第2章 輸血副反応と異型不適合輸血 ▶︎ 1. 異型不適合輸血とその対策
チャート08 異型不適合輸血の病態
溶血するほどの量の異型不適合輸血が行われると,血管痛,熱感,悪寒戦慄,胸部圧迫感,呼吸困難,胸・背部痛,腰痛,一過性の血圧上昇に続く血圧低下,ショック,乏尿・無尿から急性腎不全の症状が現れると言われています.
異型不適合輸血は抗体と補体(Note 参照)による即時型の血管内溶血から始まります.続いて補体活性化物質が肥満細胞や好塩基球に作用し,ヒスタミンなどが遊離し,急性反応を引き起こします.その際遊離ヘモグロビンは,血管内皮細胞由来の一酸化窒素(NO)と結合し血管収縮を促し,一時的に血圧が上昇することがあります.
一方,赤血球-抗体-補体複合体は血液中の単球に貪食され,TNF,IL-1,IL-6,IL-8,単球走化性因子(MCP)などの炎症性サイトカインを放出し,血圧が低下してショックになります.また,これらのサイトカインは,血管内皮細胞の組織因子を誘導し,凝固第Ⅶ因子と結合し活性化して凝固亢進に傾き,結果として播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)を引き起こします.
(Note)補体
補体は炎症反応,溶血反応,抗原-抗体-補体複合体病(自己免疫性疾患,腎炎)などへの関与が知られている血清タンパクの一種です.活性化の経路には古典的経路(classical pathway)と代替経路(alternative pathway)があります.古典的経路ではC4が,代替経路ではC3が消費されます.C3, C4双方の著明な低下は全身性エリテマトーデス,DICで認められることがあります.両経路とも最終的には複数の補体成分が結合したC5b67が細胞膜に付着し,さらにC8,C9が膜侵襲複合体(管状構造)を形成し,細胞膜に孔が開くことにより細胞を破壊します.
(Tips)ABO血液型の分子構造
A,B抗原は下図に示すように,前駆物質の糖鎖にH転移酵素が働いて,さらにA転移酵素とB転移酵素が作用して糖鎖抗原を生成します.A,B両方の糖鎖抗原がない場合には,O型となります.
なお,H物質も生成されない場合,Bombay(Oh)という稀な血液型になります.
実践のポイント04 異型不適合輸血の対応処置の概略
異型不適合輸血事故では患者さんをICUで管理することが原則です.
① まずは輸血を中止し,静脈ラインはそのまま確保して細胞外液の補液を行います.輸血は専用の点滴チューブを使っており,その中にはまだ異型の血液製剤が入っている可能性があるため,輸血に使ったチューブは使用せず,輸液用チューブに変えます.
② 血液製剤の血液型と患者の血液型を再度確認します.その血液製剤は捨てないで確保しておくことを忘れないよう注意しましょう.
③ ここからはどのぐらいの溶血が起きているかを確認しながら対応を進めます.採血,尿検査をして溶血の有無を確認します.
④ 補液による血圧の安定を測りつつ,利尿を進めます.利尿については1)腎不全への対応(主に補液,利尿)と,2)乏尿期の対応(主に肺水腫,高カリウム血症への対応),さらに3)利尿期の管理も含めて行います.
⑤ DICの予防のためにヘパリンの投与を検討します.DICは診断基準(スコア)に基づいて対応します.なお,現実的には原疾患(外傷や大量の出血)治療のため,適合輸血を実施しながら,上記の対応をすることになります.
