うし先生、この心不全患者さん一緒に診てくれませんか?〜レジデントがよく出合う典型症例で現場で本当に必要な力が身につく

うし先生、この心不全患者さん一緒に診てくれませんか?

レジデントがよく出合う典型症例で現場で本当に必要な力が身につく

  • 上原拓樹/著,齋藤秀輝/監
  • 2025年10月01日発行
  • B5判
  • 224ページ
  • ISBN 978-4-7581-2442-3
  • 4,950(本体4,500円+税)
  • 在庫:あり
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第1章

症例1 クリニカルシナリオ2(体うっ血型)の急性心不全

上原拓樹

  • 呼吸困難感と全身性浮腫を伴うクリニカルシナリオ2(体うっ血型)の急性心不全
  • フロセミド静注で利尿反応は良好
  • 未治療糖尿病を背景とした虚血性心疾患によるHFrEF
  • 心不全基本薬の導入と糖尿病加療を含めた心血管リスク管理,血行再建を実施し,独歩退院
うし先生:

今日から病棟の心不全の患者さんを一緒に担当してもらうよ!まずはうさぎ先生だね.

うさぎ先生:

よろしくお願いします.心不全についてはうし先生のYouTubeの動画で予習はしてきたのですが,何せ初めてなもので,いろいろとご指導をよろしくお願いします.

うし先生:

YouTube見てくれたんだね!あれは研修医の先生からの質問だったり,みんなに伝えたい内容を動画にしたものだから,参考にしてくれたら嬉しいです.それにしてもそんなにかしこまらなくて大丈夫だよ(笑).

うさぎ先生:

ありがとうございます.やっぱり初日は緊張しますね….

うし先生:

じゃあ早速担当してもらう症例を紹介するね.今先ほど救急外来に到着した呼吸困難感と全身性浮腫の患者さんだ.この方を外来の初期対応から退院まで一緒に診てもらうからね!

うし先生とうさぎ先生のイラスト
症例1

70歳男性.呼吸困難感,全身性浮腫.

現病歴
健診で糖尿病を指摘されていたが,受診には至っていなかった.1カ月前から両下腿の浮腫を認め,労作時の息切れ症状も出現した.しばらく経過をみていたが症状改善なく,両下腿の浮腫も増悪してきたため,当院救急外来を受診した.
既往歴
糖尿病(未治療)
生活歴
喫煙:20本/日(20歳〜current smoker),飲酒:機会飲酒
内服薬
なし
バイタル
体温 36.6℃.呼吸数 22回/分.脈拍 104回/分, 整.血圧 148/88 mmHg.SpO2 92%(RA).
現症
頸部:頸静脈怒張あり
胸部:心音 整 心尖部最強点の汎収縮期雑音を聴取,肺音 喘鳴を聴取
腹部:平坦 軟 圧痛なし
四肢:両下腿に圧痕性浮腫を認める
検査
心電図(図1)と胸部X線(図2)を施行.
うさぎ先生:

何だか心不全らしい症例ですね.とりあえずフロセミド静注ですか?

うし先生:

ほほう.急性心不全の症例であればフロセミド静注を急ぐのは実は結構正しい判断なんだ.ただ,この章では,症例に沿って論理的に心不全を診られるように順を追って説明していくね.

うさぎ先生:

急ぎすぎました….

急性心不全の外来初期対応
うし先生:

急性心不全を疑ったら,⓪本当に心不全か,①循環動態の確認,②急性冠症候群の除外,③病態評価,④初期治療,⑤心不全の原因の順に考えていこう(図3).

0
本当に心不全か
うさぎ先生:

わかりました!まずは本当に心不全かですね.本症例は両下腿浮腫や呼吸困難感などから心不全らしいと思います.

うし先生:

印象としては心不全だね.実臨床では循環動態の確認が優先度が高く,心不全かどうかを含めて病態評価は①から⑤にかけて確認していくから,この時点で確定ではないんだけどね.うさぎ先生の言う両下腿浮腫と呼吸困難感はそれぞれ左心不全,右心不全,どちらの症状かな?

うさぎ先生:

国試のときにやりましたが…,心不全の症状としか考えていませんでした.

うし先生:

よし,じゃあこの図を見てほしい(図4).左心がやられるとまずうっ血(停滞)するのは肺だね.肺うっ血になると夜間の発作性呼吸困難感や労作時の息切れ症状が出現するよ.一方で右心がやられると上大静脈と下大静脈がうっ血するから,全身の浮腫がみられて,身体所見では頸静脈の怒張が確認できるね(表1).

うさぎ先生:

なるほどです.そしたらこの患者さんは,呼吸困難感という左心不全徴候と両下腿浮腫という右心不全徴候の両方が出ているのですね!

うし先生:

その通り.慢性期には両心のうっ血と心室間膜の相互作用で両心不全になることが多いから,なんとなく心不全っぽいで合ってしまうんだけど,左心不全や右心不全徴候しか出ていない症例もあるから,左心と右心を分けて考えるのが重要だよ.

うさぎ先生:

どちらか片方の症状だけでも心不全を考えるべきということですね.とりあえずこの症例は両心不全徴候が出ているから心不全ぽいです.

うし先生:

まずは疑うことが大事だからね.実際に救急外来で患者さんを診療する際には,まずバイタルサインをみて循環動態を確認しよう.

1
循環動態の確認
うさぎ先生:

バイタルサインですね.意識,血圧,心拍数,SpO2 ,体温ですが,少し酸素化が低いですが全体的には大きな逸脱はないと思います.

うし先生:

呼吸状態の評価には,特に心不全評価のときには呼吸数にも注目しよう.あとは今後尿量もバイタルサインに準じて大事な項目だから,意識しておこう.重症度の高い患者さんを診療するときには心電図モニターを装着して,ルート確保も忘れないでね!

うさぎ先生:

急ぎすぎました….

うし先生:

そうだね.SpO2 96%程度は保てるように酸素投与を開始しよう.酸素化がよくても頻呼吸が持続する場合はNPPVをためらわないことが重要だよ.この症例では他は大丈夫そうだね.バイタルの異常があれば適宜是正をしながら診療を進めるんだけど,急性心不全が疑われている患者さんでは,
・血圧や循環動態が保てない場合:V-A ECMOやIABP,Impellaなどのメカニカルサポート
・不安定な徐脈:一時的ペースメーカ挿入,それも待てなければ経皮ペーシング
を行うよ(図5).

うさぎ先生:

あまり見たことないですが,循環器内科はやっぱりすごいですね.

うし先生:

日常診療では救急の時点でここまで循環動態が不安定な症例はかなり稀なので,だいたいは酸素投与やNPPVの装着を検討するまでのことが多いかな.よし,バイタルが安定したら次は急性冠症候群(ACS)の除外だよ.心不全患者さんをみたら心不全の原因を考えるのが大切なんだけど,まずは急性冠症候群を除外することが大切なんだ.

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レジデントがよく出合う典型症例で現場で本当に必要な力が身につく

  • 上原拓樹/著,齋藤秀輝/監
  • 4,950(本体4,500円+税)
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