外来処方ドリル〜診察室でよく出合う症例を追体験、「なんとなくの対症療法・Do処方」から脱却する

外来処方ドリル

診察室でよく出合う症例を追体験、「なんとなくの対症療法・Do処方」から脱却する

  • 北 和也/編
  • 2026年02月20日発行
  • B5判
  • 301ページ
  • ISBN 978-4-7581-2447-8
  • 4,620(本体4,200円+税)
  • 在庫:あり
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第1章 高頻度で出合う慢性疾患への処方箋

2) 糖尿病への処方箋

藤﨑佑菜,川瀬圭祐

 

はじめに

日本における糖尿病患者数は363万人に達し1),現代において糖尿病はありふれた疾患の1つとなっています.周術期の血糖コントロールの重要性も広く知られるようになり,糖尿病は外科医にとっても対応が求められる疾患となりました.その点で将来内科系をめざさなくても初期研修医のうちから糖尿病治療薬について知っておくべきでしょう.

 

  • 本稿に登場する薬剤の分類
分類 薬剤の一般名(商品名)
ビグアナイド薬 メトホルミン(メトグルコ®,グリコラン®
グリニド薬 ミチグリニド(グルファスト®
SGLT2阻害薬 ダパグリフロジン(フォシーガ®
スルホニル尿素(SU)薬 グリメピリド(アマリール®
DPP-4阻害薬(内服) リナグリプチン(トラゼンタ®
GLP-1受容体作動薬(内服) セマグルチド(リベルサス®
GLP-1受容体作動薬(注射) デュラグルチド(トルリシティ®),セマグルチド(オゼンピック®
インスリン製剤 インスリン リスプロ(ヒューマログ®),インスリン グラルギン(ランタス®),インスリン イコデク(アウィクリ®

 

症例1

34歳男性.数年ぶりの健診で糖尿病を指摘され,受診した.

既往歴:なし アレルギー歴:なし 常用薬:なし

バイタルサイン:心拍数88回/分,血圧128/71 mmHg

身体所見:身長170 cm,体重85 kg,BMI 29.4

血液検査:BUN 13.2 mg/dL,Cre 0.74 mg/dL,eGFR 98.0 mL/分/1.73 m2,TG 125 mg/dL,T-Cho 172 mg/dL,HDL-C 52 mg/dL,LDL-C(フリードワルド式)95 mg/dL,血糖(空腹時)164 mg/dL,HbA1c(NGSP)7.5%

尿検査:タンパク(-),糖(4+),ケトン(-)

 

Q1 この段階で,まず行うべきことに含まれないものは何か?

ⓐ食事内容の聴取  ⓑ運動習慣の聴取  ⓒ家族歴の聴取 

ⓓ職業の聴取  ⓔ血糖降下薬の導入

 

Q1の解説:生活習慣への対応

A1 ⓔ血糖降下薬の導入 はまず行うべきことに含まれない

糖尿病の多くの原因は生活習慣にあります.そのため,薬剤で見かけの血糖コントロールを改善したとしても,原因となった生活習慣が改善されなければ,血糖降下薬はただの対症療法になってしまいます.

そもそも糖尿病の治療意義は,将来的な血管リスクの低減です.糖尿病の発症原因となる生活習慣は,単独でも血管リスクとなることが多く,それらを見落とさずに指導/治療していくことが必要です.

 

ちょっとひとこと

血糖降下薬を初診から導入する場合①

HbA1c>8%の際には生活指導のみでは不十分となることが多く,初診時から血糖降下薬の導入を併用して行うこともあります.また,後述するようなインスリンの絶対適応時には初期からインスリン療法を併用します.(藤﨑佑菜)

 

血糖降下薬を初診から導入する場合②

HbA1c 7.5~8%以下の方でも,状況次第では,初回診察時に処方したうえでしばらくフォローすることもあります.例えば,生活習慣の改善が見込めそうにない方,今後さらに悪化しそうな方,処方を強く希望される方,処方がないとどうも次回受診してくれそうにない方などです.フォロー中に行動変容に至り生活習慣が改善することで,血糖降下薬を中断・中止できることがあります.患者さんとの対話から,生活習慣や価値観などに触れ,総合的に判断すると良いでしょう.(北 和也)

 

1)生活習慣の評価と指導

喫煙や過度の飲酒は血管リスクとなるため,それらの状況を聴取し,適宜指導などの介入を行います.また,普段の食事や運動習慣を聴取します.そのほか,家族の有無(男性一人暮らしはコンビニ弁当や外食頼みになってしまうことが多い),職業内容(夜の仕事では生活リズムが通常と異なり,食事や内服タイミングなども調整が必要になる)も確認します.

