第5章 ケースで学ぶ外用療法
1 子どもがずっと掻きむしってます
症例
6歳男児.
2歳ごろから瘙痒を伴う紅色皮疹がみられるようになり,近医で外用薬が処方されていたが,改善,増悪をくり返していた.数カ月前より,強く掻破するようになり,皮疹が悪化してきたため受診した.
「掻き壊し」から考えられること
- かゆくて受診する患者さんはたくさんいると思います.かゆいと聞いて,まず考えるのは湿疹でしょうか.
- ただ,かゆい皮膚病は他にもたくさんあります.かゆい=湿疹ではありません.
- もちろん一番多いのはアトピー性皮膚炎や接触皮膚炎(かぶれ,図1A)などの湿疹病変ですが,伝染性膿痂疹(図1B)や体部白癬,伝染性軟属腫(水いぼ,図1C)などの感染症もかゆいことがあります.尋常性痤瘡(ニキビ)をかゆがる方もいますね.蕁麻疹も当然かゆいです.また,アトピー性皮膚炎にこれらが合併し,併存していることもあるので注意が必要です.
- そして,忘れてはいけないのは疥癬(図1D)です.ヒゼンダニの寄生により,強い瘙痒を伴う感染症で,高齢者施設や病院内などで発生することが多いですが,罹患した高齢者から子どもが感染することもあります.頭の隅にはいれておきたいところです.
「掻き壊し」からあげられる鑑別疾患
- アトピー性皮膚炎,慢性湿疹
- 接触皮膚炎
- 自家感作性皮膚炎
- 伝染性膿痂疹
- 蕁麻疹
- 疥癬
担当医としてこれをする!
- どのようなかゆみなのかを判断するためには経過が大切です.「急に出現したのか」,「慢性的に続いているのか」によって,対応のスピード感も変わってきます.一部にひどい皮疹があり,急に全身に拡大してきたなどの経過がわかると,自家感作性皮膚炎かもと疑えるでしょう.
- ①どこを,②どれくらいかゆがり,③どう広がってきたのか,そして,④掻破痕以外にはどのような皮疹があるのかを観察しましょう.掻いた後が赤く盛り上がってくる(紅色皮膚描記症,5章-14参照)なら蕁麻疹ですし,膿疱があれば感染症かもしれません(膿疱は湿疹の経過でも出現することはありますが).
- コンサルトのときには,上にあげた経過とともに,これまでに処方した外用薬とその投与量を伝えていただけると皮膚科医としては助かります.
- 皮膚科にすぐにコンサルトできる状況ではないなら,対症的に外用療法を行うことは必要でしょう.またその際,少しでも掻破行動が減ることを期待して,抗アレルギー薬の内服を追加してもよいかもしれません.
▶︎ 皮膚科医的思考
①掻き壊しているのはどこかな?(全身? 左右対称? 一部?)
- 全身?→蕁麻疹
- 左右対称?→アトピー性皮膚炎
- 一部?→接触皮膚炎,尋常性痤瘡,白癬
②発症はいつから? 急性? 慢性?
- 急性?→接触皮膚炎,蕁麻疹,伝染性膿痂疹,疥癬
- 慢性?→アトピー性皮膚炎,慢性湿疹
③掻き壊し以外の皮疹はどうなっている?
- 水疱,びらん→伝染性膿痂疹
- 膿疱→白癬,毛包炎
- 膨疹→蕁麻疹
▶︎ 外用薬の選び方・使い方
コンサルトできない場合の外用療法
- 対症的に瘙痒に対してよく選ばれているのはジフェンヒドラミン(レスタミンコーワ)クリームやクロタミトン(オイラックス®)クリームでしょうか.劇的な効果は期待できませんが,皮疹を修飾することも少ないので,皮膚科へのコンサルトも検討しているのであれば,これくらいの外用薬にしておいてもらえた方がありがたいです.
- 掻破によりびらん,潰瘍となっているようなら,保護のために亜鉛華軟膏やカチリなどを外用し,ガーゼと包帯で被覆するのもよいと思います.
