第1章 病棟・外来での診療場面
6 便秘
1 たかが便秘,されど便秘
平塚先生: 次は便秘について考えてみます.お伝えしたいことはただ1つ,「常に便秘の評価を心がけよう」ということです.
羊田先生 :まぁ軽視されがちですよね.経過表で確認はしますが,無視されていることも多いような印象です.
平塚先生 :がん患者さんであれば,オピオイドを使用することも多いですし,全員に便秘の可能性があると考えて診療にあたるのが無難です.
羊田先生 :便秘の診断はいつも迷います.患者さんの主観的な感覚に任せていいのでしょうか?
平塚先生 :患者さんの主観が必ずしも正しいとは言えなくて,最近の研究では,RomeⅣという便秘の診断基準を満たしていた患者さんのうち,「便秘ですか?」の問いに「はい」と回答したのは約6割にすぎませんでした1).客観的にも診断できる手段は必要です.
羊田先生 :腹部単純X線写真やCT,超音波検査でわかればいいですが,毎日行うわけにはいかないですしね…….どのような評価がよいでしょうか?
平塚先生 :この診断基準に完全に沿うのは難しいと思いますが,先ほども言及したRomeⅣの基準(表1)は問診の質を高めるうえで知っておいて損はないと思います.
羊田先生 :これらを毎回聞くのは大変ですが,このような基準があることを知って問診すると,隠れていた便秘も拾い上げられそうですね.
表1 RomeⅣ「便秘症」の診断基準
| 以下の6項目のうち,2項目以上を満たす. |
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排便中核症状(defecation core symptom) C1(便形状):排便の4分の1超の頻度で,兎糞状便または硬便(BSFSでタイプ1か2)である. C2(排便頻度):自発的な排便回数が,週に3回未満である. |
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排便周辺症状(defecation peripheral symptom) P1(怒責):排便の4分の1超の頻度で,強くいきむ必要がある. P2(残便感):排便の4分の1超の頻度で,残便感を感じる. P3(直腸肛門の閉塞感・困難感):排便の4分の1超の頻度で,直腸肛門の閉塞感や排便困難感がある. P4(用手的介助):排便の4分の1超の頻度で,用手的な排便介助が必要である(摘便・会陰部圧迫など). |
平塚先生 :便秘は,腹痛だけではなく悪心・嘔吐,食欲不振にも至りますから,がん患者さんの消化器症状の緩和ケアでは絶対にマネジメントできるようになりたい症状の1つです.巷では,便秘のマネジメントができるOncologistはUncologistとも言われているとかいないとか.
羊田先生 :……(冷たい目線)
平塚先生 :……早速しくじり症例をみてみましょう!
2 難治性嘔吐 ~それって便秘じゃないですか?
Case1 いかなる制吐剤も無効!
67歳男性,膵がん・多発肝転移の診断となり,化学療法(FOLFIRINOX療法)を施行することとなった.5-HT3受容体拮抗薬+NK1受容体拮抗薬+デキサメタゾン+オランザピンを併用したが,化学療法施行後より嘔吐が経時的に悪化した.Day5からはオランザピン錠10mgまで増量したが,嘔吐は一向におさまらない……
3 悪心・嘔吐をみたら便秘と思え!
平塚先生 :FOLFIRINOX療法は高度催吐性リスクのレジメンですから,制吐剤の4剤療法はかなり万全の対策をとっていると言えます.
羊田先生 :それでも嘔吐が続いているんですね.化学療法の悪心・嘔吐は厄介ですよねぇ.
平塚先生 :ちょっと待ってください.本当に化学療法誘発性の悪心・嘔吐でしょうか?
羊田先生 :他にも原因があるということでしょうか?
平塚先生 :ここまで万全の手を打っていますから,他にも原因を考えるべきです.
羊田先生 :悪心・嘔吐の鑑別ですね.第1章-❺の表2も確認してみます.
平塚先生 :悪心・嘔吐のネットワークを考えても,アプローチすべき受容体にはほぼアプローチしています.
羊田先生 :そうなると,消化管蠕動か頭蓋内圧亢進,心理的要因が残りますよね.
平塚先生 :本症例では中枢神経系への転移はなかった.予期性嘔吐もタイミングが違いますね.
羊田先生 :そうなると消化管蠕動の問題ですね.
平塚先生 :その通りです.経過表を確認すると,化学療法施行後にほとんど排便がないことがわかりました.このレジメンだと本来は下痢で困ることが多いのですが…….
羊田先生 :便秘になっていたら原因が解決しない限りは悪心・嘔吐は続きますよね.
平塚先生 :結局,経直腸的処置(浣腸+摘便)を行いつつ,下剤を調整することで,本症例ではすみやかに嘔吐は改善しました.
羊田先生 :化学療法中のがん患者さんの嘔吐,というだけで化学療法が原因って思い込んでしまいますよね.
平塚先生 :本レジメンの場合,下痢がないから安心,というちょっとした罠もありますよね.抗がん剤はどちらかというと下痢に困ることのほうが多いですし.
羊田先生 :言われてみれば,下痢が多いと聞くと脱水のこともありますし,アクションを起こすことも多いですが,便秘と聞くと「そうですか~下剤飲んでね!」くらいにしてしまうことが多いです.
平塚先生 :私も以前はそうでした.そのため,便秘は治療そのものよりも,とにかく鑑別にあげられるかが最重要ポイントです!
POINT
・悪心や嘔吐の鑑別では,便秘を忘れずに!
・患者さんも医療者も軽視していることが多い!
Dr森田のひとこと
便秘の診断のために,というわけでもないんですが,僕は若かりし頃入院患者さんの診察をするときには毎回お腹をさわっておくようにしていました.そんなにがっつり腹診するわけでもないんですが,普段のお腹のはりがわかると便秘も腹水も察知できますし,なにより,実際に手と体がふれることで,言葉だけの診察よりも「今日も待ってた感じ」が強まります.患者さんの目線と合いやすく,話をしやすくなるというのもありました.息が苦しいときの聴診は聴診器をはさんでしまうのであまり体温を感じることがありませんが,吐き気がするときの腹診は「手当てする」を実感できて好きでしたね(笑)