一般的な指導内容を表1に示します.

 

2)ほかの生活習慣病のスクリーニング・モニタリング

高血圧,脂質異常症はともに血管リスクとなるため,血圧測定や血液検査でのコレステロール評価を行います.

point

薬剤導入より,まずは生活習慣の是正を!

 

表1●糖尿病の生活習慣とその目標

食事 適正量(標準体重×25~30 kcal)をバランスよく,食物繊維も摂取
運動 毎日30~60分の有酸素運動,少なくとも週150分の有酸素運動
喫煙 禁煙
飲酒 アルコール摂取量≦25 g/日まで減酒
体重 肥満がある場合,5%以上の体重減少
※お酒を飲まない方はイメージしにくいかもしれないが,アルコール20 gの目安として,ビール大1缶(5%で500 mL),ワイングラス2杯(200 mL),焼酎0.5合(90 mL),日本酒1合(180 mL)である.具体的なアドバイスができるようにしておこう

 

症例1 つづき①

追加情報として以下を聴取し,生活指導で対応した.

家族歴:糖尿病なし,心疾患なし

生活歴:独居,喫煙20本/日(20歳~現在),飲酒なし,職業はタクシー運転手 

朝昼はコンビニ弁当,夜はラーメン屋,運動習慣なし

その3カ月後,生活習慣の是正はある程度できていたが,職業上難しい部分もあり,血糖(空腹時)182 mg/dL,HbA1c(NGSP)8.4%だった.体重や尿所見は変化なかった.

 

Q2 本患者に対してまず導入すべき血糖降下薬は何か

ⓐメトホルミン(メトグルコ®) 

ⓑリナグリプチン(トラゼンタ®) 

ⓒミチグリニド(グルファスト®

ⓓグリメピリド(アマリール®) 

ⓔインスリン

 

Q2の解説:初期の薬物治療

A2 ⓐメトホルミン(メトグルコ®

糖尿病治療の目標は血糖やHbA1cの低下ではなく,糖尿病のない人と変わらない寿命・QOLを維持することです.そのために合併症を予防し,心血管リスクを低減する必要があります.いつしか手段が目的となってしまわないように,常に意識しましょう.

 

ちょっとひとこと

数値目標の魔力

糖尿病医診療では,血糖値やHbA1cといった数字が容易に可視化されるため,患者および医療者とも,数字の達成に過度に囚われてしまいがちです.数字には一種の「魔力」が宿っていることを肝に銘じ,治療の本質を見失わないようにしましょう!(北 和也)

 

■ 薬剤選択

インスリン分泌能が問題ない場合,通常は経口血糖降下薬で治療導入します.そのなかにも多くの薬剤がありますが,年齢が若く肝障害・腎障害などもなければ,まずは第一選択薬であるメトホルミンを導入します.メトホルミンには,心血管イベントや死亡を減らすエビデンス2)があり,また長期投与による安全性や費用対効果などから各種診療ガイドラインで第一選択薬として推奨されています3)

 

処方例

メトホルミン(メトグルコ®)250 mg 1日1回 朝食後

問題なければ2~4週間後に500 mg 1日1回 朝食後へ増量,

以後副作用やコントロールの状況によって2,250 mg/日まで増量する

 

血糖降下薬の選択において,問題がなければ前述の通りメトホルミン選択となりますが,そのようにいかないことも多いです.多くの薬剤と同様に,患者さんの併存疾患や固有の副作用リスクに応じて,それに合った薬剤選択をしなければなりません(表2).メトホルミンのように心血管イベントを減らすことが示されている薬剤にはSGLT2阻害薬(sodium glucose co-transporter 2 inhibitor),GLP-1作動薬(glucagon-like peptide-1 receptor agonist)がありますが,それらを第二選択にするかは各国ガイドラインで意見が分かれています.

 

pitfall

メトホルミンは導入時/増量時に嘔気,腹部膨満,放屁,下痢などの消化器系の副作用を起こすことがあります.患者さんは一度副作用を起こすとその薬剤に対して拒否的になってしまうため,できるだけ副作用を起こさないように,はじめから高用量で導入せず,少量から漸増していくのがコツです

 

point

  • 血糖降下薬の第一選択はメトホルミン
  • 同剤が使用できない場合には,肝腎障害や既往歴(心不全など)を参考にその他薬剤が選択されることもある

 

ちょっとひとこと

処方設計はシンプルに!

