇症型心筋炎).数時間の間に急速に増悪するため注意を要します.
  • 多くの症例は心機能の回復を認めますが,壁運動低下が残存し慢性期に拡張型心筋症様の病態に至る例もあります.

左室緻密化障害

  • 胎生期における正常な心臓の発達が中断したことにより生じると考えられていた左室の構造異常です.
    • 最近の考え方では,心臓の発達の中断ではなく胎生期に存在していた肉柱部分がそのまま成長して残存した可能性が考えられています.この説は左室内に左室緻密化障害様の肉柱の発達を認めても心機能が正常な例が認められることがあることと一致します.ただしこの項では心機能低下を伴う典型的な例について説明します.
  • 成人になってはじめて診断されることも多く,心不全,不整脈,血栓塞栓症などで発見されます.
  • 拡張型心筋症に似た全周性の壁運動低下,左室拡大に加えて,左室側壁から後壁および心尖部にかけて認められる著明な肉柱と深い陥凹の存在を特徴とします(図2).
    • 壁運動異常領域は非緻密心筋部位に限定されません.
  • 収縮期の肉柱の高さ(N)と緻密筋層(C)の比が2より大きい(N/C>2)の場合,本疾患が疑われます.
    • 肉柱の発達した非緻密化領域が左室中部~心基部まで広範に認める場合は予後不良とされます1)
  • カラードプラで肉柱間への血流が認められます.
    • 健常者やDCMでは肉柱が目立つ場合がありますが,その場合は,肉柱の数は3本以内です.
  • 心室内血栓を生じることもあり,肉柱部を中心に心室内血栓の有無を確認する必要があります.

拡張相肥大型心筋症

  • 肥大型心筋症のなかに,病態が進行すると心室壁の菲薄化,壁運動の低下,左室径拡大など拡張型心筋症様の病態を示す例があり,拡張相肥大型心筋症(D-HCM)と呼ばれます.
  • 心エコーのみから拡張型心筋症と鑑別することは困難であり,以前に肥大型心筋症を診断されていたかどうかなどの病歴や心エコーの経年的な変化から診断します.

心サルコイドーシス

  • 全身性疾患としてのサルコイドーシスの心症状としての病態で,房室ブロックなどの伝導障害を伴うこともあります.
  • 拡張型心筋症では左室壁厚は通常は正常ですが,心サルコイドーシスでは局所的な壁厚の低下をしばしば認めます.
  • 壁運動低下は前壁~心尖部に最もよく認められます.
  • 傍胸骨左縁長軸像や心尖四腔像で,心室中隔基部の局所的な菲薄化を認めることがあります(図3).特徴的な所見で心サルコイドーシスの可能性が高いですが,このような所見を示さない症例も多くみられます.
  • 心室中隔基部の菲薄化による心サルコイドーシスの診断は感度は40%と低いが特異度はほぼ100%と報告2)されており,心室中隔基部の菲薄化があれば心サルコイドーシスの可能性は高いのですが,菲薄化がなくとも心サルコイドーシスは否定できません.
    • 心サルコイドーシスの診断には心臓MRIが有用です.心臓MRIでは複数の限局性の遅延造影(LGE)病変が左室心筋に散在することが特徴です.限局性のLGEは側壁や基部に多く,心室中隔にも認められます.
  • サルコイドーシス症例では,心病変を認めず,心エコーでも異常を認めなくても,病状の進行により心病変が出現することもあるため,心電図,心エコーでの定期的な観察が必要です.

文献

  • Vaidya VR, et al:Long-Term Survival of Patients With Left Ventricular Noncompaction. J Am Heart Assoc, 10:e015563,2021(PMID:33441029)
  • 加藤靖周,森本紳一郎:サルコイドーシス心病変の診断と治療.日サ会誌,28,15-24,2008

急性心筋炎と劇症型心筋炎

以前は急性心筋炎のうち特に急激に進行するものを劇症型心筋炎としていましたが,最近では非劇症型の急性心筋炎と劇症型心筋炎の病態には差があることがわかってきました.非劇症型の急性心筋炎では必ずしも先行感染は明らかではなく,初期は潜在的に進行し,やがて急性心不全が出現します.劇症型心筋炎では先行感染が明らかで,急激に発症し重症心不全やショックに陥ります.

急性期の心エコーでも両者の違いが報告されています.劇症型心筋炎では左室径の拡大が認められず,浮腫によると考えられる心筋の肥厚を認めます.それに対して非劇症型の急性型心筋炎では左室径の拡大を認め,心筋壁厚は正常です.興味深いことに劇症型心筋炎では早期に正しく対応さえすれば,慢性期の心機能はほぼ正常に回復するのに対し,非劇症型の急性心筋炎では慢性期にも心機能低下が残存し,拡張型心筋症様の病態に進行することも少なくありません.また急性心筋炎で入院した症例は長期的には心筋炎の再燃や心不全入院なども対照群に比べて多く注意が必要です.

〔参考文献:Schelldorfer A, et al:Rate of cardiovascular events up to 8 years after uncomplicated myocarditis:A nationwide cohort study. Eur Heart J Acute Cardiovasc Care, 00:1-10, 2024(PMID:38366232)〕

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