第3章 伝えたいメッセージは何か?
必要な情報を選ぶ(不要な情報を削る)
表に含まれている情報をもとに、図1や図2のようなグラフを作成しました。
図1のグラフからどのような印象を受けるでしょうか? 情報を取捨選択することなくすべてのデータが可視化されているので折れ線が重なり合っていて、短時間ではデータも作成者の意図も読み取りづらい印象です。
しかし、すべてのデータを公平に扱って公開することに重点を置いている場合や、閲覧に十分な時間をかけることができる場合(ある種の探索的な目的の場合や、ウェブ上で公開される政府統計など公的な資料など)では、このような図が好まれる傾向にあります。
一方で、図2のグラフでは年齢調整死亡率が高い5つのがんに注目して描かれています。そのために、それぞれの折れ線が混み入っておらず、がんの種類ごとの年次推移が明瞭に表現されています。さらに、各がんについて適切なカラースケールで色分けされており、図中の折れ線近くに対応するがんの種類が示されており視認しやすいです。
このように情報を取捨選択するだけで、図表は全く異なる印象を与えます。はじめは、貴重なデータを捨ててしまうことに抵抗はあるかもしれませんが、徐々に慣れてくると思います。まずは、第2章でも紹介したように、何を目的として、誰に向かって、どんな場面で図表を見せるのか、きちんと考えてみましょう。
ここからは、データのどこに注目するかを決め、図表の種類や装飾を変化させることで、メッセージを先鋭化させる事例を紹介していきます。
メッセージに応じた適切な装飾を選ぶ
図2で示した「年齢調整死亡率が高い5つのがん」に絞った情報を使って、図3に異なるデザインのグラフを作成してみました。
図2も図3も同じデータから同じグラフ(折れ線グラフ)が描かれていて、どちらも5つのがんについての年齢調整死亡率の年次推移を示している点では共通しています。
しかし、すでにお気付きのとおり、この2つのグラフの大きく異なる点は配色です。図2はすべての線に色が施されている一方で、図3では胃がんのみが
に、それ以外は
に変更されています。このことからも、図3では胃がんに注目してほしいというメッセージ性を感じます。反対に、それ以外の折れ線については、がん種もわかりません。
ここで、改めて図2にはどんなメッセージが込められているでしょうか。一見味気ないなと感じる方もいるかもしれませんが、すべてのがんを同等に扱いたいというメッセージと考えてはどうでしょうか。
このようなグラフは、データを取得したときに外れ値やミスを確認する場面や、全体の傾向を指し示す記述的な資料として提示したい場面には適切な表現になります。逆に、記述的な目的で使う場合には、図3のような配色は筋違いになります。
この事例は、メッセージに応じた適切な装飾(今回の事例では配色)を選ぶ重要性を示していると言えます。配色の方法については、第5章-2(P. 98)でさらに詳しく述べたいと思います。
メッセージに応じた適切な図表を選ぶ
次に、同じデータを利用して図4と図5のような棒グラフを作成しました。それぞれの図の長所と短所を確認してみましょう。
ご覧のとおり、同じ棒グラフでも全く異なる印象を受けたことと思います。図4ではそれぞれの調査年を横軸にして、異なるがん種を上に積み上げている一方で、図5では調査年に分割して異なるがん種を横軸に並べて比べています。
図4では年次推移を目視で確認することができ、年を経るにしたがって胃がん(■)が大きく縮小している印象を受けます。さらに、この5つのがん種の合計値は、1980年から2020年にかけて減少していることも明確です。
図5では、各年次でのがん種の年齢調整死亡率を比較することに適しています。これは、すべてのがんが基線(y=0)からスタートしているためです。また、5つのがん種の全体的なバランスが経年的に変化していく様子を視認することができます。
反対に、図4や図5で伝えにくい情報は何でしょうか? 伝えたいメッセージやグラフの長所を考えていると、そのグラフの短所をつい忘れてしまいがちですので、注意しましょう。図4では、各年次内での年齢調整死亡率の比較が難しくなります。例えば、2020年の乳房がん(■)と膵臓がん(■)の大小を識別することは容易ではありません。図5では、特定のがん種について、時系列に比較することは簡単ではありません。例えば、大腸がんの年次推移を一目で把握することは難しいですね。
このように、使用するグラフの長所・短所は、表裏一体となっています。今回の事例は、届けたいメッセージに応じて適切な図表を選ぶ重要性を示していると言えます。これらの表現方法については、第5章-1(P. 86)でさらに詳しく述べたいと思います。
ご覧ください