服薬内容が複雑だと,服薬アドヒアランスが低下し入院が増えたり4),死亡リスクが上昇したりする5)という報告があります.メトホルミンは,日本では習慣的に1日2~3回からスタートされがちですが,1回投与からの開始でも血行動態は問題なく維持され,おまけにアドヒアランスが改善します6).「目の前の患者さんが,本当にこんな回数・タイミングで内服できるのか?」を意識して,シンプルな処方設計を意識しましょう.(北 和也)

 

表2●インスリン以外の血糖降下薬

分類 機序 一般名 商品名 重度併存症 注意 副作用 副次効果
肝障害 腎障害
ビグアナイド薬 インスリン抵抗性改善 メトホルミン メトグルコ® × × ヨード造影剤使用後,48時間は休薬 乳酸アシドーシス 体重減少,心血管イベント抑制
チアゾリジン薬 インスリン抵抗性改善 ピオグリタゾン アクトス® × × 心不全既往は禁忌 浮腫,骨折,体重増加 MASH脂肪肝・線維化抑制
DPP-4阻害薬 インスリン分泌促進 リナグリプチン トラゼンタ® SU薬併用で低血糖リスク増大 消化器症状 なし
シタグリプチン ジャヌビア® グラクティブ®
ビルダグリプチン エクア® ×
スルホニル尿素(SU)薬 インスリン分泌促進 グリメピリド アマリール® グリニド薬併用は意味なし 遅延性低血糖,体重増加 なし
グリクラジド グリミクロン® × ×
グリニド薬 インスリン分泌促進 ミチグリニド グルファスト® 食直前内服 低血糖 なし
レパグリニド シュアポスト®
α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI) 糖吸収・排泄調整 ボグリボース ベイスン® 食直前内服 消化器症状 体重減少,心血管イベント抑制?
ミグリトール セイブル®
SGLT2阻害薬 糖吸収・排泄調整 イプラグリフロジン スーグラ® 薬理上,多尿,尿糖陽性を呈する フレイル高齢者はさらに体重減少を進行させる 脱水,尿路感染 心血管イベント減少,減量,腎症進行抑制
エンパグリフロジン ジャディアンス®
ダパグリフロジン フォシーガ®
GLP-1受容体作動薬 インスリン分泌促進 セマグルチド オゼンピック® リベルサス® 食欲抑制効果が強く,フレイル高齢者には向かない 消化器症状,膵炎 心血管イベント減少,食欲抑制
デュラグルチド トルリシティ®
〇:使用可能 △:慎重投与 ×:使用不可DPP-4阻害薬(dipeptidyl peptidase-4 inhibitor),SU薬(sulfonylurea),α-GI(alpha-glucosidase inhibitor),SGLT2阻害薬(sodium glucose co-transporter 2 inhibitor),GLP-1受容体作動薬(glucagon-like peptide-1 receptor agonist)

 

  • 文献

1) 厚生労働省:傷病分類別にみた施設の種類別推計患者数(令和5年患者調査の概況 1推計患者数 表2)

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/23/index.html(2026年1月閲覧)

2) Maruthur NM, et al:Diabetes Medications as Monotherapy or Metformin-Based Combination Therapy for Type 2 Diabetes: A Systematic Review and Meta-analysis. Ann Intern Med, 164:740-751, 2016(PMID:27088241)

3) NICE:Type 2 diabetes in adults: management. NICE Guideline No.28, 2015(PMID:26741015)

4) Wimmer BC, et al:Clinical Outcomes Associated with Medication Regimen Complexity in Older People: A Systematic Review. J Am Geriatr Soc, 65:747-753, 2017(PMID:27991653)

5) Wimmer BC, et al:Medication Regimen Complexity and Polypharmacy as Factors Associated With All-Cause Mortality in Older People: A Population-Based Cohort Study. Ann Pharmacother, 50:89-95, 2016(PMID:26681444)

6) 村上雅子,原 毅:2型糖尿病患者におけるメトホルミン1日1回内服の有効性と安全性:1日2回から変更時血糖動態の検討.糖尿病,62:493-500,2019

 

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