- ステロイド外用薬を処方する場合には1週間以内に再診させて,経過を確認するようにしてください.
皮膚科コンサルト前の処方例
①〜③のいずれか,あるいは①または②に加え③を処方.
①ジフェンヒドラミン(レスタミン)コーワクリーム1% 100 g,1日数回
②クロタミトン(オイラックス®)クリーム10% 100 g,1日数回
③亜鉛華軟膏 50 g,1日1回ガーゼに伸ばして貼付
アトピー性皮膚炎
本症例は慢性の経過であり,掻破部位の皮疹がひどいものの,ほぼ全身に分布しており,乾皮症もみられることからアトピー性皮膚炎と診断しました.
アトピー性皮膚炎はバリア機能障害,免疫異常,瘙痒が本態であり,それらのコントロールが治療の基本です.
ステロイド外用薬が第一選択になりますが,まずはきちんと炎症を抑え,瘙痒を改善させるために,私ならvery strongクラスのステロイド外用薬を1日2回で処方します.タクロリムス軟膏も有効性は高いですが,灼熱感を感じるような刺激が強く,小児に対して初手から使うことは少ないですね.
改善してきたら,ステロイドのランクをダウンするのではなく,プロアクティブ療法として,外用間隔をあけていく方がよいでしょう.間にデルゴシチニブ軟膏やジファミラスト軟膏を挟むのもよいと思います.
また,バリア機能障害に対して保湿も重要な治療となります.特に小児の場合,塗り心地や塗りやすさもアドヒアランスに影響するために全身に塗布しやすいフォーム剤やローション剤を処方することが多いです.
十分な外用療法を行っても難治な場合には生物学的製剤やJAK阻害薬などの全身療法を考慮します.
皮膚科医の処方例
部位にあわせて①〜③のいずれかを処方.
①ジフルプレドナート(マイザー®)軟膏0.05 % 100 g,1 日2 回 体,四肢
②タクロリムス(プロトピック®)軟膏0.03 %小児用 10 g,1 日2 回 顔
③ヒルドイド® フォーム0.3 % 1 本,1 日数回 保湿
皮疹が改善した後,ステロイド外用薬との隔日併用で痒みが残る場合は④を,痒みが落ち着いている場合は⑤を処方.
④デルゴシチニブ(コレクチム®)軟膏0.5% 50 g,1日2回(隔日)体,四肢
⑤ジファミラスト(モイゼルト®)軟膏1% 50 g,1日2回(隔日)体,四肢
皮膚科医的にしてほしくないこと
- ステロイドを外用するとよくなるにせよ,悪化するにせよ,皮疹の状態が修飾されてしまう可能性が高く,その後の診察,診断が困難になってしまうため,できればあまり使ってほしくないところです.ただ,実臨床ではそうも言っていられないのはわかります.
- ですので,一番やってほしくないのは,ステロイド外用薬を処方しただけで経過を観察しないことです.診断が確定していないなら,自信があってもなくても,1週間以内には,外用して皮疹がどうなっているかを確認してください.
- 疥癬,水虫などの感染症であっても,ステロイドを外用すると炎症が治まり,改善しているように見えることがあります.いずれにせよ観察が大切で,なんかスッキリしないなと感じたら,皮膚科にコンサルトしてください.そして,皮膚科を受診する日は何も外用せずに受診するように伝えてもらえると助かります.
Note 子どもの掻き壊しへの対応は?
大人でも痒いときに掻くのを我慢するのは大変なことです.かく言う私も幼小児期よりアトピー性皮膚炎ですが,やっぱり掻いてしまいます.近年,アトピー性皮膚炎の子どもの掻破行動を抑制するために行動療法の1つであるハビットリバーサル療法の有効性が報告されています※1.なかなか難しいですが,無意識の掻破癖の前兆を認識し,拳を握るなどの競合反応で置換し,家族の称賛で強化していくことで掻破行動を減らしていくやり方です.
文献
※1 Norén P, et al:The positive effects of habit reversal treatment of scratching in children with atopic dermatitis: a randomized controlled study. Br J Dermatol, 178:665-673, 2018(PMID:28940213)
