第5章 小細胞肺がんの薬物療法 (A.対応に困る病態)
1 PS不良の小細胞肺がん
Point
- 小細胞肺がん(SCLC)自体によるPS不良と併存疾患によるPS不良は区別して対応する
- SCLC自体によるPS低下は化学療法で改善が見込めることも多く,積極的な薬物療法の適応となる
- 改善困難な併存疾患によるPS不良例では症状緩和を優先し,治療意義と副作用リスクを慎重に判断する
- 治療意義と副作用リスクを患者・家族に丁寧に説明し,意思決定を支援する
1 病態
SCLCは腫瘍倍加時間が短く,診断時にすでに広範な進展を認める症例が約70%を占める.SCLCは腫瘍による疼痛,呼吸困難,脳転移による神経症状,脊髄圧迫症状,上大静脈症候群,腫瘍熱,全身衰弱などによってPS不良に陥りやすい.腫瘍の進展に伴い比較的短期間でPSが悪化することが特徴的で,腫瘍縮小により症状・PS改善が期待できる場合が多い.
一方,併存疾患によるPS不良は,慢性心不全,COPD,脳梗塞後遺症などの影響で病前から活動性が低下している状態である.腫瘍による影響が限定的で,腫瘍制御を行ってもPSの改善が期待できないことが多い.
SCLC患者は重喫煙歴を有する患者が多いため併存症の頻度も高いが,両者の区別は治療方針決定においてきわめて重要で,病歴,症状経過,画像所見,既往歴を総合的に評価する.
2 治療方針と薬物療法の位置づけ
SCLCは初回化学療法への奏効率が60〜80%と高く,PS不良例であってもSCLC自体が原因の場合は,短期間で症状軽快・PS改善が得られる可能性がある.標準治療はカルボプラチン(CBDCA)+エトポシド(ETP)+免疫チェックポイント阻害薬(アテゾリズマブまたはデュルバルマブ)であり1,2),PS不良例に対するCBDCA+ETP+デュルバルマブ療法については,NEJ045A試験でPS 2~3症例を対象とした前向き試験が施行され,全生存期間中央値10.2カ月,1年生存率42.9%という結果で,毒性も許容可能であったと報告されている3).このことからも,PS不良例でも支持療法を併用して可能な範囲で治療強度を維持することが重要と考えられる.
併存疾患によるPS不良では,腫瘍が縮小してもPS改善が見込めないことが多く,さらに化学療法による毒性がQOLを著しく低下させる可能性がある.治療を行う場合は慎重な経過観察が必要で,全身状態や患者希望によってはBSC(best supportive care)を選択する.
3 実際の処方
処方例
【SCLCによるPS不良】
- CBDCA(AUC 5)+ETP(80 mg/m2,Day1〜3)±デュルバルマブ(1,500 mg,Day1)またはアテゾリズマブ(1,200 mg,Day1),導入期はいずれも3週ごとに最大4サイクルまで
- 維持療法期はアテゾリズマブ(1,200 mg/body)を3週ごと
またはアテゾリズマブ(1,680 mg/body)またはデュルバルマブ(1,500 mg/body)を4週ごと - 必要時 G-CSF一次予防や制吐療法,疼痛管理を強化
【併存疾患によるPS不良4)】
- CBDCA(AUC 4~5)+ETP(80 mg/m2,Day1〜3),3週ごとに最大4~6サイクルまで(免疫療法は併用しないことが多い)またはBSC
どちらの場合も,腎機能・肝機能・骨髄予備能を事前に評価し,支持療法計画を治療開始前に立てておくことが重要である.
4 副作用への対処,減量・中止の判断
SCLCによるPS不良例の治療目標は,腫瘍の縮小によってPS改善を得ることであり,支持療法を徹底して治療強度を維持することが重要である.発熱性好中球減少症,脱水,肝・腎機能悪化などが出現した場合は直ちに適切な治療を行い,必要時は休薬や減量(25%減量)を検討する.治療効果判定は早期に行い(1〜2サイクル後),効果不十分な場合は治療変更や局所治療の追加,BSCへの移行も検討する.
併存疾患によるPS不良では,予備力がないため,有害事象が軽度であっても全身状態を悪化させるリスクが高い.Grade 1〜2の有害事象でも全身状態への影響を慎重に評価し,早期対応が必要である.全身状態の改善が困難で治療の利益が限定的な場合は,中止やBSCへの移行を検討する.PS 3以上の場合は免疫療法による生存延長効果も限定的であるため,適応は慎重に判断する3,5).
5 患者への説明
SCLCによるPS不良の場合,「初回治療によって症状が改善し,全身状態が改善する可能性がある」ことを具体的に説明し,治療の意義を明確に伝える.一方で,副作用のリスクや頻度についても詳しく説明し,密な経過観察の必要性を理解してもらう.体調変化時にはすみやかに連絡するよう指導する.
併存疾患によるPS不良では,「がん治療によっても生活の質が大きく改善しない可能性がある」ことを伝える必要がある.治療を行う場合でも症状緩和に重点を置くことを説明し,延命とQOLのバランスを家族も交えて十分話し合い,患者の価値観を尊重した治療方針を決定する.
いずれの場合も,治療経過中に治療方針を見直すことがあると事前に説明し,患者・家族の理解を得ておくことが重要である.
症例 60歳代女性,PS 3,進展型SCLC,脊柱管浸潤あり
診断時に強い腰背部痛を認め,PS 3.支持療法としてNSAIDs+オピオイドによる鎮痛を行いながら初回治療としてCBDCA+ETP+デュルバルマブ療法を導入した.1サイクル終了時には疼痛は軽快してPS 1へと改善し,歩行可能となった.治療関連有害事象はGrade 3好中球数減少のみで,4サイクル終了後にはPR,脊柱管内に浸潤していた腫瘍も消失を認めた(図1, 2).
【参考になるエビデンス・ガイドライン】
1) Horn L, et al:N Engl J Med, 379:2220-2229, 2018
2) Paz-Ares L, et al:Lancet, 394:1929-1939, 2019
3) Asao T, et al:Lancet Respir Med, 13:1057-1066, 2025
4) Okamoto H, et al:Br J Cancer, 97:162-169, 2007
5) Misawa K, et al:Transl Lung Cancer Res, 13:1585-1594, 2024
